四七五話 明かされる非情
「精神を壊したのは先代当主だァ」
葉王の口から出た言葉。
それは八神トウマがヒロムと同じように精神が一度壊れて別の人格が生まれたというものだった。
そしてトウマの精神の崩壊を招いた原因が先代当主だと言うのだ。
が、この話を聞いた真助はかつては敵として立ちはだかり今は黒川イクトの精霊となっているバッツの名を出して反論した。
「今イクトの精霊となってるバッツがいるのを忘れてないか?
その話が事実ならバッツはその事をヒロムに話してるはずだ」
「残念だなァ鬼月真助ェ。
その話はたしかにその通りだがァ……それは飾音のバッツが黒川イクトに宿ってればの話だァ」
「何?」
「まさか……」
「そもそもオレの聞いてた飾音の計画だとバッツはゼロの精霊となるはずだったのによォ、蓋を開けて見りゃ飾音の精霊どころか黒川イクトの中で目覚めて現れる始末だァ」
「イクトの所に現れたバッツは本来ならオレやゼアルの前2現れるはずだった。
けどイクトのもとに現れアイツに宿ったことで本来とは程遠い形になった……」
「そう、そしてその結果ヤツは本来ならオマエに伝えるべきこの話を記憶から欠損する形で新たな宿主に宿り語れなくなったァってわけだァ」
「だからか。
バッツの記憶からは所々曖昧な点があったのは……」
「じゃあバッツに頼るのは……」
不可能だ、とヒロムは真助に向けて伝えると葉王に対して彼の言う呪いについて話を戻した。
「葉王、トウマの身に起きた呪い……先代当主がやった事ってなんだ?」
「……先代当主は飾音がオマエの精神が一度崩壊してクロムが生まれたこと、そのクロムを封じるために無意識下で精霊が力を合わせてその力とともにクロムを封印してオマエの自我を保ったことを何らかの方法で知った。
そしてその精神の崩壊の先に力があると考えた先代当主は先の短い病に溺れる自分の体を引き換えにトウマの精神を砕いた」
「それが二つ前の先代当主か?」
「そうだァ。
トウマの精神を砕いたのがオマエの知る先代当主。
そしてそれに加担してたのがトウマが知る方の先代当主だ」
「二人の先代当主が手を組んでまでトウマの精神を壊したのか?」
「何のためにだ?」
「生体実験のためさ。
トウマの知る方の先代当主は「八神」をより完璧にする為に「四条」の兵器開発技術や「七瀬」の家に伝わる治癒術からなる生命機関理論などを盗み取り、それを用いた生体兵器を生み出そうとしていた」
「それが「ハザード・チルドレン」……」
「いいやァ、アレは今のトウマが生み出したもの。
先代当主が生み出したのはァ……ギアだ」
「ギア?」
「まさか拳角やリクトが使ってた角王の証である武器が生体兵器だってのか!?」
ヒロムは葉王の言う「ギア」を聞いてリクトが使っていた「ラース・ギア」、拳角が使っていた「フェニックス・ギア」を思い出し、ヒロムがそれを思い浮かべているとわかってるのか葉王は話を続けていく。
「第一段階として人の魂を媒体に能力を無限に増幅する機関を生み出そうとした先代当主は数度の実験の末に角王の武器となる「ラース・ギア」や「フェニックス・ギア」に用いられる核となる部分である「ギア」を完成させたァ。
それも……同じ「八神」の人間の魂を利用してなァ」
「「!!」」
「ではヒロムさんたちが他の「八神」の方を知らない理由は……」
「先代当主がその「ギア」を生むために数十人殺し、その研究の成果を得たトウマが自分に口答えする「八神」の人間をその技術の発展型となる人体実験に使ったからだァ」
「それが「ハザード・チルドレン」や「ネガ・ハザード」か……」
正解だァ、と葉王は笑みを浮かべることも無く答える。
不敵な笑みを浮かべて話していた葉王もさすがに人の命が簡単に利用されているという話になったからか真剣な顔になっていた。
「二人の先代当主は完全な禁忌を冒した。
そしてその最初の生体兵器がトウマだ。
トウマは姫神ヒロムを助けたいという思いで当主になろうとした結果、それをよく思わなかった二人の先代当主の欲に塗れた呪いを受けて精神を砕かれて本来の精神を封印され、そして……別のトウマとしての人格を与えられて二人の先代当主の思惑通りに動く殺戮者となったのさ」
「じゃあ飾音が……親父が先代当主を殺したのは……」
「そう、飾音が先代当主を殺したのはオマエの力を利用するのがバレたからじゃァない。
先代当主がトウマを傀儡に変え、さらにオマエを利用する危険性を危惧したから先代当主を殺したのさァ」
「そんな……」
「つまり飾音はヒロムを守るために自ら汚れ役を買って消滅し、トウマをヒロムに倒させることで今の「八神」を否定しようとしてたってことか」
「残酷な話だな。
思いが行き違ってこんな複雑な……」
「何も複雑なことはねェさァ。
要は今のトウマは傀儡、そして傀儡は病死した先代当主と命を守ろうとした飾音に殺された先代当主の二人の欲を代行して満たそうとしてる。
つまりはァ……罪を重ねるために生きてるだけだァ」
「……飾音はヒロムを救おうとした。
なのにトウマのことは救おうとしなかったのか?」
「違うなァノアル。
救おうとしなかったんじゃァねェ、救えなかったんだよォ」
「救えなかった?」
「正確には救いようがなかった、だなァ。
飾音は先代当主二人の手で変わり果てたトウマを救うべくあの手この手を……姫神ヒロムを助けるために見つけたありとあらゆる方法を試みたがァ、結果は飾音の惨敗ィ。
トウマを救えなかったどころか飾音はただ姫神ヒロムを助けるための方法が効果的かどうかを試しただけで終わったのさァ」
「何故トウマは救えなかったんだ?」
立て続けに質問するヒロムたち。
だがその質問に対して葉王は順を追って話していく。
「飾音がオマエを救おうとして用意していた方法はあくまで外部から干渉してもう一つの精神を植え付け、その精神でオマエを蝕もうとしている負の精神を消滅させる方法だァ。
だが今のトウマは違う。
主人格であるオマエの精神の奥にできたクロムとは異なり主人格であるトウマが奥に寄せられる形で今のトウマの精神が主人格に成り代わっている」
「じゃあ……」
「オマエと同じように救おうとして精神を植え付けても本来の主人格が消える、それを悟った飾音はトウマを救えないと判断したァ」
「けどヒロムの中に生まれたゼロは当初はヒロムの体を乗っ取って奪おうと……」
「それは飾音がクロムをより早く表に出すために初期の設定として埋め込んだものだなァ。
それにそのゼロは今のゼロと比べて感情が成立してなかったろォ?」
「言われてみれば……」
「じゃあ飾音は最初から……」
「ヤツはあの場でクロムを始末するつもりだったみたいだがヤツが不器用すぎて助けるまでに到らず、それどころかオマエは精霊ラミアと他三体の精霊とともにゼロを消し去り主人格として戻ったことで飾音の計画は頓挫したってことだァ」
飾音がヒロムを助けようとしたことをヒロムが台無しにしたと言わんばかりの言葉を発する葉王に真助とノアルは葉王に殺意にも近い感情を抱きながら睨みつけていたが、ヒロムは違った。
葉王の話を聞いて何か感じてるのか、それとも今は何も感じてないのかヒロムは表情を変えずにただ話を進めようとしていた。
「今のトウマがオマエの言うように飾音でも救えなかった偽りの精神が動かす存在だとしてだ。
今のトウマを相手にオマエはオレに何をしろって言うんだ?」
「簡単な話だァ。
ヤツを倒せばいい。それも完膚無きまでにヤツの力を覆し、そしてオマエの方が優れていると示せばァ今のトウマは消滅する」
「消滅するとどうなる?」
「奥底に眠らされたトウマが目を覚ますだろうなァ。
けどォ……目覚めたところでオマエが考えるような事にはならねェぞォ?」
「……オレの考えを読んだのか?」
「読まなくてもわかる事だァ」
葉王の言うヒロムが考えていること。
それが気になった真助とノアルはヒロムに視線を向け、視線を向ける二人に対してセイナはヒロムに質問をした。
「ヒロムさん、もしかしてですが……八神トウマを助けようと考えてるのですか?」
「……」
「どうなんだヒロム?」
「彼女の質問に答えてくれ」
「……助けないさ」
「ではどうしてあの人はヒロムさんに……」
少し違うんだ、とヒロムは質問したセイナに対して優しく説明した。
「今のトウマが本物かどうかは正直どうでもいいと思ってる。
その反面で精神砕かれて別の精神に好き勝手されてるトウマを哀れだとも思ってる」
「じゃあどうするんだ?」
「……トウマを倒す。
完膚無きまでに倒して今の精神を壊した後で元に戻したアイツに全てを償わせる。
今のトウマがやった事とか眠りについてる精神が知らないとかは関係ない。
とにかくトウマという人間がやったことは必ず償わせる。
人体実験に手を染めたこと、「ハザード・チルドレン」や「ネガ・ハザード」となって散った人の命に向き合わせるためにも……トウマを救うのではなく償わせるためにオレはアイツを倒す」
「ヒロム……」
「倒すってなら良かった。
気が変わって倒さないとか言われたら焦るところだったぞ」
「悪いなノアル、真助。
どの道今のトウマはオレを殺したがってるなら話し合いなんて無理だ。
だったら力で捩じ伏せる、それだけだ」
「答えは出たようだなァ」
(飾音ェ、オマエの望み通りの展開になってるぜェ。
オマエが救おうとした姫神ヒロムは今全ての精霊を取り戻して弟であるトウマを救おうとしているゥ。
オレの計画とは少し逸れてるがァ……これならオマエと交わした契約は果たせそうだなァ)
何かを思う葉王はヒロムを見つめ、視線を受けたヒロムは葉王に向けて告げた。
「オマエが何故そんなに詳しいかはひとまず後回しだ。
どうせ今聞いても答える気は無いだろうしな」
「わかってるじゃねェかァ。
オレが詳しい理由を知りたいなら……オレを倒せるくらいに強くなってくれねェとなァ」
「……まだ足りないってか?」
「足りな過ぎるゥ。
そんなんじゃァオレには届かないなァ」
試してみるか、と真助は葉王をこの場で倒そうと言葉を発し、ノアルもそれに追従するように構えようとする。
が、そんな二人の姿を見ても葉王は余裕がある態度を崩さなかった。
「挑んでもオマエらじゃ勝てねぇよォ。
オレはオマエらなんかより強いからなァ」
「コイツ……!!」
「ならここで……」
「やめとけ……って言っても聞かねぇならなよォ。
こうするしかねぇよなァ?」
葉王の言葉に戦う気満々の真助とノアル。
だが葉王は二人が引かぬと分かると首を鳴らし、そして指を鳴らすと自身の手に魔力を集めていく。
魔力が葉王の手に集まる中で葉王がその手で指を鳴らすとヒロムたちがいる場所の景色が変わっていき、彼らは一瞬でどこかの高原地帯へと移動していた。
そして……
「口で言って分からないのなら体で分からせてやるだけ。
そうするしかないなら……こうするしかねぇよなァ!!」
「来るぞ!!」




