四六二話 怯える先の出会い
「片付いたぞ」
敵を倒したゼロはラミアとともにガイたちのもとへ歩み寄り、ゼロが来るとガイは彼に言った。
「容赦ないな……」
ガイの言葉、それはどこかゼロに対して警戒してるかのようにも思えるものだった。
が、その言葉を聞いたゼロは不思議そうにガイを見ながら彼に言葉を返した。
「敵に対して情を持つほどオレは優しくない。
ヒロムを狙うような雑魚なら尚更、な」
「……そうか」
「それに魔力増幅剤を使った時点でヤツらは死を選んだも同然だ。
だから命を懸けても及ばないことを理解させた上で消滅させた」
ガイに対して淡々と話すゼロ。
その話をガイはもちろん、ソラと夕弦も静かに聞いていた。
が、シンクだけは違った。
どこか急かすようにゼロに先を急ぐことを提案した。
「ゼロ、目的地へ急ごう。
このままじゃ時間の猶予はない」
「あ?
時間には余裕があるはずだ。
「ハザード・チルドレン」如きにそんなに時間はかけてねぇぞ?」
「倒す時間云々はいい。
問題はこっちの動きを「八神」に知られてる可能性があるってとだ」
「……「八神」にか。
それはたしかに厄介だな」
シンクの話を聞いたゼロは彼の言葉に同感し、その上で考えた。
「八神」に動きを知られてる可能性、それはつまりこちらが何かしらの企みがあると敵が考えてるということ。
つまり「ハザード・チルドレン」を倒したゼロたちに気づいた「八神」の増援がこちらに来るか最悪の場合はヒロムたちの向かった西の地方に敵が送り込まれるという事態に発展しかねないという事だ。
シンクはそれを言葉短に伝え、それを聞いたゼロは確実な方法を選ぼうとしている。
判断材料の少ない中で方法を探ろうとするゼロは答えに辿り着けず、どうにかしようと考えるゼロは夕弦から判断材料になる情報を得ようとする。
「夕弦、ここから目的地までの時間は?」
「四十分ほどだけどこのまま進み続けるのは危険すぎるわ。
敵の襲撃があった以上この先にも何かあると警戒すべきね」
「四十分……。
どうにかして急げば時間の短縮は可能か」
「だがゼロ。
敵を目的地に誘導するのだけは避けるべきだ。
ここは……」
「ご主人……」
ガイがゼロに何か言おうとすると飛天がどこか申し訳なさそうにガイに声をかける。
声をかけられたガイが飛天を見ると、飛天に抱かれているキャロとシャロが怯えて震えていた。
「ニャー……」
「ナー……」
「あのねご主人……。
キャロちゃんとシャロちゃんがずっと震えてるの……」
「何かあったのか?」
「あのね……さっきの怖い怪物さんたち見た後からなの……」
何があったのかをガイが訊ねると飛天はキャロとシャロの震えが先程の戦闘からだと伝える。
それを聞いたガイは二匹の主人であるソラに視線を向けて何とかさせようとするが、ソラよりも先にゼロは飛天に歩み寄って目線を合わせるように腰を低くするとキャロとシャロの頭を撫で、そして二匹に優しく伝えた。
「怖かったか?
怖いと思うのはオマエたちが生きてる証だ。
怖いのなら怖いで怯えていい。だけど……いつかは必ず強くならなきゃならない」
「ニャー?」
「今からじゃなくてもいい。
いつかは飼い主のソラのために頑張って戦えるようになればいいさ」
「ナー」
「今はこのガキんちょに抱っこされて見てればいいよ」
「ニャー」
「ナー」
いい子だな、とゼロは二匹の鳴き声を聞くと優しく微笑みながら撫で、立ち上がるとソラに伝えた。
「少しずつでいいからコイツらが戦えるように指導してやれ。
この二匹が今後オマエのためになれるかどうか主であるオマエ次第だからな」
「分かった。
それより……二匹の言葉が分かるのか?」
「ヒロムの心の闇となったとはいえオレの体を構築してる体組織は精霊と大差ないからな。
だからか二匹の言葉が分かるんだよ」
「……なるほど」
「なるほど、じゃないけどな。
ゼロ、どうするつもりだ?」
ゼロがキャロとシャロの言葉を理解できる理由に納得するソラの後ろからシンクはゼロに決断を迫る。
急かされる形でゼロは決断を下そうとした……その時だ。
どこからともなく一人の少年が現れ、現れた少年はガイを見るなり彼に声をかける。
「やっぱりガイだ。
久しぶりだね」
赤黒い髪の少年は微笑みながらガイに向けて言い、声をかけられたガイはどこか嬉しそうに微笑むと彼に歩み寄って挨拶をした。
「久しぶりだな、天晴。
いつ以来だ?」
「あの件以来だよ。
相変わらず元気そうだね」
「そっちもな」
昔の顔馴染みなのか話の弾む二人。
ガイの話す相手が誰なのか分からないゼロは首を傾げるが、そんなゼロに飛天からキャロとシャロを一度預かるように抱き上げたソラが説明した。
「アイツは天晴、傭兵だ。
かつてイクトを利用したキキトって情報屋を倒すために協力者となってくれたネクロに雇われ、今は「酷獣」の異名を持つ闇の貴公子ことアストと契約して護衛を担ってる」
「ネクロは確かヒロムが会いに向かってるな。
ってことは……」
「そう、オレたちがこれから会おうとしてるアストはこの天晴に聞けば案内してもらえるってことになる」
少年……天晴についての説明をソラから聞いたゼロはその内容を理解すると彼に歩み寄り、ゼロは天晴に案内を頼もうとした。
「天晴……だったな。
オレはゼロ、ガイやソラが仕えるヒロムの身内だ。
出会ってすぐで悪いんだが、オレたちはアストに用がある」
「おっ、奇遇だね。
アストから指示を受けたんだよ。
ガイが会いたいって連絡したのに遅いって」
「合流時間まではまだあるが?」
「違う違う。
アストは時間ギリギリになりそうな気配を感じて敵襲受けてるか見て来いって言ってきたんだよ」
「……なるほど。
で、安全に案内してくれるのか?」
そのつもりよ、とゼロが天晴に質問するとどこからともなく女の声がし、声のした方にゼロとソラが視線を向けると風と共に煙が巻き起こり、煙の中から銀髪の女性が姿を現す。
現れた女性はガイを見るなり手を振り、ガイも手を振り返すとソラは怪しむように彼に質問した。
「おい、ガイ。
あの女は?」
「ミスティーだ。
「色煙」のミスティー、ある一件で行動をともにし、今では天晴とともにアストに雇われている賞金稼ぎだよ」
「初めましての人が多いわね。
今ガイが説明してたけど、私の名前はミスティーよ。
よろしくね」
ミスティーは初の顔合わせとなるゼロやソラたちに挨拶をするが、その挨拶にシンクは言葉を返すことも無く彼女にアストの所までの道案内とその手段について訊ねた。
「自己紹介は後にしてくれ。
それよりもアンタらはオレたちをアストのところにどうやって案内してくれる?」
「あら、意外と急かすのね。
安心してもらっていいわよ。
私の能力で姿を隠してあげるから」
「アンタの能力で?」
「私の能力は「煙」。
煙をあらゆる形で操れるのよ」
「……煙とは変わった能力だな」
「能力は個性そのもの、使い方次第で強くも弱くもなるのよ」
ミスティーの能力に何故か反応の薄いゼロだが、そのゼロの反応を覆すかのようにミスティーが指を鳴らすと周囲に煙が広がっていき、次第に煙が濃くなると彼らの周囲は完全に煙で覆われ、足元も煙で見えなくなってしまう。
「うわぁ、モクモクしてる〜」
煙に興奮する飛天ははしゃいでおり、そんな飛天を見るとゼロは彼を抱き上げて肩車するように自分の肩に乗せた。
「?」
「はぐれたら大変だからな。
たまにはこういうのも楽しめ」
「えへへ、タイチョーさんありがとう」
「……ヒロムと似ててややこしい呼び方だな」
「タイショーさんはタイショーさんだよ?
タイチョーさんはタイチョーさんだからややこしくないよ?」
「……オマエがややこしくないならそれでもいいか」
飛天の自分の呼び方にゼロはどこか納得してないような様子を見せるが、それでもどこか嫌ではないような反応を見せるとゼロは飛天を肩車してガイたちやミスティーと天晴とともに目的地へ向かって移動しようとした。
………………十分後
とくに慌てて走ったり車を使って移動したわけでもないが当初のゼロたちの予定よりもかなり早く目的地であろう場所に到着した。
目的地へ到着するとミスティーは周囲に広げた煙を消し去り、煙が消えるとこれまで見えなかった景色が鮮明に見え始める。
先程ゼロたちがミスティーと天晴と会った場所は人の目に付きやすいところだったが、今彼らが到着したのは人里からかなり離れた場所……近くに山林のあるような一軒だけポツンと建っている古い民家の前だった。
「……オレらどこ歩いて来てたんだ?」
「短時間でこんな遠くに来れるのか?」
今いる場所にどうやって来たのかを怪しむようにガイとソラは顔を見合わせなから言い、それを聞いていたミスティーは彼らに説明した。
「煙の中を歩いてるような感覚だったけど実際は実体化して掴めるようにした煙の上を歩く感覚で錯覚させながら転移術式を展開して敵に追われないようにここへ今転移したのよ。
だからアナタたちと私が会った場所からしばらくは煙の塊がアナタたちを包んで進んでるようになってるわ」
「?」
「つまり……私たちは視界を眩ませて敵に見られぬように移動してると敵に錯覚させ、敵がそれを警戒する中で煙の中から私たちだけを気づかれぬように転移させて敵にはまだ中にいると思わせながら移動を成し遂げたのね」
「あら、アナタは理解力があるのね」
ミスティーの説明に頭を悩ますガイとソラとは異なり夕弦は彼女の説明を理解し、そんな夕弦にミスティーは嬉しそうに話す。
「初めまして、ミスティーよ。
これからよろしくね」
「白崎夕弦です。
こちらこそご迷惑をお掛けします」
「……なぁ、シンク。
今の説明で分かるか?」
「分かるならオレらに詳しく頼む」
ミスティーと夕弦が互いに自己紹介する傍らでガイとソラはシンクがミスティーの説明を理解してるかを確かめようとし、シンクはため息をつくだけついて何も答えない代わりに違う言葉を告げた。
「誰もが成長して新たな技術を得る。
そういう話だろ?」
「話ややこしくするなよ……」
「いや、彼の言う通りだ」
シンクの言葉にガイが困っていると民家の方から一人の青年が歩いてくる。
黒い髪に金色の瞳、黒のロングコートを羽織った青年は歩いてくるなりガイを見て彼に言った。
「……久しいな、ガイ。
元気にしていたか?」
「おかげさまでな、アスト。
あの時もだったけどまさか直接会ってくれるなんてな」
「話が話だったからな。
それにオマエには大きな貸しがある。
それを返すためなら表に出るさ」
「ありがとな」
「気にするな。
それよりも早く中に入れ、敵がどこで見てるか分からないからな」
青年・アストはガイと話をするとゼロたちに中に入るように伝え、彼らはそれに従うように民家の中へと入っていく……
 




