四九九話 クロス・リンク・レプリカ
「……クロス・リンク!!」
「何!?」
「「何ですって!?」」
ヘヴンが口にした「クロス・リンク」という単語にヒロムとフレイ、ラミアは驚きを隠せず、三人が驚く中でヘヴンが宙に浮かした魔力の大剣と槍は怪しく光りながらヘヴンの周囲を飛び回り始める。
飛び回る二つの武器は徐々に光へと変化していき、変化した光はヘヴンの鎧を強化するように一体化していくとその造形を変えていく。
戦士のような鎧を纏ったヘヴンの全身はこれまでのずっしりとしたような見た目からスマートさを感じさせるような細身のフォルムとなり、細身となったその鎧の上からコートのようなものを羽織るとガントレットが怪しく光りながら細身となったフォルムに似合わぬ重厚なものへと変化する。
「そんな……」
姿を変えたヘヴン。
そのヘヴンの姿を前にしてヒロムは驚きを隠せず、そして動揺していた。
「何で……何でオマエがクロス・リンクを!!」
「……いつからだ?」
「何?」
「いつからクロス・リンクは自分以外は誰にも使えないと勘違いしていた?
いつからクロス・リンクがオマエとゼロだけのものだと思っていた?」
「いつから……?
クロス・リンクはオレたちの力だ!!」
ヒロムは両手の刀に黒い稲妻を纏わせると走り出し、ヘヴンに接近すると斬撃を放とうとした。
が、ヘヴンはガントレットでヒロムの刀を簡単に止めてしまい、攻撃を止めたヘヴンはヒロムを軽く蹴り飛ばすと目にも止まらぬ速さで拳撃を何度も叩き込んでいく。
「がっ……」
「マスター!!」
「オマエ、よくも!!」
拳撃を受けるヒロムを助けようとフレイとラミアはヘヴンを止めるべく攻撃しようとするが、ヘヴンは音も立てずに消えるとフレイとラミアの背後へと移動し、そして両手を前にかざすと衝撃波を放って二人を吹き飛ばしてしまう。
「きゃあ!!」
「くっ!!」
「この野郎……」
吹き飛ばされた二人は倒れてしまい、ヒロムはヘヴンを倒すべく黒い稲妻を纏ってヘヴンを攻撃しようとするが、ヘヴンはそのヒロムの攻撃をいとも簡単に避けるとヒロムを蹴り飛ばしてしまう。
「がっ……!!」
蹴り飛ばされたヒロムは地面に伏せるように倒れてしまい、ヘヴンは倒れるヒロムに近づくかのようにゆっくりと歩みを進めていく。
「こ、この力……!!」
「これまでのオマエのデータを元に作成されたシステム、どうやら完成と言っても過言ではないようだな」
「得意のアップグレードか?
それに頼らなきゃならないとはな……。
けど、それに頼ってるオマエに負けるのは腹が立つ!!」
「ならば覆してみろ。
オマエの力がオレより優れてることを証明してみろ」
「上等だ!!」
ヒロムは立ち上がると刀を柄同士で連結させて両刃剣にすると右手にそれを持ち、そして薙刀を左手に持つと黒い稲妻を全身に纏う。
二つの武器を構え、黒い稲妻を纏ったヒロムは走り出すとともにヘヴンに斬撃を次々に放ち、ヘヴンは魔力を纏うと加速しながらヒロムの攻撃を避けていく。
ヘヴンが迫る中、ヒロムは両刃剣を地面と水平に構えたまま地面を強く蹴ると刀を強く握る。
「凶刃・一式……両刃!!
龍薙・卸!!」
ヘヴンに迫る中ヒロムは水平に構えた両刃剣で鋭い突きを放つと同時に黒い稲妻を解き放ち、解き放たれた黒い稲妻は無数の龍となってヘヴンに襲いかかる。
「ほぅ……龍か。
ならば!!」
ヘヴンは右手に魔力を集めるとそれを大剣に変えて斬撃を放って黒い稲妻の龍を次々に破壊していく。
が、それでもヒロムの放った黒い稲妻の龍は完全には消えていない。
ヘヴンに破壊されなかった残りの黒い稲妻の龍はヘヴンに噛みつこうとするが、ヘヴンは加速してそれを避けると両手に魔力を纏わせる。
そして……
「やはり龍には龍が一番だな」
ヘヴンは両手の魔力を手から離れさせるとそれをガントレットと龍に変えると今の姿から元の姿に戻り、そして龍とガントレットはヘヴンの全身を飛び回ると彼の鎧と一体化するようにして鎧の造形を変化させる。
「クロス・リンク、完了」
ヘヴンが呟くと彼の鎧は龍を模したものへと変化し、そしてガントレットには鋭い爪が装備されていた。
「まさか……龍擊拳王までコピーしやがったのか!?」
「コピーではない……これは純粋な私の力だ!!」
ヘヴンは全身から強い力を発するとともにヒロムの放った黒い稲妻の龍を全て破壊し、破壊すると同時にヘヴンが拳を地面に叩きつけると衝撃波と魔力の龍がヒロムに向けて放たれる。
「なっ……」
「龍魂轟しこの力、受けてみよ!!」
「受けてたまるか!!」
ヒロムはヘヴンの放った衝撃波と魔力の龍を防ぐべく薙刀と両刃剣に黒い稲妻を纏わせると攻撃を放とうとする。
が、ヒロムが攻撃を放とうとするその瞬間よりも先にヘヴンは素早く接近すると蹴りを放って両刃剣を砕き、さらに拳に力を集約すると薙刀を粉砕してしまう。
「なっ……!?」
「愚かなり……その程度の力なら、滅びよ!!」
ヘヴンは力を集約した拳でヒロムを殴り、ヒロムを殴なりヘヴンは姿を消してしまう。
そしてヘヴンが姿を消すと同時に衝撃波と魔力の龍が如くヒロムを襲っていき、襲われたヒロムは勢いよく吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされたヒロムは飛ばされた先で倒れてしまい、倒れたヒロムの纏っていた「クロス・リンク」が解除されてしまう。
「ぐっ……」
「クロス・リンク」が解除されたことにより身に纏われていたオウカとソーナは元に戻ると武器を構えるが、攻撃を受けたヒロムは軽い負傷をして倒れたままだった。
「マスター!!」
「フレイ、今はヤツを倒すわよ!!
オウカとソーナも動けるなら手を貸して!!」
「そのつもりです!!」
「マスターを守るためにやるわよ!!」
ラミアが仕切る形でフレイ、オウカ、ソーナは武器に魔力を纏わせると四人同時に攻撃を放ってヘヴンを倒そうとするが、ヘヴンは四人の攻撃を前にして両手に魔力を纏わせるとそれを両刃剣と薙刀に変えながら呟く。
「……クロス・リンク」
ヘヴンが呟くと彼は元の姿に戻り、そして両刃剣と薙刀を光にして鎧と一体化させると全身の鎧を黒く染め上げ、そして黒く染まった鎧はどこか刺々しい造形に変化していき、ヘヴンの手には両刃剣が装備される。
「受けよ……怒り狂えし凶刃を!!」
ヘヴンは両刃剣に強い力を纏わせると勢いよく一閃を放ち放たれた一閃を前にして防御が間に合わなかったフレイたちはヘヴンの放った一撃を受けてしまい、そして吹き飛ばされて倒してしまう。
「オマエら……」
フレイたちが倒れるとヒロムは彼女たちの身を案じるかのように声をかけようとするが、そんなヒロムの行動を邪魔するかのようにヘヴンは一瞬でヒロムの前に移動すると彼に言った。
「諦めろ。
オマエのクロス・リンクではオレのこのクロス・リンクの力には勝てない」
「くっ……黙れ……!!」
「黙らないさ。
オマエの特権は今ここで終わった。
クロス・リンクはその気になれば誰でも使える、それがオレの手で証明されたからな」
「証明……だと……?」
ヘヴンの言葉が気になったヒロムは彼を見上げるようにしながら彼に聞き返し、聞き返されたヘヴンはヒロムに対してわざわざ自分が何をしたのかを話していく。
「オマエのクロス・リンクのデータをくまなく調べた。
そしてこれまでオマエと戦ってきたオレたちのデバイスシステムに蓄積された戦闘データとこれまでのオマエの全てのデータを掛け合わせることによりクロス・リンクにある可能性があることを見出した」
「可能性……だと?」
「クロス・リンクは姫神ヒロムの能力者と戦いたいという願望を叶えるべくして生まれた産物、姫神ヒロムの強い思想に精霊が反応して武装となることで体現しているのがクロス・リンクだということをな」
「……!!」
「姫神ヒロムの戦いたいという願望と力を求める欲望、そして何かのために戦おうとする強すぎる意思が重なり合うことにより精霊を突き動かすものが生じていると考えたオレは自身の魔力にオレ自身の手にしたいとイメージした願望を掛け合わせることでそれを精霊の代用品に見立てた。
そして……この代用品を二つ用意することで精霊二体を纏うとクロス・リンクを再現することに成功した」
「バカな……!?
クロス・リンクは……精霊の意思がなければ成り立たないはずなのに……」
「それはオマエのクロス・リンクだけだ。
このクロス・リンクはオレのイメージ力に呼応した魔力が精霊を超えることにより更なる力を発揮する新たなクロス・リンクだ。
いわば新形、旧式のオマエのそのクロス・リンクにはない可能性がある新たなチカラだ!!」
「……」
「……おしゃべりはここまでだ。
シンギュラリティの急激な加速が起こる前にオマエをここで始末させてもらう」
ヘヴンはヒロムに冷たく告げると両刃剣に魔力を纏わせながら振り上げ、そしてヒロムは突き刺すべく勢いよく振り下ろそうとした。
「さよならだ……姫神ヒロム!!」
ヘヴンが両刃剣を振り下ろし、その刃がヒロムに迫ろうとする中……突然どこからともなく現れた大剣と槍がヘヴンの攻撃を止め、大剣と槍がヘヴンの攻撃を止めるとヒロムは何かを語り始めた。
「運命というものが信じられるのならオレは恵まれていたかもしれない。
今までは自分にしかないと思っていたこのクロス・リンクの力、それと同じような力をつかう相手を知ることで当事者としては知りえなかったことがよく見えるようになった……」
「オマエ、何を……」
「ヒントをくれたのはオマエだ。
そして答えをオレに教えたのもオマエだ。
クロス・リンクを真似るためにイメージ力を反映させる、か。
なるほど……そうやれば精霊がいなくとも代用してクロス・リンクを完成させられるんだな」
「何を言って……」
「オマエとオレの間に運命とかそういうのがあるわけではないが……今回ばかりはそういう不思議なものがあったとしても否定しない」
「だから何を……」
「……クロス・リンク」
ヒロムの言葉を聞いて何が起きてるのかハッキリさせたくて仕方の無いヘヴンはヒロムに答えさせようとするが、ヒロムはそんな彼の言葉を無視するように一言言葉を発する。
ヒロムが言葉を発するとヘヴンの攻撃を止めていた大剣と槍が敵の武器を弾くとともにヘヴン本体を吹き飛ばし、ヘヴンを吹き飛ばした武器は光となるとヒロムを包み込んでいく。
光に包まれたヒロムは青い装束を身に纏うと白と青の交わったロングコートを羽織り、両手両足にアーマーを付けて大剣を装備していく。
「まさか……それは……」
ヒロムの変化に驚くヘヴン。
驚くヘヴンに対してヒロムは今何が起きてるのかを告げるかのように言い放つ。
「……これは今までのクロス・リンクとは違う。
オマエのクロス・リンクを否定し、オレ自身が強くあり続けるために導き出した答えだ!!」




