四九三話 イレイザー・ハザード
「こうなったら……やるしかない!!」
謎の光る物体が迫ってくる中、ヒロムは稲妻を強く纏いながら海で避難せずにいるユリナたちのもとへ向かうように走っていく。
走る中でヒロムは稲妻をさらに強くさせ、海の方に向かって走りながらヒロムは精霊・ステラとミラーナを呼び出すと叫んだ。
「クロス・リンク!!
「天導」ステラ!!「法戒」ミラーナ!!
原初の力、理を統べる戒律の力!!
今ここにある全てを解き放て!!」
ヒロムが叫ぶとステラとミラーナは赤い光を放ちながら無数の魔法陣となってヒロムを包み、魔法陣に包まれたヒロムはそれらを身に纏うように光に変えて全身と一体化させる。
光を体と一体化させたヒロムは赤い装束を身に纏うと黒いフードのついたローブを羽織り、薄地のグローブと重厚感のあるブーツを装備して天に向けて飛ぶ。
飛ぶ中でヒロムは赤いマフラーを首に巻くと右手に赤い刀身の剣を装備しながらサイドユリナたちに避難するように叫んだ。
「はやく逃げろ!!
そこにいたら巻き込まれるぞ!!」
「ヒロムくん!?」
「ヒロム、何が起きるの!?」
「説明してる暇はないから今すぐ陸ににげろ!!」
「クロス・リンク」を発動したヒロムの姿を見てユリナやユキナたちは戸惑ってしまうが、彼女たちの戸惑いなど気にする暇もなくヒロムはとにかく陸に逃げるように叫んだ。
ヒロムの叫びにただならぬ何か危機感のようなものを感じ取ったユリナたちは彼の指示に従うように陸に向けて逃げるように動き出し、ユリナたちが避難する姿を確認したヒロムは剣を構えて迫ってくる謎の光る物体を迎え撃とうとする。
『マスター、あれは……』
「ステラ、魔力操作の全てをオレに譲渡してくれ」
『で、ですがこの「クロス・リンク」での精密な魔力操作は……』
「精密さは今はいい。
今はあれの進路を逸らすだけの力を一点に集めて放てるだけの魔力を撃てればいい」
『……わかりました。
では魔力操作の全てをアナタに託します』
脳に話しかけるようなステラの声にヒロムが指示を出し、ステラがそれを承諾するとともに赤い刀身の剣は強い光を放ちながら無数の魔法陣を周囲に展開していく。
展開された魔法陣は赤い光を強く放ちながら魔力を集めていき、ヒロムは息を大きく吸うと剣を強く握りながら振り上げて稲妻を刀身に纏わせる。
「……アイツらの楽しみを奪うってなら容赦はしない!!」
ヒロムの意思に反応するように刀身の纏う稲妻が強くなり、無数の魔法陣は集めた魔力を巨大な球に変えていく。
ヒロムが攻撃態勢を整える中でも光る物体は迫ってくる。
止まる様子もなく、速度を増す様子もなく……一定速のままこちらに向かって飛んでくる。
「……」
攻撃の態勢が整ったヒロムは深呼吸をすると迫り来る光る物体を攻撃しようと動き出す。
「はぁぁぁぁあ!!」
ヒロムは強く叫ぶと刀身の稲妻をさらに巨大にさせて背丈の数倍はある大きさの刃のように変化させると勢いよく振り下ろし、振り下ろすと同時に魔法陣は球に変化させた魔力を解き放って強力なビームを一斉に撃ち放ち、振り下ろした剣は稲妻を解き放って巨大な斬撃となって迫り来る光る物体に向けて飛んでいく。
ビームと斬撃、二種の攻撃は迫ってくる光る物体に向かっていくと全てが見事に命中し、攻撃を受けた光る物体は爆発を起こす。
爆発により煙が上がる。
それによって破壊できたかどうかの確認は難しいが、ヒロムは警戒するように「クロス・リンク」を解くことなく地上にゆっくりと降りていく。
「ヒロム、やったか?」
「命中はした。
けど手応えがあったかはわからない」
陸に避難したユリナたちとヒロムに頼まれた飛天たちを守るように立つノアルはゆっくりと降りてくるヒロムにどうなったかを訊ねるが、はっきりとした答えのわからないヒロムは曖昧なことを伝えるしか出来なかった。
「ヒロムくん……」
「大丈夫だユリナ。
必ずオレたちが守る」
不安になるユリナはその不安から逃れるようにヒロムの名を震える声で言い、ヒロムはその彼女を安心させようと言葉をかける。
が、ヒロムはその言葉をかける中で不安とは違う違和感を感じていた。
「……」
(どうなってる……?
七瀬アリサがこの島を手配してくれる話をした時からソラやガイが一緒になって敵の介入を阻止するべく手を尽くしたはずだ。
その第一段階として人工衛星にも捉えられないように特殊な光学機構を施しているこの島が選ばれたはずだ。
ここに来るには「七瀬」の許可した船や飛行機などしか向かえないはずなのに……何故だ?
今を攻撃したアレは明らかにこちらに向かっていたし攻撃を避ける動作もなかった……)
「アレは……遠隔操作された何かのはずだ……」
(だとしたら……どうやって!?)
「ヒロム!!」
「何があった!!」
騒ぎを聞きつけたのかシオンとカズマが駆けつけて来る。
二人だけではない。
ゼロや真助、ガイやソラ……騒ぎを聞きつけた皆が駆けつけてきた。
そして……七瀬アリサも十束俊介とともに走ってくる。
「何事ですか?」
「七瀬アリサ、確認させてくれ。
ここは本当に人工衛星にも捉えられないようになってるのか?」
「間違いありません。
ここは私が人工衛星の軌道から外れるようにした上で観測されないように光学機構を用いて完全に守られるようにしています」
走ってきたアリサに確かめるようにヒロムは地上に降りると彼女に問い、問われたアリサは改めてこの島のことを話す。
が、ヒロムはアリサに対して言及した。
「オレは今ここに向かって飛んでくる何かを攻撃した。
明らかに無人の遠隔操作を思わせるような感覚があった。
もし無人の戦闘機なら人工衛星の観測から逃れてないってことになるんだぞ?」
「落ち着けヒロム。
オマエが攻撃したならもうそれは……」
「いや、まだだ」
終わってない、とシオンがヒロムに何か言おうとするソラの言葉に被せるように言うと事態は大きく動き出す。
ヒロムが攻撃して光る物体に命中したことで爆発が起きて上がった煙の中から何かが飛び出るように出て勢いよくこちらに向かってくる。
「来るぞ!!」
「遠距離攻撃が可能なヤツは撃ち落とせ!!」
指示を出すようにゼロが叫ぶとヒロムとゼロ、ソラ、シオン、シンク、セイナは次々に魔力や能力による攻撃で向かってくる何かを落とそうとする……が、向かってくるそれはヒロムたちの放った攻撃を華麗に避けながら接近してくる。
「なっ……!?」
「こっちの攻撃を避けてやがるぞ!!」
「どうなってるんだ!!」
攻撃を避ける何かに驚くヒロム、そしてヒロムの話とは異なる動きをする何かに戸惑いを隠せないソラとシンク。
すると攻撃を避けて迫る何かは陸地に近づく中で突如海の浅瀬に勢いよく着陸し、水飛沫を高く上げながらヒロムたちの前にその姿を晒す。
「あれは……何だ……」
姿を晒した何かを目の当たりにしたヒロムはその姿に言葉を詰まらせてしまう。
全身黒い装甲と骨格に覆われた人のような機械兵器、全長は目視による測定なら約三メートル。
鋭い爪を施されたマニピュレーターを持つ細身の腕に対して脚はスラスターが付けられた装甲に覆われていてゴツゴツしている。
そして何よりも特徴的なのが頭部だ。
全体像は人間のように造られているが頭部は鬼や髑髏を思わせるような恐怖を感じさせるような造形をしており、瞳は赤く光っていた。
『……目標……捕捉……』
「目標だと?」
「セイナと夕弦はユリナたちを安全なところまで避難させろ!!
七瀬アリサ、アンタも行け!!」
「「了解です」」
「わ、わかりました!!」
ヒロムが指示を出すとセイナと夕弦はユリナたちを安全な場所に移動させるべくアリサの案内のもとで避難誘導していく。
「ボクも戦う!!」
「ニャー」
「ナー」
「飛天、悪いがユリナたちと避難してアイツらを守ってくれ。
十束さん、頼むぞ」
「お任せ下さい」
まだ幼子である飛天は何故かやる気になっており、彼に抱かれる子猫の精霊のキャロとシャロも飛天と同じようにやる気を見せるが、ヒロムは十束に対して指示を出すと彼とともに飛天たちを避難させる。
非戦闘員を避難させるとヒロムは仕切り直すかのように今身に纏うステラとミラーナの「クロス・リンク」を解除し、ソラたちはヒロムとともに目の前の人型の兵器を迎え撃とうと構える。
『目標……捕捉……』
「ヒロム、どうする?」
「どうもこうもない。
とにかくアイツを……」
ヒロムが話す中、突如天から無数のビームが飛来してきてヒロムたちに襲いかかる。
「!?」
「散開しろ!!」
襲ってくるビームを避けるべくゼロは全員に向けて叫び、彼の声とともにヒロムたちはビームを避けるように四方に散る。
『……目標の行動を確認。
攻撃行動に移行』
四方に散ることによりビームを避けることには成功した……が、ヒロムたちが動くと突然人型の兵器は機械音を鳴らすと動き出した。
動き出した機械兵器は四方に散ったヒロムたちの中からもっと襲いやすい場所にいるガイと真助、ノアル、イクトの四人に向けて動いていく。
「……ヒロム!!
コイツはオレたちに任せてくれ!!」
「そっちは今撃ってきた他のヤツを頼む!!」
ガイと真助はヒロムに向けて告げると武器を構えてノアルとイクトを引き連れるようにして迫り来る機械兵器を迎え撃とうとし、ヒロムはそれを受けるとビームが飛んできた空を見て敵を探そうとした。
……が、ヒロムの思惑を外れるように天から勢いよく地上にガイたちが迎え撃とうとする機械兵器と同じものがさらに二機に着地して現れる。
「まだいたのか!?」
「仕方ねぇ……!!
オレとシオン、ギンジで片方を潰すからソラとシンク、カズマはヒロムと一緒にそいつを……」
それは無理だ、と天から勢いよく何かが急降下して着地し、着地したそれは粉塵を巻き上げながらも立ち上がって姿を見せる。
「オマエは……キリス!!」
藍色の鎧の騎士、姿を見せたその騎士に覚えのあるヒロムは敵の名を叫んだ。
名を叫ばれたキリスは少し驚いたような様子でヒロムに向けて言った。
「覚えていたか……姫神ヒロム。
あの一時の流れだけのやり取りだったのによく覚えているな」
「オマエらがこのデカブツを……!!」
「デカブツ?
コイツらはイレイザー……対能力者殲滅用殺戮兵器だ」
「能力者殲滅用……だと?」
「ここでの戦闘はいわばテスト、本格的な運用は全ての能力者を消すためのデータが揃ってからになるからコイツらは試作機だ」
「能力者を消すだと……!?
ふざけんな……!!
そんなふざけたことが許されるわけねぇだろ!!」
ヒロムは稲妻を纏うとキリスを攻撃しようと走り出そうとするが、どこからか現れた鎧の戦士・ヘヴンがヒロムの殴り飛ばして阻止してしまう。
「ヒロム!!」
「ヘヴン、そちらは任せるぞ」
御意、とヘヴンは一言返すと殴り飛ばしたヒロムのもとへ向かっていき、ソラたちはヘヴンを止めようとするもキリスと二機の人型の機械兵器・イレイザーが邪魔をする。
「さぁ……始めようか」




