四七一話 アナザー・トレース
「クソがっ!!」
ゼロは突然現れた仮面の男によってトウマを倒すのを邪魔されて苛立っており、何度も地面を蹴っていた。
その様子を見るソラはため息をつくと彼に歩み寄って彼に話しかけようとするがそれよりも先にゼロがソラに話し始めた。
「さっきのは何だ?
アイツは何なんだ?」
「オレが知りたいくらいだ。
「八神」とのあの戦いの時にあんな野郎はいなかった」
「なら角王と一緒にあたらしく追加されたのか?」
「おい、ゼロ。
オレにばっか聞くな。
知りたいのはこっちも一緒だ」
「……ちっ」
「……あれはおそらく追加じゃなく最初からいるヤツだな」
質問ばかりのゼロに対して不満を募らせるソラが冷たく言い返し、ソラの言葉に対してゼロが舌打ちすると話に割って入るようにシンクがやって来るとある可能性についてゼロに話した。
「ヤツはおそらくトウマが密かに用意してた隠し駒の可能性が高い。
あの口振りからしてトウマの目的やあの力について詳しそうだったからな」
「……待てよ、シンク。
オマエは「八神」に従うフリしてヒロムのために「天獄」を完成させようとしてたんだろ?
その時にアイツを見たのか?」
「いや、見たことは無いがその可能性は否定できない」
「どうしてだ?」
「どういう事なの?」
シンクの話を詳しく聞こうとガイと夕弦は彼に質問し、ギンジとカズマも話を聞こうと二人と一緒に歩いてくる。
全員が話をしていたゼロ、ソラ、シンクのもとに集まるとガイはシンクに質問し直した。
「あの仮面の男はオマエが知らないならオマエが去った後か「八神」とのあの戦い以降に角王と一緒に追加じゃされた能力者と考えるべきじゃないのか?」
「オマエの質問に対して別の形で答えることになるが……ガイ、オレは「ハザード・チルドレン」も「ハザード・スピリット」も知らなかったんだぞ?」
「あっ……」
「なるほど……」
ガイの対して答えとは異なる形を返したシンクの言葉。
その言葉を聞いたガイとソラ、そして夕弦とゼロ、カズマはその意味をすぐに理解する……のだが、ただ一人ギンジだけは意味を分かっていなかった。
「な、なぁ。
シンクは何を言ってるんだ?」
「……ギンジ。
脳筋のオマエでも分かれよ」
「んだよカズマ。
大して頭の中身変わらねぇのに」
「知識量が違ぇよバカ」
「バカって言ったな!?
オマエ、今オレを……」
うるさい、とゼロは口喧嘩になりそうになるギンジとカズマに冷たく言うとシンクがガイの質問に答える前に新たな質問をした。
「オマエが「ハザード・スピリット」や「ハザード・チルドレン」を知らないことと関係してるって言うなら……アレは人間か?」
「……核心を突いてくるか」
「当然だろ」
「……たしかにな。
今の話ならそう考えてもおかしくないな。
そう、オレはトウマがヒロムを倒すために行われていた実験を知らない。
だからこそアレはその類だと見ている」
「だが「ハザード・チルドレン」は精神が不安定な子ども、「ハザード・スピリット」はその成果を利用して生み出された人造精霊だ」
「そしてオレの大事な弟分が死ぬ原因になった「ネガ・ハザード」もな」
「カズマ……」
「ゼロ、悪いがこの話に関してはオレは部外者じゃねぇ。
オレの家族であるリュウガたちは……」
よせ、とシンクはカズマの言葉を遮るように止めると彼に伝えた。
「その話を今しても変わらない。
オマエのその思いは「八神」の人体実験を止めてこそのものだ」
「わかってる。
けどなぁ……」
「そこまでにしとけ。
今はそれをぶつける時じゃない」
「くっ……!!」
己の中の思いに苦悩するカズマはそれを押し殺すように拳を強く握り、そんなカズマの思いが空気を重くさせる中でシンクは自身の知らない可能性について話を進めていく。
「ヤツらの行ってた人体実験はオレに知らされることなくトウマ独自に進められていたもの。
だとすれば……あの仮面の男はトウマと内通していた何者かだろうな。
トウマ個人に人体実験をするような知識もなければ「八神」にそれを許容するような施設も設備も元々はなかったはずだしな」
「ちっ……情報が無さすぎて推測でしかないとはいえ曖昧すぎるな」
「確証を得ることが出来れば話は変わるんだがな……」
あまりにも曖昧すぎる話をしてしまうシンクにゼロはため息をつき、シンクはゼロに対して軽く詫びた。
そんな二人のやり取りの中、ガイは何かを疑問に思ったのかシンクではなくゼロに対して質問をした。
「ゼロ、1ついいか?」
「あ?」
「ゼロ……ほんの少しのオレの興味本位で質問するんだけど、ゼロってどうやって生まれたんだ?」
突然のガイの質問。
彼のほんの少しの、興味本位での質問に対してゼロは首を傾げてしまう。
「今関係あるのか?」
「最初に言った通りオレのほんの少しの興味での質問だよ。
癇に障ったなら謝るよ」
「……あのな、ガイ。
そんな話は後にしろよ。
ギンジみたいなバカバカしい質問を何で今……」
待って、と夕弦はガイの質問に呆れるソラの言葉を止めると夕弦はガイの質問に対して補足するようにゼロに訊ねた。
「ゼロ、ガイの質問の内容が理解出来なかったのなら私の質問に答えてもらえるかしら」
「あのな、オレにばっかり質問しても……」
「ゼロ、アナタはどうやってヒロム様の中で生まれたの?」
「……何?」
ガイの質問を改めて聞き返す夕弦の質問。
その質問の内容はどこかガイの質問と似ているが、彼女の質問はガイの興味本位の質問に比べるとどこか本質に近づこうとするかのような質問だった。
その質問にゼロは思わず聞き返してしまい、夕弦はより詳しくゼロに訊ねようとする。
「ゼロ、アナタはあの「八神」の戦いで姫神飾音が彼自身のみがあの時知っていたクロムを倒すために闇とともに埋め込まれて生まれたということは理解してるわ。
ただ……その話をそのまま鵜呑みにすると一つ疑問が残るのよ。
人の人格が後付けで生まれるのは二重人格などの話をも考慮すれば可能かもしれないわ。
でも……こうして全く別の個体のように振る舞えるような人格がそんな簡単に生まれるものなの?」
「……たしかに奇妙なことだな。
オレ自身深く考えなかったが、ヒロムの中で生まれたくらいで他は深く考えてなかったな……」
「けど夕弦、ゼロが生まれた要因を知ってどうなる?
それを考えたところで……」
「いいえ、ソラ。
これはすごく重要な話よ。
死人に口なし、その言葉が示すように私たちはどうやっても知れない事実があるわ」
「どうやっても知れない……?」
「姫神飾音は精神に干渉する能力を持っていた。
その力を利用してヒロム様の中中にゼロを生み出した。
だとしたら、それはヒロム様で初めて試したことなの?」
「お、おい……夕弦。
何言って……」
「ゼロ……思い出せるかだけ教えて欲しいの。
アナタの中にヒロム様の中で生まれる前の記憶はあるの?」
「……」
夕弦の話に戸惑いと驚きを隠せないソラたちを他所に夕弦はさらにゼロに質問をするが、ゼロは質問をされると黙ってしまう。
「……」
「ゼロ、黙っててもわからないわ。
お願い、答えてもらえるかしら」
「……沈黙が回答だ、夕弦。
悪いがオレのハッキリとした記憶はヒロムの中にある精神世界で目覚めた時以降のものだけだ。
それ以前は記憶に無いから何も言えねぇな」
「そう……」
「けど、夕弦のおかげでハッキリさせるべきことが一つ浮かんだ」
夕弦の質問に対してゼロは答えるとともに今この場で漂ってる疑問に対してある答えを導こうとする。
いや、答えと言っても疑問に対しての答えではない。
ゼロが導き出そうとしてるのは疑問に対しての答えではなく今の疑問に対しての答えを探すためにどうするかの行動に対しての答えだ。
「あの仮面の男以前の前にこの場にいる……ヒロムの周りにある「八神」に対しての知識以外に足りないものが多すぎる。
そのせいでオレたちは悩まされるなら……調べるしかない」
「調べるって何を……」
「決まってんだろガイ。
トウマの過去全てとヤツが企ててる全てだ。
どんな方法でもいい、ただ倒すだけじゃダメだって事だ」
「……「七瀬」に頼るのか?」
ゼロがこれから何をどうすべきか話す中でシンクはゼロに確認し、シンクの言葉に対してゼロは頷くと補足するように説明した。
「それは最悪の場合にかぎる。
「七瀬」には「七瀬」の事情があるだろうし、無闇に捜索させて「八神」に潰されたらこっちには頼る宛が無くなるからな。
そこは慎重にだ」
「ならどうやって……」
「大博打が残ってるだろ」
「?」
「……まさか!?」
「正気かよゼロ!?」
ゼロの言う「大博打」が何の事かわからないシンクに対してガイとソラはゼロの思惑を察知したのかゼロに聞き返してしまい、聞き返されたゼロは迷うことなく答えた。
「そのまさかだ。
「十家」の内情に詳しく、尚且つヒロムの精霊のことを当事者以上に熟知してるヤツら……それに該当する「一条」に頼るしかない」
「大博打過ぎるだろ!?
大体どうやってヤツらと話するんだよ?
いつ現れるか分からないのに……」
大丈夫だ、とゼロは不安を隠せないソラに言うと続けて「一条」に遭遇するための方法を述べた。
「パラドクスの石版を鬼桜葉王が手に入れたルートを使おう。
つまり……今は「七瀬」に身柄を預けてる姫神愛華を利用する!!」
***
ゼロたちが新たな目的を見つけている頃……
情報屋・ネクロと会い、襲ってきた敵が退いた後の姫神ヒロムたちも新たな動きを見せていた。
ネクロと分かれて行動してるのかヒロムは鬼月真助と東雲ノアルの二人を連れて移動していた。
ともに行動していたはずの黒川イクトと紅月シオンの姿はなく、彼らはネクロと行動してるのかと思われる。
とにかくヒロムは今仲間二人とともにある場所に来ていた。
滋賀にある広大な琵琶湖の一望できる場から移動したヒロムたちはまた別の地域に来ていた。
「さて……」
バス停にバスが停車し、素顔を隠すように帽子を深く被ったヒロムは素顔を隠すかのようにサングラスをかけた真助とノアルとともにバスを降り、そして周囲を見渡すと真助とノアルにこれからについて話した。
「ネクロと賞金稼ぎの協力者に関してはイクトとシオンに一任しよう。
オレたちは別の仲間と合流するぞ」
「別の仲間か。
「月翔団」や「十家」の息がかかってなくてヒロムに協力してくれるようなヤツがそう簡単に見つかるのか?」
「見つかるさ。
何せ今から会うヤツらは昨日の夜にオレが会うように連絡してる。
そしてその相手はオレが何かあれば秘密裏に頼ってる相手だ」
「じゃあ……」
「会って話をすれば協力はしてくれるはずだ。
アイツは……セイナはある種でオレの部下だからな」




