四四一話 真価解放
屋敷の庭から白銀の城がそびえ立つ景色へと変化した戦場。
現れた白銀の城とともに広がる世界にガイたちやユリナたちは戸惑いを隠せないが、そんな彼ら彼女らよりも動揺してるのはクロムだった。
『何故精神世界を再現出来る!?
精神世界はその世界の持ち主しか知り得ない世界なのに……』
「エボリューション・ブレイクして発動するイシスの空間干渉に不可能はない。
オレたちの精神世界のヴィジョンをこの世界の空間に投影するだけなら……息するくらい簡単なことだからな」
『ありえない……精神世界はオレが……』
「オマエが奪ったのはヒロムがあの時宿してた力の上澄みだけだ。
今オレたちの宿すヒロム本来の真の力の前では何の価値もない。
そして精神世界を奪うのは不可能なんだよ」
『精霊を奪えば精神世界は……』
「消えるわけねぇし奪えるわけねぇだろ。
ヒロムの精神世界にはフレイたちとの記憶や仲間を思い時の流れを無視してまで努力したヒロムの積み重ねた時間がある。
オマエがそれを奪えるわけねぇんだよ」
『そんな……ならオレは……オレは何のために力を奪ったんだよ!!』
知るか、とゼロは音もなくクロムに接近すると右手でクロムの体を押し、体を押されたクロムは強い衝撃に襲われて吹き飛ばされる。
クロムが吹き飛ばされるとゼロは先回りするように一瞬で移動すると闇を放出し、放出した闇を無数の蛇にすると吹き飛んでくるクロムに噛みつかせ、蛇がクロムに噛みつくと彼は自身が持つ紫色の刀に闇を纏わせると斬撃を放つ。
蛇に噛みつかれ拘束されたも同然のクロムはその斬撃を直撃で受け、攻撃を受けると全身負傷しながら倒れる。
クロムが倒れるとゼロは刀を消し、刀を消すと次に大鎌を出現させて嵐を起こすとクロムを嵐の中へと巻き込み、嵐の中に巻き込むとゼロは大鎌を何度も振って魔力の刃を放って嵐ごとクロムを斬って敵に更なるダメージを与える。
『な、何だ……この力は……』
「オマエが何も出来ないと見下していたヒロムの力……オマエには無い守りたいものと仲間への思いを抱いたヒロムが起こした奇跡の力だ!!」
ゼロは大鎌を捨てると剣を二本装備して斬撃を食らわせ、さらに鋭い爪を持ったガントレットを装備すると連撃を加えて更なるダメージを与えていく。
ダメージを与えられるクロムは追い詰められ、そして追い詰められる中で反撃すら出来ないまま吹き飛ばされる。
クロムが吹き飛ばされるとゼロは再び刀を出現させて闇を纏わせ、刀の刀身を闇で強化すると目にも止まらぬ速度で敵の周囲を駆けながら連続で斬撃を放ち、放たれた斬撃を受けたクロムの体は今にも朽ちそうになっていた。
『ば、バカな……!?
こんなはずは……』
「こんなはずは無いってか?」
追い詰められボロボロとなったクロムは今起きてることを否定するかのように言葉を発しようとするが、言葉を発しようとするとヒロムが大剣を手にしてゆっくりと歩き出す。
ヒロムが歩き出すとクロムは慌てて体勢を整え、そしてヒロムを強く睨むと体に浮び上がる無数の不気味な瞳から次々にビームを撃ち放ってヒロムを倒そうとする。
……が、ヒロムは大剣を軽く振ると剣圧を生じさせ、生じた剣圧はクロムがヒロムを倒そうと放ったビームを次々に消し去ってしまう。
『なっ……』
「覚悟……出来てるよな?」
『……ふざけるなぁぁあ!!』
ヒロムが大剣を構えようとするとクロムは雄叫びを上げながら全身から闇を溢れ出させ、闇が増幅したのか体の傷が消えるとクロムはヒロムに向けて走り出して攻撃を放とうとする。
クロムが迫る中、ヒロムは大剣を下ろすと地面に刺し、接近してきたクロムが殴りかかってくるとその拳を片手で握り止め、もう片方の手で掌底突きを叩き込んでクロムを押し返す。
さらにヒロムは両手にガントレットを纏うと光を拳に纏わせて敵を殴り、続けて槍を出現させて構えると周囲に光の槍を無数に出現させて突きを放つとともにクロムに撃ち放ち、ヒロムの槍の突きと放たれた光の槍はクロムを襲うと吹き飛ばし、ヒロムは槍を捨てて大剣を構えると巨大な斬撃を放ってクロムを仕留めようとする。
斬撃はクロムを襲うと強い力によって炸裂し、斬撃が炸裂するとクロムはそれに飲まれ、周囲は炸裂した衝撃によって戦塵を巻き上げる。
巻き上がった戦塵によってクロムの安否は分からないが、ヒロムは大剣を下ろすとクロムがいるであろう戦塵の方を向いて話し始めた。
「これが力の差だ。
オマエがオレに勝つのは……不可能だ」
『黙れ……!!』
戦塵の中よりクロムは勢いよく出てくると走りながらヒロムに接近するが、ヒロムは大剣の柄でクロムの腹を突くと蹴りを食らわせ、拳撃を顔面に叩き込むとクロムに告げた。
「他人から奪い、他人を利用するしか出来ないオマエにはオレは倒せない。
今のオレは……オマエなんかより強く生きる理由がある!!」
『生きる理由……?
そんなもの、オマエにあるわけないだろ!!』
クロムはヒロムの言葉を否定しようと殴りかかるが、ヒロムはそれを避けると白銀の大剣による連撃をクロムに食らわせ、攻撃を食らわせると新たに一本の大剣を出現させて装備し、大剣の二刀流となると強力な攻撃を連続で放ってクロムを追い詰めていく。
追い詰める中、ヒロムはクロムにはないあるものを知らしめるかのように言葉にして告げながらも攻撃していく。
「目先のことばかりに囚われたオマエには分からないはずだ!!
守りたいものがあることの意味の大きさを!!
何かのためなら強く生きられることを!!
明日に進む人間の秘めた力を!!
オマエは何一つ分かっていない!!」
『分かる必要は無い!!
オレはオマエを……オマエを倒して強さを証明して真の力に到達する!!
そうすればオレは……』
「そんなもん、証明させるわけねぇだろ!!」
ヒロムは二本の大剣に光を纏わせると攻撃を放ち、放たれた攻撃をクロムは闇を増幅させると何とかして受け止め、攻撃を受け止めるとクロムは天に向けて弾き飛ばす。
「コイツ……」
(ヒロムに敗北することへの屈辱感が強くなってしまったせいか力が増してやがる!!
このままじゃ……)
『オレはオマエを倒して……この力諸共オマエらを喰らってやる!!
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
クロムは雄叫びを上げると闇を増幅させ、増幅させた闇によって体は大きくなり、肉体も筋肉が増したかのように膨れる。
全体的に筋肉質のような体を得たクロムはヒロムに再度攻撃を放つが、ヒロムは二本の大剣を盾のようにして防ぐと大剣を手放して後ろに飛ぶ。
が、その瞬間にクロムはヒロムが手放した大剣二本を奪い取る形で装備するとヒロムに斬撃を放とうと振り上げる。
『自ら武器を手放すとは愚かだなぁ!!』
「……オマエこそな」
後ろへと飛んだヒロムの右手に聖剣が現れ、聖剣を手にしたヒロムは光を纏わせた斬撃を大剣を振り上げたことで無防備となっているクロムの体に食らわせ、斬撃を受けたクロムの身はえぐられてしまう。
『な……に……!?』
「勝つことばかりに気を取られすぎだ」
ヒロムが指を鳴らすとクロムが奪い取った二本の大剣が突然重力の力を帯びた黒い塊となり、変化する前の大剣を握っていたクロムは大剣の代わりにそれを握ることになると同時に重力の力を受けて地面に体を押し付けられるかのように地面にめり込んでいく。
『ぐ、ぐぉぉぉぉ!!』
「オマエのクロス・リンクもだしオマエの操っていたドールもだが……オマエの単純な思考の影響を受け過ぎだな」
『何……?』
「単純なんだよ、オマエ。
オレから全てを奪うことと殺すことに執着するのはいいけど……後先考えて攻撃しろって話だ」
ヒロムが左手を天に向けると地面にめり込んでいたクロムは勢いよく天に打ち上げられ、クロムが天に打ち上げられるとヒロムは白銀の大剣を装備し、フレイ、マリア、ディアナ、ユリア、セレナ、マキアの力を光とともに大剣に宿すと大剣を振り上げる。
光とともに六人の精霊の力が宿されると大剣は眩い輝きを放ちながら白銀の稲妻を纏い、ヒロムは背中に白銀と光の翼を纏うと飛翔していく。
「チェックメイトだな、クロム」
『う、嘘だ……!!
こんなこと……こんなことが……!!』
「オマエの敗因……それはオレを怒らせたことだ!!」
ヒロムが加速しながら飛翔する中で大剣に宿した力を強くさせて大剣の刃を数倍の大きさへと変化させ、そしてクロムに接近すると一閃を放つ。
『こんなはずはぁぁぁあ!!』
「エボリューション・ホーリー・スラッシュ!!」
ヒロムが一閃を放つと眩い輝きを放つ光と稲妻が精霊たちの力を宿しながら斬撃となり、斬撃となった力がクロムに襲いかかるとクロムはヒロムの放った斬撃によって体を両断され、そして白銀の稲妻と光が更に襲いかかるとクロムの全身が朽ちるかのように徐々に消えようとしていた。
『ぎゃぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!』
光と稲妻によってクロムの体は次々に消えていき、消えゆく中でクロムはヒロムを睨むと彼に向けて叫んだ。
『何故だ!!
何故何も無いオマエにオレが負けなきゃならないんだ!!』
「……決まってんだろ。
何も無いからこそオレは繋がりを大切にする。
そしてその繋がりがさらなる繋がりを生んだからこそオレはこうして精霊の力を宿して戦える」
『そんな……そんな綺麗事でぇぇえ!!』
「ああ、綺麗事だよ。
けど……オレの戦う理由はただそれだけだ!!」
『ふざけ……』
「じゃあな」
ヒロムが一言告げるとクロムの体は断末魔のような叫びを上げながら肉体を構築していた闇が散っていき、散った闇は光に消され……そしてクロムの精神を形作っていたと思われる闇の球体が最後に残るとガラスのように砕け散って消滅する。
クロムが完全に消滅するとヒロムは稲妻と光の翼を消して着地し、完全に消滅して二度と蘇らないことを確かめるとゼロとともに纏っていた力を解除した。
「終わったな」
「ああ……そうだな」
「……行ってこいよ」
ゼロはヒロムに言うとユリナたちの方を指さし、ヒロムはゼロの方を見ると申し訳なさそうにするが、ゼロはそんな彼に伝えた。
「今伝えなきゃいつ伝える?
オマエの無事をしっかり伝えてこい」
「……分かった」
ゼロに後押しされる形でヒロムはユリナたちのもとは向かうように歩いていき、それを見届けるとゼロはその場に座ろうとする。
するとガイがゼロに歩み寄ってきて握手を求めるように手を差し伸べてきた。
「……何だ?」
「ありがとな。
ヒロムの力になってくれて」
「勘違いするな。
オレはヒロムに利用されただけだ。
それに……オレがアイツの力になれたのはオマエのような仲間が支えてたからだ」
ゼロはガイの握手の申し出を断るように背を向けるとどこか恥ずかしそうに言い、それを聞いたガイは何故か嬉しそうに微笑んでいた。
……ヒロムを苦しめる問題が一つ解決した。
だがこれは……ヒロムにとって最良の結果となるのかは誰にも……




