四四六話 余地の無い取引
「ここに来た理由は他でもない。
これ以上の死傷者を出したくないなら「月翔団」の解体、および「姫神」の全てを抹消しろ!!」
ヒロムが告げた言葉、それを聞いた蓮夜は平常心を保てず顔を強ばらせ、ゼロに首を掴まれている導一は苦しそうにしながらもヒロムに向けて話し始めた。
「ひ、ヒロムくん……。
キミは今、自分が何を言ってるのか……分かってるのか?」
「分かってるから言ってんだろ。
それに……敵を倒して疲弊してるところに獅童送りつけて最初に仕掛けたのはオマエらだ。
オレはその報復に来た、それだけだ」
「報復?
大人に守られて生きてきたオマエが何を……」
間違えんなよ、とヒロムは蓮夜に冷たく言うと続けて蓮夜と導一……いや、これまでの「月翔団」や「姫神」への不満を吐き出すかのように話していく。
「飾音と愛華はオレを遠ざけた。
そして蓮夜、オマエはオレを見張りたいがために無実の人間を罪人にするような真似をし、そして関与したくないことには関与せずにオレたちに任せっきりだったよな。
何より導一……オマエは散々低姿勢でオレに当主の座を押し付けようとしておいて今更その座についた人間らしく振る舞おうってのか?」
「違う……オレはキミを、助けたいんだ……!!
キミがこれ以上……道を間違えないように……!!」
「道を間違えないように?
そうさせたのは飾音の思惑に気づかなかった「八神」と飾音や愛華の企みに目を瞑ってたオマエらだ」
「愛華はオマエのためを思ってやったんだろうがァ。
飾音だって……オマエを愛してたからそうしたんだろ」
「オマエが偉そうに語るなよ……蓮夜。
「姫神」を守るしか出来ない程度の強さで偉そうにしやがって」
「おい、言葉に気をつけろ。
オマエのわがままを散々見逃してきたのは誰だと思ってやがる?」
「オマエだって言いたいのか蓮夜?
笑わせんなよ……何か起きても後からしか関与しない卑怯者が偉そうに語るなよ」
「オマエ……!!」
動くな、と「月翔団」の団員は武器を構えるとヒロムとゼロに向けて構え、ヒロムは武器を構える団員を冷たく見ながら忠告した。
「……雑魚は引っ込んでろ。
無駄に死人を出すだけだ」
「団長への非礼を詫びろ。
一人の少年が大人のやる事に口を出すな」
「……あ?」
「団長も導一様もキミを思って選択して行動している。
キミはそれを無下にするのか!!」
「……頭の中お花畑か?
コイツらの決断は厄介事が起きそうになったからだろ。
オマエらはそれに付き合わされてる、それに気づいてないのか?」
「我々は強い信念のもとで集う戦士だ。
団長の判断には必ず従う、それだけだ」
「そこのオマエ、導一様から手を離せ!!」
ヒロムの言葉に対して一人の団員が答えると別の団員がゼロに対して導一の首を掴む手を離せと指示するが、ゼロは団員の言葉を無視するかのように笑うと導一の首を掴む手に力を入れる。
「あっ……!!」
「やめろ!!」
「やめるわけねぇだろ。
コイツの頭脳は戦場では厄介なんだろ?
なら厄介なのを消すのが戦いの道理ってもんだ」
「外道が!!
導一様から離れろ!!」
「外道で結構。
オレはヒロムのためならこの手も汚す」
それに、とゼロがヒロムに視線を向けるとヒロムは団員を冷たい目で睨みながら首を鳴らし、そしてヒロムは蓮夜に告げた。
「……三秒やる。
雑魚を下がらせろ」
「なら導一を離せ。
それが条件だ」
「分かってねぇな……オマエ。
今のオマエに交渉の余地はない」
「何?」
「……三秒経ったな。
ゼロ、何か縛りくれ」
「縛りねぇ……。
なら精霊の召喚禁止だ」
分かった、とヒロムは武器を構える団員たちの方に歩き始め、団員たちは歩き寄ってくるヒロムの方を向きながら武器を強く握り構えていた。
ヒロムが団員に迫っていく中、蓮夜は苛立ちを抑え切れずに舌打ちすると団員に命令した。
「全員に告げる!!
姫神ヒロムを倒せ!!
五体満足でなくていい!!
そいつを倒せ!!」
「了か……」
了解、と団員一同が叫ぼうとした時、ヒロムは団員たちの中心に立つように一瞬で移動し、それに気づいた団員がヒロムの方を向こうとするとヒロムは団員を次々に殴り飛ばしていく。
「……さて、戦争の始まりだ」
「攻撃開始!!」
「はぁぁあ!!」
団員の一人が叫ぶと武器を構えた団員たちが次々にヒロムに攻撃しようと迫っていくが、ヒロムは団員たちの攻撃を簡単に避けると顔面を殴り蹴り、そして倒れかけた団員の頭を掴むと地面に強く叩きつけて気絶させる。
それでもまだ迫ってくる団員はヒロムに攻撃を放っていくが、ヒロムは団員たちの攻撃を避けると面倒くさそうにため息をつくと左手首の金色のブレスレットに右手をかざす。
「召喚禁止でも借りるのはアリだよな?」
ヒロムが微笑むと金色のブレスレットが光り、光が変化して大剣になるとヒロムはそれを掴んで自身を包囲して攻撃しようとする団員たちを薙ぎ払って吹き飛ばす。
「ぐぁっ!!」
「コイツ……!!」
「……召喚禁止でもアレはアリだな」
団員たちがヒロムの大剣に吹き飛ばされ彼を警戒する中、ヒロムが大剣を装備したことにゼロは少し呆れながらもどこか面白そうに見ており、ヒロムは大剣を地面に刺すとブレスレットを光らせ、次に銃剣を装備して炎弾を放ちながら団員を倒していく。
「ぐぁっ!!」
「がぁっ!!」
「まだまだここからだぜ?」
ヒロムがさらにブレスレットを光らせると拳銃が現れ、ヒロムはそれを左手で構えると両手に持つ二つの銃器で魔力の弾丸を掃射して次々に団員たちが負傷させていく。
「アイツ……!!」
ヒロムに倒されていく団員たちを見て怒りを抑えられなくなった蓮夜はヒロムと倒すべく走り出そうとした……が、そんな蓮夜の足下に向けてゼロは短剣を投げ刺すと導一の首を掴む手に灰色の稲妻を纏わせながら彼に告げた。
「オマエは最後だ、団長殿よ。
オマエはそこで部下が倒されていくのを見てろ。
でなきゃ……大切な当主代理の首が胴体から落ちるぞ?」
「……くっ!!」
ゼロの言葉に従うしかないと悟った蓮夜は拳を強く握ると自分の足を殴り、彼はただ動けぬままヒロムが団員を倒すのを見るしかなかった。
「うわぁぁぁ!!」
「きゃぁぁあ!!」
いつの間にか武器を槍と斧に持ち替えたヒロムは団員の武器を破壊しながら倒していき、倒しても起き上がろうとする団員には斬撃を放って完全に意識を失わさせる。
そして……
「はぁぁあ……はぁっ!!」
ヒロムは槍に光、斧に闇を纏わせると回転しながら周囲を薙ぎ払うように一閃を放ち、一閃を放つと共に解き放たれた光と闇が団員たちを吹き飛ばし、そして周囲の建物などを破壊していく。
気づけば三分の二以上の団員がヒロムに倒され負傷して地に伏せており、そして残りの団員はヒロムの強さに臆してるのか少しずつ後退りしていた。
「こ、コイツ……強すぎる」
「こんなの勝てるわけねぇ……」
「何なんだよ……コイツ……」
「何なんだよってか?
なら教えてやるよ……絶望することも知らない雑魚が」
ヒロムが武器を投げ捨てると全身に稲妻を纏う。
そして……ヒロムが地面を強く蹴って走り出すと共に姿を消すと残っている団員は強い衝撃に襲われて吹き飛ばされ、吹き飛ばされた団員は無数の衝撃波と斬撃、そして炸裂する稲妻に襲われて負傷しながら倒れていく。
「ぐぁぁぁあ!!」
倒された団員が地に伏すとヒロムは立ち止まり、身に纏った稲妻を消すと蓮夜の方を見る。
蓮夜の方を見るヒロム、そのヒロムの周囲には先程まで武器を構えていた団員たちが為す術もなく倒され、負傷して無様に倒れていた。
倒れる団員、負傷した団員……その団員の姿を見た蓮夜はヒロムに怒りを向けて叫ばずにはいられなかった。
「ヒロム!!
これがオマエの選んだ答えなのか!!
こんなことが……オマエの望むものなのか!!」
「そうだよ。
こうやって解決するならこうしてやる。
でなきゃユリナたちは安心してくれない。
オマエらが襲ってくるかもしれないと怯えるユリナたちを守るためならこんなことを続けてでもオマエらを潰す」
「オマエ……!!」
「待てっ……!!」
淡々と語るヒロムに蓮夜は感情を露わにするが、そんな中導一はヒロムにある事を伝えようとした。
「ヒロム、くん……。
我々が、悪かった……。
今後はキミたちから……手を引く……。
キミが望むとおりに……彼女たちに、危害を加えぬように……」
「は?」
導一の言葉を聞く中、ヒロムは一瞬で導一の前に移動するとゼロに彼の首を掴む手を離させると今度はヒロムが導一の胸ぐらを掴み、そして彼に向けて忠告した。
「オマエらに交渉の余地はない。
オレが望むのは「月翔団」の解体と「姫神」の全ての抹消だ。
オマエらがユリナたちに危害を加えないとか今更言っても話は終わらねぇんだよ」
「ま、待ってくれ……!!
何故そこに拘るんだ?
何故「姫神」や「月翔団」を消すことに……」
「オマエらが先に宣戦布告してきたんだろ?
従わないのなら殺す、オレはオマエが信頼する蓮夜にそう言われたんだ」
「それはキミを……」
「オレがいたから飾音や愛華は道を間違えた、蓮夜はオレにそう言ったんだ」
「……っ!!」
ヒロムの口から出た言葉、それを聞いた導一は蓮夜の方を見、視線を向けられた蓮夜はヒロムに言った言葉を思い出していた。
『元々はオマエがいたからだ。
オマエがいなければアイツらは道を間違えなかった』
「あの言葉か……」
「蓮夜、どうしてそんなことを言ったんだ……!!」
「他人事のように言ってんじゃねぇぞ、導一。
愛華の兄であるオマエと愛華の姉である蓮華が殺害方針を固めたんだろ?」
「それはキミが素直に聞き入れなかった場合だ!!
今は……」
「今がその時だ」
ヒロムは導一を投げ飛ばすと蓮夜を冷たく睨み、そしてゼロがヒロムの隣に並び立つと二人は蓮夜を睨みながら構えた。
「覚悟は出来てるよな……蓮夜」
「ヒロムのために……オマエを殺して「月翔団」を終わらせてやる」
「……そうかよ。
なら……仕方ねぇな」
ヒロムとゼロの言葉に蓮夜はため息をつくと指を鳴らし、彼が指を鳴らすとどこからともなく獅童士門や天宮スバル、そして「月翔団」の部隊長を務める能力者たちが次々に現れる。
さらに……
愛華の姉である蓮華も現れる。
「月翔団」の主戦力とも言える部隊長が揃うと蓮夜はヒロムに向けて告げた。
「これだけの戦力を揃えた。
奇襲攻撃から察するにソラとシオンを待機させてるとしても無駄だ。
この数を相手に……」
「何言ってやがる?
ここにはソラもシオンもいねぇよ」
「……何?」
「それに吐き違えるなよ、蓮夜……。
この程度の人数でオレたちは止められない……それを教えてやるよ」




