五〇〇話 クロス・リンク・オルタナティブ
魔力を武器にし、イメージ力を魔力の武器二つに込めることで「クロス・リンク」を再現して使用するヘヴン。
そのヘヴンに追い詰められていたヒロムは誰も予想しなかった方法で「クロス・リンク」を発動した。
「ば、バカな……!?
精霊の力を借りているオマエが精霊を介さずにオレと同じ方法でクロス・リンクを発動させたのか……!?」
驚きを隠せないヘヴン。
当然だろう、ヘヴンの知るヒロムの「クロス・リンク」は二人の精霊を身に纏うことでその二人の精霊の特性を発揮出来る装いとなって能力者とも戦えるようになるというものだった。
が、ヒロムは今その「クロス・リンク」の形を覆すかのように二つの武器を出現させると光に変えながら全身に纏いて「クロス・リンク」を発動させた。
これまでの「クロス・リンク」ではなく敵のヘヴンと同じ方法による「クロス・リンク」を発動させたのだ。
「バカな……ありえない!!
オマエのそれはまやかしだ!!
オマエは……オマエは精霊がいなければ何も出来ないはずだ!!」
ヒロムの「クロス・リンク」を否定するかのようにヘヴンは両刃剣を強く握ると走り出してヒロムを攻撃しようとするが、ヒロムは大剣を右手で軽く振るとヘヴンの攻撃を弾き、そして両刃剣を砕いてしまう。
「!?」
「……何も出来ないって点は否定しねぇよ。
けどな、だからこそオレは何も出来ないことを補うべく力を求め強さを得てきたんだ!!」
ヘヴンに強く言葉を言い放つとヒロムは大剣をさらに振って斬撃を放ってヘヴンを吹き飛ばし、さらにヒロムは大剣を地面に突き刺すと稲妻を纏って加速しながら動き出すと音も立てずに一瞬でヘヴンに接近して敵を何度も殴る。
「!!」
「オラァ!!」
何度も拳撃を放つとヒロムは稲妻を右脚に収束し、右脚でヘヴンを蹴り上げるとともに稲妻を炸裂させて敵を天へと打ち上げる。
「ば、バカな……」
「慣れねぇ方法でピーキーなのが難点だがオマエを倒す分には問題ねぇ!!」
ヒロムは全身に強い光を纏うと姿を消すように一瞬でヘヴンの視界から消え、そしてヘヴンの周囲を流星のようになって縦横無尽に駆けながらヘヴンに連撃を食らわせていく。
「ぐっ……ぐぅぅ!!」
「はぁぁぁぁあ!!」
目にも止まらぬ速さで放たれるヒロムの連撃を前にしてヘヴンは防御するしかなく、ヒロムは連撃を放つ中で力を溜めるとヘヴンの防御の隙をつくように頭上に姿を現すと地面に叩きつけるべく蹴りを放つ。
……が、ヘヴンはその一瞬を待っていたのかヒロムの蹴りを拳で止めてしまう。
「……たしかにこれまでのクロス・リンクとは訳が違うようだな。
だがその形態……天剣流星の弱点はスピードとパワーが均衡を保って……」
「誰がそんなこと言った?」
ヒロムが冷たく言い放つと蹴りを放った足から稲妻が放出され、稲妻はヘヴンの防御を押し切るかのように襲いかかると蹴りの衝撃とともに敵を吹き飛ばし、吹き飛ばされたヘヴンはそのまま地面に叩きつけられてしまう。
「……!?」
受け身も取れずに地面に激突したヘヴン。
ヘヴンを追ってくるかのようにヒロムは地面に着地し、ヒロムが着地したのを確認するとヘヴンは立ち上がろうとする。
いや、立ち上がろうとするのはおかしい。
いくら鎧を身に纏っているとはいえ天高くに打ち上げられたヘヴンはヒロムの稲妻と蹴りを受けた上で地面に叩きつけられている。
地面に叩きつけられた際の衝撃はおそらく常軌を逸したもののはずだ。
下手をすれば全身の骨が砕けて死んでもおかしくないはずなのにヘヴンは立ち上がろうとしているのだ。
「……タフな野郎だな」
「な、何故だ!?
オマエのクロス・リンクは精霊の協力があるからこそ成り立つもののはずだ!!
なのに何故……!!」
「認識がいちいち古いんだよ、オマエ」
「何?」
「さっきも言ったはずだ。
このクロス・リンクはピーキーなのが難点だってな」
「何を……」
「オマエの言う通りクロス・リンクの組み合わせはその精霊の特性を発揮する力を得るだけでなく精霊が協力してオレが不得手とする魔力操作や魔力の使役、出力の制御を行ってもらうことでオレは能力者と対等に渡り合える能力を使うことが出来るようになる」
けどな、とヒロムは話す中で全身に稲妻を纏うとヘヴンを見ながら拳を構え、拳を構える中でヒロムはある事を明かした。
「オマエが教えてくれたヒントから得たこのクロス・リンクは二人の精霊の武器と力を借りることでオレ単独でのクロス・リンクを可能にし、そして全ての制御をオレ単独で行えるようにしている。
つまり……この状態のオレはバランスも何も出来ない関係なく敵を倒すためだけに全力全開で無理矢理戦えるってわけだ!!」
ヒロムは地面を強く蹴って走り出すとヘヴンとの距離を一気に詰め、距離を詰めると目にも止まらぬ速さで拳撃を放ってヘヴンを殴り、ヘヴンが拳撃を受けて怯むとヒロムは続けて連撃を放って追い詰めようとする。
「オラオラオラオラァ!!」
「ぐっ……!!」
(この力……ヤツの言ってることは確かなのか!?
データにあるこの形態のスペックと今の姫神ヒロムの攻撃の力が一致しない!!
ピーキーなのが難点だと言っていたが……これは本当にその難点の中で行われてる攻撃なのか!?)
「まさか……シンギュラリティ……!?」
「オラァ!!」
ヒロムの強さに戸惑い思考を巡らそうとするヘヴンが一つの可能性に到達した時、ヒロムはヘヴンの顔面に拳を叩き込むと続けて蹴りを食らわせてヘヴンを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたヘヴンは何とかして倒れぬように体勢を立て直すとどこからともなく両刃剣を出現させて装備するとヒロムの今の強さについて考えをまとめるように呟いていく。
「そうか……ヤツの急激なシンギュラリティの加速と成長が不安定でピーキーと称されるあの新型のクロス・リンクを運良く補っているのか。
攻撃を放つ瞬間、スピードを上げる瞬間……あらゆる攻撃をシンギュラリティが運良く関与してヤツの力を引き出しているのか」
「ゴチャゴチャと人の事分析してる余裕あるのかよ!!」
ヒロムの今の強さがシンギュラリティによるものだと仮定したヘヴンに対してヒロムは一瞬で接近すると蹴りを放つが、ヘヴンは両刃剣でヒロムの蹴りを受け止め、攻撃を止めたヘヴンは左手を横に伸ばすとともに薙刀を出現させて装備してヒロムを攻撃しようとする。
「!!」
「この姿は今オマエが見せたクロス・リンクをイメージしたもの!!
両刃剣が使えるのならば薙刀も当然使える!!」
薙刀の出現にヒロムが驚いているとヘヴンはその彼に一撃を食らわせるべく薙刀で突きを放とうとする……が、ヒロムはヘヴンの放とうとする突きを阻止するかのように薙刀を右手で掴むと握り潰してしまう。
「!?」
「忘れたのか……?
オレには流動術とそこから派生する未来視があるってことをな!!」
薙刀を握り潰したヒロムはヘヴンに言い放つと彼を殴り、そして大剣を出現させるとそれを装備して稲妻を武器に纏わせる。
「猿真似でオレを追い詰めた事実は認めてやる。
けど、その天下はここで終わりだ!!」
ヒロムは大剣を強く握ると勢いよく斬撃を放ち、放たれた斬撃は稲妻を纏うと巨大化してヘヴンを両断しようとする。
しかし……
「その一撃、受けると思うな!!」
ヘヴンは両刃剣に魔力を纏わせるとそれを数倍にも強くさせて斬撃を放ち、放たれた斬撃はヒロムの放った斬撃とぶつかって止める。
互いの力が拮抗しているのかぶつかった斬撃同士は互いに相手を押し切ろうと力を増していく。
そんな中、ヘヴンはさらなる一撃を放とうと両刃剣を構え直そうとしていた。
そしてヒロムも大剣を構え直して攻撃を放とうとしている。
「……」
「……」
二人の放った斬撃がぶつかり合う中、両者はさらなる一撃を放つべく構えていた。
そして……
ぶつかり合う斬撃が互いの強過ぎる力によってそれぞれが自壊するかのように破壊されたのを合図にヒロムとヘヴンはさらなる一撃を放とうとした。
が、ヘヴンが攻撃を放とうと武器を振り下ろそうとする中、精霊・フレイがヘヴンの背後に現れると同時に斬撃を放ってヘヴンの攻撃を妨害してしまう。
「!?」
「マスターの新しいクロス・リンク……私たちのサポートが無くなるという点がある代わりにこれまでクロス・リンク中は見ているだけだった私たちが自由に動けるようになるという点がある!!」
「何……!?」
(そうか……!!
本来のクロス・リンクならあの精霊は今姫神ヒロムの武装となってるはずだ。
だが今のクロス・リンクは精霊の力と武器のみで行っているもの……つまり、これまでは姫神ヒロム単独で発揮していたその力を今度は姫神ヒロムと精霊自身が同時に発揮できるようになっているということなのか!!)
「終わりだ……ヘヴン!!」
フレイの斬撃を受けて攻撃を妨害されたヘヴンは今のヒロムのクロス・リンクのさらなる可能性について気づく中、ヒロムはヘヴンに向けて強力な一撃を放つ。
放たれた一撃は迷うことなくヘヴンに迫っていき、ヘヴンは謀議する間もなくその攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。
「ぐぁっ!!」
吹き飛ばされたヘヴンは飛ばされた先で倒れてしまい、倒れたヘヴンが纏っていた力が消えると彼の全身は元の鎧の姿に戻ってしまう。
「こ、こんなことが……」
倒れたヘヴンはヒロムに追い詰められたことが信じられないような言い方をするが、ヒロムはそんなことを気に止めることも無く大剣を持ったまま倒れるヘヴンに歩み寄っていく。
そしてヘヴンに歩み寄ったヒロムは敵である彼に近づくと大剣を振り上げる。
「……」
「……なるほど……容赦のない男だ。
覇王、その名を持つだけのことはある……」
「……殺す前に教えろ。
オマエらは何者だ?何のために戦う?」
「ほぅ……シンギュラリティのことは気にならないのか?
何故知ってるのか……不思議に思わないのか?」
「どうせ誰かから聞いたならそれで済む話。
それよりも優先すべきはオマエらの素性と目的を明かすことだ」
なるほど、とヘヴンはヒロムの問いの真意を知るとゆっくりと起き上がろうとし、起き上がろうとする中でヘヴンはヒロムに教えた。
「我々はカリギュラ。
この世界に変革をもたらす正義の使者だ」
「正義の使者だ?
そうかよ……偽善者の名乗る正義は必要ない。
オマエはここで……」
「残念だが姫神ヒロム……無駄な話をする前に殺すべきだったな」
ヒロムの言葉を遮るようにヘヴンは全身に魔力を纏うとヒロムの前から逃れるかのように勢いよく横への飛んでしまう。
「この野郎……!!
まだそんな力が残ってたのか!!」
「油断したな、姫神ヒロム。
決着はまた今度だ」
「逃がすわけ……」
「マスター、逃げて!!」
逃げようとするヘヴンを追いかけようとするヒロムだったが、突然フレイがヒロムに逃げるように叫ぶ。
何を言ってるのか分からなかったヒロムの足が一瞬止まり、ヒロムの動きが止まると彼の背後から巨大な炎の玉が迫ってくる。
「なっ……」
「マスター!!」




