四六六話 掻き乱される心
「……この程度か」
トウマはシンクの氷の剣を消すと翼から衝撃波を撃ち放って彼を吹き飛ばし、吹き飛ばされたシンクは氷の翼を砕かれながら倒れてしまう。
「くっ……」
(一撃で氷の翼が砕かれた……。
この力、ヤツは……)
「シンク、どんな気分だ?」
倒れるも立ち上がろうとするシンクを見下すようにトウマは天に向けて浮上しながら彼に問いかけ、そして更なる言葉をシンクに向ける。
「無駄に抗いオレを敵に回し、そしてあの「無能」に仕える道を選んだ間果ての末路が今だ。
どんな気分だ?
裏切ってまで得た居場所でのうのうと暮らしたせいで死に行く気持ちは」
「……もう勝ったつもりなのか?
ずいぶんと余裕だな……」
「余裕さ。
少なくとも今のオマエらはオレには勝てない」
「そうか……。
なら、試してみるか?」
シンクが指を鳴らすと天から無数の氷の矢が降り注がれてトウマに襲いかかるが、トウマはただ左手を軽く捻るだけで氷の矢を全て消してしまう。
だが、これは始まりでしかなかった。
「インフィニティ・フレア・バレット!!」
シンクの攻撃をトウマが防ぐとソラは赤い拳銃「ヒートマグナム」を構えながら無数の砲門や銃口を周囲に展開してトウマに向けて次々に炎弾を撃ち放っていく。
放たれた無数の炎弾は真っ直ぐトウマの方に向かっていくがトウマは避けようとせず、それどころか黒く染まった右翼から怪しい光を発すると迫り来る炎弾を全て塵のようにして消してしまう。
「はぁぁあ!!」
ソラの攻撃を防ぐトウマだが、そのトウマを背後から斬るべくガイは全身に魔力を纏って高く飛んで彼に接近すると斬撃を放とうとするが、トウマは後ろを見ることも無く翼を大きく動かしてガイの霊刀「折神」を受け止め、刀を止めたトウマの翼はノーモーションから衝撃波を放つとガイを吹き飛ばす。
「ぐぁっ!!」
「ガイ!!」
「すぐに送ってあげるよ……仲間のもとに!!」
ガイが吹き飛ばされ、ソラがガイの名を叫んでいるとトウマは左翼から無数の光の光線を地上に向けて放ち、放たれた光線はソラとシンクに襲いかかる。
が、光線が迫る中でゼロとラミアが二人を守るように立つと「ソウル・ブレイク」の力を身に纏いながら稲妻を撃ち放って光線を相殺して防いでみせた。
「ゼロ……!!」
「……楽しんでるみたいだな、トウマ。
けど……楽しむなら今のうちにしとけ!!」
ゼロとラミアは紫色の稲妻と輝きを強く纏うとトウマを倒すべく走り出し、トウマはゼロとラミアが動き出すと急降下するようにして二人を迎え撃とうとする。
「楽しむ?
残念だけど……そんなつもりはないよ」
トウマは無数の光線をゼロとラミアに向けて放つが二人は光線を次々に避けながら接近すると蹴りを放とうとする。
だがトウマは二人の動きを見て蹴りが来ると理解しているのか左翼を盾にするように構え、トウマが左翼を構えるとともにゼロとラミアは蹴りを放ち、その蹴りはトウマの左翼に防がれる。
「コイツ……!!」
「まだよ!!」
蹴りを防がれたラミアは自身の武器にして霊装でもある刀を抜刀すると至近距離から斬撃を放つが、トウマは右手に怪しい光を纏わせるとラミアの放った斬撃を握り潰してしまう。
「なっ……」
「加減してるのか?
弱すぎて話にならないぞ!!」
トウマはラミアに向けて言い放つと右手の怪しい光を強くさせながら撃ち放ち、放たれた光はラミアを襲うと彼女を吹き飛ばしてしまう。
「きゃあ!!」
「オマエ!!」
ラミアが吹き飛ぶ中、ゼロは彼女を吹き飛ばしたトウマに殴りかかろうとするもトウマはゼロの拳を掴み止め、拳を止めたトウマは余裕の表情で彼に告げた。
「道具一つがやられたくらいで騒ぐなよ。
オマエは何も傷ついていない、それでいいじゃないか」
「道具だと?
アイツらは命ある精霊だ!!」
「その精霊の力を利用して憎き相手を殺そうとしてるなら教えてやる。
オマエとあの「無能」のやってることは道具を利用して戦うということ、つまりはオレと大差はない」
「大差ない?
オレたちを倒すためだけに「ハザード・チルドレン」の命を弄んだオマエとオレを一緒にするな!!」
ゼロは力を高めるとトウマに向けて稲妻を解き放ち、翼で防ごうとするトウマは力の余波によって吹き飛ばされ、ゼロはそれを追いかけようとする。
そしてゼロに続くようにシンクは氷の翼を纏い直すと飛翔し、ソラも立ち上がると両足に紅い炎を纏わせて加速しながら飛ぶ。
「悪いなゼロ」
「オマエだけにやらせるかよ」
「……なら来い」
ゼロは二人に冷たく告げるとトウマに向けて稲妻を放ち、シンクとソラは稲妻に追従するように飛んでいく。
トウマはゼロの放った稲妻を防御せずに回避し、稲妻を回避したトウマに向けてソラは「炎魔」の紅い炎を放っていく。
「どんなに力を増してようが「天霊」の力に「魔人」の力は相性悪いはずだよな!!」
ソラの放った紅い炎は大きくなりながらトウマに迫っていくが、トウマは右目を怪しく光らせると光の盾を出現させると炎を止めてみせる。
「何!?」
(バカな……!?
「天霊」の力と「魔人」の力は相反する力。
「天霊」の無力化を受けない「魔人」の力を止めるなんて……)
「どうしたソラ?
まさかその力に頼りすぎて弱くなってるのか?」
「……!!
オマエ……」
「落ち着けソラ!!」
トウマの言葉に苛立つソラを宥めるようにシンクは叫ぶと氷の槍を次々に放ってトウマを倒そうとするが、トウマは光を放って氷の槍を消すと衝撃波を放つ。
放たれた衝撃波がソラとシンクに迫っていくが……
「……クロス・リンク」
ゼロは呟くと精霊・セレナを出現させ、彼女と先程吹き飛ばされたはずのラミアを魔力に変えて纏うと光と闇へ変え、装いを変えながら衝撃波を消していく。
青い装束に身を包むと闇を彷彿とさせるロングコートを纏い、腰に青いローブを巻くとゼロは紫色のグローブとブーツを装着すると「クロス・リンク」を完了させ、そして剣と刀を構えると闇の翼を纏い飛翔してトウマに接近して斬撃を放つ。
が、トウマは光を出現させるとそれを二本の剣……「天霊剣」へ変えるとゼロの斬撃を止める。
「その剣……ようやく出したか」
「クロス・リンク……あの「無能」と同じ力……!!」
「同じかどうか試してみるか?」
「何?」
ゼロはトウマを強く蹴り飛ばすと右手首の黒いブレスレットを光らせ、そして光を銃剣に変えるとソラに向けて飛ばし、さらに光を放たせるとレイピアに変えてシンクに向けて飛ばす。
「「!!」」
「悪いがオレはヒロムと違って使えるもんは遠慮なく使う。
……だから好きに使え!!」
「「おう!!」」
ソラとシンクは飛んできた武器を手に取り、ソラは銃剣を赤い拳銃「ヒートマグナム」とともに構えるとともにトウマに向けて次々にビーム状の紅い炎を撃ち放ち、放たれた炎をトウマは光の盾を出現させて防ごうとする。
が、トウマがソラの攻撃を防いでいるとシンクは氷の翼を羽ばたかせて加速するとレイピアに冷気を纏わせながら連続で突きを放つとトウマの光の盾を砕いてしまう。
「……!!」
「喰らえ!!」
光の盾が砕けたことでソラの攻撃は彼を焼き払おうと襲いかかる……が、トウマの瞳が怪しく光ると炎は何故か彼の体をすり抜けてしまう。
「!?」
「ソラの炎がすり抜けた!?」
「……驚くことは無い!!」
突然のことに驚くソラとシンクの動きが止まるとトウマは黒く染まった右翼から闇を勢いよく放射して二人を吹き飛ばし、ゼロはトウマの背後に移動すると気づかれる前に攻撃しようとした……が、トウマは音もなく消えると今度はゼロの背後に現れて彼を衝撃波で吹き飛ばしてしまう。
「!!」
「残念だけどオマエらの力は把握してる。
武器の譲渡には驚かされたけど、そこで止まるのならこちらも力を使うまで。
ロキの能力……「空間操作」をな」
「空間操作だと……!?」
吹き飛ばされたゼロは空中で受け身を取ると旋回して闇の翼を羽ばたかせてトウマに接近し直すと斬撃を放つが、トウマの体を斬撃がすり抜けて消えてしまう。
「またか……!!」
「この「空間操作」の力は一瞬だけならオレがこの世界という空間に干渉している事実を無くすことが出来る。
そして別地点への瞬間移動すら簡単にな」
「世界という空間に干渉してる事実を消すだと?
デタラメな力だな……けど!!」
ゼロは周囲に四本の刀を出現させると矢の如く撃ち放ち、放たれた刀はトウマを貫こうとするが、トウマの体はゼロの攻撃をまたしてもすり抜けさせる。
すり抜けた刀は後方へ飛んでいき、トウマは不敵な笑みを浮かべながらゼロに告げようとする。
「どれだけ精霊を使役出来ても所詮は頼りない力の寄せ集めだ。
オーディンを宿したことにより「天霊」の力は増し、そしてロキを宿したことによりオレは空間操作を会得した。
もはやオレには不可能はない!!」
「……」
「ゼロ、諦めろ。
諦めて……」
「何が頼りない力の寄せ集めだって?」
「……何?」
教えてやるよ、とゼロが呟くとトウマの体をすり抜けて飛んで行ったはずの四本の刀をどうにかして両手に装備したガイが魔力を纏いながらトウマの背後に現れると彼の右翼に刀を次々に突き刺していく。
「何!?」
「隙だらけだぜ、トウマ!!」
刀が突き刺されたトウマの右翼は結晶のように砕け散り、片翼だけになってしまったトウマはバランスを崩して地上に落ちてしまう。
「バカな……!!
何故……!!」
「力は使い方次第だ。
オレが単に武器の譲渡をしてたと思うのか?
運命操作……精霊・バネッサの運命操作でガイがオマエの翼を破壊するように運命を操作出来るように刀に細工をしておいた。
おかげで片翼だけになって無様に落下してくれたけどな」
「オマエ……まさかさっきの刀はオレを直接狙ってなかったのか!!」
「当たり前だろ?
オマエが空間操作で存在してることを消せるかのようなこと言ってたからオレに気を取られるように仕向けてそれを使う暇を与えなかったのさ」
「ふざけた真似を……!!」
「何だ?
力を得て勝った気になってたのか?
それなら……」
「こうなったら仕方ない」
「あ?」
トウマの言葉にゼロが首を傾げ、彼が首を傾げるとトウマは右翼を元に戻すように黒く染まった翼を破壊しようと出現させ、さらに両翼を六枚に増やしてしまう。
「……ここでこれは使いたくなかったが仕方ないな」
トウマは天霊剣を手放すと右手をゼロに向けてかざし、トウマが右手をかざすと何も起きていないはずなのにゼロは勢いよく吹き飛ばされてしまう。
「!!」
「ゼロ!!」
吹き飛ばされるゼロの名を叫ぶガイ。
トウマが何かしたと考えるしかないこの状況でガイは……そしてソラとシンクは構えると警戒するが、トウマはそんな三人に告げた。
「諦めろ。
オマエらに……勝ち目はない!!」




