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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
覇王進動編
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五話 気持ち


リビング

 フレイが淹れたコーヒーを手にしたガイたちは座っており、シオンは簡易的ではあるが傷の手当てを済ませていた。

しかし、どこかにいっているのかヒロムとユリナの姿がない。


 ただただ続く沈黙。

空気がとてもではないが重たかった。

誰も何かを言うわけでもなく沈黙が続いていたが、シオンは黙ったまま立ち上がり、出ていこうとした。


「どこに行くんだい?」


 飾音はシオンを引き留めるが、シオンは曖昧な返事を返した。


「さあな」


「孤高の戦士なのはいいけどトウマはどうするつもり?」


「オレが殺す」


 シオンの意外な言葉にガイは少し驚いていた。


「急にどうした。

まさか「十家」だからか?」


「そんなんじゃない。

ただ、「覇王」と戦ってわかった」


「?」


「あいつは何も精霊と仲良く戦っていたわけではなかった。

一人の人間としてただ今できることを必死にやり遂げながら生きている。

それを否定するほどの人間でもないあの男が否定することが許せなく思っただけだ」


 シオンはヒロムの言葉を思い出した。

 

『何とか動けるか?

ここはオレが何とかする』

『何とかする。

ここで死ぬ気はない。』


 シオンに対してヒロムが言った言葉。

それは出会ったばかりの人間に対して言えるものではない。


「初対面で自分を犠牲にしてまで他人を逃がそうとするやつは初めてだ」


「だろうな」


 シオンの言うヒロムのそれにガイは共感し、それに続くようにソラも共感した。


「アイツはそういうやつだ」


「ま、そこが大将のいいとこだし、そこに救われたしな」


「貴様もか?」


 イクトの言葉が気になったシオンは思わずイクトに聞き返した。


「そうだな。

大将に挑んで負けて、優しくされて、しかも戦闘後は人が変わったかのように怠惰だし。

まあ、気の向くままに戦うあの姿に魅力を感じたんだよ」


 イクトたちの言葉にヒロムへの印象が全く違うものに変わっているのか、シオンは何か悩んでいるような顔をしていた。


「ま、大将の戦闘に対する熱意は薄い。

過度な期待は損するぞ」


「まったくだ。

今までどんだけ「ダルい」「面倒」で厄介ごとを押し付けてきたか」


 ソラがため息交じりに愚痴るが、シオンは興味がないと言わんばかりに冷たくあしらった。


「知らん。

オレには何の関係もない」


「でもここに来たってことは何か思うことがあったんじゃないのか?」


「ぬかせ。

オレはただ手当てがしたいだけだった。

あんな男に興味はない」


 ガイの言葉にシオンは否定するように冷たく言い放つ。

でもさ、とイクトはシオンに告げる。


「オレは面白半分で大将の下についたけどさ。

大将といると自分の思うように自由なことができる。

おまえもきっとそういう相手を探してるんじゃないの?」


「……さあな」



 それで、とガイは飾音に対して尋ねた。


「この戦闘馬鹿はどうするんです?」


「おい、何サラッと喧嘩売ってんだよ?」


「一度オレが保護するよ」


「ああ?

ふざけ……」


大丈夫、と不満げな顔をするシオンに飾音は説明を始めた。


「ほんの数日だよ。

すぐに解放するから。

キミはまだ「八神」に狙われているかもしれない。

それにほかの「十家」も狙っている可能性がある」


 飾音を見てシオンは何か感じたのか、突然飾音に問う。


「あんたは自分の息子同士が争う今をどう思っている?」


 シオンの問いは誰も予想していなかった。

飾音は少し考えると、シオンの問いに答えた。


「……正直な話、兄弟仲良くなってほしいと思うよ。

でも、お互いにそれを受け入れるような状態にないからね。

でも、オレは「八神」に染まったトウマを内心では許せないでいる」


「結局悩んでるってか」


「それを聞いてどうする?」


どうもしない、とシオンは答えると続けて言った。


「オレは強さのために戦う。

身内の要らん同情が邪魔をするとなれば対処しようと思っただけだ」


「それがキミの答えかい?」


「ああ、そうだ」


 飾音の問いにシオンは頷くが、飾音はそれに対して不満げな様子だった。


「……そうか。

でも、きっとキミの本心は違うんだうね」


「何……?」


「いや……きっとわかる日が来るさ」


***


 

 ヒロムとユリナは庭にいた。

噴水がちょうど見える場所で、ベンチも用意されている。

花や木もあり、花はきれいに咲いているが、これらすべてフレイやユリアたち精霊が手入れをしている。

というよりはこの広い屋敷の清掃などは彼女たちが日頃から行っている。


 ヒロムはベンチに座らず、ただ立って空を見上げていた。

彼女に何を言ってあげれるか悩んでおり、ヒロムは一瞬ベンチの方を見た。


 ベンチにはユリナが座っているが、ユリナは元気がない。

先程までに比べてだいぶ明るさが戻ってきてはいるが、やはりというべきかトウマとの一件があってから元気がなくなった。


 何も気にしなくていいはずの人間だ。

他人事なんだから悲しまなくたっていい、なのにこうして悲しんでいる。

まるで自分のことのように。


 屋敷に戻ってきてすぐ、ヒロムはフレイに謝罪された。

自分の判断が間違っていた、と。

だが、先のことは誰にもわからない。

ましてや人の感情の起伏など予測できる代物じゃない。


 それに、あの場にいたユリナを守れなかった自分にも非はある。

ヒロムはそう思ったため、フレイには何も言わなかった。


「……参ったな」


 こういうことは慣れてない。

しかもこういう場合は励ましたりするのだが、そういうことは最も苦手だ。

自分の不甲斐なさの招いた結果とはいえ、こういう展開は経験がない。


どうしたものか、とヒロムは考え込んだ。

考え込んでいると先にユリナが口を開いた。


「……ずっとこんな関係なの?」


 ユリナの口から出たのは、おそらく彼女の中の疑問なのだろう。

幼少からの仲とは言え、ユリナもヒロムのことを全部知っているわけではない。


「アイツが「八神」の方に行くまではまあ仲良かったよ。

六歳ぐらいまでいたかな。ここで鬼ごっこしたり、かけっこしたりしてよく、遊んでたよ」


「でも……変わっちゃったの?」


「……ちょうどオレの十歳の誕生日の時かな。

大々的なパーティになってガイとソラもいて、そんな中来たんだ。

……決別しにな」


 ヒロムはその日のことを忘れていない。

あの日言われたトウマからの言葉も。


『オレはオマエと違う。

オマエなんか必要ない。

もし邪魔をするなら殺す』


 ヒロムはため息をつくと続けて自分自身について語り始めた。


「……オレは五歳で「八神」に見捨てられた。

「無能」の役立たずとして忌み嫌われ、それがいつの間にか周囲の大人たちが広め、いつしか誰もが知るようになった」



「ち、違うよ!!

だってヒロムくんは……」


「生存競争の激しい世界の理は弱肉強食。

特に「十家」の能力者はそれに固執する。

……オレはその理に反した」


 いつになっても思い出す。

父たちの話を聞いたあの日のこと。

「無能」と呼ばれ始め、周囲から人が離れていく日々。

周囲の大人たちが自分のことを知るなり掌返しで去っていく光景。


「……「無能」と呼ばれたオレはな、最初に能力が本当にないかあの手この手を試したんだ。

能力の使い方とかそれらしい本探して読んでは試して……絶望した」


 ヒロムがユリナの方を見ると、彼女は驚いた顔をしていた。


そう、今彼女が聞いている話はきっと彼女が予想すらしていないものなのだろう。


「……部屋のもの次々に壊して、窓ガラス割ったりして滅茶苦茶にして、最後は自分には何の価値もないって思って死のうとした」


「!!」


「でも、まあ……フレイが慌てて止めようとした。

オレはそれでも暴れてどうにもならないって親父や母さん呼んでって大騒ぎになった」


「……そうなんだ」


「何もないことの辛さをガキの頃に痛感した。

だからこそ……」


 するとユリナが立ち上がるなり、突然ヒロムを抱きしめた。

ヒロムも突然のことで何をどうすべきかわからなかったが、ユリナの顔を見ると真っ赤になっていた。


「どうした?」

 

「……大丈夫だよ」


「?」


「わ、私はヒロムくんのおかげで今こうしてここにいる……」


「……?」


「わ、私はヒロムくんに出会ったことでいろんなことを知っていろんな人と出会った。

ガイやソラ、それにイクトとこうして毎日を過ごせるのもヒロムくんがいたから」


「買い被りすぎだな」


 だから、とユリナは急にヒロムに顔を近づける。

その距離はかなり近く、ヒロムも少し緊張してしまった。


「嫌なことがあるなら忘れてもいいと思うの。

そんなに辛いことがあったのなら、今からそれ以上に楽しいことで忘れてもいいと思うの。

そ……その、今は無理でも……いつかヒロムくんが楽しいことでいっぱいになって笑顔になってくれたらいいと思うの!!」


 恥ずかしさと何かしらの感情がいろいろ重なった状態なのか、ユリナは顔を真っ赤にしたまま硬直している。


「ユリナ……」


「何イチャついてんだ?」


 いつからいたのか、どこからとなく現れたソラが話しかけてくる。

それによりユリナは慌ててヒロムから離れた。


「よお」


「……何平然としてんだか」


 ユリナは今になって恥ずかしさが出てきたのか、ヒロムに背を向ける。

ソラはそれを見てさらに舌打ちをした。


「イチャつきやがって……」


「いつからいたんだ?」


「いつまでたっても来ないから探しに来たが……オマエが昔話したくらいからだ」


「覗き見か?」


「一応な。ついでに言っておくが、オレはオマエのことで深く考えたりはしない。

ただ、オレはオマエと同じようにオマエの背負おうとしてるもんを背負うつもりだ。

お節介とかじゃない、オマエといる今を守りたいだけだ」


「何だそれ」


「ま、オマエと戦いたいってことだ」


それより、とソラはじっとユリナをみつめた。


「お姫さんがあんなに大胆だったとは。

襲いたかったのか?」


「お、襲ってないよ!!」


「ああ……襲われたかったのか?」


「もう!!

何でそういう話になるの!!」


***


 遅くなったな、とソラはヒロムとユリナを連れて全員のもとに戻った。

ユリナは顔を赤くし、少し恥ずかしそうにヒロムから離れていた。

屋敷に来た時と全く違う反応を見たガイは大丈夫なのだと安心したが、空気の読めないイクトはユリナに言った。


「まさか姫さん……

何かやっちゃった!?」


「やってません!!」


 必死に否定するユリナだったが、その横からソラが余計な一言を告げる。


「ユリナはヒロムに抱き着いただけだ」


「ああ~!!

言わないで!!」


ユリナはこれ以上何も言わせないようにソラの口を塞ごうとしたが、ソラはそれを避けた。


「……なんでユリナが抱き着く展開になってんだ?」


「もう忘れて!!」


 ユリナは少し頬を膨らませるが、ガイとソラ、イクトはただそれを見てかわいいなと思ってしまう。

ヒロムは他人事のようにあくびをするとソファーに腰かけた。


「それで、話は終わったのか?」


「とりあえず、オレは一時的に保護されることになった」


 シオンは自分がどうなるかを簡単に説明し、それを聞いたヒロムも軽く返事をした。


「あっそ」


「興味持……」


「それよか腹減った」


 シオンの話を遮るようにイクトはヒロムに食事を要求するかのように言うが、ヒロムはため息をつくと冷たく言い捨てる。


「帰って勝手に食え」


「皆さん、夕食の準備ができました」


 イクトに対して冷たくヒロムが言い終えると同時にフレイが来て、夕食の完成を伝えてくるが、ヒロムはフレイに問う。


「なんでこいつらの分も?」


「せっかくですから皆さんで食べましょう」


「いや、日が暮れる前にユリナを……」


「たまにはいいんじゃないか?

日頃ノート取ってもらってる礼ぐらいしても」


「そうだな。

たまには、な?」


 ソラとガイに言われ、ヒロムは一瞬間を開けるとすぐに答えた。


「せっかくだしいいか……」


***


「いやあ、食った食った」



 食事を終え、満足したイクトはソファーの上で寝転がっていた。

ヒロムたちもソファーに座っていたが、ユリナは食事のお礼と言ってフレイたちと食器の後片付けをキッチンでしている。


「満足したら帰れ」


「いやいや、まだ帰れんのさ」


「あ?」


「ちょうど姫さんもいないからな」


「何の話だ?」


 八神だよ、と飾音が言うとヒロムの顔つきが変わった。

続けろと言わんばかりにヒロムは飾音を見た。


「……紅月シオンの件でギルドが動いていた際、ギルドは少なからずヒロムを監視していた」


「それはオレもカルラと話して出した結論だ。

何かしらの意図があるんだろ?」



「ああ。

これは「八神」に送っているオレのスパイからの情報だ。

トウマはヒロム……キミを倒すために「一条」「三日月」「六道」「十神」に協力を要請していたことがわかった」



「……何?」


 飾音の言葉にヒロムはもちろんガイたちもそれがどれほどのことかすぐに理解した。

そしてそれはシオンも同じように理解し、それを改めて飾音に確認した。


「つまり……「覇王」を倒すために「十家」の半数が動くってか?」


「うん、そうなるね」


「十家」は全部で十、トウマ率いる「八神」を含めて五つがヒロムを倒すために動く。

ただでさえ巨大な力を持ち、国内屈指とされる十の名家それぞれの力は規格外。

エリート中のエリートで、代々強大な力を持つものが当主となり実力を示している。

その規格外が半分も敵に回る。

さらに一位の実力者「一条」と二位の実力者「十神」。


 この二つは次元が違うという噂がある。

トウマは本気でヒロムを消そうとしている。

信じ難い話にガイたちが驚く中、ヒロムはなぜか呑気にあくびをしていた。


「それで……?」


「おいおい……少しは焦れよ?」


「オマエを本気で殺そうとしてるんだぞ?」


「それも戦争レベルの力でさ」


「……戦うとなればだろ?」


 ガイたちの心配を気に留めることなくヒロムはマイペースに話を進める。

が、そんな中でシオンだけは冷静に状況を分析していた。


「ヤツら「十家」はその名に一から十の数字が入っている。

だが、それはたまたまではない。

その十の家が実力であらゆる名家の上に立ち、その威厳を今に至るまで維持している」


「それだけじゃない。

「十家」にはそれぞれに力を認め、忠誠を誓い傘下に入った能力者の組織も存在している。

それを一言で動かせるのも当主の実力」


 仮にトウマが全戦力を動かしたとして、それが十万という戦力だったとしたらほかの十家もそれと同数の戦力を動かせる可能性が大きい。

もし全員が協力要請に応じた場合、能力のないヒロム一人に約五十万の戦力をぶつけようとしていることになる。


 戦力差は圧倒的にこちらが不利。

ヒロムもそれをわかっているはずだが、ヒロムの言葉はこちらの予想を超えてくる。


「倒すしかないだろ?

最悪の場合、オレには十一人の精霊がいる」


「それでどうにかなる相手か?」


 ソラが心配して確認する中、「やってやる」とヒロムが断言する。

そしてシオンは唐突にヒロムに問う。


「オマエはこの先もそうして戦うのか?」


「ああ?」


「何でそうまでして戦う?

敵だってオマエが動くから狙うんだろ?」


「知らねえよ。

邪魔なやつを、オレの道を阻む相手を倒す。

それでやりたいことができるならやるだけ」


 ヒロムの迷いのない答えを聞いたシオンはただ驚いていたが、見かねたガイは横からヒロムに尋ねた。


「本心は?」


「怠いし面倒くさい」


 ガイが引き出したヒロムの本音にシオンは呆れて何も言えなかった。

そう、この男に負けた。

シオンはそう思うと何故か笑えてきた。


「はははは!!」


突然笑い出したシオンをヒロムは少し引き気味で見ていた。


「何だ急に?」


「面白い野郎だ。

オマエという人間がよく分かった」


「ああ?」


 するとシオンは深々と頭を下げた。


「オマエといるのは退屈しなさそうだ。

こんなオレでよければ力にならせてくれ」


「どういう心境の変化なんだよ……?」


「どうするんだ、ヒロム?」


 頭を下げるシオン、そしてそれに対してどうするかを確認してくるガイにヒロムはため息をつくと面倒くさそうに答えた。


「まあ、オレが楽できるならいいけど……」


「……理由がいまいち納得できん」


 シオンは頭を上げるとため息をつく。


「まあ、よろしく頼む」


「ああ」


「よし、下っ端。

ジュース買ってこい、オレコーラな」


「オレはパシリじゃない……!!」


 イクトの命令にシオンは苛立ちを隠すことなく、怒りを剥き出しにするが、イクトは笑いながら詫びた。


「冗談、冗談。

まあ、これから仲間だな」


「……馴れ合うためにいるんじゃない」


「素直じゃないな」


***


 その後解散することとなった。

飾音はシオンを連れて「姫神」の保護下にある場所に向かうらしい。

これまでの一件からすぐには共に行動できないらしい。


 ユリナについてはガイとイクトが送り届けるらしい。

ガイは安心できるが、イクトはなぜか不安だなとヒロムは内心思っていた。


「……で、オマエは?」


「オレは一泊する。

あ、朝はハムエッグとトースト、トーストはマーガリンで」


 ソラはすでに入浴を済ませており、ヒロムに借りたジャージに着替えていた。


「わがままで注文多いな」


「あと、いい湯だった」


 ソラがこうして一泊するのはよくあることで、ヒロムももう慣れていて何も言わない。


「部屋はいつものところ用意させる」


「おう。

あ、この間のゲーム……」


知らん、とヒロムは冷たく言い放つ。


するとソラが突然話題を変えた。


「……少しは楽になったか?」


「あ?」


「ユリナに伝えたんだろ?」


「……結果論でしかないが代わりにユリナは傷ついた」



 トウマが告げるより前に自分で伝えていればこうならなった可能性もあったが、結果としてユリナにすべて打ち明けれた。


『嫌なことがあるなら忘れてもいいと思うの。

そんなに辛いことがあったのなら、今からそれ以上に楽しいことで忘れてもいいと思うの。

そ……その、今は無理でも……いつかヒロムくんが楽しいことでいっぱいになって笑顔になってくれたらいいと思うの!!』


ユリナの言葉を今になって思い出すと、何故か心が安らぐ。

 

「初めてかもな。

あんな風に言われたのは」


「ふ~ん。

ま、オレ的にはオマエとユリナのイチャラブが急展開を迎えればありがたいよ」


「あ?」


「付き合えって話」


 馬鹿言うな、とヒロムはソラに言う。

意外な返事にソラは驚いていた。


「どうして?」


「アイツにだって好きなやつがいるはずだ。

そいつといい関係になればいい」


「そ、そうだな」


 ヒロムの言葉にソラは呆れてこれ以上何も言えなかった。


(あんだけされて自分への好意だって気づかないなんて……)


「ま、風呂入ってくるわ」


 ヒロムはあくびをしながら部屋の外へと出ていく。

ソラはそれを確認すると大きくため息をついた。



「これじゃイクトが弄りたくなる気持ちもわからんでもない……。

いつ気づくかわかったもんじゃない」


 ヒロムの鈍感さにソラは少し呆れつつ、イクトのおふざけにほんの少しだが感心した。


「……それに、ようやくアイツも前に進むことを決めたんだ」


ヒロムは決意した。

「十家」が自分を狙うならそれを迎え撃つ、と。


そして、八神トウマ。

これまで何もしてこなかったあの男が突然動き出した。

それもほかの「十家」を巻き込む形でだ。


 数年前のヒロムの誕生日に再会してヒロムを見捨てたあの日のことは今でもソラは覚えていた。

いや、あの日以来、そのために力をつけてきた。


「……ヒロムの邪魔をしてもしなくてもオレにはどっちでもよかった。

オレにとってオマエはすでに倒すべき相手だ」


 そう、ヒロムを守り、目的を果たすために強くなろうと誓い、今まで自分を磨いてきた。

いつか来るその日のために。


「……トウマ。

オレがオマエを殺してやるよ」




ここまで少し一話一話の文字数が多かったので、自話以降半分に減らします

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