五〇三話 友として
初めて出会ったのはいつだったか……
たしかオレが飾音の余計なお世話によって「無能」になるように仕向けられる前だったから四歳か五歳だ。
「オレ、王様になりたい」
たしかそんなことを言った記憶がある。
そしたらアイツはこう言ったんだ。
「……王様なんてなっても楽しくないよ。
この間一緒に読んだ本に書いてたじゃん」
「王様はみんなのために頑張ってるすごい人なんだよ?
だからオレは王様になりたいんだ」
「みんなのために頑張っても意味無いよ」
どこか呆れたようにソラは言って、オレはソラに聞き返した記憶がある。
「王様は嫌いなの?」
「別に。
オレは誰にでも優しくしようとしなくていいんじゃないかなって思ってるだけさ」
「どういうこと?」
「誰かのために頑張るのって王様じゃなくてもできるじゃん」
「そうかな?
だって王様なら色んなところの人を助けられるかもしれないよ?」
「無理があるよ、それ。
人間ってそんなにすごくないのに」
「ダメかな……」
「……ヒロムのことは誰が助けるの?」
「?」
「もしヒロムが助けを求めたら誰が助けるの?」
「王様ならそんな時でも大丈夫だよ。
頑張って自分で……」
ダメだよ、とあの時のオレの言葉に対して言うとソラはオレに言った。
その言葉は今でも覚えている。
「助けを求めようとしてるのなら一人で何とかしようとしちゃダメだ。
誰かに助けを求めて助け合わないとダメだよ」
「でも王様にになるなら……」
「オレは王様にならなくてもヒロムを助ける。
それと同じでヒロムは王様にならなくても助けを求める人を助けるだけでいいじゃん」
「ソラくん……」
「オレは何があってもヒロムを助ける。
これから先もずっと……必ず助けに行くからさ」
「うん、ありがとう!!」
ソラの言葉はそこからずっと果たされている。
オレが絶望した時、ガイとともに手を差し伸べてくれた。
孤独の中に生きようとするオレと共にいてくれる。
「八神」と戦うと決めた時も自分のことなど顧みずに戦ってくれることを約束してくれた。
トウマが現れ、オレがアイツを倒したいと思った時も同じように戦ってくれた。
「八神」との一戦の時も「竜鬼会」の時も……トウマのことで少し意見が分かれたとしてもヘヴンやキリスたち「カリギュラ」と呼ばれる敵をオレたちのために倒そうとしてくれている。
己の命を守ることもせずに敵を倒そうとしている。
そして……その強すぎる思いが今のオマエを暴走させている。
もしオレのために戦おうとしてオマエが暴走したのならそれはオレの責任だ。
オマエがオレのためにそうなったのなら今度はオレがオマエを助ける番だ。
あの日オマエが言ったように助けを求める者を助けるために……
「王様」ではなく「覇王」となった今のオレが必ず助けてみせる……
「オマエはオレの大事なダチだ。
これまでオレを助けてくれた分の恩返しなんて言わねぇけど……今度はオレがオマエをその中から救ってみせる!!」
***
暴走するソラは全身に紅い炎を纏いながら構えており、ヒロムはそれに対抗するかのように銃剣を構えていた。
銃剣を構えるヒロムは強い意志を瞳に宿しながらソラを見つめ、ソラは紅い炎を纏う中で瞳を赤く光らせるとヒロムに向けて言葉を放つ。
「邪魔するなら……オマエから殺す!!」
「オマエがやりたいならやればいい。
けど……正気に戻ってオマエが後悔するくらいならオレは抵抗する。
そしてオマエを……止める」
「邪魔するなら……容赦はしない!!」
ソラはヒロムを強く睨みながら言葉を放つと紅い炎を燃え盛らせながら走り出し、両手に炎を纏わせると鋭い爪を形成してヒロムを抉り引き裂こうと襲いかかる。
が、ヒロムは銃剣でソラの炎の爪を防ぐと同時に刀身に力を纏わせて斬撃を放って炎の爪を破壊し、そしてソラが身に纏う炎を消そうと斬撃を放とうとする。
しかし……
「失せろ!!」
ヒロムが斬撃を放とうとするとソラは紅い炎で尻尾のようなものを造形し、造形したそれを振り回すかのように体を回転させると尻尾のようなものとなった炎がヒロムを吹き飛ばしてしまう。
「!!」
「爆ぜろ!!」
吹き飛ばされたヒロムに反撃の隙も体勢を立て直す時間も与えぬかのようにソラは紅い炎をビーム状にして無数に撃ち放つ。
「……!!」
「させるか!!」
ビーム状にして放たれた無数の炎がヒロムに迫ろうとする中、ゼロは剣に魔力を纏わせると地面に突き刺し、ヒロムの前に渦巻く魔力を出現させてソラの炎の攻撃を吸収するかのように防いでヒロムを守ってみせた。
「ゼロ!!」
「礼はいらねぇからさっさと立て!!
アイツを止めるんだろ!!」
「……ああ!!」
ヒロムは銃剣を構え直すとソラに向けて走り出し、ソラはそんなヒロムの動きに反応して炎を放とうとする……が、それを邪魔するように両サイドから精霊・テミスとフランが迫ってくると二人はソラに向けて攻撃を放とうとする。
攻撃を放つ二人、だがソラの全身の炎は二人の接近を察知していたのか両手を横に広げるなり紅い炎をさく裂させ、炎の炸裂によりテミスとフランの攻撃を防がれると同時に二人は吹き飛ばしてしまう。
「「きゃぁっ!!」」
「テミス!!フラン!!」
「ヒロム!!
油断するな!!」
吹き飛ばされた二人の名を叫ぶヒロムに注意するようにゼロが叫び、ゼロの声に反応したヒロムが気づくと紅い炎がヒロムの持つ銃剣を撃ち抜いて破壊してしまう。
「なっ……」
「殺す、殺す……殺す!!」
自我が完全に暴走しているソラはただ殺意の込められた紅い炎をヒロムに向けて放ち、ゼロはヒロムを守るように渦巻く魔力をいくつも出現させて炎を吸いながら防ぎ、そしてソラの頭上に再び渦巻く魔力を出現させてソラの全身の紅い炎を吸いあげようとしていく。
ゼロが必死に焔を消そうとするもソラの全身の炎は勢いを増すばかりで一向に収まる気配がない。
「この……!!
どんだけ炎を出せば気が済むんだよ!!」
『ゼロ、このままでは長期戦になってこちらが不利になるだけよ!!』
「んなこと分かってんだよアルマリア!!
けど……アイツを止めるにはこうする他ねぇだろ!!」
(少しでもいい!!
炎を吸い上げて隙間が出来れば……!!)
「ヒロムが何とかしてくれる!!」
「ああああああああぁぁぁ!!」
このままではまずいとゼロの武装となっているアルマリアは彼の頭の中で彼に語りかけるが、ゼロはそれを百も承知でヒロムのために続けようとする。
が、ゼロの思惑に反するかのようにソラは雄叫びを上げるように叫ぶと紅い炎を勢いよく放出させて渦巻く魔力に向けて自ら飛ばし、敢えて飛ばした紅い炎が渦巻く魔力を次々に破壊していく。
「くっ……!!
まだだ!!」
渦巻く魔力が次々に破壊される中でも諦めることなく無数の渦巻く魔力を出現させて炎を吸収させようとするが、それでもソラの炎の勢いは止まらない。
「この……!!」
(魔力が枯渇しないのかも気になるが……アイツの体は大丈夫なのか?
ヒロムが救おうとしてる今、アイツの体は……)
「うぉぉぉお!!」
ゼロがソラの体を気にする中、ヒロムはソラに向かって真っ直ぐ走っていく。
そして……
「いつまでも暴走してんじゃねぇ!!」
ヒロムはソラに接近するなり右手に赤、左手に黒の炎を纏わせてソラを殴る。
殴られたソラは軽く仰け反るだけでダメージはないように見えたが、ヒロムは攻撃をやめることなく連続でソラを殴った。
「殺す……殺す!!」
「オマエが強くなったのは何もかもを破壊するためか!!
オマエが戦うのは破壊するためなのか!!
オマエが守りたかったもの……戦う理由まで忘れてんじゃねぇぞ!!」
ヒロムは右手に全ての炎を集約して力を溜めるとソラの顔面を思いっきり殴り、集約された赤と黒の炎はソラに命中すると交わってテミスとフランの「クロス・リンク」が発揮出来る無色の炎となって炸裂してソラの全身の炎を吹き飛ばしてしまう。
「やった!!」
(あのクロス・リンクの無色の炎はあらゆるものを焼く炎。
魔人の強力すぎる炎にあらゆるものを焼く強力な炎を叩きつけて暴発させて飛ばしたのか!!)
「さすがだぜヒロム!!」
「黙れ……黙れ、黙れぇぇえ!!」
ゼロがヒロムの一撃に感心する中、ソラは叫ぶと再び紅い炎を放出させようとした。
しかし……
紅い炎を放出させようとしたソラの意思に反するように紅い炎は先程までの勢いを失って少ししか現れなかった。
「何故だ……何故だ!!」
「何が……」
「やったんだな、ノアル」
「ヒロム!!
こっちは大丈夫だ!!」
炎が出ないことに戸惑うソラ、何が起きて炎が出ないのか混乱するゼロと違い何が起きてるのかを理解してるヒロムが笑みを浮かべるとノアルがヒロムの名を叫ぶ。
ゼロがノアルの声のした方を見ると先程まで苦しんでいた炎の「魔人」・イグニスは苦しみから解放されたのか落ち着いた様子を見せており、ノアルは無事に終わったことを告げるかのように叫んだ。
「こっちはもう大丈夫だ!!
あとは……頼むぞ!!」
「任せとけ!!」
ノアルの言葉に答えるようにヒロムは叫ぶと全身に炎を纏わせながらソラを何度も殴り、そしてソラの胸ぐらを掴むと彼に向けて言った。
「覚えてるかソラ!!
オマエはオレが王様にならなくてもいいって教えてくれた!!
オマエの言葉があったからオレはこうして生きることを選べたんだ!!
そのオマエが……今更道を間違えんじゃねぇよ!!」
ソラに向けて強く言葉を発するとヒロムはソラの顔面を勢いよく殴って殴り飛ばすが、ソラは運良く即座に体勢を立て直すと何とかして紅い炎を右手に纏わせるとヒロムに向けてビーム状にして撃ち放つ。
いや、それで終わらない。
ソラが焔を放つと先程吹き飛ばしたはずの炎がどこからか戻ってきて放たれた炎と一体となってヒロムに襲いかかっていく。
「!!」
「ヒロム!!」
迫り来る紅い炎を前にしてヒロムはどう防ぐか迷ってしまい、ゼロはそんなヒロムを助けるべく渦巻く魔力を出現させようとしたが現れなかった。
「なっ……出せない!?」
(アンリミテッド・クロス・リンクの活動限界か……!!)
「ヒロム、逃げ……」
「させない!!」
守ろうとしてチカラが発揮できないゼロが叫ぼうとするとそれよりも先にテミスがヒロムの前に立って銃剣を構えると紅い炎を受け止めようとした。
「テミス!!」
「マスターは必ずこの身に代えてもお守りします!!
私はそのために……マスターのためにここにいる!!」
テミスは銃剣に炎を纏わせると迫り来る紅い炎を止めるべく攻撃を放とうと……したが、突然テミスの銃剣が紅い光を発するとともに迫り来る紅い炎がテミスの周囲を渦巻いていく。
「な、何!?」
「テミス!!」
「何が……起きてやがる……!?」