四六〇話 エクステンド・ヒット
ヒロムたちがスローネやヒューリーと戦いを終え、その戦いの後にグラムとキリスが何か動きを見せる前……
時間はヒロムたちがちょうどスローネとヒューリーを倒すべく戦おうとしていた時に遡る……
場所は東北……
「ニャー」
「ナー」
相馬ソラの精霊である子猫の精霊・キャロとシャロは雨月ガイの精霊である幼子の精霊・飛天に抱かれながら目的地に向かうゼロ、雨月ガイ、相馬ソラ、白崎夕弦、氷堂シンクとともにいた。
「キャロちゃん、シャロちゃん。
お外ですよ〜」
散歩感覚で嬉しそうに鳴くキャロとシャロち優しく声をかける飛天。
その様子をゼロはため息をつきながら横目で見ていた。
「……呑気で楽しそうだな」
「飛天にとっては初めての遠出だからな。
日帰りとはいえこういう事は嬉しいんだよ」
「可愛らしい妹分たちの世話するのも楽しいんだろうしな」
ゼロの機嫌を直すべくガイとソラは彼に優しく言うが、ゼロはそれを聞いてため息をついてしまう。
「……ここには遊びで来てないんだ。
遊びでついてこられても足手まといにしかならない」
「ゼロ、張り詰めすぎるのはよくないわ。
ここは落ち着いて……」
「落ち着いてるからこそ言ってんだろ夕弦。
この状況を敵が見れば間違いなくこのガキどもを最優先で狙うに決まってる」
「それに関しては否定できないわね。
でも、張り詰めた空気のままこれから人に会うことに比べたらあの子たちのおかげで少しは気持ちも和らぐんじゃない?」
「……オレはそうは思わなんな」
「そう、残念ね」
「オレには到底理解出来ないことだ」
「……ゼロ、少しいいか?」
夕弦の言葉に理解もできないゼロはまたため息をつき、そんなゼロを飛天に対する話題から離そうと考えたのかシンクは彼にあることを質問した。
「少し前から気になっていたんだがヒロムの使う……いや、ヒロムとゼロの使う「ソウル・○○○」ってのは何なんだ?
あれは何を原動力にして生まれてる力なんだ?」
「……そこに興味を持つのか?」
「仲間として当然じゃないのか?
ソラの力は身に宿す炎の「魔人」の恩恵、シオンの「晶眼」は「月閃一族」の中で選ばれた人間だけが持つことを許される力と必ず理由がある。
だがヒロムとゼロの二人のその力に関しては説明が少なすぎて分からないんだ」
「……面倒だが説明する他ないか」
シンクの質問と質問した経緯を聞いたゼロは何度目になるか分からないため息をつくと少し面倒そうに話そうとした。
その面倒な表情を見たガイは彼にヒロムの面影を感じずにはいられなかった。
「あっ……」
(ヒロムと同じ表情……。
やっぱりその辺は似るんだな)
ヒロムの心の闇となったゼロ。
ならばヒロムと面影も似るのだとガイは感じながら彼を見ており、彼の視線を感じたゼロは不思議そうにガイに訊ねる。
「……何だ?」
「いや……クロムの時は何も感じなかったけど、こうしてゼロを見てるとヒロムに似てるなって……」
「あ?当たり前だろ?
何言ってんだよ?」
「その言い方とかも……ってオレのことはいいからシンクの気にしてる話について答えてくれ」
「……そうか。
なら話すか……と言ってもかなり長い話になるけどいいんだな、シンク?」
「構わない。
ヒロムに仕える身としては全てを知っておきたいからな」
シンクに対してゼロは確認を取り、彼の返事を聞いたゼロは歩きながらヒロムと自身の扱う「ソウル・ブレイク」や「ソウル・リンク」などについて話し始めた。
「あの力は精霊……天の字名を持つフレイ、ラミア、ティアーユ、ステラ、そしてクロムとの一件で解放されたオウカとアルマリア、メルヴィーの七人の精霊のみが持つ霊装が備えている力を纏う力だ」
「天の字名ってのは何だ?」
「……天の字名は四十二人の精霊の中でもより優れた素質を持ちその力と性質……精霊の力を精霊でありながら束ねて総括する素質を宿してヒロムを補助する力を有した精霊は天の名を冠した異名とともに呼ばれ、そしてその特異性から天の字名と名付けられた」
「天の名を冠した異名……。
たしかに七人とも呼ばれる度に天が入ってる異名で呼ばれてるな」
「その天の字名を持つフレイたちはその証として霊装を与えられ、与えられた霊装の力を魔力で具現化させた際に生じるそれぞれの色を持った稲妻と輝きを纏って発揮するのがアイツらとオレとヒロムだけの使える「ソウル・ブレイク」や「ソウル・リンク」ってわけだ」
「じゃあ「ソウル・ハック」ってのは何だったんだ?
あれを使ってヒロムは自分の魂を精霊に昇華させて……」
「そうか、だから「ハック」なのね」
ゼロの説明を聞いたソラが疑問を抱いて質問をする中何かに気づいた夕弦はそれについてゼロに確かめた。
「ヒロム様が最初に使った「ソウル・ハック」は精神の奥底に眠っていたクロムが目覚めると同時に体を奪うために仕込んだあの男の力。
ヒロム様の魂が精霊に変化していたのはあの男が乗っ取るためにそう仕向けてたのね?」
「……そういう事だ。
あの「ソウル・ハック」はかなしいことにクロムが用意した偽の霊装の力。
ヒロムはそこから「クロス・リンク」を完成させ、完成させた「クロス・リンク」を発展させて「エボリューション」に到達しようとしたが……全てはクロムが差し替えた偽りの力、それ故にヒロムの体に負担がかかり、そしてエボリューションは不完全な状態で完成したことになってしまった」
「なら今「ソウル・ハック」はどうなってる?」
「今ヒロムの中にもオレの中にもクロムはいない。
よって「ソウル・ハック」は機能しなくなり、それどころか「ソウル・ハック」による副作用も消え去った」
「……なるほど。
つまり今のヒロムは「ソウル・ハック」無しでも昔のように戦えるってことか」
「それは少し違うなソラ。
昔のヒロムはフレイたちの魔力を「ソウル・ハック・コネクト」によって体に流し込むことによってその力と武器を発動していたが今は違う。
ヒロムの霊装であるあの金色のブレスレットを介してフレイたちの力を形にし、ヒロムはそれを手にすることでその力にその瞬間だけ適応して使役する。
だから負担なく使えるのさ」
「……大差なくないか?」
「そう思うなら理解力が無さすぎる」
「あ!?」
ゼロの話を聞いたソラが不思議そうにしているとゼロは彼を煽るように発言し、それを聞いたソラは苛立ちながらゼロを睨みつける。
睨みつけられても動じないゼロ。
そんなゼロにガイは一つの疑問を解決すべく彼に質問した。
「ゼロ、ヒロムのブレスレットが霊装だと言うならヒロムは何故霊装を与えられた?
ヒロムの魂が精霊に昇華しつつあった状態が解消されたのならヒロムは純粋な人間のはず。
なのに何故……」
「補足しなきゃ理解できないか?
あの霊装はヒロムが全ての精霊を従え宿すこととそれを総括して使役することを象徴する証だ。
そしてアレはオマエら能力者が体から能力を放出させるのと同じようにあのブレスレットが媒体となることでヒロムは能力者と変わらぬ戦いが可能になるってわけだ」
「なるほど……」
「そういやゼロ。
オマエのその右手の黒いブレスレットも霊装だよな?」
ゼロの話にガイが納得しているとソラはゼロの右手首に装着された黒いブレスレットを指さして彼に訊ねる。
「オマエはヒロムと違って霊装の力を使いこなせているみたいだけど……それにも理由があるのか?」
「……霊装の力はヒロムの感情でもあるからな」
「ヒロムの感情?」
「フレイの「ソウル・リンク」は繋がりを得ることで何かを守ろうとするヒロムの「優しさ」、ラミアの「ソウル・ブレイク」は敵に対する怒りを燃やして戦おうとするヒロムの「熱意」、ティアーユの「ソウル・ドライヴ」は仲間と共に前に出て戦おうとするヒロムの「願い」、ステラの「ソウル・ブレイヴ」は内に眠るヒロムが持っている「可能性」を秘めているからな」
「……感情というか、ヒロムの中に起因するものがあるから力が使えるってことか」
「そうだな。
そしてオレの霊装は……何を犠牲にしてでも果たそうと誓ったヒロムの「復讐心」から来ている」
「!!」
「ヒロムの……」
「復讐心……」
安心しろ、とゼロは自分の言葉を聞いたガイとソラに一言声をかけると続けて自身の力について話した。
「今のヒロムはトウマを倒すというよりは何かを守ることを優先しようとしている。
だからオレはその負の面を肩代わりして心の闇として宿ることを選び、その上でこの霊装を得た。
今のヒロムがこれを使うには……今のアイツは優しくなりすぎてるから不可能ってわけだ」
「……」
「なら後三人……オウカ、アルマリア、メルヴィーの霊装の力は何なんだ?」
「まだヒロムも実戦で使おうとしていない三つの霊装の力について……は後で構わないか?」
「?」
敵だよ、と霊装についてさらに聞こうとするガイの質問の答えを後に回すようにゼロは言うと歩みを止めると進行方向とは別の方に視線を向ける。
ゼロが視線を向けると視線の先に何人もの能力者が現れる。
現れた能力者は身に纏う衣装を統一しており、その能力者たちを見たガイとソラは見覚えがあるのかゼロに現れた能力者について話した。
「ゼロ、アイツらはヒロムを倒すために生み出された「ハザード・チルドレン」だ」
「……「八神」の生体兵器の第一段階どもか。
まさかまだ生きていたか」
「オレがイクトと倒した時にいた炎城タツキと凪乃イチカってヤツがいるから間違いなくアレは「ハザード・チルドレン」だ」
ガイの説明に疑うような態度でゼロは言うが、ソラはそんなゼロに間違いないことを伝えようとする。
ソラが現れた能力者たちの方に視線を向けるとそこにはソラのことを強く睨む少年と少女が一人ずついた。
そう、彼が炎城タツキで彼女が凪乃イチカだ。
二人は数ヶ月前にイクトと行動していたソラの前に現れ、ソラの「炎魔」の力の前に倒されたのだ。
そしてその後にヒロムを襲おうとするもヒロムに歯も立たずに負かされた上で全員がヒロムに倒され、その結果彼と彼女を含む「ハザード・チルドレン」は壊滅したように思えたが……壊滅したと思われていた「ハザード・チルドレン」は今こうして目の前に現れた。
「……相馬ソラ。
オレを覚えているか?」
「炎城タツキ、よく覚えてるよ。
だけど……オマエらが出てきてもオレらを倒すなんて不可能だ」
「……そんなの、やってみなきゃ分かんねぇだろ!!」
いくぞ、と炎城タツキが叫ぶと能力者たち……「ハザード・チルドレン」である能力者たちは一斉に走り出し、それを見たソラは彼らを倒そうと前に出ようとする。
「すぐに終わらせる。
邪魔は……」
「邪魔はするな」
ソラの言葉を取るようにゼロは言うと敵に向けて歩き出し、そしてゼロはソラたちに向けて告げた。
「せっかくだから見てろ……復讐心を体現するオレの生き様をな」




