四六話 雷鳴王
「オマエは好きに暴れろ、シオン!!」
シンクはシオンに告げると獅角に攻撃しようとしたが、それを妨げるように真助がシンクを見ながら魔力を身に纏う。
「何のつもりだ、「狂鬼」。
オレは獅角を潰すために……」
「コイツの覚悟を無駄にするつもりか?
オマエは黙って見ていろ 」
「生憎だが、シオンの体はボロボロだ。
あの姿でいるのも無理をしているに違いない」
「それはオマエの勝手な判断だろうが。
現にアイツは……」
シンクは真助が最後まで言うのを待たずにシオンの横へと並び立つように移動し、そして真助に背を向けたまま告げる。
「コイツが倒れたらヒロムに迷惑をかけることになる。
シオンにはこれからもヒロムとともに戦ってほしい。
だからこそオレはできるのなら生命を懸けてでも守ってやる」
「オマエ……」
「それがオレの償いであり、これから進むための覚悟だ」
シンクの言葉からは真助もハッキリと感じ取れるほどの意思を感じ、同時にそれは真助が容易に否定していいものではないと察した。
何も言わずに黙って見ていようと真助は思ったが、シンクの纏う氷の翼に小さな亀裂があるのを発見した。
いつの間に現れたのか。
そう考えていると、その亀裂は少しだが大きくなっていく。
まさか。
それを見た真助はボロボロになったシオンを守ろうとするシンク自身の体も少なからず負傷していることに気づいたが、今のシンクを止めることなど無粋過ぎて何も言えなかった。
「……」
(コイツは自分の体を犠牲にしてまで「覇王」のために……)
やるぞ、とシオンは深呼吸するとシンクに告げ、そしてそれを聞いたシンクとシオンとともに構えた。
構えると同時に二人はその身に纏う力を大きくし、そしてそれとともに全身から殺気を獅角に向けて放った。
「……驚いたな」
シオンの一撃により吹き飛ばされた獅角は立ち上がると服についた埃を払いながら二人に対して静かに殺気を放ち、そして魔力を全身に纏った。
獅角の体はシオンの「雷鳴王」での一撃により少しだが負傷しているが、シオンやシンクに比べるとあまり肉体への影響はなさそうだった。
「まさか先程まで脆弱で何の痛みも感じなかった一撃が一気にここまで変わるとは予想していなかった」
「……余裕そうだな」
「当たり前だ。
オレを倒すには至らない、それだけだ」
「そうかよ。
……その強がりがどこまで続くのか、試してやるよ!!」
シオンは轟音を響かせると消え、そして獅角の背後に姿を見せるとそのまま殴ろうとした。
「……殺気も出て、こうもうるさいと速くても関係ないな」
背後に現れたシオンに反応し、攻撃を回避した獅角はシオンの方へと振り返るとそのまま殴りかかろうとした。
しかし、獅角の拳が攻撃に移る前に獅角の腹部に強い衝撃が走り、さらに獅角の全身に無数の殴られたような痕跡が現れ、そこから雷が次々に現れて獅角にダメージを与えていく。
「!?」
「悪いな……。
今のオレにはオマエが止まって見える」
攻撃を回避されたシオンの拳は雷へと変化していき、そして獅角に狙いを定めると雷の槍となって獅角を貫こうと襲いかかる。
何とか避けようと試みる獅角だが、その攻撃の速度があまりにも速く、そうしようとした時にはすでに自身の右肩を貫いていた。
「この……!!」
「安心しろ……勝つのはオレだ!!」
拳を元の状態に戻したシオンはそのまま獅角を殴るが、雷と同化し、そして雷へと変化している今のシオンの速度は獅角の認識を超え、獅角に避ける動作へと入らせることなくシオンは攻撃を命中させていた。
「どうした!!
この程度か!!」
シオンは先程まで与えることが出来なかったダメージを確実に少しずつ与えているが、それでも獅角が倒れる気配はない。
だが、確実にダメージを与えている。
このまま……
「調子に乗るな……!!」
獅角が魔力を外へと大きく解き放つと衝撃波が生じ、シオンの攻撃は防がれ、同時にシオンは少し後ろへ押されてしまう。
「くっ……」
「少し攻撃が通った程度で図に乗るなよ?
所詮、貴様ではオレは倒せん!!」
獅角は右手に獅子の頭の形をした魔力を纏わせると、シオンに狙いを定め、そして構えた。
「レグルス・バレット」。
先程シオンに大きなダメージを与えた技だ。
だがシオンもそれを食らうつもりはない。
「もう当たらない……」
「どうかな?」
すると獅角の左手に右手と同じように獅子の頭の形をした魔力が纏われる。
「貴様は気づいてないらしいが、もうオレの中で貴様は敗北が決まっている」
「……オマエの中でどう思われようが、オレはただ勝つために戦う!!」
シオンは轟音を響かせると再び消え、シオンは獅角の周囲を縦横無尽に駆けるように走り、さらに獅角の周囲に雷を放ち、退路を絶っていく。
が、獅角は一切動じず、それどころか駆け回るシオンの姿を捉えようと視線だけは動いていた。
「……」
「逃げねぇのなら……潰すだけだ!!」
動かぬ獅角の周囲に無数の雷が落ち、雷はシオンへと姿を変えると襲いかかる。
一人ではなく、そのシオンは何人もいた。
獅角はなぜなのか理由は把握出来ていた。
「分身、か」
雷による造形術による分身。
それであることは容易に把握出来、そしてそれ故に獅角は苛立ってしまう。
「その程度で倒せると思うなぁ!!」
獅角の全身を覆う魔力が獅子の形に変化すると雄叫びをあげ、シオンの分身を次々に破壊していき、獅子の形に変化した魔力が消えていく。
だが、それが獅角にとって大きな誤算となる。
「……その時を待ってた!!」
いつの間にか接近していたシンクが視界に入り、それに気づいた獅角が魔力を身に纏わせようと試みるが、それより先にシンクが獅角の体を殴る。
シンクの殴った獅角の体は彼の発動する「竜装術・氷牙竜」の力により触れた場所から凍結していき、徐々に氷に覆われていく。
「この……!!」
獅角はシンクの力を阻止しようと左腕に魔力を纏わせるとシンクに「レグルス・バレット」を放つが、シンクはその一撃を耐えると獅角の腕を掴んだ。
「貴様……!!」
「悪いな……。
オレはただ援護するだけ……そのためなら何でもやる」
離せ、と獅角はシンクを蹴り飛ばし、体の氷を潰そうとしたが、そうしようとした時にはすでにシオンが背後で両手に雷を纏わせ、それを大きくさせながら拳を構えていた。
「しま……」
「雷鳴滅神撃!!」
シオンは獅角の体に拳を叩きつけ、それと同時に両手の雷を炸裂させ、獅角を吹き飛ばす。
攻撃を受けた獅角は吹き飛び、吹き飛んだ先で倒れてしまう。
よっしゃ、とシオンは叫ぶとガッツポーズをし、シンクもよくやったと称えるように親指を立ててそれをシオンに見せる。
「助かったぜ、シンク」
「……言ったはずだ。
援護する、と」
「けどあんな風に体張るとは思わなかったぜ……」
「それぐらいしないと倒せな……」
シンクが最後まで言い切る前に倒れたはずの獅角と狼角がゆっくりと起き上がり、そしてそれを確認したシオンとシンクは構え、真助も二人の横に並ぶように駆けつけると「血海」を抜刀した。
「……さすがは「角王」か」
「いや、そもそもまだヤツは本気じゃない」
シンクの言葉を聞いたシオンは戦闘前のシンクの言葉を思い出した。
『ヤツらは今じゃ滅多に見れない獣だからな 』
シンクの言う獣というのはどういう意味で何を指しているのか。
たしかに狼角と獅角はそれぞれが狼と獅子の形に変化させた魔力を使っていたが、それは所詮造形術の応用でもある。
造形術は高等技術と言われながらもここ最近では使用者が増えつつある。
むしろ、見ない方が珍しいくらいだ。
では、何を指しているのか?
シオンが考えていると、シンクがそれについて語り始めた。
「……まだアイツらは能力を使っていない」
「能力?
それが滅多に見れない獣なのか?」
「ああ……いや。
アイツら自体が「獣」だ」
どういう意味だよ、とシンクに対してシオンが言おうとした時、獅角と狼角が突然雄叫びをあげる。
何か起きるのではないかと警戒したシオンと真助は雄叫びをあげる二人の体の変化に気づくとただ言葉を失うしかなかった。
「……は?」
「な……」
「がああ!!」
獅角と狼角は本来の人と呼べるような姿ではなくなり、その見た目はまさしく「獣」。
「出やがったな……。
獅角と狼角の能力「獣人」……」
シンクは二人の角王の姿を見て面倒くさそうに言い、そして構え直した。
「……まさかこの姿になるとは」
獅子の獣人と化した獅角はため息をつき、その傍らで狼の獣人と化した狼角は首を鳴らしていた。
「いいじゃねぇか。
冥土の土産に見せてやれば」
「偉そうなことを……。
わざと攻撃を受けて楽してたこと、トウマ様に報告するぞ?」
「勝手にしな。
手柄は全部オレのもんだ!!」
来るぞ、とシンクがシオンと真助に警戒するよう告げるが、それよりも速く狼角は三人の前に現れ、そして殴りかかろうと拳を勢いよく放つ。
咄嗟のことで反応が遅れ、防御したシンクだが、「竜装術・氷牙竜」の力が働くことなく吹き飛ばされ、それどころか体に纏った氷の半分が砕けてしまう。
「シンク!!」
「余所見か!!」
シンクを心配するシオンに攻撃しようと蹴りを放つ狼角だが、黒い雷を纏った真助はそれを止め、そして「血海」で狼角を斬ろうと振り下ろす。
しかし、その獣のような見た目に反して体は強固だったらしく、刀が弾かれてしまう。
「何かしたか?」
「……化け物が!!」
黒い雷を大きくすると真助は狼角へと放つが、狼角にはダメージすら与えられず、それどころか何もされてないような顔をしている。
「なぜ……魔力を……」
「オマエの雷は魔力を断つから能力者にとっては不都合。
だが、それは外部に出ている能力にのみ有効だ」
オレは違う、と狼角は真助と、そしてシオンを蹴ると説明した。
「オレのは肉体を変化させる、つまりは内側の変化だ。
外には干渉していないし、干渉もされない」
この、と苛立ち混じりに舌打ちをしたシオンと真助は構え直すと狼角を倒そうと走り出そうとしたが、それをシンクが妨げるように前に現れると二人を止めた。
「お、おい!!」
「シンク!!」
「……落ち着け。
分が悪い、引くぞ」
「何を……」
「アイツらはここからが本気、だがオレたちはすでに本気だった。
最初から遊ばれてたんだ……」
よく理解したな、と狼角が全身に魔力を纏うとこちらを睨む。
「オマエらは所詮この程度、オレらの敵ではない!!」
「くっ……」
「へぇ〜。
ただの雑魚相手に本気になるバカが偉そうに何言ってんだよ?」
誰だ、と突然聞こえた声の主を探そうとした狼角だが、狼角がそうしようとした瞬間、そしてシオンたちが声に気づいた瞬間、その場にいた誰もが予想しなかったことが起きた。
「……がっ!!」
狼角の全身がボロボロになり、全身から血が吹き出し、そして狼角は勢いよく吹き飛び、飛んだ先にある建物に衝突するとその建物が崩落し、その崩落に狼角は巻き込まれていく。
「狼角!!」
「オマエもだ」
狼角を心配して動こうとした獅角も突然ボロボロになり、そして勢いよく上空へと吹き飛ばされ、気づけば地面へ叩きつけられていた。
「な……」
シオンたちは目の前で何が起きているのか分からなかった。
自分たちが本気になってやっと追い込めた相手の本気に苦戦していたとき、何の前触れもなく敵が倒されたのだ。
誰がやった?
そう考えると同時に三人は理解した。
誰がやったとかではない。
この二人を倒した相手は確実に自分たちを簡単に倒すほどの力を持つことに。
「そんなに警戒するなよ〜」
一瞬も気が抜けぬ中、その緊張感を消し去るかのようにシオンたちの背後から声がした。
間違いない、この声の主が二人の角王を倒したのだ!!
シオンたちは魔力を纏い、そして能力を発動したまま背後確認しようと振り返る。
そこには
「ハロ〜」
茶髪で毛先だけは色素が抜けたように灰色になり、紫色をベースとした陰陽師をも思わせるような衣装を身に着た紅い眼の青年。
その青年は黒い手袋をした右手を呑気にこちらに向けて振っていた。
「誰だ……?」
「……!!
オマエは……」
シンクはその青年の正体を知っているらしく、それに気づいた時、今までシンクが見せたことの無いほどの青ざめた表情を見せた。
それは「竜装術・氷牙竜」により口元をマスクで覆っている今でハッキリわかるほどだ。
誰なんだ、とシオンは恐る恐るシンクに確認するとシンクは青年の動きに警戒しながら、答えた。
「「十家」最強の当主……一条カズキの幹部にして最強の側近……名は鬼桜葉王!!」