四七八話 覚醒の能力者
オウカとソーナに言葉を伝えたヒロムは白銀の稲妻を強く纏わせながら拳を強く握り、葉王に向けて走り出す。
ヒロムが走り出すと葉王は魔力を纏いながら迎え撃とうと一瞬で接近すると両手に持った二本の魔力の刀で斬撃を放とうとする。
が、葉王が斬撃を放とうとすると精霊・オウカは両手に二本の刀を装備すると葉王との距離を瞬間でも詰めて斬撃を阻止するように魔力の刀を自身の刀で止める。
オウカが葉王の刀を止めるとソーナは弓を構えて魔力の矢を射ち、放たれた矢は葉王の頭を狙って飛んでいく。
「……精霊でこの力か。
真理の精霊ってのは厄介だな!!」
葉王はオウカに止められた魔力の刀を手放して彼女から距離を取るように飛ぶと迫り来る魔力の矢を破壊し、さらにオウカを蹴り飛ばそうとする。
オウカは葉王の蹴りを避けると連続で斬撃を放つが、葉王はその全てを避けてしまい、葉王は攻撃を避けるとオウカに掌底を叩き込んで彼女を怯ませる。
「くっ!!」
「もらっ……」
「オラァ!!」
葉王がオウカに更なる一撃を放とうとした瞬間、ヒロムは葉王に接近して彼を殴ってオウカを守り、オウカを守るように放った拳撃をさらに放つと葉王を殴り飛ばす。
殴り飛ばされた葉王は難なく受け身を取ると空へと浮遊しながら周囲に無数の魔力の刀を出現させて矢のように撃ち放ち、それに対してヒロムは大剣を装備し直すと武器に白銀の稲妻を強く纏わせながら巨大な斬撃を放って全ての魔力の刀を破壊してしまう。
「……」
「さすがにやるな、姫神ヒロム。
シンギュラリティに達して「クロス・リンク」の力は数倍に膨れてやがる。
並の能力者……いや、下手すりゃ他の「十家」の幹部すら手も足もでないレベルだ」
「……それは「クロス・リンク」が優れてるって言ってるのか?
それともオレと精霊のことか?」
「両方だな。
オマエのこの成長は「クロス・リンク」とオマエと精霊の三つがあるからこそ成せたものだ。
そしてその三つがあったからこそオマエはシンギュラリティに到達したんだけどな」
「……一つ聞かせろ。
オマエがさっきから言ってるシンギュラリティってのは何なんだ?
人工知能がどうとか言ってたけど何を言いたいんだ?」
「……オレの話が聞きたいってか?」
「ああ。
オマエがわざわざ戦闘中に話そうとしてた話をしっかり聞きたい。
そう思ったからこそこうして言ってるんだよ」
ヒロムは先程途中で終わった葉王の言う「シンギュラリティ」という単語についての話の続きを聞くべく葉王に言い、葉王は空を浮遊したままヒロムに「シンギュラリティ」について話を進めようとする。
「オマエがそこまで言うなら話してやるか。
シンギュラリティってのはさっきも言ったが人工知能が人間の脳を超えた特異点となった時に呼称する名だ。
技術的な意味で用いられるこの言葉を何故今この場で使うのか?
それについて話してやると……能力の覚醒の話に通ずるんだよ」
「能力の覚醒?」
「そう、能力の覚醒だ。
オマエも知ってるはずだ。
影を操る能力者が現実と虚構を統べる力に目醒め、雷の能力者が未来を視る力に目醒めた」
「……イクトとシオンのことか」
「あの二人だけじゃない。
炎の魔人と魂を同化させて進化した相馬ソラ、精霊を宿し己のために自らの力で新たな霊刀を生み出した雨月ガイ。
この二人も先述した二人に負けぬシンギュラリティに到達する存在だ」
「能力の覚醒、それを超えたものがシンギュラリティってのに該当するならオレは対象外のはずだ。
オレは能力を……」
「持ってないってか?
オマエは勘違いしてるな。
本来人間は精霊を四十二体も宿せない。
それなのにオマエはその全てを宿し、さらにはゼロという本来は存在しないはずの存在を自身の一部として現界させた。
つまりその時点でオマエは能力を持ってるのと同義なんだよ」
「どういう意味だ?」
「炎を操り、影を操り、雷を操り、果ては触れたものを切り裂く力を操るヤツらがいる。
そんな中でオマエは精霊を人知を超える規模で宿している。
それはつまりオマエが精霊を宿し従える力を有している……精霊のための能力を持っているからこその結果だ」
「デタラメだ」
「デタラメ?
何を根拠にデタラメだって言える?
オマエは精霊を最大限に活用している。
それが何よりの証拠だ」
黙れ、とヒロムは大剣を強く握りながら言葉を発すると斬撃を放とうとするが、話の途中である葉王が指を鳴らすとヒロムの大剣が砕け散ってしまう。
「……!?」
「まだ話の途中だろ?
オマエが聞きたいって言うから話してやろうとしてるのに……失礼だと思わないのか?」
「……精霊は道具じゃない。
オレの大切な家族だ」
「家族か。
オマエがそう捉えるのならそれはそれで結構だ。
けどな、その家族とオマエの繋がりこそがシンギュラリティの鍵になってるんだよ」
「シンギュラリティの鍵……?」
「本来人は生まれた時に能力が目覚めるかどうかが左右される。
能力を持たぬものが生きていく過程で精神を歪ませたり精神に強いショックを受けて突然能力に目覚めることもあるが、能力者が同じようにして後から能力を得ることはまずありえないこと。
今現在この世に存在する多くの能力者は自分の能力の全てを使えるわけではない」
「どうしてだ?」
「脳がリミッターをかけてるのさ。
必要以上の負荷をかける能力を使役して命を落とさぬように無意識にな。
だがごく稀に……能力者の中にはそのリミッターを自力で解いて力を完全に解放して能力の全てを使ったり今持つ能力とは別の能力を得ることがある。
これがシンギュラリティ、能力者が能力の限界を超えて至るべき能力の最高地点に到達……覚醒して新たな高みに向かうべく進化することだ」
「まさかオレの場合は……」
「そう、オマエの場合はその左手首の金色のブレスレットがシンギュラリティの証だ。
これまでは強引に繋がって力を借りていたオマエは精霊を真理の精霊へ進化させ、その力を共有する術を新たに得た。
オマエはなるべくしてシンギュラリティの能力者となったってわけだ」
「シンギュラリティの能力者……!?」
「そしてオマエの力の影響を受けた鬼月真助と東雲ノアルは偶然なのか運命なのか今確実にシンギュラリティへと進みつつある。
覚醒へと至る進化と成長、それがシンギュラリティの能力者が周囲に与える影響だ」
「オマエもシンギュラリティに達してるような口振りだったよな?
ならオマエも……」
そうだ、と葉王は一瞬でヒロムの背後に移動すると自身について話していく。
「オレはカズキ……今の「一条」の当主である一条カズキと出会う前からシンギュラリティに目覚めていた。
そしてオレはカズキからシンギュラリティについての話を聞かされ、そしてシンギュラリティの能力者が持つ可能性に導かれて計画を立てた!!」
「それがオマエらの計画か!!」
ヒロムは背後に移動した葉王を殴るべく振り向こうとするが、振り向くよりも先に葉王は衝撃波でヒロムを吹き飛ばし、吹き飛ばされたヒロムは受け身を取ると槍を構えて葉王を攻撃しようとするが、それよりも先に葉王はヒロムの前に接近するとヒロムの槍を握り潰す。
「なっ……!?」
「昨日今日シンギュラリティに到達したオマエが長年シンギュラリティの能力者として生活してきたオレの力を継続して上回れると思うなよ?
オマエとオレではシンギュラリティの能力者として生きてきた長さが違うんだよ」
「シンギュラリティの能力者、オマエや一条カズキが計画のために求めていたのはそれだったんだな!!」
「真に選ばれた能力者、それこそがシンギュラリティの能力者!!
そしてシンギュラリティの能力者の波長に呼応して新たな覚醒が始まるのを利用してオレはオマエたちに接触した!!
その結果狙い通りにオマエはシンギュラリティに到達して他のヤツらも巻き込もうとしている!!」
「その話が本当なら最初に巻き込んだのはオマエだ!!
オマエがオレたちの前に現れたからシンギュラリティの能力者に感化されたんだろ!!」
葉王の言葉に言い返すとヒロムは白銀の稲妻を強く纏わせながら連撃を放っていくが、放たれた連撃を葉王は取り乱すことも慌てることも無く冷静に対処するように全て避けていき、ヒロムの連撃の最後となる拳撃を握り止めると彼に告げた。
「元々はオマエが精霊を従えて生まれたのが始まりだ!!
オマエのその存在がシンギュラリティの能力者を増やす要因となり、そしてそのオマエの影響がオレたちの計画を進めるための力となっている!!」
「黙れ!!
オマエが……オマエらがその計画を企てなければ何も起こらなかった!!」
「何も起こらないわけが無い!!
オレが現れなくとも飾音の行いによってオマエはいずれシンギュラリティに到達して周りの人間を次々に巻き込んでいた!!
オレがいようがいなかろうがオマエはシンギュラリティの能力者として生きるしかないんだよ!!」
「黙れ!!」
「黙らせたいならもっと本気で来い!!」
葉王を黙らせようと叫ぶヒロムは葉王を倒すべく稲妻を纏わせた拳で攻撃を放とうとするが、葉王はヒロムの前から姿を消すと彼の周囲に無数の魔力の球を出現させる。
魔力の球を出現させると葉王は天に姿を見せると共に指を鳴らして魔力の球を爆発させ、爆発した魔力の球が放つ強い力にヒロムは襲われて吹き飛ばされてしまう。
「ぐぁっ!!」
吹き飛ばされてしまったヒロムは飛ばされた先で倒れるもすぐに立ち上がろうとするが、立ち上がろうとするヒロムのそばに葉王はすでに移動していた。
「なっ……」
「言っただろ……オマエよりもオレの方がシンギュラリティに到達したのは早いんだよ!!」
葉王は右足に魔力を集約するとヒロムの体に蹴りを放ち、蹴りを受けたヒロムは蹴り飛ばされて倒れてしまう。
「がっ……」
「「マスター!!」」
蹴り飛ばされたヒロムを助けるべくオウカとソーナは走り出そうとするが、葉王は二人に一瞬で接近すると魔力を叩き込もうとする。
「オマエらが加勢してもオレには何の助けにも……」
葉王が魔力をオウカとソーナに叩き込もうとしたその時、突然葉王の足下から白銀の稲妻が現れ、現れるなり白銀の稲妻は葉王の腹に直撃して葉王を押し飛ばしてオウカとソーナへの攻撃を阻止した。
「何……!?」
「あれは……?」
「まさかマスターが……?」
白銀の稲妻が突然現れたことに驚く葉王と同じようにオウカとソーナも驚き、葉王は体勢を立て直すなりヒロムを睨んだ。
「姫神ヒロム……!!」
「ナメんなよ、葉王……」
葉王に睨まれる中ヒロムは起き上がるとフレイとディアナの「クロス・リンク」を解除し、そしてオウカとソーナはヒロムのもとへ駆け寄っていき、二人が駆け寄る中ヒロムは葉王に向けて言った。
「オマエに実力で劣るなら出来る事をやって補うだけだ。
オマエに攻撃される瞬間に稲妻をオマエの足にわざと溜めさせて暴発させた。
過信したオマエの油断ってわけだ」
「コイツ……!!
蹴り飛ばされると同時にオレの足にバレないようにわざと稲妻を纏わせて隙をついたってのか!!」
「葉王……オマエが言う通り、オレはオマエに劣る。
けどな……だからって怯むわけにはいかねぇんだよ!!
クロス・リンク!!」




