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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
能力邂逅編
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四五話 覚悟

「オレに触れれば貴様の負けだ、狼角」


両腕、両足が凍りついていくシンクの言葉を聞いた狼角はなぜかため息をつき、そして呆れたような顔でシンクを見ながら言った。


「触れれば負け?

バカを言うなよ、そんな四肢を凍らせたくらいで何になる?」


「言葉通りの意味だ。

貴様はオレに触れれば負ける」


シンクの背中から氷が現れ、さらに四肢を凍らせる氷も少し大きくなっていく。


何かあるのではないかと思いたいが、傍から見れば今のシンクは自身の能力である氷により自滅しかけてるようにしか見えない。


その光景が狼角には残念で仕方なかった。


「大口叩くならもっとマシな格好になれよ。

そんなんじゃオレが触れる云々なんて別の話だろ?」


「どうだろうな。

……オマエが何を想像してるか知らないが、これはまだ形成中だ」


「……何?」


「教えてやろう……オレが「氷牙」と呼ばれる理由を!!」


シンクが叫ぶと、四肢を凍らせる氷が砕けて小さくなっていき、中から人とは思えぬほど鋭い爪を持った氷と同化している腕と脚が現れ、そして背中の氷は巨大な翼と尻尾へと形を変えていく。


シンクの髪は逆立ち、さらに鋭い牙を有した氷のマスクが口元を覆う。


その姿はまるで氷の竜のようで、シンクはその姿になると同時に雄叫びをあげる。



「があああ!!」


「な……」


「……竜装術・氷牙竜。

オマエたち「八神」を倒すために会得した奥義だ!!」



シンクが両手を狼角に向けてかざすと、突如現れた無数の氷柱が狼角に襲いかかる。


「な……!!」



狼角はそれを全て避けるが、気づくとシンクが迫っていた。



先程までとは比べ物にならないほどのスピード。

だが視認できないレベルではなく、むしろ目で見てシンクの姿を捉えることができる。


大したことは無い。

そう思った狼角は構え、迎え撃とうとした。



だが、何故か妙に寒気がする。

シンクが迫ってくる中で狼角はそう感じ、周囲を見たが、何も異常はない。


「……夏だからって寒いのもおかしいよなぁ!!」


「寒い?

……冷たいの間違いだろ?」


シンクの言葉を狼角は理解できず、何を言っているのか考えようとした時、狼角の右腕が音もなく凍りつき、動かなくなってしまう。


「!?」


「夏だからとか訳の分からないことを言うからそうなる」


シンクは一回転すると氷の尻尾をしならせ、そのまま勢いよく狼角に叩きつけて殴り飛ばす。


そしてそのまま両手に氷を集め、吹き飛ばした狼角へと巨大な氷塊を撃ち放った。


が、狼角は受け身をとると魔力を左腕に纏わせ、シンクの放った氷塊を殴り潰す。



「……片腕くらいで調子に乗るな!!」


狼角が叫ぶと周囲に魔力が撒かれ、撒かれた魔力が次々に狼の姿へと変わっていく。


シンクはそれを見ると翼を広げ、少し宙へと浮いた。

そう、狼角に向けてその力を知っているからこそそうしたのだ。


「……狼牙弾撃。

魔力を狼の姿へ変換し、触れたものを爆撃するレグルス・バレットの広範囲版」


「オマエは知ってても後ろの二人は知らないよな?

果たして避けれるかな!!」


「……安心しろ。

アイツらなら避けなくていい」



戯れ言を、と狼角はシンクに吐き捨てるように言うと魔力の狼を一斉に走らせ、シンクを無視させてシオンと真助に向かわせる。


が、シンクはそれを追うわけでもなく氷の爪を鋭くし、ただ狼角を見ていた。


「オマエが巻き込んだ仲間を見捨てるのか?」


「オレが選んだからこそ……仲間として信頼している!!」


「狂雷・波絶!!」


すると真助が自身の能力「狂」の黒い雷で巨大な剣をつくると、魔力の狼を一瞬で薙ぎ払う。


「バカな!?」


予想もしなかった真助の攻撃に狼角が驚いていると、シンクが狼角に殴り掛かるが、狼角は冷静になるとシンクの攻撃を魔力を纏った拳で止める。


「……油断はしてねぇ。

だから……」


「オレに触れればどうなるか、教えたよな?」


「何……」


何を言っている、と狼角が言おうとするとシンクの攻撃を止めた拳が凍りつき、そしてそのまま腕が氷に侵食され始める。


「な……!!」


「言っておくぞ。

この姿のオレは……他人の熱を「喰らう」!!」


シンクが狼角の体に尻尾を巻きつけ、さらに両手で狼角を掴むと、掴まれた場所から狼角が氷に侵食され、体の自由が奪われていく。


「き、貴様……!!」


「……トウマをこの力で殺したかったが、オマエも邪魔になる。

ここで消えろ」


「ふざけるなああ!!」



狼角は叫びながら必死に抵抗しようとするが、次第に全身が氷に覆われ、そして息をしようにも出来なくなってきていた。


息ができない、この状態に覚えがある、

そう、シンクがトウマの体内の水分を凍らせたあの技だ。


「…………!!」


声を出せず、呼吸も難しくなった狼角はただシンクを睨むが、シンクは狼角を手放すと右足に冷気を集中させる。


「……氷牙竜・滅撃!!

アブソリュート・クラッシュ!!」


シンクはその場で後ろへと縦に一回転すると、サマーソルトを行い、そのまま冷気を纏った足で氷に覆われた狼角を蹴りを食らわせる。


シンクの蹴りを受けた狼角は完全に氷に覆われると吹き飛び、勢いよく吹き飛ぶとともに氷が炸裂し、中で全身がボロボロになって倒れていく。


「……とどめを刺す!!」


シンクは倒れた狼角を見ながら巨大な氷の槍を造形すると撃ち放つが、それを突然割って入ってきた獅角が素手で破壊した。


「獅角……!!」


シオンを攻撃しようとして真助に足止めされていたはずの獅角がなぜここに?


シンクはすぐにシオンと真助の安否をその目で確かめると、二人とも無事だった。

どうやら獅角は真助との戦いを放棄してこちらに来たのだ。



「……それがオマエの本気か、氷堂シンク」


「ああ、そうだ。

これがオレの本気だ」


「……「無能」を守るために強くなったかと思ったが、その姿ではヤツの手も触れないな」


「ああ、それでいい。

オレのこの手は……この体は一度罪に染まった。

そんな身でヒロムに触れられるなんて思ってはいない」


「罪、か。

それは「無能」を騙してトウマ様に付き従ったことか?」


そうだ、とシンクは獅角に向かって飛翔し、そして勢いよく殴りかかるが、獅角は簡単にそれを避け、獅子の頭の形をした魔力「レグルス・バレット」をシンクに叩きつける。


「!!」


が、獅子の頭はシンクに触れると凍結し、シンクを軽く後退させると砕け散る。


「なるほど。

触れたものをすべて凍結させるのか」


「……オマエ、狼角を囮にして見極めたのか!?」


「オマエを倒そうとして冷静さを欠いたアイツの自業自得。

オレはオレのやり方でオマエたちを潰す」


獅角は全身に魔力を纏うとそれを炎が燃え盛るように外部へと激しく放出しながらシンクに攻撃を仕掛ける。


シンクに触れたものはすべて凍結すると理解しているはずなのに攻撃を仕掛ける。


シンクも何かあると思い、避けようとするが、獅角の拳の一撃の速度が速く、対応出来ずにそれを受けてしまう。


「がっ……!!」


だが、これで獅角の拳がシンクの体に触れた。

獅角の拳は魔力ごと凍りつき始めるが、魔力が激しく放出され続けているからなのか、凍りつくよりも先に獅角の拳から氷が消えてしまう。


「なっ……!!」


「触れたものをすべて凍結させるなら、それよりも激しく力を放ち続ければいい。

ただそれだけだ」


「この脳筋が……!!」


次の攻撃を放とうと構える獅角に対してシンクは負けじと攻撃を放ち、二人の攻撃がぶつかると同時に力の衝突により大きな衝撃が生じ、シンクは少し押し返されてしまう。


「……!!」


「ここまで魔力を放ち続けるのも久しいな。

さすがはトウマ様を倒せると豪語していただけはある」


だが、と獅角が全身の魔力を大きくするとともに暴発させると強い衝撃波が生じ、シンクを勢いよく吹き飛ばす。


「くっ……」


「経験の差がオレとオマエでは違う」


「この……」


代われ、とシンクが体勢を立て直すよりも先に真助が黒い雷を纏いながら走り出し、獅角へ妖刀「血海」で斬りかかる。


が、獅角はそれを避けると反撃するように真助を殴るが、殴られた真助はその攻撃を耐え、さらにダメージも「血海」の力により消えていく。


「厄介な妖刀だ」


「そうか?

最高の妖刀だ!!」


真助は笑みを浮かべると全身の黒い雷を「血海」に集めて獅角に向けて放つ。


が、獅角はそれを防ぐことはせずに避けると魔力で巨大な獅子を出現させる。


「あ?」


「レグルス・ハウリング」


魔力の獅子が雄叫びをあげると、衝撃波が放たれ、真助を吹き飛ばし、離れているはずのシンクとシオンまでもがダメージをうけてしまう。


「がああ!!」

「うああ!!」


「三対一でもオレは誰にも負けない。

それがトウマ様に仕えるために誓ったオレの覚悟だ」


この、とシオン、シンク、真助は立ち上がると構える。

そしてシオンは深呼吸をすると前に出た。


そのシオンにシンクと真助は何か言うわけでもなくただ黙っていた。


だが獅角だけはシオンに対して、ただただ戦意を削ぐように口を開く。


「貴様らの中で一番弱いと理解してないのか?

無様に負けるだけの力しかないオマエに何が出来る?」


「……知るか」


「知るか、か。

呆れたものだ……そんな覚悟で……」


「覚悟なんて知らねぇ……!!

オレはただ戦いたいから……」


「その程度の覚悟で戦えるとでも思ったか!!」



獅角が再びシオンに対して「レグルス・バレット」を放ち、シオンを倒そうとするが、それに気づいた真助はシオンの前に立つと黒い雷で消し去る。


そして真助は黒い雷を体から消すと右手の拳を強く握り、シオンの顔を思いっきり殴った。


「!!」


突然のことで反応出来なかったシオンは殴られた勢いで後ろに倒れ、真助を見上げるような状態で睨みつけた。


だが真助はそれを気にせず、シオンに対して告げる。



「まだ理解してないようだな……。

今のオマエが今までと違うってことを」


「何……?」


「考えろ。

オマエの傍に何があるのかを」


「オレの傍に……?」


真助の言葉、それは何かしら意味がある。

シオンはただ静かにそれが何かを考えた。


「……」

(オレの傍にあるもの……)


シオンは今に至るまで、つまりはヒロムと出会ってからを振り返り始めた。


すべては八神トウマがヒロムを始末するよう取引に来たとから始まり、そしてシンクから意味深なことを言われた。


ヒロムと戦おうと狙いを定めたが、ソラとイクトと戦うことになり、あと少しで倒せるであろうところで駆けつけたヒロムと戦ったが、あの男の強さに何も出来ず、挙句苦手な女の精霊にやられた。



思い出しただけでも腹立たしい!



だが……


『 オレが逃がしてやる』


敵として戦い、命を狙っていたであろう自分を救おうとしたヒロムの姿に、「覇王」としてではなく、「姫神ヒロム」としての人間性を理解し、だからこそ興味を持ち、力を貸そうと決意した。


だからこそ姫神飾音を説得してまで助けに向かった。


ああ、そうか……


シオンはふと自分の中にあるわずかなこの感情に気づき、それを思わず声に出してしまう。


「……オレはアイツの仲間になりたかったんだ」


シオンは雷を纏うと拳を強く握り、そして真助に向けて今の自身の答えを伝えた。


「オレは退屈しないからと言って力を貸そうと決めた。

仲間と言われても否定した……「八神」の刺客が来るなら強いヤツと戦えるからこそそう言ったんだ。

けど……本当は強くなるためにヒロムとともに戦いたいと思っていたんだ」


「……それで?」


「まだ何かを守るために戦うことについてはわからない。

だけど……」


シオンの脳裏に一人の少女の笑顔が浮かび、そして彼女の言葉が響く。


『 シオンくん!!』


彼女の、雨木ハルカのことを思い出したシオン。

苦手な女である彼女と過ごした日々を思い出すと、なぜか心が安らぐ……。


そして、苦手な女である彼女を失いたくないとも思っている。


「……だけどな、今のオレには傷つけたくないものがある!!

オレのことを思い、名を呼ぶ存在が……守りたい存在が!!」


シオンの言葉に呼応するかのように雷は激しく轟き、そしてシオンの意思に関係なく獅角を貫こうと襲いかかるが、獅角はすべて魔力で防いでしまう。



そんな中、シオンの言葉を聞いた真助はため息をつくと、「血海」を鞘に収めて引き下がる。


「……「狂鬼」?」


「愛の力とはな……。

予想外だが、オマエがそれでいいなら何も言わないさ」


だから、と真助は獅角を見ながらシオンに対して告げる。


「アイツを倒して証明してみろよ」



「……指図するな」




シオンは獅角に向かって歩いていき、獅角に向けて殺気を放つ。


「……何をしても貴様では勝てんぞ?」


「だからこそ、この力を試す」


シオンが足を止め、そのまま構えると身に纏う雷が次々にシオンの体の中へと入り込んでいく。


「……リミット・アウト!!」


シオンの声とともにシオンの中で何かが弾け、シオンの体が雷へと変化していく。

いや、雷へと変化していくというよりは体が部分的に雷と同化し、髪が少し長くなっていた。


「雷鳴王!!」



「……貴様も見た目だけか?」


「安心しろ……」


シオンは首を鳴らし、そのまま姿を消す。

それでも速度が上がっただけだと考えた獅角は魔力を纏い、防ごうとした。

が、その獅角が意表を突かれることとなった。


「オレはさっきまでと違う」


獅角が魔力を纏う前にシオンが音もなく獅角の横に現れ、それを認識した時には爆音が轟き、獅角が雷とともに吹き飛ばされる。


「!!」


「今のオレは雷そのものだ。

そして、オマエは雷への恐怖で倒れる」


いいや、とシンクが飛翔し、獅角に狙いを定めながらシオンに告げる。


「そいつはひれ伏すことになる……

オレたち二人の力の前に!!」


「シンク……」


「援護する。

オマエは好きに暴れろ、シオン!!」

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