四六一話 復讐の代弁者
邪魔するように現れた「ハザード・チルドレン」の能力者たちに向けて歩き出すゼロ。
すでに動いていた「ハザード・チルドレン」の能力者たちは彼らから見れば先陣を切るように歩いているように見えるゼロに標的を絞り、炎城タツキもゼロをまず倒そうと叫んだ。
「どこの誰かは分からないがそいつから倒せ!!
そいつから……」
「威勢だけはいいみたいだな」
炎城タツキが叫んでいるとゼロは走ったわけでもないのに既に彼の前まで移動しており、タツキは目の前にゼロがいることに驚くと思わず後ろに下がってしまった。
「……!?」
(いつの間に……!?)
「この程度で驚くなよ。
そんなんだからヒロムにもアイツらにも勝てない雑魚のまんまなんだよ」
「何だと……!?」
「ほら、雑魚は雑魚らしく怒れよ。
怒ってオレを攻撃してみろ」
「てめぇ、上と……」
ゼロの挑発を受けて立つかのようにタツキは彼に殴りかかろうとするが、ゼロは目にも止まらぬ速度で拳撃を放つとタツキを簡単に殴り飛ばしてしまう。
「……!!」
殴り飛ばされたタツキは飛ばされた先で倒れながら何が起きたか分からずに戸惑いの表情を見せ、ゼロはそんなタツキに向けて冷たく告げた。
「……やっぱオマエ雑魚すぎるわ。
こんなんじゃ……足りねぇよ」
「……そいつを殺せ!!」
ゼロの言葉に怒りを抑えられぬタツキが叫ぶと他の「ハザード・チルドレン」の能力者たちはゼロを倒す……殺すべく武器を構えて彼に迫っていく。
が、ゼロは首を鳴らすと右手首の黒いブレスレットに光を纏わせながら呟いた。
「ラミア、格の違いを教えてやれ」
『アナタが戦うんじゃないの?
私はてっきりそう思ったんだけど……』
「前座くらい付き合ってくれよ。
オレの力を見せつけるためにな」
『……マスターは素直に力貸せるけど、アナタの頼みってなると引っかかるけど、まぁいいわ』
黒いブレスレットの光が解き放たれるとそれは形を変えて精霊・ラミアへと変化し、現れたラミアは闇を放出させて無数のエネルギー波とともに撃ち放って「ハザード・チルドレン」の能力者たちを迎え撃つ。
「ぐぁっ!!」
「うわぁぁあ!!」
「……前座も何も無いでしょ、これ。
弱すぎるわよ」
「見てればわかるさ」
「?」
ゼロの言葉が分からないラミアは不思議そうに迎え撃った「ハザード・チルドレン」の能力者たちに視線を向け、彼女が視線を向けるとその視線の先では彼女の攻撃を受けて負傷した能力者たちが何とかして立ち上がると何やら薬のようなものを首から投与している光景が見えた。
「アレは何?」
「魔力増幅剤だろうな。
そうだろ、ソラ?」
ラミアが気にしているとゼロはその正体と思われるものの名を口にし、その名が正しいかどうかを離れた場所で待機しているソラに訊ねた。
「アイツらが投与してるのは魔力増幅剤だよな?」
「……ああ。
一度投与すれば魔力が爆発的に増幅する代わりに最後は増幅した魔力に耐えれず自壊する」
「なんてひどいことを……」
「ひどいこととはお優しい女だな夕弦。
それがオマエらが仕え、オレが力になろうとしてるヒロムを狙うヤツらの非情さってヤツだ」
夕弦の言葉に呆れながらゼロは言い、シンクはそんな中ゼロに魔力増幅剤を投与したとされる能力者たちへの対処についてある提案をした。
「ゼロ、ソラの話が本当なら精霊の力で適当に拘束して自滅させるのが効率的だ。
ヤツらを相手に無駄に戦う必要は無い」
「……それはそれが出来たらの話だ」
「何?」
「ソラの話は「八神」との戦いから得た知識だ。
つまり時間の流れと共にヤツらの兵器運用の仕方は変わっている」
シンクの提案に異論を唱え、その理由についてゼロは語ると何かの合図を送るように指を鳴らす。
「……そろそろだろ」
「何を……」
ゼロの言葉の意味が分からないラミアは彼に訊ねようとしたが、訊ねるよりも先にゼロが指を鳴らしたと同時に変化が起きる。
「「がぁぁぁぁあ!!」」
魔力増幅剤を投与したとされる能力者たちの数人が突然雄叫びをあげるように叫びながら闇を強く放出し始め、放出するとともに異形の姿へと変貌していったのだ。
魔力増幅剤を投与したとされる凪乃イチカは闇を強く纏いながら人の姿を維持しているが、他の能力者たちは次々に異形の姿へと変貌している。
その光景を見たラミアは驚きを隠せず、そんなラミアにゼロは何が起きてるかを話した。
「ヤツらは魔力増幅剤を起動スイッチにすることによる新たな兵器の量産に成功したようだな」
「それって……」
「魔力を増幅させて精神を不安定にさせ、精神干渉汚染によって増幅する力によって姿を変貌させる「ネガ・ハザード」になったってことだ」
「でも「ハザード・チルドレン」を媒体にしたのなら「ハザード・スピリット」の可能性も……」
「あれは……「ハザード・スピリット」は聞いた話だけで判断するならば人為的に意思を消されて精霊に変化させられるから自らの意思でなれるものではだろうし、何より「ネガ・ハザード」は「ハザード・スピリット」の成果を経て完成させているのなら今更過去の産物はつくらないさ」
「なら彼らは意思を残してるって言うの?」
「……残ってればの話だ。
アレを見るかぎりじゃ女一人を除いては魔力増幅剤に耐えられなくなって変貌してるから下手したら精神は壊れて破壊衝動のみが取り残された怪物と考えた方が妥当かもな」
「……「ハザード・スピリット」でも「ネガ・ハザード」でもない、てことなのね?」
「ただの化け物だ。
……変な情を持つ必要も無い相手だ」
どうするつもりなの、とラミアはゼロに訊ねると彼はラミアを見るなり彼女にある事を頼んだ。
「……増幅する力ならこちらも増幅させる力を使うしかない。
だから借りてもいいか?」
「……意外ね。
丁寧に確認するなんて」
「仮にもオマエたちはヒロムに宿る精霊だ。
オレにはその力を借りる権利しかない」
「そう……なら、好きに使ってくれていいわ」
「感謝するぞ」
「「ソウル・ブレイク!!」」
ゼロの頼みをラミアが承諾するとゼロは彼女に礼を言い、そしてゼロとラミアは同時に叫ぶと紫色の稲妻と輝きを纏いながら走り出す。
二人が走り出すと異形の姿へと変化した能力者たちは動き出して二人を殺そうとするが、ゼロとラミアは迫り来る化け物を次々に倒していく。
「オラァッ!!」
「はぁっ!!」
ゼロとラミアは迫り来る敵に対して身に纏う力を強くさせながら攻撃を放って倒すと次なる敵を倒していき、ラミアは敵を倒す中で自身の霊装である刀を装備すると周囲に斬撃を放って化け物と化した能力者たちを斬り倒していく。
刀を使うラミアに対してゼロは力を強める中で拳を強く握ると敵を何度も何度も殴ることで敵を倒すと蹴り飛ばし、次に狙いを定めた相手に対しても膝蹴りを食らわせると稲妻を鋭くさせて刃にして敵を貫き、そして貫いた敵を抉り倒すと走ってくる凪乃イチカを睨む。
「はぁぁあ!!」
凪乃イチカは走り迫る中で纏う闇を強くさせながら薙刀を構えてゼロに襲いかかろうとするが、ゼロは彼女の薙刀を片手で止めると握り潰して蹴りを食らわせる。
「……!?」
「何してもオマエらは勝てねぇよ。
オレたちがオマエらに劣る理由がねぇし、オマエらがオレたちより優れてる理由もないからな!!」
ゼロは紫色の稲妻を纏わせた蹴りを凪乃イチカに放ち、蹴りが彼女に命中すると稲妻を炸裂させると勢いよく彼女を吹き飛ばす。
「ああああああああぁぁぁ!!」
蹴り飛ばされた凪乃イチカは全身にダメージを受けながら吹き飛んで倒れ、それを見た炎城タツキは怒りを抑えられぬ状態で魔力増幅剤を投与して力を得ると走り出した。
「オマエらァァァア!!」
「……ブレイク・フロー」
叫びながら迫る炎城タツキを冷たい眼差しで見つめながらゼロは呟くと身に纏う力を急激に増幅させ、増幅させた力を一点に……拳に集めると渾身の一撃となる拳撃を炎城タツキに叩き込んで彼を殴り倒す。
「がぁぁぁぁあ!!」
拳が炎城タツキに命中するとゼロの増幅した力は爆撃のように炸裂し、炎城タツキの全身をボロボロにさせる。
炎城タツキはひどい負傷によって倒れ、炎城タツキが倒れると全ての敵がゼロとラミアの周りで倒れる。
「……弱すぎる」
呆気なく戦いが終わったことにゼロはため息をつき、そして身に纏う力を消すと倒れる炎城タツキに告げた。
「自分を犠牲にしてまで果たそうとした大義も果たせず、その結果得るものもなく消えるとは無様だな」
「オマエ……!!」
ゼロの言葉に苛立ち彼を睨む炎城タツキだが彼や凪乃イチカ、そして異形の姿へと変化した他の能力者たちは今にも消えそうになっていた。
魔力増幅剤を投与したことによる副作用。
増幅する魔力に体が耐えられず自壊しようとし、ゼロとラミアの攻撃を受けて出来たダメージがそれを加速させた。
「く……そ……!!」
「さっさと消えろ。
オレは雑魚を相手にする気は無い」
「オマエらは……必ずトウマ様が必ず倒……」
最後の言葉も言い切ることなく炎城タツキは魔力の粒子となって消滅し、他の者たちも同じように魔力の粒子となって消滅してしまう。
粒子は風に吹かれて散るとどこかへ飛んでいき、粒子が完全に散るとゼロはラミアとともにガイたちのもとに歩いていく……
***
ゼロが炎城タツキたち「ハザード・チルドレン」を倒した頃……
その様子を遠く離れた位置からドローンか何かで中継していると思われる映像をタブレット端末で観ている男がいた。
「ゼロ……あの時の闇が何故ヤツの仲間になっている」
黒いコートを羽織った黒髪の少年はタブレット端末のスクリーンに映る映像の中のゼロを見ると呟く。
「オマエはあの人が「無能」のアイツの全てを奪うために用意した駒だろ?
なのに何故そこにいる?
オマエの居場所はそこじゃないだろ?」
答えるはずのないスクリーンの映像の中のゼロに問う少年。
返ってくるはずのない答えを待つかのようにゼロをじっと見つめる少年はしばらくするとスクリーンからゼロの映る映像を消してタブレット端末を置き、そしてどこかに向かうかのように歩き始めた。
「ゼロ、オマエには分からせてやらないとな……。
オマエが本当にいるべき場所はそこじゃない、ここだってことをな」
少年……八神トウマは殺意を秘めたような眼差しで遠くを見据えながら言うと光となってどこかに消えてしまう……
そして……
トウマが光となって消えるその様子を怪しげな仮面をつけた男が見ていた……




