四四〇話 「天思」と「天元」
「全てを解き放つ!!」
ヒロムが叫ぶと二つのブレスレットの放つ眩い輝きは強さを増し、そしてヒロムはゼロから借り受けたブレスレットをした右手を天に向けてかざすとブレスレットから強い力を放ちながら叫んだ。
「万物創造、千思万考、星河一天、高潔無比!!
幾星霜の時の流れが生み出した闇は光標す道を進みて今希望の力となる!!」
放たれた強い力は緋色の稲妻となってヒロムの頭上で翼を広げた鳳凰のような形となると緋色の稲妻とともに輝きを放っていく。
「雄々しくも美しい力を解き放て!!
舞い降りろ、千天の命を束ねし精霊……「天命」アルマリア!!」
ヒロムが叫ぶと鳳凰のような形となった緋色の稲妻は強い輝きを放ちながら形をまた変えていき、今度は少女へと変化していく。
金髪の少女はバニーガールを思わせるような純白のボディースーツに身を包み、銀色のブーツを装備し、緋色のマントを翻しながら頭にティアラを乗せると少女は白い剣を構えて地上に降り立つ。
透き通るような瞳は静かにヒロムを見つめ、少ししゃがんでヒロムにお辞儀をすると彼女は……アルマリアはヒロムに忠義を誓うかのように話し始めた。
「全てを託されし精霊の王、アナタの呼び声に応じて今駆けつけました」
「アルマリア、頼みがある」
「詳しくはお聞きしませんが……すでに理解しております」
アルマリアはゼロたちが足止めするクロムに視線を向けるなりマントを翻し、翻したマントが突如変形して剣に巻き付くと剣とマントは一つとなって槍となり、アルマリアが槍を構えると魔力が蓄積されてビーム状にして放たれる。
『何かしたと思えば新しい精霊か?
だがオレにはどんな攻撃も……』
放たれたビーム状の魔力を前にしてクロムはゼロたちの攻撃同様に体をすり抜けすり抜けさせようとする……が、そうしようとした時、クロムの体に魔力が直撃し、そしてクロムは勢いよく吹き飛ばされてしまう。
『何だと……!?』
「この私、アルマリアが操る力は光と闇を超越したもの。
光であり闇である私の力は存在という概念を無視して存在しているオマエをも貫く」
『バカな……!?』
「……マスター、邪魔をしましたね。
続きを」
ああ、とヒロムはアルマリアの言葉に対して返事をすると右手を下ろし、続けて左手を天に向けてかざすとブレスレットから強い力を解き放つ。
が、クロムはそれを黙っていなかった。
『させるわけねぇだろ!!』
クロムは闇を強くさせながら走り出し、ヒロムを倒すべく接近しようとする。
が、アルマリアは槍を剣にマントに戻して双方を装備し直すと純白のボディースーツを漆黒に染め、どこからか黒い剣を出現させると二刀流となってクロムを斬撃で迎え撃った。
『!?』
「光と闇を超越した……それはつまり私自身が光と闇、二つの力を使い分けることが出来るということ!!」
さらなる一撃をアルマリアが放つとクロムは追い詰められるように倒れ、クロムが倒れるとヒロムは天に向けて放った力に向けて叫んだ。
「聡明叡智、人事天命、天衣無縫、天地創世!!
万物流転せし時、理の世界に住まう数億の生命を導くべく希望の架け橋となる!!」
ヒロムが叫ぶとブレスレットより放たれた力は桃色の稲妻となり、稲妻はヒロムの頭上で渦巻くように動くと暖かい光を宿した粒子を周囲に放出していく。
そして……
「運命が交わりし時、連なる思いを重ねて紡げ!!
降臨せよ、集いし輝き思いに乗せし精霊……「天思」メルヴィー!!」
ヒロムがさらに叫ぶと暖かい光を宿した粒子が一つになるように集まっていき、そこに桃色の稲妻が加わると……一人の少女へと姿を変える。
地面まであるかのような長さがある薄い金髪に黒いリボンを二つつけ、白いドレスを纏った彼女は両手を色鮮やかな手袋を着けて祈るように手を合わせると背中に光の翼を纏いながらゆっくりと舞い降りる。
現れた彼女……メルヴィーはヒロムに向けて微笑むと一礼し、メルヴィーの一礼に対しても一礼すると彼女に頼んだ。
「力を貸してくれメルヴィー。
アイツを倒すために」
「お任せ下さい。
私の力でアナタの全てをお守りします」
ヒロムの頼みを快諾したメルヴィーは光の翼を広げると飛翔しようとし、そして気づけば彼女はアルマリアの攻撃を受けるクロムの背後へと瞬間移動していた。
『また新しい精霊だと!?』
「……消えなさい」
メルヴィーが両手を横に広げると粒子が無数に出現し、出現した粒子は一斉に動き出すと流星群のようになってクロムに襲いかかって彼に命中していく。
『ぐぁっ!!』
「受けなさい」
メルヴィーが右手を動かすとクロムに向けて更なる攻撃が放たれ、彼女が左手を動かすとクロムの体が宙に浮き、天より無数の雷が降り注がれてクロムを襲う。
『ぎぁぁぁあ!!』
雷に襲われたクロムは苦しむように叫びながら地面に落下し、クロムが落下するとともにメルヴィーが両手を前にかざすとクロムの周囲に無数の星のような光を浮かべた黒い球体が三つ現れ、現れた球体はクロムに迫ると同時に無数の流星を生み出して力を増し、力を増すとそのままクロムに襲いかかって彼を負傷させる。
『ぐぁっ!!』
「はぁっ!!」
メルヴィーの攻撃を受けて負傷するクロムに漆黒に染めたボディースーツを純白に戻したアルマリアは剣の二刀流による連撃を放って追い詰めていく。
その中で……
「刮目せよ、私の力を!!」
アルマリアは連撃を放つと白い剣と黒い剣を重ね合わせ、重ね合わせるとアルマリアは白と黒の二人に分裂し、純白のボディースーツのアルマリアは白い剣、漆黒のボディースーツのアルマリアは黒い剣を構えると同時に斬撃を放つ。
放たれた斬撃はクロムの身を抉り、攻撃を受けたクロムは後退りするように下がっていくと苦しそうに膝をついてしまう。
『あ、ありえない……!?
なぜオレは……!?』
「その理由を教えましょう」
動揺するクロムに全てを明かすかのようにメルヴィーが言うとクロムの右手首に位置する場所にあるブレスレットのようなものが砕け散っていく。
『!?』
「アナタがマスターたちの攻撃を防げていたのはアナタの中にエボリューションの力があり、それを暴走させたことにより肉体を闇と一体化させて無敵を維持していたから。
ですがマスターは自分の霊装の中にある秘めた力……私とアルマリアを解放したことでアナタの奪った力を超える力を手に入れたのです」
『だがエボリューションの証はここに……』
「アナタがマスターから奪ったエボリューションの力は完全には完成していない不完全な力。
アナタは不完全な力を無理矢理発動して制御出来ないまま使っていた。
制御されない力は無秩序に暴れる力となり、結果的にアナタの強さになったようですが……今のマスターが真の素質を得た今、アナタがその力を使う資格はない」
『真の素質だと……!?』
「アナタには関係ないことです」
メルヴィーはどこからか杖を出すと地面を叩き、無数の光を放つとクロムを吹き飛ばし、敵を吹き飛ばすとヒロムに伝えた。
「マスター、今こそエボリューションの力を」
「待ってくれメルヴィー。
エボリューションは天の字名を持つ精霊一人とそれに連なる七人の力を合わせて纏う。
けど今四十二人になった精霊を……」
「いいえ、それは未完成のエボリューションのやり方です。
ですが今アナタが使えるエボリューションは違います」
「どうやればいい?」
「やり方は簡単です。
……アナタと私たち精霊の心が合わされば、その力は自然と発動します」
「心……」
メルヴィーの言葉を聞いたヒロムは心というものを思い浮かべるとともに自然とフレイの方に視線を向けていた。
その視線を受けたフレイは頷くとヒロムに歩み寄り、そして……
「フレイ、いきなりで悪いが付き合ってくれ」
「構いませんよマスター。
いつでも私はアナタと進みます」
「ありがとな……フレイ。
……ゼロ!!」
ヒロムはゼロの名を叫ぶとともに右手首につけている彼から借りたブレスレットを光にして返し、ゼロは右手首に光を纏わせてブレスレットを装着し、ブレスレットを装着したのを確認したヒロムはゼロに伝えた。
「ここはオレたちが決める。
オマエは下がっててくれ」
「……当然だな。
人の事こき使ったならそれに見合ったことしてもらわなきゃな」
けど、とゼロはラミアに視線を向け、彼女を自分のもとへ来させるとヒロムに告げた。
「せっかくの楽しみ……仲間外れは酷くないか?」
「ならやるか?」
「当然」
ヒロムとゼロ、互いに相手のやる気を確かめると強く頷き、そしてクロムに視線を向けるとヒロムは右手に白銀の稲妻、ゼロは左手に紫色の稲妻を纏わせる。
「エボリューション・リンク!!」
「……エボリューション・ブレイク!!」
ヒロムは右手に稲妻を纏わせると左手首のブレスレットにかざし、ゼロは左手に稲妻を纏わせると右手首のブレスレットにかざすと二人のブレスレットは強い輝きを放つ。
ヒロムの金色のブレスレットが輝きを放つとフレイ、マリア、ディアナ、ユリア、セレナ、マキアが光となってヒロムに重なり、光が重なるとヒロムは白銀の衣装に身を包み胴、腰、腕、脚にはアリアたちを彷彿とさせるようなデザインのアーマーを装着、そしてフレイの武装である大剣を出現させるとアリアたちの力を大剣に集めて白銀の大剣へと変化させる。
ゼロの黒いブレスレットが輝きを放つとラミア、ベルナ、イシス、シェリー、アーシェ、ゾルデが闇となってゼロに重なり、闇は重なると紫色の装束となり、胴、腰には蛇を模したような装飾の施されたアーマー、腕、脚にはベルナたちを彷彿とさせるようなアーマーを装備し、刀を手に持つとベルナたちの力を集約して紫色の刀へと変化させる。
変化した二人、その姿は「クロス・リンク」や「アンリミテッド・クロス・リンク」とは比べ物にならないほどの力を発しており、二人の力を感じ取ったガイたちはその姿に驚き、ユリナは二人の姿に見とれていた。
「あれがヒロムの……」
「精霊を完全に解放した力……」
「大将の真の力……」
「すごく綺麗……」
『……ふざけるな』
ガイたちやユリナがヒロムとゼロの姿を見ているとクロムは闇を強くさせながらヒロムとゼロの力を否定しようとした。
『見てくれだけのそんな力がオレの力を超えるはずがない!!
オレの力は無限……この身にある憎悪が増えればそんなもの……』
不可能だな、とヒロムが軽く白銀の大剣を振るとクロムに強い衝撃波が襲いかかり、そしてクロムの体を巨大な斬撃が襲って肉体を構築する闇が抉られる。
『なっ……!?』
「今のは挨拶代わりだ。
次に振る時は……確実に消す」
「けどその前に……舞台を変えるぞ」
ゼロが指を鳴らすと周囲の景色が光に包まれ、そして白銀の城がそびえ立つ別の景色に変化する。
変化した景色、それを見たクロムは狼狽えていた。
『こ、これは……!?』
「再現してやったぞ。
オマエがヒロムから奪った気になってた精神世界をな」




