四四二話 激闘終天
クロムという敵を倒したヒロムたち。
戦いが終わるとフレイたち精霊は力を合わせて倒壊しかけていた屋敷を修復し、そして体の負傷の激しいヒロムたちは七瀬アリサの治癒術と精霊・ユリアの治癒術、そしてユリナたちの献身的な手当てを受けていた。
「痛……っ!!」
ユリナの手当てを受けるヒロム。
消毒液を傷口にかけられると痛みを感じた拍子に声を出してしまい、それを聞いたユリナは申し訳なさそうにヒロムに謝った。
「ご、ごめんね?」
「……いや、大丈夫」
「うん……」
「葬式かよ」
ヒロムとユリナがどこか気まずそうにしてるとソラがやって来てヒロムの近くに座ると彼はヒロムにある質問をした。
「お得意の「復元」は使わないのか?」
「そ、ソラ!!
それは……」
「大丈夫だよユリナ。
もう「復元」は使えないからな……」
「使えないからって……もしかして使えなくなったの?」
「あの力が消えたのか?」
「正確には元々の持ち主が持っていっただけだ。
あれは……「復元」はクロムがオレの体を無傷で手に入れるためにオレに仕込んだ力だ。
体の傷が無くなる代わりに時間差でダメージが来る仕組みにしたのはクロムがオレの力と体の全てを奪うためのきっかけにしようとしてたのさ」
「そうか……時間差でダメージを与える仕組みにしたのはその痛みからの苦痛の中に負の感情が生まれるようにして自分の力になるようにしてたってことか」
「そうらしいな。
けど……アイツがオレから全てを奪おうとした時に体から抜けたからもう無くなったも同然なんだ」
「……後悔してるのか?」
まさか、とヒロムはソラの言葉に対して一言返すと続けて「復元」の力に対しての自分の思いをユリナにも聞かせるかのように話していく。
「あの力があるとオレは無意識に無理して後で痛い目に遭う。
それが今後続けばオレは怪我するってことへの概念無くなって無茶しかしなくなるだろうし、そのうちまた誰かを泣かせるかもしれないから……ある意味じゃ無くなってくれて感謝してるよ」
「ヒロムくん……」
「……オマエがそれでいいならオレは別に何も言わねぇけどな」
「そういやソラ、怪我の方は?」
「ノアルが「魔人」の力で再生したのと同じようにオレも再生した」
「あの怪我を再生したのか?
それって……」
「確実に「魔人」の力が強くなってる。
けど……これはオレが望んだこと、オマエは気にしなくていい」
ソラはヒロムに対して冷たく言ってそれ以上ヒロムに何かを言えなくするとどこからともなく自身の精霊である子猫の精霊・キャロとシャロを抱き上げるとヒロムの膝の上に乗せた。
「ニャー」
「ナー」
「オマエが倒れた時、ずっと鳴いてたんだ。
しばらくは愛でてやってくれ」
「……そのために来たのか?」
「そんなわけないだろ。
……クロムに全てを奪われたはずのオマエが何故ゼロと手を組んだのか、それを聞きに来たのさ」
「それはオレも聞きたいな」
ソラが本題に入ろうとするとバッツがヒロムのもとへやって来る。
そしてバッツはヒロムに説明させようと問う。
「あの数時間にも満たない間に何があった?」
「……何故飾音がバッツに精神の深層の話をし、何故「八神」との戦いの時にオレの中に闇を埋め込んでゼロを誕生させたと思う?」
「?」
「飾音がバッツに精神の深層のことを話したのは深層の中に封印されているクロムの存在を知らせるため、そしてゼロを生み出したのは万が一の時……クロムがオレの力と体を奪った際に精神の深層の先にある真理に到達して全てを知るための布石にしていたのさ」
「回りくどいな。
最初からバッツに全てを話しておけば……」
「それは違う、ソラ。
飾音があえてバッツに全てを話さなかったのはクロムが精霊の記憶に干渉することを知っていたからだ」
「……オレが全てを聞いていたとすれば、クロムに接触した昨日の夜に全てを悟られてヒロムはクロムを倒せなくなってたってことか」
そういうことだ、とヒロムが言うとバッツとソラは納得したのかそれ以上探ろうとしなかった。
が、ユリナは何か気になることがあったのかヒロムに対してある事を訊ねた。
「ねぇ……ヒロムくんって今どうなってるの?」
「?」
「ほら、「ソウル・ハック」の力を使ったことでヒロムくんは魂が人から精霊に変化しつつあったでしょ?
今のヒロムくんってどうなの?」
「それは……」
「それは私からお話しましょう」
ヒロムが説明に困って言葉を詰まらせていると精霊・メルヴィーがヒロムのもとに現れ、現れるとユリナの疑問に対しての説明を始めた。
「今のマスターは完全な人の魂に戻っています。
ですから安心してください」
「待てよ。
ヒロムの「クロス・リンク」は魂を精霊に昇華させるから行えたんじゃ……」
「少し違いますね。
マスターがあの時到達した「ソウル・ハック」と「クロス・リンク」の力はマスターの中の不完全に目覚めている力をマスター自身が強引に発動しようとしたことで生まれた偽りの力、そしてクロムの記憶改竄を受けたセラの説明によって誤解のまま完成したのが「ソウル・ハック」なのです」
「つまり……どういうことだ?」
「分かりやすく言いますと「ソウル・ハック」はマスターが力を得たと錯覚させ、精神を入れ替えてもすぐに安定するようにクロムが細工したマスターの不完全な力という事です」
「じゃあ今までヒロムが使ってた力は……」
「バッツ、アナタが今考えてる通りです。
マスターがこれまで使ってきた力は全てクロムがわざわざ体と力を奪うために用意した偽りの力です」
「……だからリュクスはオレのことを偽りの覇王って呼んだんだな」
「クロムに与えられた偽りの力を使う覇王……だから偽りの覇王ってことか」
ですが、とメルヴィーはヒロムのこれまでの力について話す中で「エボリューション」の力についての話をしていく。
「エボリューションだけはクロムも想定していない力でした。
鬼桜葉王がマスターのお母様から預かったと言うパラドクスの石版によってマスターの中の可能性が解放され、完全に精霊を解放していないマスターは強引に発動する形でエボリューションを発動させたのです」
「けど発動できた」
「それはマスターが強引に発動しようとしたことでエボリューションの力が本来の形を忘れて不完全な状態を完成と思い込んだことで維持出来ただけなんです。
実際にクロムもマスターのエボリューションの真の姿については知らなかったようですしね」
「……エボリューション・リンクとエボリューション・ブレイク。
凄まじい力を纏い、あらゆる可能性が膨れ上がるかのような感覚だった」
「ですがマスター、あの力はあまり酷使しないでください」
「?」
「今のマスターは四十二人の精霊全てを宿し、そしてゼロを精霊として共存させています。
今のマスターは許容量を大きく超えて動いている状態、過度の使用は肉体の限界を迎えて倒れる要因になってしまいます」
「そんな……対策はないんですか?」
メルヴィーの説明に不安を隠せないユリナは彼女に何か策はないかを訊ね、訊ねられたメルヴィーはヒロムの左手首の金色のブレスレットを見ながらある事を話した。
「一つだけ方法はあります。
ですが時間がかかり、今すぐには対策として採用出来ません」
「その方法っていうのは……?」
「マスターはご自身の霊装……その金色のブレスレットを完全に使いこなせていません。
その証拠にゼロは霊装の力「ソウル・レイジング」を発動出来たのに対してマスターは霊装の力の一部である金色の稲妻を纏うことしか出来ていません」
「……」
「つまりヒロムがその霊装の力を使いこなせればエボリューションはクロス・リンクに並ぶ力になるって事だな?」
「ええ、そういうことになります」
「……ならどうにかして使いこなせ」
ソラはヒロムに言うと立ち上がり、立ち上がるとヒロムに向けて告げた。
「この先、オマエは確実に敵に命を狙われる。
「復元」の力無き今のオマエは少しのダメージも命取りになる。
そうならない為にも……オマエは自分の全てを制御しろ」
「分かってる」
「頼むぞ。
……オマエがいなきゃオレの生きる意味はなくなるからな」
ソラは最後に小さな声で呟くと去るように歩いていき、バッツはそんなソラについて行くように歩いていく。
「分かってる。
だから……オレは強くなるよ」
二人の背中を見るヒロムはキャロとシャロを撫でる中で自分の未熟さを噛み締め、そして自分自身が強くなるべきだと改めて決意した。
***
修復が完了した屋敷の屋根の上。
シンクはそこで昨日の夜のように夜空を見ていた。
傷だらけだった体には包帯が巻かれ、両腕には包帯がこれでもかというくらいに巻かれていた。
「……」
「オマエは相変わらず人と馴染もうとしないな」
シンクが静かに夜空を眺めているとガイがやって来て彼の隣に座った。
シンクの隣に座ったガイは彼と同じように傷だらけだったため体には包帯が巻かれていた。
「……オレはここが落ち着く」
「少しずつ慣れろよ。
皆良いヤツばっかだからさ」
「……その善人っぷりがオレには眩しすぎる」
「?」
夜空を見ていたシンクはどこか気まずそうな顔を浮かべるとガイに対して話した。
「オレは元々敵としてオマエらを狙っていた男だ。
その男が今更仲間ヅラしてあの輪の中に混ざっても迷惑だろ」
「誰もそんなこと思ってねぇよ」
「だけど……」
「だってオマエがいなかったら今ここにいる全員がこうして揃うこと無かったんだ。
そういう意味ではオマエはみんなをまとめてくれてる。
誰も非難しないさ」
「……オマエは許してるのか?」
「許すも何も無いさ。
何より……オレは自分が許せない。
強くなろうとして努力してもいつもヒロムの役に立てない。
肝心な時にはいつもヒロムが何とかしてる。
このままじゃオレは……」
「ガイ……」
「なら強くなればいい」
ガイが自分の不甲斐なさを語っていると二人のもとへと一人の少年……ゼロがやって来てガイに言った。
「力が欲しいなら強くなればいい。
それでも足りないならもっと強くなればいい」
「簡単に言ってくれるな……」
「ああ、簡単に言う。
だからオレがオマエに教えてやるよ」
「オレに?
何を……」
「オマエの可能性をな。
クロムはオマエらの力を利用するために何か企んでいたようだが、オレはヒロムの力になるオマエが強くなりたいなら力になる、それだけだ。
ちょうどオレは怪我してもすぐ治る体質、さらにはヒロムの精霊を使えるから秘密の特訓にはもってこいだ」
「……けどどうやって?」
「まずは基礎からだ。
そうだな……流動術をおぼえてもらおうか」
「!!」
ゼロの言葉、それを聞いたガイは驚きを隠せなかった。
何故なら……それは強くなろうとして一度も会得できなかったからだ。
ゼロがそれを教える、それを聞いたガイは拳を強く握るとゼロに頭を下げた。
「頼む……力を貸してくれ」
「任せろ。
全てはヒロムため、それを忘れるなよ」
「ああ……!!」




