四五五話 オウガ・ブレイク
ヒロムたちの前にオウガが現れる一方……
「はっ!!」
ヒューリーは両肩に出現させた砲門で次々に魔力の球を撃ち放ち、放たれた魔力の球をノアルは右腕を盾に変化させて防ぎ、ノアルが防御を引き受ける中真助とシオンは雷を纏いながら攻撃を放つ。
「くたばれ!!」
「食らいやがれ!!」
黒い雷を纏った真助の小太刀の一撃、雷を纏ったシオンの槍の一撃。
二人の攻撃は放たれるとヒューリーに襲いかかるが、ヒューリーのその堅牢な鎧は二人の攻撃を受けても天へと弾き飛ばしてしまう。
「ふん……この程度か?」
「野郎……バカみたいに硬いな」
一切ダメージを受けていないことで余裕を見せるヒューリーに対して彼の堅牢な鎧のその硬さに舌打ちをする真助。
が、シオンは何も言わずに槍を構え直すとヒューリーに向けて連続で突きを放っていく。
真助と二人がかりで攻撃しても通じなかったのにシオンは通じないと分かっている攻撃を連続で放っていく。
「無駄な足掻きだ。
このオレの鎧の硬さには一切……」
「その鎧の脆い部分に攻撃したらどうする?」
ヒューリーの余裕を打ち破るかのようにシオンは告げるとヒューリーの腕と足、腰などの鎧に縛られずに可動する体の一部……関節部に攻撃を命中させていく。
「!!」
シオンの関節などを狙った攻撃を受けたヒューリーは少し怯み、それを見たシオンは槍に強く雷を纏わせると更なる連撃を放っていく。
「はぁっ!!」
怯んだヒューリーに体勢を立て直す間を与えぬよう放つ連撃。
だがヒューリーは全身に魔力を纏うとシオンの連撃を防ぎ、関節部を狙う攻撃をも弾いてしまう。
「何!?」
「……予想通り過ぎる。
鎧の弱点は可動域を殺さぬように工夫されている関節部。
関節部だけは薄く設計しなければ動きに支障を与えるが……魔力硬化を使えば弱点ではなくなる!!」
「コイツ……前回の戦闘でのスローネと同じことを!!」
(スローネだけが特別器用なのかと思ったが、この様子じゃコイツらのこの鎧は全部魔力硬化できるようだな!!)
だとしても、とシオンは強く叫ぶと全身を雷と同化させて強化し、髪の毛をも雷と同化させると長くさせ、そして雷鳴轟かせると至近距離から雷撃を食らわせる。
「雷鳴王……雷天爆丸!!」
至近距離から放った雷撃、ヒューリーの体に命中はしたがヒューリーは少し力を入れると雷撃を消してしまう。
「さすがに今のじゃ死なねぇか」
「……雷鳴王。
なるほど、多少の変化はあるようだな」
シオンの一撃を受けても余裕があるヒューリーはシオンを挑発するように言うが、それを聞いてもシオンは動じない。
動じないどころかシオンはヒューリーを見て違和感を感じて何かを考えていた。
「……」
(何故ヤツは反撃しない?
魔力の球を撃って牽制するわけでもなく、あの防御力に特化した鎧であえて受けても効かぬことを強調してるのに……何故反撃出来るタイミングで何もしてこない?)
「シオン、どうする?」
ヒューリーを怪しむシオンのもとに真助とノアルが駆けつけ、三人が揃うとヒューリーはシオンたちに両肩の砲門の狙いを定める。
が、シオンたちに確実に攻撃できるタイミングだというのにヒューリーは攻撃しようとしない。
それを見てヒューリーが何かを狙ってると確信したシオンは真助に対してそれを伝えた。
「ヤツは反撃出来るタイミングで必ず反撃しない。
オレたちを挑発するように言葉を発して攻撃させるくせに肝心なタイミングでは一切攻撃してこない。
今もオレたちが揃った瞬間に狙い撃ちすれば三人仕留められるかもしれないタイミングでもだ」
「……ヤツの狙いは倒す以外にあるって言うのか?」
「ああ。
でなきゃヤツの行動の不可解な点の説明がつかない」
「だがだとしたらヤツの狙いは何だ?
ヤツとその仲間であるスローネたちはヒロムを狙ってるんだろ?
なのに何でオレたちを相手にして何を狙う?」
「たしかにヤツらの狙いはヒロ……」
ヒューリーたちの狙いはヒロム、そう言おうとしたシオンは前回の戦闘を思い出していた。
シオンは前回の戦闘でアスラナと呼ばれる女に「晶眼」を持つ者として仲間になれと言ってきた。
その申し出をシオンは断り、クロムが出現してシオンの中の力が覚醒して兎の精霊・ライバが誕生し、シオンとライバが力を合わせてアスラナを倒した。
その一連の流れからシオンはヒューリーたちの狙いがヒロム以外ならばという仮説を立て、その上である答えに到達する。
「……真助、ノアル。
ヤツをヒロムの方に誘導するぞ」
「は?」
「何を言ってる?
オレたちでヒロムからヤツを……」
「いいからヤツをヒロムの方に誘導するぞ!!
ヤツの狙いはヒロムじゃない。
ヤツの狙いは……オレたちだ」
***
「さぁ、オウガ。
私にその力を見せろ!!」
スローネが言うと鬼の仮面と鎧に身を包んだ戦士・オウガはヒロムたちに向かって走り出す。
オウガが走り出すとイクトは「影剣死」の影の剣を構えて迎え撃とうとするが、オウガはイクトに迫る中で足の鎧を展開するとスラスターを出現させて飛翔してイクトを横切っていく。
「なっ……」
「最初から狙いはオレだけか」
イクトを横切ってオウガが向かっていく先……その先にはヒロムがいた。
オウガが確実に自分を狙っていると理解しているヒロムは金色のブレスレットを光らせるとガントレットを出現させて両手に装備し、稲妻を纏うとオウガに一瞬で接近して顔面を強く殴る。
「!!」
顔面を殴られようとしているオウガは避けようとせず、それどころか自らヒロムに殴られに行くとヒロムの体を掴み捕らえようとする。
「コイツ!!」
(倒されること覚悟の捨て身かよ!!)
ヒロムはオウガに掴まれる前にオウガを強く蹴って蹴り飛ばすと大剣を出現させて斬撃を放つが、オウガは足のスラスターを起動させると器用に体勢を直して斬撃を殴り壊してヒロムに向かっていく。
向かってくるオウガにヒロムは大剣を消すと刺突に特化した槍を出現させて鋭い突きを放ってオウガを攻撃するが、オウガは何とかして槍の一撃によるダメージを最小限に抑える形で受けるとまた吹き飛ばされ、吹き飛ばされたオウガはまた立て直すとヒロムに向かって走り出す。
「猪突猛進……迷惑なやり方だな、たく」
何度も向かってくるオウガを前にしてヒロムは舌打ちすると稲妻を強く纏い、精霊・マリアとランファンを出現させると叫んだ。
「クロス・リンク!!
「絶拳」マリア!!「龍撃」ランファン!!」
ヒロムが叫ぶとマリアとランファンは魔力の龍となってヒロムと重なり合い、ヒロムは魔力の龍を身に纏うと青い装束と右肩の龍の頭の装飾、そして両拳の武装に変化させて走り出す。
「龍撃拳王……!!」
「クロス・リンク」を発動させたヒロムはオウガに向かって走る中で全身に魔力を纏うと何体もの魔力の龍を出現させ、魔力の龍出現させると天高くに飛翔するように大地を強く蹴って飛ぶ。
ヒロムが天高くに飛ぶとオウガはそれを追いかけるようにヒロムに向かって飛ぼうとするが、その瞬間オウガの影から無数の影の腕が出現して背後からオウガを拘束する。
「!?」
「悪いね。
オレがいるかぎり好きにはさせないよ」
「……そうか」
イクトが発した言葉にオウガは一言返すと影の腕を強引に振りほどき、そしてスラスターを起動させ直すとヒロムに向かって飛翔していき、飛翔するとヒロムの魔力の龍を次々に破壊してヒロムに猛攻を放とうとする。
「あの野郎!!」
『何やってるイクト』
悔しそうにしているイクトの頭の中で彼に宿る精霊・バッツが話しかけ、話しかけられたイクトは頭の中のバッツに言い訳をした。
「たまたまミスった。
それだけだ!!」
『たまたまで済むミスか?
これ以上ヒロムに任せるのならオレが出て決めるぞ』
「大将に任せる気はないけど……こうなったらやるしかないよな!!」
イクトは全身に魔力を強く纏うと黒衣の騎士の精霊・バッツを召喚し、そしてバッツの力を身に纏おうとする。
「「死獄煉そ……」」
待っていたよ、とスローネはバッツに音も立てずに接近するとデバイスシステムとなっているバックルから何やら取り出すとそれをバッツの体に刺してしまう。
「がっ……!?」
「私がここに来た目的はバッツ、キミだ」
スローネがバッツに冷たく告げるとバッツの体に刺された何かにバッツの中にある魔力の一部が吸収されていき、吸収を終えるとスローネはバッツからそれを抜き取りデバイスシステムに戻し、そして次にイクトの体に手をかざすと彼の体からも魔力を吸収していく。
「なっ……コイツ……!!」
「私の目的はただ一つ。
バッツの持つ「精神に干渉する力」をデバイスシステムに学習させ、黒川イクト……キミが覚醒させた「死獄」の力を吸収することだ」
「オマエ……大将を狙ってたんじゃ……」
「彼の力を利用するにはより強力な力を得る必要がある。
そのためにまずキミたちを利用する」
スローネが話しているとイクトの体が黒炎を纏い始め、スローネはそれを見ると魔力の吸収をやめて黒炎を吸収しようとする。
「くっ……」
「まずは一つ……キミたちのおかげで私の目的は……」
スローネが嬉しそうに語っていると彼が吸収しようとしていた黒炎が勢いよく燃え上がると大きくなり、そしてスローネの全身に襲いかかると彼を吹き飛ばしてしまう。
「何!?」
黒炎に吹き飛ばされたスローネは倒れ、スローネが倒れると黒炎はイクトの元に戻り、バッツは全身を黒炎に変えるとイクトと同化し、イクトは黒炎をアーマーに変化させて両腕、両肩、両脚に装備し、背中に紫色の結晶の翼を纏って装いを変える。
「死獄煉装……」
『完了……!!』
「バカな……!?
何故吸収出来ない!?」
突然のことに動揺を隠せないスローネ。
スローネは現状を確認するように一人で話していく。
「たしかにバッツの力はデバイスシステムに読み込ませた!!
なのに何故私の目的が……」
「バレてたからだよ」
イクトは黒炎を出現させるとそれを大鎌に変え、大鎌を構えるとスローネに教えた。
「大将を本気にさせるほどの男が手加減して、その上一人で事足りるはずなのに実地テストと称して新手を呼んで大将を狙わせた。
ヒューリーに三人を足止めさせて、オマエが狙うとなれば……オレたちしかない」
『真理の精霊を知ってるような口振りだったオマエならオレがクロムからヒロムの力を取り返した方法を見ててもおかしくなかった。
学習を続けるデバイスシステムを発展させるためにオレを狙い、ついでにイクトだけが持つ「死獄」の力を狙うこともある程度は予測出来てた』
「なっ……この短時間でその全てを!?」
「まぁね。
だからあえてオウガに手も足も出せずに苦戦してるフリしてバッツもオレに合わせて演技してたのさ」
『オレは演技じゃないけどな』
「話合わせてくれないかな!?」
「私の目的を読み切って対策を……!!」
覚悟しろよ、とイクトは大鎌を構える中でスローネに向けて言うとバッツとともに彼に告げた。
「『オマエはオレたちを本気にさせた。
オマエのその魂は……オレたちが狩り取る!!』」




