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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
天醒乱舞編・覇乱
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五一五話 迷う思考


医務室を出たヒロムはクルージング船から降りて砂浜を歩いていた。


ヒロムに付き合うよう名前を呼ばれたユリナとユキナは彼について行くように後ろを歩いているが、静かすぎるこの状態に二人はヒロムに話しかけることすら出来なかった。


「……」


「……」


「……」


波の揺らぐ音、それだけが耳に入る。

それほどまでに静かであり、同時に気まずくもあった。


「……」


何も言わずにただ砂浜を歩くヒロム。

その後ろを歩くユキナはユリナに言った。


「ユリナ、先に話しかけていいわよ」


「え?」


「何か話しかけてヒロムを元気づけてあげて。

得意でしょ?」


「ユキナが先に声かけなよ。

ユキナの方こそそういうの得意でしょ?」


「ユリナの方が適任よ」


「ユキナには及ばないから、ね?」


「……」


「……」


「「はぁ……」」


互いに譲り合うユリナとユキナ、その会話のやり取りは長く続くはずもなく、沈黙に達すると二人はため息をついてしまう。


ユリナとユキナはため息をつくとヒロムの方に視線を向けるが、ヒロムは二人の視線も今の会話も気にとめないかのようにただ歩いていた。


「……ユキナ。

どうしたらいいの?」


「分からないわ。

さすがに……このパターンは初めてだもの」


「私も。

今のヒロムくんなら皆にあんな言い方しないと思ったのに……」


「そうよね。

昔の怖い頃ならともかく、今のヒロムは私たちやガイたちのこともしっかり考えてくれてるようになってるから昔と比べてかなり優しくなってるけど……。

あんな言い方して関わらせないなんて……」


「ヒロムくんの問題かもしれないけどやっぱりここまで皆で来たなら……」


ユリナとユキナがヒロムのことを心配し、そしてヒロムのことを話していると砂浜を歩くヒロムの足が止まる。


ヒロムが歩みを止めるとユリナとユキナも合わせるように歩みを止め、同時に会話していた二人はヒロムを気にして黙ってしまう。


「……」


「……」


「……どうした?

そんな気まずそうな顔して?」


歩みを止めたヒロムはユリナとユキナの方に向くと二人の様子を気にしてか話しかけ、話しかけられたユキナはヒロムに対して言った。


「……ねぇ、ヒロム。

なんであんな言い方したの?

ガイやソラはアナタのために力になろうとしてたのに……。

関わるなみたいな言い方したらせっかく前向きに変わってきたヒロムらしくないわよ」


「かもな……」


「どうしたの?

精神世界に行く前はそんな感じじゃなかったじゃない」


「そうだよ。

ソラたちが力になるって言ったらヒロムくんはその手を借りてたのに……どうしてなの?」


「……借りたくても借りれないからな」


「でもさっきみたいにしたらソラやガイたちはまたヒロムくんの精神世界に……」


だからだよ、とユリナの言葉に被せるようにヒロムは言うと続けて二人に対して説明した。


「真理に関する問題はいわば自分と向き合って答えを出すしかないことだ。

ゼロとともに真理に到達したことが間違いだって言うならアイツらの力を借りたところで同じ結果になることは見えてる。

それに……精神世界にはアイツらを連れては行けない」


「どうしてなの?」


「……アイツらはどう思ってるかは知らないが精神世界はそんなに甘くない。

とくに時の流れが異なる精神世界にいることの危険性もアイツらはまだ分かっていない」


「でもさっきヒロムくんは……」


「あれはこっちの……現実世界での制限時間を設けたから行えただけだ。

今の問題……真理に関することは今回のあの短時間で済む話じゃない。

下手すりゃ……精神世界の中に何ヶ月何年分いなきゃならないかもしれない」


「だとしてもヒロムがガイたちと力を合わせたら……」


「……死んだら全て終わる」


「え?」


ユキナの言葉を遮るようにヒロムは呟き、その言葉を受けたユキナはそれが何なのか思わず聞き返してしまう。


「何言ってるの……?」


「精神世界での死は精神の死だ。

変な話……オレがオレの精神世界の中でアナザーと戦って殺される場合、精神世界の本来の主の死を防ぐために一種の防衛機能が作用してそれを回避してくれるかもしれない。

けど……他人の精神世界に踏み込んだ人間がそこで命を落とした時、そこで魂は消滅して精神世界の中で朽ち果てる。

肉体は生き、心臓の鼓動が続く中でも心はなく死も同然の末路を迎える」


「そんな……」


「でも今回はヒロムくんも皆も無事だったから……」


「それはアナザーのヤツらがあえて手を出さなかったからだ。

クロムはこの世界でガイたちを始末しようとした。

仮にクロムとアナザーに繋がりがあったとしてその裏でまたオレの力を悪用しようと企んでたなら、ガイたちを確実に仕留めるべく攻撃してくるはずだ」

(手を出すなと言うゲンムの忠告。

あれも恐らくはこれ以上オレの精神世界のことにガイたちを巻き込むなって意味かもしれないしな)


「で、でもヒロムが困ってるならどうにかしたいってガイたちは……」


「言うだろうな。

けど……これはそんな簡単な話じゃない。

クロムを倒そうとして真理に到達したと思っていたオレが真にオレの到るべき真理に到達すべく一人でやらなきゃならない。

たとえガイたちが何度助けようとしてきても、ゼロが手を貸そうとしてもオレは一人でやらなきゃならない」


「そんな……」


「……まぁ、この話はここまでだ。

少し話題を変えよう」


「?」


「そういえば何で私とユリナを呼び出したの?」


少しな、とユキナの問いにヒロムは曖昧な返事を返すと一息つき、一息つくとヒロムは真剣な面持ちでユリナとユキナに相談した。


「……今のオレはオマエらにどう写ってる?」


「?」


「どういう意味なの?」


ヒロムの言葉に対してユリナは不思議そうな反応をし、ユキナも言葉の真意が分からず聞き返してしまう。


二人のその反応はある意味で彼の想定していたものだったのかヒロムは二人にも分かりやすく言い直した。


「ここ最近のオレは……今までのオレに比べて変わったか?

その……いい意味でも悪い意味でもいい。

オレは少しでも前を向いて進めてるかな?」


「……」


「……」


「どうしたのヒロムくん?

急に……」


「まさか精神世界で頭打ったの……?」


「違う、そうじゃない、

……今までのオレに比べたらどうなのかなって。

少しは人間らしく振る舞えてるか?」


「え、えっと……」


「人間らしくも何も元々ヒロムは人間よね?」


「……いや、それはそうなんだが違う。

なんて言うか……その……」


「私は前に比べて今のヒロムくんは優しくなったと思うよ」


「そうね、性格は丸くなったのかしらね。

欲を言うならもう少し甘えてもいいんじゃないの?」


ヒロムが言葉に困らせているとユリナとユキナはヒロムに対して思っていることを伝え、二人の言葉を聞いたヒロムはどこか恥ずかしそうだった。


「……遠回しに言うとかないのか?」


「あら、アナタが言えって言ったようなものよ?

せっかく褒めてるんだから素直になりなさいよ」


「……これでも素直になってるつもりだ」


「それにヒロムくんは前に比べると喜怒哀楽が分かりやすくなってきてるよ。

前みたいに笑わないとか怒るだけとか無くなってきたからその分優しくなってるんだよ」


「……恥ずかしいことを簡単に言ってくれる」


「ヒロムくんのそういう所が皆好きなんだよ?」


「……」


「……」


「あれ?

私変な事言った?」


「……何もおかしくはないけど……ユリナってすごいわね」


無意識に出たユリナの言葉にヒロムとユキナは驚き、ユリナは何故二人が驚いているのか不思議そうな反応を見せていた。


彼女の大胆さというか天然っぷりのようなものを再認識させられたユキナ、そしてヒロムはユリナの言葉を受けると優しく微笑みながら言った。


「……ありがとな。

そうやってオレのことを思ってくれてる人がいるって分かっただけでオレは嬉しいよ」


「そ、そう?

それならいいんだけど……」


「で、ヒロム。

話はそれだけ?」


「ん、ああ……なんか話そうとしたけど忘れちまったな。

けど、オレの事がどう見えてるかを確かめたかったのは確かだし話しは終わりでいいよ」


「じゃあせっかくだからこのまま遊ばない?」


「そうね。

せっかくのバカンスなのに子守りばかりしてる誰かといい思い出を作りたいしね」


「……アイツらに懐かれてるからそうしてただけだ。

まぁ……二人が言うなら付き合うよ」


ユリナとユキナの言葉に呆れながらも二人の提案に乗るようにヒロムは返し、ユリナとユキナはヒロムの手を取ると彼とともに歩いていく。


これまでとは少しずつ変わってきているヒロムとの思い出を作るために……





***



その頃……


とある港……


その港付近の工場地に鬼桜葉王がいた。

彼の周りには何人もの作業者がボロボロになって倒れており、見たところ葉王が彼らを倒したのだろう。


その葉王は作業者たちが倒れる中で作業台の上に散らばった設計図やそれに伴った資料、何かの発注書や受領書を漁って何かを探していた。


「……」


次から次に手に取っては一通り目を通し、目当てのものでなければ投げ捨てる葉王。


その葉王が何気なく取った一枚の資料を目にするなり目の色が変わる。


「あの野郎ォ……。

そんな手を使ってやがったとはなァ」

(これならアイツの動きの不審な点にも納得がいくゥ。

それにこれが事実ならァ、早いこと解決しておかねぇと厄介なことになりかねないなァ)


思考を働かせる葉王。

資料を手にしたまま葉王は携帯端末を取り出すとある人物に連絡をした。


『……どうかしたのか?』


「……カズキ、リュクスの居場所が分かったぜェ」


『何?

アイツの居場所だと?』


「ああ、リュクスの居場所だァ。

今順番にアイツが絡んでそうな場所を潰してたんだがよォ、その中の一つに面白い資料があったんだよォ」


『……内容は?』


電話の相手……一条カズキは葉王の得た情報を聞くべく彼に訊ね、カズキに訊ねられた葉王はこの工場地にて得た情報を話していく。


「今いるここはある兵器……対能力者殲滅用の機械兵器を組み立てていたァ。

そしてその兵器にはァ、ごく僅かな人間しか発しない特殊な気を察知して捉えることが出来る機能を搭載しているゥ」


『まさか……シンギュラリティか?』


「ご名答だァ。

今姫神ヒロム御一行は「七瀬」の所有する衛星にすら観測されない特殊機構に守られた島にいるわけだがァ……シンギュラリティの能力者が発する特有の気までは防げないだろうからなァ。

何せ「七瀬」の連中はシンギュラリティの能力者のことなんて知るはずもねぇんだぜェ?」


『……動けるか?』


「もちろん、そのつもりだァ」

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