四一四話 ウォー・オブ・ブレイク
敵に囲まれたヒロム、シンク、ノアル。
対する敵はこれまで何度もヒロムを始末しようとして攻撃してきた角王の拳角と射角、角王に新たに抜擢された二人の能力者の鎚角と流角。
敵を前にして構えるシンクとノアル、だがヒロムはなかなか構えようとしない。
そしてヒロムは拳角を……拳角が装備しているガントレットを見ながら彼に向けて話し始めた。
「今まで素手だったアンタがここに来て武装するとはな。
今回は本気でオレを倒す気なのか?」
「……オマエには関係ないことだ」
「関係ない?
初めて現れた時はオレにボコボコにされ、オマエらとの総力戦の時もオマエはオレを倒せなかった。
そのオマエが武装してるってなれば勝つために必死だと感じるのが妥当だろ?」
「黙れ。
とにかくオレはオマエを倒して使命を果たす、それだけだ」
「使命、か。
無意味だと思うけどな」
ヒロムは首を鳴らすと拳角を強く睨み、そしてヒロムはシンクとノアルに指示を出した。
「シンクは狼角を、ノアルは新しい角王二人を頼む」
「ノアルが二人引き受けるならオレも……」
「いや、拳角はオレが倒す。
ここで決着つけて……オレの手で終わらせてやる」
「……わかった」
ヒロムの指示を受けたシンクは狼角を倒そうと狼角の方を向くと冷気を纏い、ノアルは左右に構える鎚角と流角の動きに注意しながら魔力を纏う。
そして……
ヒロムは拳を強く握ると白銀の稲妻を纏い、稲妻を纏うと地面を強く蹴って走り出した。
「いくぞ……!!」
ヒロムが拳角に向けて走り出すとシンクは狼角に向けて走り出し、ノアルは左右に手をかざすと鎚角と流角に向けて衝撃波を放って襲いかかる。
「迎え撃て!!」
狼角が叫ぶと鎚角と流角は魔力を纏ってノアルの攻撃を避けるとノアルを倒そうと動き出し、狼角も迫り来るシンクを迎え撃とうと構えると走り出す。
「……」
ヒロムが迫る中で拳角は一息つくと拳を構え、拳に炎を纏わせる。
拳角が拳に炎を纏わせるとヒロムは先に攻撃しようと考えたのか一気に加速し、加速したヒロムは拳角の背後に一瞬で移動すると回転して蹴りを放とうとする。
が、背後に現れたヒロムの存在に気づいているのか拳角は視認しようとせずに裏拳を放ち、放たれた裏拳はヒロムの蹴りを容易く止める。
「!!」
「オマエのこれまでのデータには目を通した。
いや、データがなくても速さを得たオマエが不意討ちで仕掛けるのくらいは容易に想像できる!!」
蹴りを防いだ拳角は背後にいるヒロムの方を向くと炎を纏わせた拳で次々に攻撃を放っていくが、放たれた攻撃を前にしてヒロムは慌てることも無く全て避けていく。
だが、ヒロムが攻撃を避けるのは想定済みだったのか拳角は両手の拳を強く握ると纏わせた炎をさらに強くさせ、炎を強くさせると拳角はヒロムに向けて至近距離で炎を炸裂させて吹き飛ばそうとした。
「爆ぜろ!!」
「……勝手にな」
拳角が炎を炸裂させるとヒロムは白銀の稲妻を強くさせて自身の前に集め、集めた稲妻を盾のようにすると炸裂する炎から身を守り、拳角の攻撃によるダメージを全て防いでみせた。
「なっ……」
「お返しに教えてやるよ……流動術による先読みがなくてもオマエの今の攻撃は予想出来た。
射角と組んでたオマエが拳に頼らずに敵を倒す術を得ていることもな!!」
ヒロムは自身の前に集めた稲妻を消すと体に新たな白銀の稲妻を纏わせて拳角に殴りかかり、拳角はヒロムの拳を自身の拳で殴り返そうと拳撃を放つ。
拳撃放とうとする二人の拳がぶつかり、ぶつかったことにより周囲に衝撃が走っていく中、ヒロムは拳角に対してある質問をした。
「アンタほどの人間がなぜ角王として未だにトウマに仕えてる?
射角を見殺しにし、これまで何も成しえていないあんなヤツに今も仕えて何になる?」
「黙れよ。
オレが仕えるかどうかはオレの自由、オマエにとやかく言われる筋合いはない!!」
「そうかよ。
まぁ……アンタがオレの前に現れた時点でオレがオマエを潰すことは確定してるんだよ!!」
ヒロムは拳角の拳を押し返すと両手に白銀の稲妻を集め、そして拳に自身の精霊で拳撃を得意とする「絶拳」マリアの武装であるガントレットを装備して拳角の顔面を殴る。
「……!!」
殴られた拳角は大きく仰け反り、ヒロムは仰け反った拳角に更なる一撃を叩き込むと同時に稲妻を炸裂させて拳角を吹き飛ばそうとした……のだが、稲妻が炸裂するその瞬間、拳角の全身が炎へと変化して四散し、それによってヒロムの攻撃は相手のいない場所を攻撃して終わりを迎えてしまう。
「これは……」
「懐かしいだろ?」
炎に変化した拳角のその技に覚えのあるヒロムは動きが一瞬止まり、一瞬止まると拳角はヒロムの背後に現れて彼を蹴り飛ばしてしまう。
「がっ……!?」
「力に慣れてオレの能力を忘れたか?」
「……元・ボクサーが蹴りとはな!!」
ヒロムは自分を蹴った拳角を殴り飛ばそうと拳撃を放つが、拳角はその拳角を炎となって避けると炎の翼を纏いながら飛翔する。
飛翔して炎の翼を広げる拳角の姿を見上げるようにして見るとヒロムはため息をつき、ため息をついた理由を聞くかのように拳角はヒロムに問う。
「何か不満があるのか?」
「……いや、最初のときもそうやって炎の翼で飛んでたと思ってな。
空に逃げるのだけは変わらないんだな」
「戦術と呼べ。
逃げるのではなく、確実に仕留めるための手段だと理解しろ」
「ならオマエも理解した方がいい。
狩られる側のオマエは判断を間違えたとな」
「何……?」
ヒロムの言葉の中の意図を理解しようとする拳角だったが、拳角がそうしようとした時、山林の中から無数の衝撃波が飛んできて拳角に襲いかかる。
「!?」
衝撃波を受けてしまった拳角は怯み、その拳角のもとへと迫るように山林の中から巨大な鈎爪のついた手甲を
装備したサラシと腰布だけの少女の精霊・「獣天」ゾルデが現れ、彼女は手甲の鈎爪で拳角を引き裂こうと攻撃を放つ。
が、拳角は炎の翼を羽ばたかせると翼から無数の炎の矢を放ち、ゾルデは炎の矢を爪で薙ぎ払って消し去るが、その行動によってゾルデの攻撃は中断されてしまう。
が、ゾルデの攻撃が中断されてしまうと同時に山林の中から無数の炎弾と雷弾が飛んできて拳角の炎の翼を破壊しようと襲いかかる。
「なっ……!?」
突然の炎弾と雷弾に驚き、驚いたことによって動きが鈍った拳角は炎の翼を破壊され、飛行能力を失った拳角は地上に落下していく。
落下していく中で拳角は何とかして着地しようと体勢を立て直そうとするが、それを狙ったかのように青と白を基調とした軍服のような衣装を身に纏い両手にショットガンを持った少女の精霊・「弾撃」アウラが現れる。
「な……」
「隙だらけよ!!」
拳角に向けてショットガンを構えるとアウラは次々に弾丸を放ち、放たれた弾丸は拳角に直撃して敵にダメージを与えていく。
それだけではない。
アウラの後方から高く飛ぶ形でローブを纏い拳銃を構えたオレンジの髪の少女の精霊・「雷迅」アルカと赤い衣装に身を包み銃剣構えた銀髪の少女の精霊・「烈火」テミスが現れて拳角に雷弾と炎弾を食らわせていく。
「がっ……」
着地しようと体勢を立て直すはずが邪魔された拳角は地面に叩きつけられ、地面に叩きつけられて倒れた拳角に向けてアウラ、アルカ、テミスは武器を構えると次々に弾丸を放って敵を追い詰めていく。
「がぁぁぁあ!!」
三人の精霊の攻撃を前に為す術もなく追い詰められていく拳角。
そんな拳角を見物するかのように見ていたヒロムは彼に向けてある事を告げた。
「オマエは何か勘違いしてるようだからあえて教えてやるが、この山林のような視界を妨げるものがある状況下なら精霊を宿すオレに分がある。
オマエが神経研ぎ澄ませようと精霊とオレの連携の前では意味は無い。
数で優位なオレにオマエが勝てるはずねぇんだよ」
「……黙れ!!」
弾丸の雨に襲われる拳角は全身から熱波を解き放って三人の精霊の攻撃を打ち消し、同時に三人の精霊を押し飛ばしながら山林を焼こうとした……が、拳角の放った熱波はアウラたちを押し返す前に何かによって消されてしまう。
「なっ……」
「意味無いって言ってんだよ」
ヒロムが指を鳴らすと紫色の髪に紫色の衣装の少女の精霊・「零槍」アイリス、白いコートを羽織りし茶髪の少女の精霊・「星槍」ディアナ、天使のような意匠のドレスを纏った銀髪の少女の精霊・「天翼」リリアの三人が槍を構えて現れ、三人は同時に動き出すと拳角に接近して槍による連撃で拳角を追い詰め、薙ぎ払うと共に拳角を勢いよく吹き飛ばす。
吹き飛ばされた拳角は地面に叩きつけられると拳を叩きつけて体勢を直して立ち上がるが、立ち上がるとヒロムは大剣を構え、その隣では精霊・「天剣」フレイと青い髪に鎧を纏って大剣を構えた少女の精霊・「剣姫」マキアが拳角に狙いを定めて同時に斬撃を放つ。
「なっ……」
(バカな……!?
ヤツはこの間まで「無能」と呼ばれて何の力もなかったはずだ!?
なのに……)
「なぜオマエにこれほどの力があるんだ!!」
「決まってんだろ……これはオレたちの力だからだ!!」
ヒロムが叫ぶとそれに呼応するように三人の放った斬撃が一つとなって巨大な刃となり、巨大な刃は拳角に襲いかかると周囲を切り裂き、そして拳角の全身を斬ると衝撃波で戦塵を起こす。
攻撃を受けた拳角の全身は負傷し、戦塵の中で痛みに苦しみながら倒れてしまう。
戦塵に隠れるように倒れた拳角だが、ヒロムはもう一本大剣を出現させると装備し、二本の大剣に白銀の稲妻を纏わせるとヒロムは倒れた拳角に向けて告げる。
「立てよ、まだやれんだろ?
オマエの不死鳥の炎を模した「不炎」の能力なら治癒して立ち上がれるだろ?」
「……いつでも倒せるからさっさと立て直せってか?
なめた真似してくれるじゃねぇか!!」
戦塵の中から炎が吹き出ると炎は戦塵を消し飛ばし、そして炎の中から先程ヒロムたちの攻撃を受けて負傷したはずの拳角が一切のダメージを受けていない状態で現れる。
再生能力、拳角の炎には……「不炎」の能力には不死鳥のような再生と破壊の力がある。
その再生の力で傷を癒したのだろう。
だがヒロムには関係なかった。
「……そうでなきゃ倒しがいがないからな」
「オマエ如きにこれを使うとは思わなかったが……ここで使わせてもらう!!」
拳角が強く言うと彼の装備したガントレットが赤い光を発し、光を発するガントレットは熱を帯びると夥しい量の炎を放出し始める。
放出された炎が山林を次々に焼き、山林焼かれる中で拳角は巨大な炎の翼を広げると叫んだ。
「フェニックス・ギア……バースト!!」
拳角が叫ぶとガントレットが炎を一気に放出し、炎を放出したガントレットは炎を摸したかのような歪な形になり、拳角は胴体に不死鳥を彷彿とさせるアーマーを纏う。
その姿は不死鳥と一体となった戦士のようであり、その姿を目の当たりにしたヒロムは拳角から感じ取れる力に少しばかり驚いていた。
「……やっと本気ってわけか」
「覚悟しろ「無能」!!
今度こそオマエを倒し、全ての因果に終わりを告げる!!」




