五〇四話 レクイエム・バーナー
「マスターは必ずこの身に代えてもお守りします!!
私はそのために……マスターのためにここにいる!!」
暴走するソラの一撃からヒロムを守るべくテミスは銃剣に炎を纏わせると迫り来る紅い炎を止めるようと攻撃を放とうと……したが、突然テミスの銃剣が紅い光を発するとともに迫り来る紅い炎がテミスの周囲を渦巻いていく。
「な、何!?」
「テミス!!」
「何が……起きてやがる……!?」
突然の事にテミスは戸惑い、渦巻いていく紅い炎の中にいるテミスを助けようとヒロムは叫び、そしてゼロは何が起きてるのか分からない現状にどうすべきなのか分からず止まってしまう。
が、ゼロはとにかく今すべきことを咄嗟に判断するとヒロムに向けてそれを伝えるべく叫んだ。
「ヒロム!!
何が起きてるのかは分からないが先にソラを止めろ!!
ソラを止めればあの炎も消えるはずだ!!」
「けど……」
「マスター!!
私に構わずソラを止めてください!!」
「……分かった!!」
ゼロの指示に躊躇うヒロムを後押しするようにテミスは渦巻く紅い炎の中から叫び、テミスの言葉を受けたヒロムはテミスを助けたいという意志を押し殺してソラを止めるべく全身を炎を纏うと彼に向けて走っていく。
「すぐに終わらせる!!」
ヒロムはソラに迫る中で右手に赤い焔を纏わせ、ヒロムが迫ってくるのを確認したソラは紅い炎を出そうとするが拳に纏わせる程度の炎しか出せず、ソラは雄叫びを上げるとその炎を右手に纏わせてヒロムを迎え撃とうとする。
「ああああああああぁぁぁ!!」
ヒロムとソラ、互いの距離が近づくとソラが先に動き出し、動き出したソラはヒロムを殴ろうと僅かに出た紅い炎を纏わせた右の拳で攻撃を放つ。
「隙だらけなんだよ!!
そんな攻撃受けるわけねぇだろ!!
いつまでも暴走してねぇでとっとと戻ってこい!!
戻ってきていつもみたいにオレのために戦ってくれよ!!」
ヒロムはソラの放った攻撃を簡単に避けると右手を強く握り、そしてソラへの思いを口に出しながらソラの顔面を殴る。
ソラの顔にヒロムの拳が命中するとヒロムの纏う炎がソラの中へと入っていく。
そしてソラは気を失ったのかヒロムにもたれ掛かるかのようにして倒れ、ヒロムは彼の体を支える。
「ソラ!!」
「……」
「おい、ソラ!!
しっかりしろ!!」
「……うる、せぇ……」
「ソラ!!」
「……散々暴れたんだ。
ゆっくりさせろや」
「あのな……勝手に暴れたのはオマエだろ?」
気を失ったかと思われたソラは疲れ切った様子でヒロムに言い、ソラの無事を知ったヒロムは安心と同時にソラの言葉にため息をついてしまう。
ヒロムのため息にソラは少し申し訳そうな表情を見せるが、それを見たヒロムは優しく微笑んで返そうとした……が、ゼロがヒロムに向けて叫ぶ。
「ヒロム!!
テミスが!!」
ゼロの叫びを受けてヒロムはソラの体を支えながら渦巻く紅い炎の方を見た。
ヒロムが視線を向けると渦巻く紅い炎は紅い光を発しながらテミスの体と手に持つ銃剣の中に入っていく。
「ああああああああぁぁぁ!!」
「テミス!!」
「あああああああ……ま、マスター……!!」
「一体何が……」
「呼応してる……」
何が起きてるのか分からないヒロムが戸惑っているとソラはヒロムにテミスの身に起きてる事を話していく。
「オマエの攻撃を受けた時、オマエの炎がオレの中に流れてきた。
そして流れ込んできた炎はヒロムのオレを止めたいという強い意志に呼応してオレの中の強くなってしまった魔人の力を鎮めてくれた。
もしかしたらあの炎は今、テミスの何かの意志に反応してるかもしれない」
「意志に?」
どういう事だ、とゼロはヒロムのもとへと駆け寄ると彼に支えられているソラに問い、問われたソラは分かりうる範囲で説明した。
「オレの中の魔人の力が増した時、オレはキリスを倒したいという意志で戦おうとしたが魔人の力が強くなる一方でオレの意志がそれに激しく反応し、その結果としてオレはその力を抑えられなくなって暴れてしまった」
「要領悪いな。
もっとわかりやすく言えよ」
「簡単に言うならオレの中の力はオレの意志に反応して敵を倒すべく力を増した。
なら今のテミスも何かの意志を持って行動したからこそ炎が反応したんだ」
「何かの意志にってなんだよ?」
「それはテミスにしか分からないが……」
「……守ろうとした意志にも反応するのか?」
ソラの話を聞いたヒロムは何か思い当たるものがあるらしくソラに質問し、ソラは頷くとそれについて話した。
「可能性はある。
おそらくだがテミスのヒロムを守りたいという強い思いがオレの時と同じように炎を呼応させ、その結果で炎が力になろうとしてテミスの中に入り込もうとしてるのなら……ヒロムのその考えは間違ってはない」
「そんな曖昧な理由でか?
テミスやほかの精霊が当たり前のように持ってる感情なのにか?」
だからよ、と精霊・フランはヒロムのそばに現れるとゼロに対して告げた。
「守ることは当たり前、だからこそその当たり前のことを果たすために私たちは全力で挑むの。
今のテミスもそうやってマスターを守ろうとしているわ」
「……そうかよ。
ならどうする?
テミスのヒロムに対する思いに反応してるのはいいとして、このままテミスを見捨てるのか?」
「見捨てるわけにはいかない。
だが……ヒロムがオレを止めてくれたのが偶然だったようにテミスを止められるかは賭けになる。
……今のままじゃ、止めたくても止められない」
「ふざけんな。
テミスは……」
「方法はある」
ゼロの言葉を遮るようにヒロムは言うと身に纏う「クロス・リンク」を解除し、力を解除するとヒロムは銃剣を出現させて手に持って歩き出す。
「な……何するつもりだ!?」
突然のヒロムの行動に驚き思わず止めるのを忘れてしまったゼロは慌てて彼に行動の真意を訊ねようとし、ヒロムはゼロに対してある事を伝えた。
「テミスを助ける。
オレの霊装であるこのブレスレットとこの銃剣にテミスの中に入り込もうとしてるあの炎を取り込む」
「無謀すぎる!!
それで止まるかも怪しいのに……危険すぎてオレは賛成できない」
「なら他に方法はあるか?
今苦しむテミスを助けるためには霊装の力と同じ武器であの炎を誘導してオレが少しでも引き受けなきゃテミスは助けられない。
迷ってる間にテミスは苦しんでる、それを見逃せってのか?」
「それは……」
「悪いなゼロ。
助けられる方法があるならどんなにリスキーな方法でもオレは迷わない」
ゼロに対して自分の意思を伝えるとヒロムは苦しむテミスのもとへ向かい、炎が体に入り込もうとしてそれによって苦しめられるテミスのそばに歩み寄ると深呼吸をして左手首の金色のブレスレットに輝きを纏わせると左手をテミスにかざし、そして手に持つ銃剣を天にかざした。
「マスター……?」
「待ってろよテミス。
すぐに助けてやる」
「何を……するつもりですか……?」
「オマエの主として取るべき行動だ!!」
ヒロムは強く言うとブレスレットの纏う輝きが強くなり、さらに銃剣も輝いていく。
二つの輝きが眩く光るとテミスの中に入り込もうとしていた紅い炎は輝きに誘われるように炎の一部がヒロムの金色のブレスレットと天にかざした銃剣の方に向かっていく。
向かってきた炎に対して抵抗する様子もなくヒロムはそのままの体勢で待ち構え、炎は金色のブレスレットと銃剣に狙いを定めるとその二つの中に入り込もうとする。
「ぐっ……」
ブレスレットの中に入り込もうとする炎、その炎の発する力のようなものがヒロムの中を駆け巡り、駆け巡る力のようなものがヒロムの体に痛みを与える。
だがヒロムは苦しみから逃げることはせずに耐えようとし、耐える中でヒロムはテミスに向けて伝えようと言葉を発する。
「テミス……オマエのオレを守ろうとする気持ちは伝わってる。
だから無理をしてでも助けようとしてくれたんだよな。
なら……オレもオマエのために多少の無理はしてでも助けねぇとな」
「や、やめてください……マスター……」
「やめねぇよテミス。
オレは……必ずオマエを助ける!!」
「マスター……」
「……聞け、紅き炎!!
テミスの思いに反応するのなら彼女の主のオレも同じ意思を持っている!!
この程度の痛みにオレは屈しない!!
だから……来るなら本気で来い!!」
ヒロムが炎に向けて叫ぶと炎は激しさを増しながらヒロムとテミスの中に入り込もうとし、ヒロムとテミスはそれによる激痛に襲われながらも耐え凌いでいた。
そして、耐え凌ぐ中でヒロムとテミスは強き意志を抱き、その意志に感化されてか紅い炎は紅い光を強く放つと二人の中へと完全に入っていく形で消える。
二人の中へと入り込む紅い光を発する炎、だがヒロムとテミスは先程まで耐えていたような痛みが無くなっていたのだ。
「あの紅い炎がオレたちの思いに応えたのか……?」
「……マスター……少し、休みま……す……」
痛みがないことにヒロムは戸惑いを隠せずにいたが、そのヒロムの傍らでテミスは武器の銃剣を手から落として倒れてしまう。
倒れたテミスに駆け寄ろうとするヒロムだが、体が上手く動かずその場に膝をついてしまう。
ヒロムの代わりに慌てて駆けつけたフランがテミスの安否の確認を行い、そのそばでテミスが落とした銃剣は真紅に染まると消えてしまう。
「一体、何が……?」
「どうやら覚醒に近づいてるようだな……」
何が起きてるのか理解の追いついていないヒロムのもとに歩み寄るかのようにゆっくりと藍色の騎士・キリスが歩いてくるとヒロムを見ながら言い、ヒロムは何とかして立ち上がるとキリスを睨みながら敵である彼に言った。
「……オマエらカリギュラが変革を起こすって言うのは能力者を殺すことなのか?」
「ほぅ、誰から聞いた?」
「さっきヘヴンが教えたぞ。
オマエらのことと目的をな」
「なるほど、だが知ったところで襲い。
オマエらは……」
「「はぁっ!!」」
キリスが何かを言おうとすると彼の足止めをしていた真助とシンクが勢いよく接近して背後からキリスに攻撃を放つが、キリスは背後を見ることも無く二人の攻撃を避けるとその場から離れるように飛ぶ。
ガイたちが倒そうとしていたヘヴンもキリスと合流するように飛んで来て、キリスはヘヴンの無事を確認するとヒロムに向けて言った。
「イレイザーの実戦データとヘヴンの新たな力のテスト、そしてシンギュラリティの暴走……今回の作戦は成功に値する成果ばかりだ」
「何だと?」
「礼を言うぞ姫神ヒロム。
そして……はやく覚醒して強くなれ。
でなければもっと悲惨なことになるぞ」
「どういう意味だ?」
「……いずれ知ることになる」
ヒロムの問いに対して軽く答えるとキリスはヘヴンとともに光となって消えてしまう。
キリスとヘヴンが消えたことにより敵はいなくなって戦闘が終わりに向かうわけだが、ヒロムたちにとってその終わりは気持ちのいいものではなかった……