四五一話 真理の覇王
目の前にヒロムはいる。
なのに背後にヒロムが現れた。
その現状に獅童やスバルが驚く中、蓮夜は冷静に何が起きてるのかを分析し始めた。
「……オマエら落ち着け。
これはオレたちを錯乱させる幻術だ。
オレは今アイツに攻撃されたような感覚に襲われたがそれも幻覚だ。
ヤツはオレたちを幻術で……」
「団長……あれは本物だ」
蓮夜が話す中、弓を構えた男・天津は息を荒くさせながら蓮夜に報告した。
「前にいるあの男と後ろにいるあの男はどちらも本物です。
幻術特有の魔力の乱れもなく、あの二人が放つものは間違いなくあの男のものです……」
「バカを言うな!!
これは……」
蓮夜、と目の前にいるヒロムは彼の名を呼び、名を呼ばれた蓮夜は反応するようにヒロムの方を見る。
蓮夜がこちらを見ると彼の背後に現れたヒロムは消え、そして残った方のヒロムはゆっくりと剣を地面と水平に構える。
「何をする気だ?」
何かをする、そう感じた蓮夜は拳を強く握って構えるが、構える中で蓮夜は自分の目が今見ている光景を疑った。
ヒロムが地面と水平になるように構えていたはずの剣は消えており、剣が消えた一方で蓮夜の体は何やら鋭利な刃物で肉を削がれたかのように抉られた傷が出来ていたのだ。
「な……に……!?」
いつの間にこうなったのか分からない蓮夜。
蓮夜は口から血を吐き、傷から血を流しながら膝をついてしまい、獅童は思わず蓮夜に駆け寄ろうとする。
「団長!!
しっか……」
蓮夜に駆け寄ろうとする獅童。
その獅童が蓮夜に駆け寄ろうとしていると音もなく忽然と姿を消してしまう。
「……獅童……?」
獅童が自分に駆け寄ろうとしているのを蓮夜は見ていた。
それなのに獅童の姿はどこにもなかった。
「獅童……獅童!!」
傷を押さえながら叫ぶ蓮夜だが、消えた獅童が返事をすることは無い。
獅童が消え、蓮夜が彼を探す中で真斗はヒロムに向けて何をしたのか問い詰めるように叫ぶ。
「オマエが何かしたんだろ!!
獅童さんをどこにやった!!」
「……知りたきゃ探せ」
「答えろ!!
獅童さんは……」
真斗が叫ぶ中、ガラスが割れたかのように空が割れ、割れた空から真斗の前へと何かが落とされる。
落とされたもの……それは音もなく蓮夜たちの前から消えた獅童、その獅童が全身血だらけのボロボロな姿となって落ちてきたのだ。
「獅童……さん……?」
血だらけの獅童に恐る恐る声をかけようとする真斗。
真斗が声をかけようとすると獅童は微かに残る意識の中で真斗と……そして蓮夜たちに向けて伝えようとした。
「真斗……団長……。
逃げろ……!!
戦っても……勝てない……!!」
「獅童さん、何言って……」
知りたいのか、とヒロムが言うとヒロムは真斗の前へと現れる。
いや、違う。ヒロムは一切動いていないし、蓮夜に攻撃したと思われる場所からは移動すらしていない。
移動しているのは……真斗だ。
獅童の姿と言葉に混乱する真斗は何故か蓮夜たちから離れるようにヒロムの前へと移動しており、身に覚えのないこの移動に真斗は身体を震わせ、恐る恐るヒロムに視線を向ける。
真斗が視線を向けるとヒロムは何も感じていないかのような冷たい眼差しで真斗を見ており、その眼差しで見つめられていると思った真斗は拳に炎を纏わせるとヒロムを殴ろうとする。
「うぁぁぁあ!!」
「真斗、冷静になれ!!」
「オマエが……オマエが!!」
蓮夜の叫びは耳に入らず真斗はヒロムを殴ろうとする。
ヒロムを殴るべく真斗は炎を纏わせた拳で一撃を放とうとする……のだが、ヒロムは真斗の拳を簡単に握り止めると拳を握り潰し、握り潰された拳の骨は砕けてしまう。
「がぁぁぁあ!!」
「許せないか?
オレが憎いか?
なら……殺してみろ」
「……あああああ!!」
ヒロムの冷たい言葉に真斗は気合を入れるかのように叫びながら握り潰されていない方の拳でヒロムを殴ろうとするが、ヒロムは音も立てずに真斗の前から消えて彼の背後に移動すると彼と……そして蓮夜たちに告げた。
「もういいよな……。
最後の時間は満喫したはずだし……終わらせる」
ヒロムは彼らを倒すことを告げると右手に光を纏わせ、光を纏わせると一瞬で障壁による防御を行う恵那に誰にも気付かれずに接近した。
いや、蓮夜たちが気づいた時にはすでに恵那は終わっていた。
ヒロムが恵那に接近したのを蓮夜たちが認識した時、ヒロムの右手が纏っていた光は光球となって恵那に直撃しており、直撃した光球は乱回転しながら恵那とともに飛んで行き、しばらく飛んだ先で炸裂すると恵那の全身をボロボロに負傷させて倒してしまう。
「恵……」
天津が恵那の名を叫ぼうとすると彼の背後の空間がガラスのように割れ、割れた空間の隙間から無数の光の刃が放たれ彼の背中を抉っていく。
「がっ……」
「天津!!」
背中を抉られた天津は倒れ、蓮夜が天津に駆けつけるも彼は意識を失っていた。
「……オマエ!!」
蓮夜は次々に倒されていく仲間の姿に耐えられなくなったのかヒロムを強く睨むと走り出すとヒロムを倒そうとする。
が、ヒロムはそんな蓮夜を見ると彼に向けて言った。
「オマエの相手はオレじゃない。
コイツにしてもらえ」
ヒロムが指を鳴らすとヒロムと蓮夜の間の空間が割れていき、割れた空間の中から闇にも似た瘴気を纏ったヒロムが現れ、現れた二人目のヒロムは蓮夜を殴り飛ばしてしまう。
「!?」
「……足りねぇ、全然足りねぇな!!」
空間の割れ目から現れたヒロムは蓮夜に向かって走り出すと彼を何度も殴ろうとし、蓮夜は起き上がると攻撃を避けながらヒロムに今現れたもう一人のヒロムについて説明させるべく問い詰めようとする。
「ヒロム、オマエ何をした!!」
「何もしてねぇよ」
「ふざけるな!!
コイツは……」
「そいつはオレが真助に出会って勘違いで発症したことになってた「ハザード」を力に変えて成長した場合のオレだ。
オマエが策を練っても倒せねぇよ」
「成長した場合だと……?
まさか存在するはずのない人間を……」
「ゴチャゴチャうるせぇ!!」
瘴気を纏ったヒロムは蓮夜の言葉を遮るように彼の顔面を蹴り、さらに何度も膝蹴りを食らわせると殴り飛ばし、そして勢いよく助走をつけると高く飛んで飛び蹴りを放って蓮夜にダメージを与えていく。
「ぐぁっ!!」
「足りねぇんだよ……!!
この程度じゃオレの心は満たされねぇぇ!!」
「ただうるさいだけだな……」
ヒロムが指を鳴らすと瘴気を纏ったヒロムは空間の割れ目の中に吸い込まれるように消えていき、空間の割れ目が戻るとヒロムは蓮夜のもとへ瞬間移動し、そして蓮夜の頭を掴んで持ち上げ、持ち上げるとヒロムは蓮夜の両腕に稲妻の刃を突き刺して抵抗できなくすると彼に告げた。
「がっ……!!」
「オマエはこの程度の実力しかないんだよ、蓮夜。
オマエはどう足掻いてもオレには勝てない」
「ぐっ……この……!!」
「その手を離せ!!」
ヒロムに捕まる蓮夜を助けようと真斗は走り出し、真斗に続くように他の部隊長たちも動き出し、そして彼らを支援するようにスバルと蓮華は魔力を纏うとヒロムに攻撃を放とうとする。
……が、彼らの行動を見たヒロムはため息をつくと右足に光を纏わせ地面を強く蹴る。
「……興醒めだ。
もう……終わらせてやるよ」
ヒロムが言うと地面を強く蹴った右足に纏われていた光が炸裂し、炸裂すると周囲に無数の黒い球体を出現させる。
「……エンド・オブ・ホール」
ヒロムが呟くと黒い球体は次々に炸裂し、球体が炸裂すると周囲に小規模のブラックホールが出現して周囲のものを破壊するように飲み込んでいく。
「ブラックホール!?」
「全員逃げろ!!
これは……これに触れたら私たちは終わりだ!!」
ブラックホールの出現にスバルが驚く中で蓮華は全員に逃げるように指示を出した……が、蓮華が指示を出した時、周囲に出現したブラックホールよりも大規模なブラックホールが天に出現する。
「なっ……」
(待ちなさいよ……これが精霊の力を借りる「クロス・リンク」の力だって言うの?
こんなの……)
「私たち能力者を超えてる……」
天のブラックホールの出現に蓮華は実力の差を思い知らされ、そして絶望すると戦意を失い天のブラックホールに吸い込まれるように体が浮いていく。
「母さん!!」
「誰でもいい!!
蓮華様を助けなさい!!」
真斗とスバルは蓮華をブラックホールに飲まれぬように助けようと走り出し、スバルは他の部隊長にも蓮華を助けるように叫んだ。
が、他の無事な部隊長たちはいつの間にか全身を切り刻まれたかのような傷を負って天のブラックホールに吸い寄せられ、ヒロムが倒した獅童、恵那、天津、そして最初にヒロムが倒した蓮夜の部下たちは次々に吸い寄せられていく。
「ふざけたことをしないで!!」
スバルは皆を助けようと烈風を放ち、放った烈風を刃にしてブラックホールを消そうとした。
が、周囲に出現した小規模のブラックホールの影響で烈風の刃はその力を四方八方から奪われながら小さくなり、天のブラックホールに到達する前に消滅してしまう。
「嘘……」
事実だ、とヒロムが冷たく呟くと大地が抉れ、大地が抉れるとスバルと真斗も天のブラックホールに吸い寄せられていく。
「くっ……」
「何とかしてアイツを倒さなきゃ……」
「残念だな真斗。
オマエがこれから抱くのは僅かな望みじゃない。
……オレを敵に回したことへの後悔と絶望だ」
ヒロムが指を鳴らすとブラックホールが突然強い力を発し、その強い力が全てを破壊する嵐を生み出し、発生した嵐がブラックホールに吸い寄せられた全員の身を抉り引き裂こうとするように次々に襲いかかっていく。
「「ああああああああぁぁぁ!!」」
嵐の中で苦しむ蓮華たち。
逃れようとしてもブラックホールの引力の中では逃れられず、そして何も出来ぬ中でひたすらに痛みに襲われていたのだ。
「やめろ……」
蓮華やスバル、真斗、それに他の部隊長たちが痛みに襲われ苦しむ姿を見るしかできない蓮夜はヒロムに言うが、ヒロムは蓮夜を睨みながら彼に告げた。
「己の無力さを理解したか蓮夜。
仲間も救えず、己すら守れぬ弱い男……それがオマエだ」
「黙……」
「黙らせてみろ。
何も出来ないくせに口は動くならやってみろ」
「オマエ……!!」
「オマエがどう思おうが関係ない。
オマエらは……「月翔団」は今日ここで消える」
ヒロムは蓮夜を手放すと蹴り飛ばし、そしてブラックホールを消すと真斗たちを地上に落としていく。
全員が地に伏す形で倒れるとヒロムは天へと浮上し、両手を広げると天に無数の光球を出現させると流星群のように地上に降らせ、地上に降らされた光球は地面に衝突すると爆発を起こして蓮夜や真斗たちを襲っていく。
「「ぐぁぁあ!!」」
「この「クロス・リンク」は「クロス・リンク」を超えた域にある。
あらゆる空間の支配を可能とするメルヴィーと事象と現象を支配するアルマリアの力が合わさった時、銀河すら支配する力を宿したこの「クロス・リンク」は全てを破壊する力となる」




