五一二話 ブレイズ・バスター
「「魂を燃やす!!」」
息を合わすかのように言うと二人は走り出し、テミスは二本の銃剣を構えて紅い炎の弾丸を撃ち放ってゲンムを倒そうとする。
が、ゲンムはテミスの放った炎の弾丸を避けようと無駄のない動きを見せると華麗に躱し、攻撃を躱すとゲンムはどこからともなく薙刀を出現させて装備してテミスに襲いかかろうとする。
……が、ヒロムはそれを黙ってはいなかった。
自身とテミスの周囲を舞っていた四つの光を金色のブレスレットの中に収めるとともに強い光を放出させ、放出させた光をテミスが今使っているのと同じ真紅に染まった二本の銃剣に変えてゲンムの薙刀を止める。
『我が王……邪魔をするな……!!』
「それは無理な相談だな。
オマエがテミスに襲いかかるのなら……オレはオマエを消す。
それだけのためにオマエと戦うんだからな」
『早まられるな……我が王……。
我を倒せば……我の管理する貴殿の力は……』
「消えるってか?
そんなもん……全然気にならねぇよ!!」
ヒロムは銃剣を力いっぱいに振って薙刀で応戦しようとするゲンムを押し返し、ゲンムの体勢が少し崩れたところにヒロムは銃剣の狙いを定めるとともに炎の弾丸を何度も撃ち放ち、放たれた炎の弾丸は全てゲンムに命中していく。
『ぐっ……』
「どうした?
手加減してるのか?
さっきに比べたら全然大したことねぇぞ!!」
『我が王……貴殿は勘違いされている……!!』
ヒロムの言葉に反論するかのようにゲンムは全身からさらに力を放出させ、そして弾丸を受けて負った傷を瞬時に消し去ると薙刀に稲妻にも似たような力を纏わせる。
『我は貴殿のために……行動しようと生まれた存在……。
故に貴殿の成長を……妨げるわけにはいかなかった……。
だが……貴殿が我の中の貴殿の力を拒むと言うのなら……我は貴殿を本来の姿にすべく……その命を摘み取る!!』
ゲンムは薙刀を何度も勢いよく振るとヒロムに向けて薙刀に纏わせた力を解き放ち、解き放たれた力は龍となってヒロムに向かって飛んでいく。
「……」
『手加減されてると……お思いならば……我はここから本気で貴殿を殺す……。
殺す気で貴殿と……』
「無駄話は飽きた」
ゲンムの話に関心のないヒロムは冷たく言うと両手に持った二本の銃剣を天に向けて投げ捨て、そして稲妻を右脚に纏わせると迫り来る龍に回し蹴りを放ち、放たれた蹴りが龍に命中するとゲンムの放った龍は破壊されてしまう。
『バカな……!?
何故……我の攻撃を……貴殿が防げた……!?』
「……鬼桜葉王が言ってた。
何かのために戦うオレには他の能力者と違って感情の高ぶりや意志の強さによって幾度となく成長する強みがあるってな。
感情のないオマエに同じようなものがあるかは別として……テミスや他の精霊のために戦おうとするオレをオマエが止められるわけねぇんだよ!!」
『ぐっ……!!』
「フレイ!!ラミア!!
アンリミテッド・クロス・リンクだ!!」
「「はい!!」」
『やらせは……せん!!
貴殿の思いどおりには……』
「させない」
ゲンムの言葉を遮るテミスは言うと高く跳び、マフラーを炎とともに変化させて新たな腕のようにさせるとヒロムが投げた二本の銃剣を回収してその腕に装備させ、テミスは四本となった銃剣を構えると共にヒロムの邪魔をしようとするゲンムを阻もうと無数の炎を撃ち放つ。
放たれた炎は次々にゲンムに襲いかかり、炎の襲撃を受けたゲンムはヒロムへの攻撃を邪魔されて回避するしかなかった。
『ぐっ……!!』
「マスター、今です!!」
「……ああ!!
クロス・リンク!!
「天剣」フレイ!!「天妖」ラミア!!」
ヒロムが叫ぶとフレイは光、ラミアは闇となってヒロムの周囲を舞い、周囲を舞う光と闇は徐々にヒロムを包み込んでいく。
「今のオレたちに……限界はねぇ!!」
ヒロムがさらに叫ぶと光と闇はヒロムと重なり一つとなり、光と闇と一体化したヒロムは右半身がフレイを模した白、左半身がラミアを模した紫の装束に身を包み、右手右足にはフレイを彷彿とさせるガントレットとブーツを、左手左足にはラミアを彷彿とさせるガントレットとブーツを装備して装いを変えていく。
装いを変えたヒロムは右手に光を集めると大剣を、左手に闇を集めると刀に変化させて走り出し、ゲンムに接近すると同時に二本の武器で攻撃を放つ。
「はぁっ!!」
大剣と刀、アンバランスな武器による二刀流でありながらヒロムは的確な一撃を放ち、放たれた一撃はゲンムの持つ薙刀を破壊する。
『な、何……!?
何なんだ……この力は……!?』
「……オマエにオレたちは止められない」
『今のマスターには私たちがいる!!』
『私たちを信じるマスターがここにいる!!』
「精霊を道具としか見ていないアナタには私たちとマスターには勝てない」
「「オマエじゃこの力は止められない!!』』
ヒロムたちは強く叫ぶと全身から強い力を放出し、テミスは紅い炎とともに何やら稲妻のようなものを纏い始める。
その稲妻にフレイやラミアたちのような明確な色はなかった。
だがその稲妻がテミスの力になっていることは確かだった。
「マスター!!
援護します!!」
「頼むぞテミス!!」
ヒロムは白銀と紫色の稲妻を同時に纏うと一気にゲンムの背後に移動して大剣で連撃を放つ。
放たれた連撃を止めようとゲンムは両手に力を纏わせて応戦しようと……するが、ゲンムのそれを邪魔するようにテミスは四本の銃剣から紅い炎の弾丸を放ってゲンムに命中させる。
炎の弾丸が命中するとゲンムの動きは鈍くなってしまい、それによって隙だらけになったゲンムにヒロムの放った大剣の連撃が次々に命中していく。
『がはっ……!!』
「はぁぁあ!!」
連撃を受けて怯むゲンムに休む隙も与えぬようにヒロムはさらに刀の連撃を放ち、刀の連撃がゲンムに命中するとゲンムは負傷しながら後ろによろけてしまう。
そして、ヒロムの攻撃を受けているこの状態が信じられないのかゲンムは戸惑った様子を見せていた。
『バカな……ありえない……!?
我は……我は我が王の力を管理する存在……!!
その我が……完全な状態にない我が王に……追い詰められるなど……!!』
「言ったはずだ。
オレは止められないってな。
今も誰かのため……何かのために戦おうとしているオレの成長は止まらない。
オレは……オレたちは今の自分を超えて進んでいる!!」
ヒロムは大剣と刀を重ね合わせると光と闇を同時に放ち、放たれた二つの力が武器を一つに合わさせると一つになった武器は光と闇を内包した剣へと変化する。
「心のないオマエに……オレたちは止められない!!」
ヒロムは剣を手に取ると天に突きかざすように構え、それを見たゲンムは拳を強く握ると雄叫びのような声を上げ始める。
『がぁぁぁぁぁぁあ……!!
許さん……許さん……許さん……!!
力の器に感化された……愚かな貴殿に敗北するなど……我の使命感を否定されたも同義……!!
許せる行為では……ない……!!』
「関係ないわ」
『何……!?』
「アナタが管理していると言ってるそれはあくまでマスターが到達するはずだった可能性が生んだ力。
たしかにそれはマスターのものかもしれない。
けど……マスターが人々との出会いを重ねて成長されて新たな可能性に出会いながら前に進まれている今、その力が無くともマスターは新たな可能性とともに強くなられる!!」
『天醒に達した程度の器が……偉そうにほざくな……!!』
「そうね……私はただ達しただけ。
だけど、だからこそ分かる!!
この身に宿る力はマスターの可能性を広げるためにあるのだと!!
この力……これが今の私の可能性なんだと!!」
テミスが自らの意思を口にするとともに彼女が炎とともに纏う稲妻が強くなっていき、力を増す稲妻は明確な色のなかった状態から変化していく。
紅い炎とは対象的な藍色の稲妻、その稲妻は一瞬だけ炎のように揺らぎ、藍色の稲妻を纏うテミスは四本の銃剣を構えると同時に稲妻を収束させていく。
「今だからできる!!
マスターのために……道を切り開くことが!!
マスターのために戦うことが!!」
テミスが引き金を引くと四本の銃剣から稲妻を纏った炎がビーム状にして放たれ、放たれた炎を前にしてゲンムは全身に力を纏うとともに衝撃波を発生……させるが、衝撃波がテミスの放った炎に近づくと何の前触れも無く消えてしまい、衝撃波が消えたことで炎はゲンムに襲いかかる。
『ぐぉぉぉぉ……!!
こんな……ことで……』
「逃がすか!!」
炎に襲われるゲンムは何とかして炎から逃れようとしてその場から動こうとするが、ゲンムが動き出そうとしたと同時にヒロムはゲンムの背後に現れるとともに剣を振り下ろし、振り下ろされた剣はゲンムの背中を抉るように斬ってみせた。
『!!』
「はぁぁぁあ!!」
ヒロムは剣に光と闇を纏わせると剣を強く握りながら勢いよく振り、剣を振ると同時に光と闇の二つの斬撃を放ってゲンムに直撃させる。
二つの斬撃が直撃するとゲンムは大きく吹き飛ばされ、吹き飛ばされたゲンムは倒れぬように耐えようとするも立っていられずに膝をついてしまう。
『バカな……ありえない……。
我が……我が……こんなに追い詰められるなど……』
「オマエがどんだけ強くても関係ない。
オレたちは立ち止まらずに進む……それだけを胸に秘めているからな」
『戯言を……!!』
ゲンムは何とかして力を溜めるとヒロムに向けて放つが、ヒロムは剣に光を纏わせるとゲンムの放った一撃を切り払って消してしまう。
そして……
「これで終わりです」
ヒロムがゲンムの攻撃を防ぐとともにテミスはゲンムの背後に移動して銃剣を構え、構えた銃剣の狙いをゲンムの頭と心臓がある場所へと照準を定め、引き金に指をかけるとゲンムに告げた。
「……アナタの敗因は私たちを甘く見た事。
そしてマスターを軽く見ていたアナタの判断ミスよ」
『我は……我はァァァァァ……』
ゲンムが悔しさを抱きながら叫ぶとテミスは引き金を引いて敵の頭部と心臓を撃ち抜き、撃ち抜かれたゲンムは倒れることも無く光となって消えていく。
「……」
「やったなテミス」
「マスターのお役に立てて良かったです。
これでこれからも……」
『なるほど……。
キミたちの力はその個体を上回っていたようだね』
テミスがヒロムに何か言おうとした時、聞き覚えのある声がし、その声を耳にしたヒロムとテミスは声のした方を見てしまう。
視線の先……そこには今消えたはずのゲンムが立っていた。
いや、少し違う。
見た目はゲンムと同じでヒロムにそっくりなのだが、瞳の色が緑色だった。
「どうなってやがる……!?」
「たしかに今私は……」
『倒したのは確かだが、倒せてないのも確かな事実だ。
オレたちは……アナザーはそういう風にできてるのさ』