四七七話 シンギュラリティ
ヒロム、真助、ノアルの攻撃を受けてダメージを受けたはずの葉王の体からはそのダメージが消えていた。
ヒロムはそれを見ると真助とノアルに以前戦った時のことを話した。
「前にオレがアイツと戦った時、一瞬はアイツを追い詰めた。
けどアイツは今みたいにダメージがまるでなかったかのように消したんだ」
「前にって……バッツが敵としてパーティー会場を荒らした日の後にオマエがアイツと戦った時か?」
「ああ、オレたちがノアルと会う前の話だけど……あの時アイツは自分の傷だけでなくオレの傷まで消したんだ」
「……治癒の類なのはたしかだけど、傷を一瞬で消すなんて普通じゃないのは確かだな」
「それにアイツの言うシンギュラリティってのも気になるな」
「だな。
オレたちのことを言ってるのか知らねぇけど、どんな意味があるのか分かんねぇな」
「……」
(シンギュラリティ……つまりは特異点。
葉王がその言葉を使うってことはヤツらの計画の鍵って事なのか?)
ノアルと真助が葉王が口にした「シンギュラリティ」という単語を気にする中、ヒロムは「竜鬼会」の戦いの後に葉王が言い残した言葉を思い出していた。
『相馬ソラ、黒川イクト、紅月シオン……オマエたちは姫神ヒロムと同じように「鍵」として選ばれた。
オレたちの計画の要となるキーマンに抜擢されたのさ』
「……」
(ヤツらの計画の鍵となっているのはオレとガイ、ソラ、イクト、シオンの五人だと思ってたけど……。
ヤツらの計画に必要な鍵となる存在はまだ増えるってことか?)
「……アイツの言葉の意味は今気にしてても仕方ない。
とにかく今はアイツを倒すぞ」
ヒロムは葉王を倒すべく真助とノアルに言い、ヒロムは赤い稲妻を身に纏うと拳を構える。
赤い稲妻……精霊・ステラの霊装の力である「ソウル・ブレイヴ」を発動させた証だ。
だが「ソウル・ブレイヴ」は格闘と言うよりは魔力操作による術式攻撃を得意とする霊装の力だ。
「ヒロム、何でラミアの力である「ソウル・ブレイク」を使わない?
格闘ならあっちの方が……」
「ラミアは今ゼロが召喚してる。
さっきの戦闘の時にそれを確認してるから「ソウル・ブレイヴ」にした。
この状態なら近接攻撃をしながら魔力操作もできる。
真助とノアルが葉王に狙われてもオレが支援に回れるし、何かあればオレが魔力操作で防御してやれる」
「そういうことか。
ならそれで頼むぞ」
ヒロムが「ソウル・ブレイヴ」を発動させた理由を聞くと真助は小太刀の霊刀「號嵐」に黒い雷を纏わせる。
ヒロムたちが構えると葉王はそれを自身の目で確認し、その上である話を始めた。
「シンギュラリティってのはよォ、本来は人工知能の技術的な面で用いられる言葉だァ。
人工知能が人の脳を超えた特異点となる事でシンギュラリティという言葉を用いて呼称するんだよォ」
「?」
「……けどよォ、今の場合だと人工知能は関係ない。
なら何に対してのシンギュラリティだと思うよォ?」
「そんなもん知らねぇよ」
「真助の言う通りだ。
オマエがやる気になってもオレたちは……」
「姫神ヒロムゥ、オマエは気にならなかったのかァ?
オレがオマエや他の仲間四人を計画の鍵と呼んだ理由が何なのかよォ?」
「何……?」
(やっぱりコイツの言うシンギュラリティってのはヤツらの計画に関与してる事だったのか!?)
「……その反応、オレがシンギュラリティって言った時にその可能性に気づいてるって反応だなァ?」
「……!!」
「図星みたいだなァ。
けどまァ、オレに言われなくともその可能性に辿り着いたなら教えてやらなくもねェなァ。
シンギュラリティってのはなァ……」
ヒロムの心を読んだかのように葉王はヒロムに向けて言い、そして葉王は自身が口にした「シンギュラリティ」についてさらに話そうとする。
葉王が話そうとした時、真助とノアルは先陣を切るようにヒロムより先に走り出し、二人は力を強く纏いながら葉王に接近していく。
「待てオマエら!!」
走り出した二人を止めようと叫ぶヒロムだが、ヒロムの声を聞いても真助とノアルは止まろうとしない。
「悪いなヒロム!!
コイツの話を聞くのは後回しだ!!」
「真助の言う通りだ!!
まずは手足を潰して口を残す!!
そうすればコイツから好きなだけ情報を聞き出せる!!」
「ダメだ!!
そいつは……」
ヒロムの制止を無視する真助とノアルは葉王を倒そうと攻撃を放とうとし、ヒロムは止まりそうにない二人を何とかしようとさらに叫ぼうとする……が、ヒロムが叫ぼうとすると突然異変が起きる。
真助とノアルが放とうとした攻撃は音もなく塵となって消え、そして二人が強く身に纏っていた力もどこかへ消えてしまう。
「何!?」
「オレたちの力が!?」
纏っていた力と放った攻撃が消えたことで真助とノアルはその場で止まり、二人が止まると葉王はいつの間にか二人のそばに立っていた。
「「!?」」
「……特大サービスだ。
その身に……力を受けろ!!」
葉王が強く叫ぶと何かが歪むような音がし、音がするとともに真助とノアルの全身が傷だらけとなって血を吹き出し、そして二人は何の前触れも無く傷だらけとなった体で吹き飛ばされてしまう。
「なっ……!?」
「なんで……!?」
吹き飛ばされた二人は倒れてしまい、両腕全体に広がっていた真助の痣は広げる前の手首にあったサイズの痣へと戻り、ノアルの全身は「魔人」の力で変化していた姿が元に戻ってしまう。
「真助さん!!
ノアルさん!!」
セイナは全身が負傷して倒れた二人のもとへ駆け寄り、駆け寄ると指揮棒を振って二人の倒れる地面に光の魔方陣を出現させ、光の魔方陣から微量の輝きを放たせると二人の傷を癒そうとする。
「なるほどなァ。
「光陣」って名だけのことはァあるなァ。
回復もお手の物ってかァ?」
けどなァ、と葉王は全身から冷たい殺気のようなものを放出すると真助とノアルの傷を癒そうとするセイナに狙いを定めるように視線を向けながら歩き出す。
が、セイナと負傷した二人を守ろうとするようにヒロムは葉王の前に立ち塞がり、ヒロムが前に立つと葉王は不敵な笑みを浮かべながら彼に言った。
「どんな気分だァ?
制止を無視して負傷したヤツを守る気分はよォ?」
「……悪いな。
コイツらが最終的に自分の意思に従ったのならオレが文句を言う筋合いはない。
今はアイツらを守るためにオマエの前に立ってるだけだ」
「守ることに変わりはねェよなァ?
それにオレの前に立ったはいいけどどうするつもりだァ?」
「……こうするのさ」
ヒロムは赤い稲妻を強くさせながら右手を動かし、右手の動きに合わせるようにヒロムと葉王を取り囲むように魔力の結界が張られていく。
「ヒロムさん!!」
真助とノアルの治癒を行うセイナは彼を止めようとヒロムのもとへ近づこうとするが、展開された魔力の結界が邪魔をしてそれが出来なかった。
魔力の結界の中からセイナが中に入れぬ状況を見た葉王はヒロムに確かめるように言った。
「正気かァ?
一昨日の夜に力が覚醒した程度のオマエが他人の助けなしにオレとやり合うつもりなのかァ?」
「……正気さ。
それにオレは一人じゃない」
ヒロムは赤い稲妻を消すと両拳に装備したガントレットをも消し、そして精霊・フレイとディアナを呼び出す。
「なるほど……」
フレイとディアナの出現により葉王はヒロムが次に何をするのか理解し、ヒロムは葉王が察する中で次なる行動に出た。
「クロス・リンク!!
「天剣」フレイ!!「星槍」ディアナ!!」
ヒロムが叫ぶとフレイとディアナは光となってヒロムの身を包みこみ、光に包まれたヒロムの体は青い装束に包まれていくと腰部分から下が青くなっている白のロングコートを羽織るとガントレットとブーツを装備し、そして大剣を装備するとヒロムは構えた。
「天剣流星……あの時と同じだ」
「少し違うなァ。
シンギュラリティに到達したオマエの精霊は真理の精霊となりその力の全てを解放されているゥ。
そしてオマエが今纏うその力は初めてオマエと戦った時に見せたあの力をォ……遥かに上回る力を秘めている」
ヒロムの「クロス・リンク」の姿を見た葉王の口調が変わり、そして目つきも変わると彼の雰囲気は一変した。
余裕があり、気の抜けたような口調だった葉王は今殺気のようなものを纏いながら強い戦意を瞳に秘め、そして口調も気を引きしたかのように鋭くなる。
「今のオマエは純粋種の能力者を超えている。
人の域を超えた精霊と共にある特殊な存在……シンギュラリティに到達すべくして到達したこの世界において唯一無二の精霊の王てわけだ」
「精霊の王?
悪いな……オレは、覇王だ!!」
葉王の言葉を訂正するとヒロムは地面を強く蹴って一瞬で葉王に接近し、接近すると同時にヒロムは両手で持った大剣を振り下ろして斬撃を放つ。
が、葉王は右手に魔力を纏わせると手刀で大剣を防ぎ、さらに葉王は左手に魔力を纏わせるとヒロムに向けてビームを撃ち放つ。
「オレを本気にさせるのはカズキとアイツ、そしてオマエだけだ!!」
放たれたビームはヒロムに迫っていくが、ヒロムは大剣から右手を離すと白銀の稲妻を纏わせながらビームを止め、そして右手に力を入れるとビームを潰してしまう。
「コイツ……オレの真似か!!」
「悪いな、能力者を相手に戦うなら能力者の戦い方を学習して強くなる方が早いからな!!」
ヒロムは光とともに槍を出現させると右手に装備し、大剣で葉王を押し切ると槍で連撃を放つ。
が、葉王は音も立てずにヒロムの前から消えて槍の連撃を避け、攻撃を避けると葉王はヒロムの背後に現れると同時に魔力の刀で斬りかかろうと迫……っていくが、ヒロムは光を纏って加速すると大剣と槍で魔力の刀を止め、さらに武器を手放すとヒロムは光を纏いながら天に飛翔し、光を強く纏うと魔力の剣を装備して斬撃を放つ。
「この野郎、その手の魔力造形も可能になってるのか!!」
葉王はさらに魔力の刀を一本作って二刀流となるとヒロムの斬撃を破壊し、そしてヒロムに向けて連続で斬撃を放つ。
葉王の放った斬撃が迫る中ヒロムは空を走るように自在に動きながら斬撃を避けて葉王に接近していき、そして魔力の剣で葉王に斬りかかる。
ヒロムが斬りかかると葉王は二本の魔力の刀でヒロムの攻撃を止め、そして二人の魔力の武器がぶつかると互いの力によって砕けてしまう。
「やるな、姫神ヒロム!!」
「いつまでも余裕だってか!!」
葉王はまだ余裕だと感じているヒロムは拳に稲妻を纏わせると拳撃を放つが、葉王はそれを片手で止めるとヒロムに掌底を放って押し飛ばす。
押し飛ばされたヒロムは体勢をすぐに立て直すと拳を構えながら自身のそばに精霊・オウカとソーナを出現させる。
「あの精霊は……」
(クロムが飲み込んでた精霊か。
しかも片方は霊装持ちの天の字名付き、さらにオレはあの精霊の力については知らない)
「つまり……アイツはオレが知らないとわかった上であの二体を選んだのか」
おもしれぇ、と葉王は全身に魔力を纏い、その様子を見てヒロムはオウカとソーナに伝えた。
「隙を見て二人の力を借りる。
頼むぞ」




