四四五話 冷酷な選択
黒川イクトは鬼月真助を連れてある場所に来ていた。
何の意図があるのかはさておき、付き合わされている真助はどこか退屈そうにあくびをしていた。
「ふぁ〜……」
「真助……少しは真面目に手伝えよな」
「朝から慌ててオレを屋敷から連れ出したかと思えばこんなことに付き合わされてんだ。
嫌にもなるだろ」
「屋敷から連れ出すって言うかオマエが一番退屈そうにしてたからなんだけどな」
「……理由が納得できねぇな」
「退屈そうにしてたのは事実だろ?
だったらいいじゃん」
「だからってな……こんな場所に連れてくるか?」
愚痴をこぼす真助、その真助がイクトに連れられて来ている場所、それは……
ショッピングモールの雑貨屋だった。
イクトは何故かその雑貨屋で何かを探そうとしており、真助はそれをそばで見ているだけだった。
と、いうか真助からしたらイクトとこの場にいる意味が分からないのだ。
何故彼は自分を連れてショッピングモールの雑貨屋に来たのか?
何故こういう事に詳しいガイやソラ、ましてユリナたち女子ではなく自分を連れてきたのか?
真助はイクトの一連の行動とそれに伴う考えについて理解出来なかった。
「……なぁ、イクト。
何のためにここに来たんだ?」
「え?
真助もオレと一緒にキーホルダー適当に買って大将みたく霊装とかいうの手に入れたいと思わないの?」
「何だよその適当な理由……。
つうか無理だろ?
あれはヒロムだから起きた奇跡であって……」
「いや、さすがに冗談なんだけど……。
本気で思ってると思われると恥ずかしい」
「……なら最初からそう言え」
イクトの言葉の解釈を間違えた真助は少し恥ずかしそうに言い、イクトはそんな真助に詫びるように言うと話題を変えるように話していく。
「ごめんって、オレの言葉不足だった。
その……ここに来たのは相談したいことがあったからだ」
「相談?
オマエがか?」
「そっ、このオレが真助にね。
まぁ、そんな大した事じゃないけど……真助はもう気づいてるよな?」
「オマエが悩んでることについてか?」
「まぁ、悩みではあるけど……クロムと戦ってる時に「月翔団」の人間が遠くから偵察してた事、気づいたろ?」
「……その件か」
真助には思い当たる節があるらしく、その反応を見たイクトは彼に少し近づくと周りの客には聞こえないようにある事を伝えた。
「ここに来るまでの屋敷からの道中にも「月翔団」の人間が潜伏してた。
下手したら……こなショッピングモールの中にも潜んでるかもしれない」
「ヒロムを狙ってるなら当然かもな。
けどヤツらは何故何も仕掛けてこない?
それにオレたち二人だけなら……」
「その二人を相手にしようとしても回せる人員が少ないんだろうな。
それに「月翔団」が狙ってるのは大将ただ一人、オレたちはそのおまけ程度に思われててもおかしくない。
大将を効率よく狙うためにオレたちを監視してるって可能性もあるからな」
「仕方ねぇ、どっかに誘き寄せて始末……」
それはダメだ、とイクトは真助の提案を最後まで聞くことなく言うと続けて彼の提案を聞き入れない理由について話した。
「こっちが先に手を出せば向こうは都合よく事実を改竄して大将が抵抗できない状況を作り出す可能性が高くなる。
向こうが手を出してこないのならオレたちも出さない、それ以上の最善策はない」
「最善策、ね。
結局はあの鎧のヤツらの対処法と同じように待つしかないってことか」
「一番もどかしいやり方なのは間違いないけど向こうと違ってこっちには姫さんたちがいる。
姫さんたちが人質にでもされたら……オレたちは負けたも同然だ」
「そこまでして勝とうとするような愚かなヤツらなら尚更情け無用で殺しにかかるけどな。
ヒロムもそのつもりなんだろ?」
「まぁ大将はただ「月翔団」に対して不満があると言うよりは団長である蓮夜さんに不満があるみたいだし、その辺は……」
イクトが真助と話しているとイクトのポケットに入れられた携帯電話が鳴り、イクトは話を止めると携帯電話を取り出して着信に応じるように通話に出た。
「もしもし。
……大将?
あ、ああ……分かった」
「?」
すぐに終わった電話、イクトは携帯電話をポケットに入れ、イクトの電話の内容が気になる真助は彼に質問した。
「大将って言ってたってことはヒロムだよな?」
「うん」
「ヒロムは何て?」
「……オレたちが思ってる以上にヤバいこと始めるつもりだよ。
とりあえず……一度屋敷に戻って夕方に備えよう」
「夕方……?」
イクトの言葉の意味が分からない真助は不思議そうに言うと彼と共に屋敷に戻るべく雑貨屋を後にしようと歩いていく……
***
時間は昼過ぎ……
屋敷。
お昼ご飯を食べ、遊び疲れた飛天とナッツ、キャロとシャロはソファーの上で仲良く集まってお昼寝をしており、ヒロムは飛天たちが寝ているのを確認するとリビングから出ようとする。
「さて……」
リビングを出るべくヒロムは扉を開け、そして部屋の外に出た。
すると部屋の外……廊下でユリナと鉢合わせた。
「ヒロムくん?」
「よぉ」
「飛天くんたちは?」
「昼寝してる。
かなりはしゃいでたから疲れたんだろうな」
「そっか。
飛天くんね、ずっとヒロムくんと遊ぶの楽しみにしてたみたいなの」
「らしいな。
遊んでる時も凄く嬉しそうに喜んでたよ」
「そう、だね……」
ヒロムと話すユリナ、ユリナは何故か少し暗い顔をしていた。
それに気づいたヒロムは彼女に声をかけ、何があったのか訊ねようとした。
「ユリナ?
何かあったのか?」
「……あのね、ヒロムくんには申し訳ないんだけど……」
「?」
「今、一瞬ヒロムくんの表情で何考えてるか読んじゃったの」
「ああ……久しぶりのことで忘れてたな」
ユリナのしたこと、それは彼女がヒロムにのみ行える特殊な技だ。
表情の変化の少ないヒロムの表情や仕草、その時の雰囲気などからユリナはヒロムの考えてることを百発百中で言い当てる読心術のような技を持っている。
そしてユリナはそれでヒロムの考えを読んでしまったのだ。
ヒロムはユリナのその技のことを理解しているが、ここ最近はバタバタしてたせいかすっかり忘れていた。
「……止めるよな?」
「止めたいけど……止めるのはダメだと思ってるの。
だって……ヒロムくんは私たちのためにそれをやろうとしてるんだよね?」
「……まぁな。
このままじゃいろんな所から敵が来る。
だからオレが先手を打って何とかするよ」
「……一人で行くの?」
「ゼロがいるし、フレイたちがいる。
それにちゃんと帰ってくるさ。
もうすぐ七瀬アリサが主催してくれる夏の観光があるからな。
ユリナたちと楽しい思い出の一つや二つ作りたいし……今まで迷惑かけた分の埋め合わせもしなきゃだしな」
「……そっか。
うん、気をつけてね」
ああ、とヒロムはどこかに向かうように歩いていき、ユリナはそのヒロムの背中を見ながら涙を浮かべていた。
「……」
「止めなくてよかったのか?」
ユリナが涙を浮かべているとゼロが彼女に歩み寄り、ユリナは涙を拭うとゼロに言った。
「私にできることはヒロムくんの帰りを待つことだから。
止めて足引っ張りたくないし……」
「引っ張ればいいだろ」
「え?」
「オマエのやるべき事は待つことじゃない。
ヒロムが無茶しそうになったら止める、それもオマエのやるべき事だ」
「ゼロ……」
「今回は危なくなったらオレが止める。
けどこれからは……オマエがヒロムを止めれるようになってくれ」
「……うん」
ユリナの返事を聞くとゼロは微笑み、そしてヒロムを追いかけるように消える……
ヒロムの姿が見えなくなり、ゼロが消えるとユリナは気持ちを切り替えるように深呼吸をしてリビングへと入っていく……
***
とある施設。
周囲は山林に囲まれ、そしてそこには黒い軍服のような装束を纏った男や女が立っており、その中心には白崎蓮夜が立っていた。
そして……
蓮夜のそばには「姫神」の当主の代理を務める姫神導一の姿があった。
「蓮夜、カルラとロビンの行方は?」
「しぶといヤツらだァ。
オレの部下の追跡を振り払って逃げ切りやがったァ。
まァ、ここに集めた「月翔団」の先鋭に本格的な捜索をさせるから安心しろ」
「……残酷かもしれないけど彼らにはヒロムくんを拘束するための餌になってもらわなきゃならない。
最小限の被害で拘束して欲しい」
「分ってるさ、導一。
全てはオマエの妹が守れなかったヒロムを守るため、だろォ?」
「……本当はやりたくない。
だけどいろんな所から現れる敵が彼を狙うなら……もう彼を野放しには出来ないよ」
「ショッピングモールと屋敷周辺で張り込んでたオレの部下の情報だとアイツ含めた「天獄」の全員は屋敷に集まっている。
あの様子だとこっちの動きに気づいてるぞォ?」
「だけど彼らは手を出せない。
彼らが手を出せばオレはそれを盾にして彼の動きを封じる」
「……容赦ねぇな」
「容赦はしないよ。
誰かが彼を止めなきゃならないならオレが止める。
彼をこれ以上孤立させないためにも……」
導一が蓮夜に話す途中、どこからか勢いよくビーム状の炎が飛んできて付近の建物を破壊していく。
「!!」
建物が破壊されると蓮夜は慌てて導一を守ろうと炎が飛んできた方を向いて構えるが、蓮夜が構えると今度は上空から落雷が次々に地上に降り注ぎ、落雷が降り注ぐと蓮夜の部下である「月翔団」の団員の三分の一が落雷に襲われて負傷してしまう。
「ぐぁぁあ!!」
「がぁぁあ!!」
「蓮夜!!
これは誰の攻撃なんだ!!」
「分からねぇ!!
けど、これは間違いなくアイツらだ」
(炎はソラの、落雷はシオンの能力で間違いない。
となれば……)
「導一、オマエの読みが外れたな。
ヤツらはなりふり構わず襲って……」
「そうだね……いや、そうだな蓮夜。
けど、これはオマエがそうさせた」
「導一、何……」
導一の突然の言葉に思わず聞き返してしまう蓮夜。
蓮夜は聞き返すとともに導一の方を向くと……導一はどこからか現れたゼロに背後から首を掴まれ、そしてゼロは短剣を導一に突きつけていた。
「オマエ……!?」
「よぉ、「月翔団」の団長さんよ。
オレとは初めましてだよな?」
「どうやってここに……」
簡単な話だ、と「月翔団」の団員の一人がゆっくりと蓮夜の方に向かって歩き出すとともに団員は霧に包まれ、団員が霧に包まれるとヒロムへと姿を変える。
「ヒロム……!?」
「よぉ、蓮夜。
それと……導一も一緒か」
「ヒロム……くん……。
これは、一体……?」
取引だよ、とヒロムは蓮夜を冷たく睨みながら彼と導一にある事を告げた。
「ここに来た理由は他でもない。
これ以上の死傷者を出したくないなら「月翔団」の解体、および「姫神」の全てを抹消しろ!!」




