四七二話 鏡反の姫君
何故ヒロムが真助とノアルを連れて別の場所……別の目的地に向かっているのか。
それは遡ってある程度簡潔に言うと……
数時間前の事になる。
ネクロの案内のもとヒロムたちは安全に話が出来る場所に移動して今後の方針について話していたのだが、その話の最中にヒロムは突然話題を変えるようにある事をイクトたちに伝えた。
「イクト、シオン。
悪いがこのままネクロと話を進めてくれ」
「ん?
大将、トイレ行くのか?」
「いや、人に会いに行く」
「今からか?」
「ああ。
ネクロと手を組めるとなった今、そっちは二人に任せたい。
オレは別の相手と交渉してそっちも味方にしようと思ってる」
「どんなヤツだ?」
「……女だ」
シオンの質問に対してヒロムはただ一言「女」ということを伝え、答えが返ってくるとシオンはまるで聞いてないかのように無視して話を終わらせようとする。
が、シオンのその反応を見たイクトは話を戻そうとするかのようにシオンにある事を指摘した。
「何、シオン。
まだ女が苦手なの克服してないの?」
「克服する必要が無いだけだ」
「いやいや、大将の屋敷で生活してたら色んな可愛い子と遭遇するのに克服してないのおかしくないか?」
「……必要最低限の会話で済ませれば問題ない」
「問題しかないだろ!?」
「黙れイクト。
オレが女を嫌ってようが何だろうが関係ない」
若干揉めかけているイクトとシオンだったが、ヒロムはそんな事に目を向けることも無く真助とノアルに相談をした。
「真助とノアルにはオレと一緒に来てもらいたいんだが、大丈夫か?」
「オレは問題ない。
なぁ、ノアル」
「ああ、オレもだ。
ヒロムの頼みなら断る理由はない」
「そうか」
それに、と真助は何か企んでるかのような笑みを浮かべるとヒロムを見ながら同行する理由にも似たことを話していく。
「オマエが会うって言う女がどんなのか気になるしな。
屋敷の中で無駄に待たせてる何人もの女がいながら遠方まで来て別の女に会うって言うならどんな女なのか気になるだろ?」
「言い方に悪意しかないな」
「事実だろ。
ユリナたちが屋敷にいるのにユリナたちでは物足りないから会いに行くのか?」
「違う。
アイツはそういう相手じゃない。
昔手を組んで戦ったくらいの間柄だからオマエが楽しみにしてるような相手じゃない」
「ホントか?
怪しいな〜」
「……勝手に怪しんでろ。
オマエが怪しんでも変わらねぇよ」
楽しみにしとく、と真助は何故か楽しそうに言うがヒロムはその真助の言葉に対してため息をついてしまう。
そんな話をする中、ネクロはヒロムに歩み寄ると彼に言った。
「道中はオレが手を回して安全に向かえるようにしようか?
さっそくオレが……」
「いや、大丈夫だよネクロ。
今回はそこまでしてくれなくていいよ」
「今回、か。
なら次は頼りにしてもらおう」
「そうだな。
次は頼らせてもらうよ」
さて、とヒロムはネクロとの話を早々に終わらせると真助とノアルの方を見て二人に伝えた。
「そろそろ向かうぞ。
行き先は……京都だ」
***
そして現在
ヒロムは真助とノアルを引き連れて京都まで訪れてとある人物に会うべく目的地に向けて歩いていた。
「竜鬼会」の一件から世間の目を気にしてるのかヒロムは帽子を深く被っており、真助とノアルは何かを警戒しているのかサングラスを掛けていた。
そして真助は目的地に向けて歩く中でノアルにある話を始めた。
「なぁ、ノアル。
これから会う女ってのはどんなヤツだと思うよ?」
「どんなヤツ?
どういう意味だ?」
「例えばだがこれから会う女はどんな感じの見た目なのかをパッとイメージして思い浮かんだものを言ってくれればいい」
「イメージか……。
ヒロムが気を許すからには美人じゃないのか?」
「やっぱそう思うよな。
あと胸もデカいんじゃねぇか?」
「たしかに……。
精霊といいユリナたちといい容姿端麗な女ばかりだしありえるな……」
「だろ?
だから……」
「あのなオマエら……」
どこか呆れ気味にため息をつくとヒロムはこれから会う人物の人相について予想する真助とノアルに向けて忠告した。
「さっきも言ったけど今から会いに行くのは真助が期待してるような相手じゃない。
純粋に戦力となる人間に会いに行くだけだからな」
「 とか言っても実際は怪しいもんだろヒロム。
オマエが気を許す相手、しかも女だろ?
だとしたら何かしら怪しむのは必然ってもんだ」
「あのな、真助。
オマエの目にオレはどう映ってんだよ」
「オレの目に?
女のことになると優柔不断、色んな女誑かす、その気にさせていつまでも待たせてる、その気にさせて返事しない……」
「最低な男と言わんばかりに言葉並べるなよ」
「事実だけどな」
「やめろ。
オレが悪いのは理解してるが改めて執拗に言われると傷つく」
「傷つくわけねぇだろ。
今まで散々振り回してきてた立場なのによ」
「……」
真助の言葉にヒロムは何も言い返せずに黙ってしまう。
言い返せないのだ、彼の言ってることはヒロムにとって間違いではないからだ。
ヒロムはこれまで八神トウマへの復讐心のもとで戦うために強くなろうとし、そのために時間を費やしてきていた。
どれだけ自分に寄り添い、親身になって話してくれても、ヒロムのためと手を差し伸ばされてもヒロムは何もしなかったし反応もしなかった。
ただひたすら復讐心のために戦おうとし、その結果ヒロムは彼女たちの気持ちを蔑ろにした。
彼女たちがヒロムのためとしてやってきた行動をヒロムは当たり前のように何の思いもなくただの感謝の思いもなく過ごしていた。
普通なら不満を募らせてしまうヒロムの仕打ちに彼女たちはヒロムのためとして何の不平不満も言わずにやっていた。
だがある日、ヒロムは一人の少女の静止を無視して戦いに向かい、その結果その少女に涙を流させた。
その涙を見た時、ヒロムは初めて後ろめたさを感じて涙を流した少女に謝罪をした。
その出来事をきっかけにヒロムの中で変化が起き、復讐心はいつしか奥底に……「いつか果たすべきこと」として扱われ、そしてヒロムはその時を境に「誰かのために」何かを成すことを決めた。
そのことを真助は仲間になってからよく見ていたからこそよく知っているのだ。
だからこそ今ヒロムに言っている。
「今ここでオレがオマエの女の扱いをとやかく言ってもオマエは傷つかねぇだろ?
オマエは散々女の優しさを当たり前だと思って生きてきてある日を境に考えを改めたってだけだろ?
そのオマエが今更傷つくことあるか?」
「……ないな」
「だろ?
オマエがこれまでしてきたことに比べたらオレのこの言葉責めなんて大したことねぇんだよ。
オマエはこれから当たり前だと思って蔑ろにしてきた彼女たちの優しさに報いていかなきゃならねぇんだからな」
「……そうだな」
「それにオレは何も嫌味で言ってるわけじゃねぇ。
ただオレはヒロムがその気持ちを忘れないようにこうして言ってるだけ、オマエがしっかりそれを認識してるならそれでいいさ」
「真助……」
「けどそれと今から会う女は別だ。
ユリナたちのためにもしっかりとオマエとその女が恋仲に無いことを見極めなきゃならねぇ」
「いや、オマエがそこに気合い入れる必要あるのか?」
「ノアルはオマエどころか味方全員に甘いから務まらねぇ。
となればオレしかいない」
「……目的間違えてないか?」
真助の方向性の違うやる気にヒロムはため息をつき、そんな二人の会話の中に入るようにノアルは本題であるこれから会う相手の事でヒロムに質問した。
「ところでヒロム、これから会う相手とはどこで待ち合わせてるんだ?
まだ遠いのか?」
「ああ、もうすぐだ。
もうすぐ着く」
「なぁ、ヒロム。
オマエを面白おかしくイジ……いや、オマエの話をしてたから聞いてなかったけどさ」
「おい、今面白おかしくイジってたって言おうとしてたろ?」
「そこは気にするなよ。
それより、どこで待ち合わせてるんだ?」
「ん?ああ……たしかもう少し歩いたところにある建物だ。
洒落た外観の建物らしい」
「曖昧な説明だな」
「一目見れば分かるらしい。
何せこの街並みには不釣り合いな建物らしいからな」
「「?」」
「あっ、見えたぞ」
ヒロムの言葉が理解出来ぬ真助とノアルが理解するのを待つことも無くヒロムは目的地となる建物を見つける。
真助とノアルはヒロムが見つけた建物に視線を向け、視線を向けた先には少し派手な外観の建物が確かにあった。
この京の都には不釣り合いとも言えるような派手めな建物。
その建物を見つけると真助とノアルは早速その建物の中に入るべく向かおうとするが、ヒロムは何故か建物とは違う方向に向かって歩いていく。
「ヒロム?
オマエが言ってた建物はこっちだぞ?」
「あ?」
「いや、今オレとノアルに……」
「たしかにその建物だ。
けど、入口はそっちじゃない」
「は?」
ついてこい、とヒロムは二人に告げると目的地のはずの建物から離れるように歩いていき、真助とノアルはただ言われるがままに彼について行く。
彼について行くと三人は建物の向かいにある建物……の大きなガラスの前に着く。
「ヒロム?」
「見てれば分かる」
真助が不思議そうにヒロムに言うと彼はただ一言伝え、言葉を伝えたヒロムは周囲に自分たち以外の人間がいないことを確かめて左手首の金色のブレスレットを光らせながらガラスに向ける。
ブレスレットの発する光がガラスに向けられると光は激しく反射し、そして反射した光は三人を飲み込んでいく。
「「!!」」
「大丈夫、落ち着け」
戸惑う真助とノアルに対してヒロムは落ち着くように伝えるとブレスレットの光を消し、ブレスレットから光が消えると激しく反射する光も同じように消えていく。
そして光が消えると……三人はどこかの建物の中にいた。
先程まで派手な外観の建物の向かいに建つ建物のガラスの前にいたはずなのに今はどこかの建物の中にいる。
「どうなってやがる……!?」
「何が……」
驚きを隠せない真助とノアル。
そんな二人にヒロムは簡単に説明した。
「ここは目的地のあの派手な外観の建物の中だ。
さっきのは光の反射を利用した移動術で、あのガラスからここの建物の中の鏡の前に移動したのさ」
「オマエ、いつからそんな技を?」
「オレじゃねぇよ真助。
これは……」
私です、と三人のもとへと一人の少女がやって来る。
長い金髪に宝石の付いた髪飾りを付け、黒いドレスにも思えるような衣装に身を包んだ色白の少女。
その少女は三人のもとにやってくると頭を下げ、そして真助とノアルに向けてヒロムは彼女を紹介した。
「彼女はセイナ・フローレス。
二年前のある一件で協力してくれた能力者で今回オレが会う約束をしてた相手だ」
「セイナです。
皆さんよろしくお願いしますね」
ヒロムの紹介の後、少女……セイナも挨拶をするのだが、真助とノアルは彼女を見てただある事を同じように思っていた。
「……」
「……」
((これ絶対に何かあるに決まってる))




