四九七話 バーサーク・イフリート
「自力でシンギュラリティに到達したのか!?」
「はぁっ!!」
突然のソラの変化に動揺するキリスの動きは鈍くなり、ソラはそれを見逃すことなく連続で紅い炎を撃ち放つ。
武器を失ったキリスは防ぐ術がないのか青い輝きを纏いながら加速して迫り来る炎を避け、炎を避けたキリスは右手に輝きを纏わせて手刀でソラを攻撃しようとする……が、ソラがキリスを強く睨むと手刀による攻撃は何かに阻まれたのか止まってしまい、攻撃が止まると同時に爆炎がキリスに襲いかかる。
「くっ……!!
こんなもの……!!」
爆炎に飲まれそうになるキリスは青い輝きを強くさせると同時に姿を消してしまい、そしてソラの頭上……天高くに再び姿を現すとサーベルを構えて攻撃を放とうとしていた。
それだけではない。
サーベルを構えるキリス、そのキリスと同じ姿をした複数体の分身まで出現しており、キリスとその分身はソラを確実に仕留めようと攻撃を放とうとしていた。
が、ソラは紅い拳銃「ヒート・マグナム」を投げ捨てると左手に炎を纏わせて地面に手をかざし、ソラが手をかざすと地面が赤く染まっていく。
赤く染まった地面は次第に熱を帯びると地面から無数の爆炎の柱が出現し、出現した爆炎の柱がキリスの分身を焼き消していく。
「なっ……」
「爆ぜろ!!」
ソラが叫ぶと爆炎の柱は龍となってキリスに襲いかかり、キリスは青い輝きを強くさせると爆炎の龍を回避してソラの周囲から消えるように移動して陸に着地するとさらに距離を取ろうとした。
「魔人へと発展と進化を遂げたことでその力が急激に高まってここまでの力を……!!
このままではオレの装甲もあの炎には耐えれなく……」
「ゴチャゴチャうるせぇ!!」
ソラは両手に紅い炎を纏わせながら体を回転させると周囲に次から次に爆炎を放ち、放たれた爆炎は大地を焼くとともに距離を取ろうとするキリスの逃げ道を塞ぐように燃え上がっていく。
「この火力……まるで別人だな」
(魂が以前より魔人化したからか野性的になってるな。
そのせいで攻撃に荒さも見えるが……それを補えるほどの火力と卓越された能力操作がその荒さを補っている。
無意識なのか狙ったものかは分からないが、今の相馬ソラは自力でシンギュラリティの到達というトビラをこじ開けてその力を使っている)
「四割の力でゼロを倒すつもりだったがオマエ相手には四割では割に合わない。
ここは……もう少し出力を上げて対応する」
キリスは全身から青い輝きを強く放出すると同時に魔力も勢いよく放出し、サーベルを強く握ると大地を強く蹴って走り出す。
が、走り出した一瞬は姿を捉えられたキリスは音どころか気配擦ら感じさせずに姿を消し、ソラがキリスを探そうとした時には彼の体に無数の斬撃が襲いかかっていた。
「あ……?」
迫り来る斬撃にソラが気づいた時には彼の体は斬撃によって負傷し、負傷したソラの背後にキリスは現れるとサーベルに力を集めて更なる一撃を放とうとする。
「さすがにここまで力を解放すれば反応出来ないようだな」
「はぁっ!!」
ソラに一撃を放とうとするキリスの邪魔をするようにゼロはキリスに接近するなり刀を振り下ろすが、キリスは手刀でゼロの攻撃は防ぐとともにゼロの身体に掌底を叩き込んでゼロを吹き飛ばしてしまう。
「ぐぁっ!!」
「やめておけゼロ。
オマエの力はそれが限界だろ?
相馬ソラの力にも及ばないオマエはただ足を引っ張るだけだから下がっておいたほうが賢明だぞ?」
「テメェ……」
「そこか!!」
ゼロに対して相手にならないことをキリスは告げ、告げられたゼロは刀を強く握って悔しさと苛立ちの二つの感情に駆られていたが、そんなことを気にすることも無くソラはキリスを見つけると紅い炎を玉にして次から次に撃ち放っていく。
ソラが放った紅い炎の玉はキリスに向かって飛ぶ中で力を増しており、キリスを目前にする位置に到達する頃にはキリスの背丈の数倍へと玉は膨れ上がっていた。
「大した力だ。
だが!!」
キリスは迫り来る膨れ上がった炎の玉を前にしても避けようとせず、それどころか勇ましく立っていた。
いや、そうではなかった。
キリスの両膝の装甲が展開されるとドリル状の刃が高速回転しながら撃ち放たれ、放たれた高速回転する刃が炎の玉の一つを貫いて暴発させると連鎖反応を起こす形で他の炎の玉も暴発させて全て破壊してしまう。
が、そこで終わりではなかった。
紅い炎の玉が次々に暴発していく中、何を考えてるのかソラは暴発している炎の中を真っ直ぐ走って突き抜け、そして炎の中より姿を現したソラは両手に紅い炎を纏わせながらキリスを攻撃しようとする。
「オラァ!!」
「野蛮だな、相馬ソラ。
今のオマエはただの獣だ!!」
キリスは手に持つサーベルに力を集めるとソラの攻撃を防ぎ止め、防ぐと同時にソラを押し返すと右脚に魔力を強く纏わせて蹴りを放つ。
ただ纏わせただけではない、纏わせた魔力は乱回転しており、放たれた蹴りはさながらドリルのようにソラの体を抉ろうと襲いかかっていく。
「そんなもん!!」
ソラは両手の炎を強く燃えさせると乱回転する魔力を纏ったキリスの蹴りを両手で掴み止める……が、乱回転する魔力の力があまりにも強いのか掴み止めたソラの両手の掌は傷を負い続け、そして激しく出血していく。
「がぁあぁぁあ!!」
傷を負い続ける中でもソラは手を離そうとせずにキリスの攻撃を完全に止めようとするが、キリスの攻撃はそれに対抗するかのように強さを増していく。
「ぐぅぅぅ!!」
「諦めろ相馬ソラ!!
この一撃を避けずに止めたのが最後、オマエの敗北は決定的なものになった!!」
「敗北だと……?」
「オマエの能力者としての覚悟、戦士としての使命感は敬意を表するに値するものだ。
だがしかし!!やはりオマエは力では劣る!!」
「そうかよ……なら、この魂をもっと燃やすだけだ!!」
キリスの言葉を覆そうとソラは叫ぶとさらに炎を激しく燃え盛らせ、瞳を赤く光らせると同時に全身からさらに紅い炎を放出する。
紅い炎がさらに放出されるとソラの力がさらに増したのかキリスの乱回転する魔力の回転力が徐々に低下し始める。
「なっ……」
「だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ソラがさらに炎を激しく燃え盛らせるとキリスの乱回転する魔力の回転は完全に止まり、魔力の回転が止まるとソラはキリスの右脚の纏う魔力を焼き消し、そしてキリスの顔面を数度殴ると体に炎を叩き込んで炸裂させる。
炎が炸裂するとキリスはその衝撃によって吹き飛ばされてしまい、吹き飛ばされたキリスはすぐに立ち上がるとサーベルを構えようと……したが、構えようとした時すでにソラはキリスの目の前に立って炎を拳に纏わせて構えていた。
「なっ……」
(ここに来てまた成長したのか……!?)
「ドラァ!!」
ソラの驚異的な力の変化にキリスが驚く中、ソラは迷いもなくキリスを殴り、一度殴るとそこから続けて連続で拳を叩きつけていく。
「ぐぉぉぉぉ!!」
「オラオラオラオラオラ!!」
何度も何度も何度も何度も殴るソラの炎と攻撃の勢いが止まる気配はなく、それどころか逆に激しさだけが増していく。
「もっと……もっと、もっと!!
コイツを殺すためにもっと燃やせ!!」
キリスを倒すべくさらに力を高めようとするソラはさらに炎を激しく燃えさせるが、攻撃を受けるキリスは黙ってはいなかった。
「オマエが強さを増すのは結構だがこれ以上は好きにさせん!!」
ソラの放つ連撃の一瞬に生じる僅かな隙を見てキリスは彼の攻撃を避けて懐に入り込むと右膝の装甲を展開してドリル状の刃を回転させながら出現させて膝蹴りを放ち、ソラの腹に膝蹴りが命中すると同時に回転する刃がソラの腹を抉っていく。
「……!!」
回転する刃を受けたソラの攻撃する手が止まり、そして彼の動きも止まってしまう。
「いくら魔人へと進化したとはいえ所詮元々は人間。
致命傷を受ければ人間本来の生命の危機に襲われれば全てが終わりに向かう。
今オマエはその危機的状況下の中に落ちた」
「ぐっ……」
キリスはソラの体から刃を抜くと同時に右脚を彼から離し、離した右脚に魔力を纏わせると致命傷を受けたソラを蹴り飛ばすべく蹴りを放った。
蹴り飛ばされる、ソラに蹴りが迫っていく。
その時だ。
「……勝手に殺すなよ」
キリスの放った蹴りが迫る中、ソラは右手に強く炎を纏わせると蹴りを殴り弾き、そしてキリスを吹き飛ばそうと炎を噴射して放つ。
「!?」
噴射された炎を受けたキリスは押し飛ばされてしまうも倒れはしなかったが、それでも驚きは隠せない。
「バカな……!?
オマエはオレの与えた致命傷で動けないはずだ!!
動けたとしてもオレの攻撃を弾けるような余裕はないはずなのに……何故だ!!」
「致命傷……?
んなもん知るかよ」
キリスの言葉にソラは冷たく返し、そしてソラが言葉を返すとキリスの目は現実で起きている事なのか疑いたくなるような事が起きていく。
キリスの回転する刃を腹に受けて抉られたソラ、そのソラの腹の致命傷に炎が集まっていくと傷を焼き、そして次第に何も無かったかのように致命傷となっていた傷が消えたのだ。
「バカな……!?」
(ありえない……!!
魔人特有の再生能力については把握しているし、データでこれまで何度も閲覧している。
だが今の再生能力は何だ!?
いや、あれは再生能力なのか!?
炎が傷を焼いて体を治すなど聞いたことがない!!)
「ソラ!!」
致命傷を受けたはずのソラが謎の力によって傷を消したことに戸惑うキリスの動きが止まる中、ソラの身を案じたゼロは駆けつけるなり彼に声をかける。
「ソラ、無事か?」
「……うるせぇ」
「無事なら良かった。
今のオマエだけじゃヤツは倒せないかもしれない。
だからオレも……」
「うるせぇって言ってんだろ……」
ゼロを黙らせようとするかのようにソラは彼を強く睨みながら炎を纏い、炎を纏うソラの態度にゼロは違和感を感じるしかなかった。
「ソラ?
急にどうしたんだ……?」
「うるせぇって言ってんだろうが!!」
何があったのか聞こうとゼロはソラに訊ねるが、ソラはそんなゼロの言葉に対して強く返すと突然殴りかかる。
突然の事でゼロは顔面に受けてしまい、ゼロの顔を殴ったソラは続けてゼロを何度も殴る。
「やめろソラ!!
オレだ!!オレはゼロだ!!」
「うるせぇ!!
邪魔するならオマエから殺してやる!!」
ソラを宥めようとゼロは彼に自分はゼロだと伝えようとするが、ソラはそれを聞き入れようとせずにゼロを殴ると炎を強く放って彼を吹き飛ばしてしまう。
「ぐぁっ!!」
「邪魔するなら殺す……オマエから殺してやる!!」
「ソラ……落ち着いてくれ……」
「うるせぇ!!」
我を失ったかのようにソラはゼロに襲いかかり、ソラの突然の攻撃に戸惑うゼロは反撃も出来ずに防御を強いられる。
そんな状況を目にしたキリスは鎧の仮面の下で不敵に笑っているのか嬉しそうに呟いていた。
「そうか……これなら問題なさそうだ。
相馬ソラ、オマエはたしかに魔人へと進化したよ。
ただし、人としての理性を失うことでな。
そのまま破壊を続けろ、守るべき仲間を襲いながら手を染めろ!!」




