四一〇話 トライアル・ソウル
リビングでの話し合いを終えたヒロムたちはその場で解散となった。
そして今後について考えがあると言ったガイはヒロムから借りて使ってる自分の部屋にシンクと夕弦を招くとそれについての話をしようとしていた。
「さて、話し合おうか」
「ガイ、何のつもりだ?」
「ん?」
シンクに話しかけられたガイは彼が何を言いたいのか分からないのか不思議な顔をしており、その顔を見たシンクはガイに分かるように言った。
「ヒロムは何か考えがあるように見えた。
それなのに何故あえてヒロムに任せようとしなかった?」
「ああ……そのことか。
それは理解してるよ」
「ならどうして……」
「今のヒロムは冷静に見えて冷静じゃない。
いつものヒロムならあの状況なら面倒だって言う」
「……?」
「シンクが離れてる間、ずっとそばで見てたからな。
ヒロムは冷静さを失っているとどうしても自分で背負おうとする。
逆に冷静だと深く関与しない方法を考える癖がある」
「ヒロムにそんな癖があったのか?」
「ああ、あるんだよ。
癖って言うのが正しいかは分かんねぇけど……昔に比べると分かりにくくなって今だとふとした時に出るくらいだからな」
「それはどうしてなの?」
「ユリナたちのおかげかな。
今まで「八神」やトウマへの復讐心が強かったヒロムが誰かのために戦うとか言えるようになったのはユリナたちと深く関わるようになったからだと思う」
「ユリナたちはヒロム様にとって大きな存在になってるのね」
「ああ。
反面、昔に比べて無茶するようになったけどな」
ヒロムについての話をガイがしていると、それを聞いたシンクは話を戻すかのようにガイに質問をした。
「で、オマエから見てさっきのヒロムは冷静じゃなかったと?」
「ああ……。
「月翔団」のこととスローネやヘヴン、それに自分の心の闇と称するクロムの出現……。
今日一日で色々起きてるし、とくにスローネやヘヴンの件ではユリナたちを不安にさせたと自分を責めている」
「だがあれは……」
「仕方ない……じゃないんだよ、シンク。
ヒロムにとってユリナたちは守るべき存在、それを不安にさせた自分が許せない」
「ヒロム様はその自分が許せない一心でどうにかしようとしてたのね?」
「ああ。
いくら頭の切れるヒロムでもその状態で今後を考えても何か見落とすかもしれない。
だからオレたちが代わりに引き受けるようにしたんだ」
なるほど、とガイの思惑を知ったシンクは頷き、頷くとシンクは本題に入るようにガイに質問をした。
「話を変えるが……どうするつもりだ?」
「敵のことか?」
「そうだな、まずは一つずつ対処するか。
敵の目的は世界を作り替える……世界征服とも言える大きなものだ。
そしてヘヴン、バローネ、スローネ……主力となるであろう人物が使うアップグレード」
「さっきの話を聞くかぎりでは能力者だけの世界を作るための力のようだけど、それってつまり能力者が纏ってるってことなのよね?」
「おそらくな。
スローネは撤退する時に空間を歪ませていたが、あれがデバイスシステムによるものか能力によるものかは分からないままだが、あの時のアレを見た感じでは能力者がデバイスシステムを使ってる線は間違ってはない」
「そうなれば辻褄が合うな。
バローネはオレの猛攻を受けながらも撤退出来た。
何らかの能力を使って逃げたと考えるのが一番だな」
「……対策をどう取るか、よね?」
夕弦の言葉にガイは頷き、そしてガイはシンクと夕弦にある事を提案した。
「ソラに試してもらったアップグレード対策がある。
敵にバレてはいるが、それを利用した方法がある」
「どんな方法だ?」
「わざとアップグレードさせ、アップグレードして対策したパワー以上の力で攻撃する」
「……対策になってないわよ?」
「現状これしかない。
アップグレードの全容が完全に分からないならこれで行くしかない」
同感だな、とガイの提案に反対気味の夕弦に対してシンクは彼の提案に同意するように話した。
「オレたちはこれまでの戦闘で多くの経験を積んでいる。
アップグレードがその場しのぎの経験の補完だとすればオレたちはその上を行けば何とかなるというやり方は間違いでは無いはずだ」
「それは相手が都合よくアップグレードを使用した場合でしょ?
万が一にもアップグレードを使わなかったら?」
「ヤツらは必ず使う」
敵の行動の確実性を疑う夕弦の言葉にガイは一言言うと続けて彼女に言った。
「ヤツらは何が何でも目的を果たそうとする。
目的を果たすにはオレたちを倒さなきゃならない。
オレたちの限界をヤツらが知らないとなれば……必ずヤツらは使う」
***
ガイが夕弦、シンクと今後について話している一方、シオンは真助とイクトと特訓をしようと地下のトレーニングルームに向かい、ソラとノアルはリビングにいた。
そして他には……
「ニャー」
「ナー」
「うわぁぁ〜」
子猫の精霊・キャロと黒い子猫の精霊・シャロを前にしてガイの精霊でもある飛天は目を輝かせていた。
「ネコさんが二人になってる!!」
「ニャー」
二匹の子猫を前にして嬉しそうに笑顔を見せる飛天。
そんな飛天を見ながらソラはある事を伝えた。
「二匹とも猫だからネコさんって呼ぶとややこしいだろ。
名前で呼んでやってくれ」
「お名前で?」
「ああ。
オマエもキャロを呼ぼうとしてネコさんって呼んでシャロが反応するよりは名前で呼んで反応してもらいたいだろ」
「うん、じゃあお名前で呼ぶ!!」
ソラに言われて強く返事をすると飛天はキャロとシャロを見つめながら二匹の名を呼んだ。
「キャロちゃん、シャロちゃん」
「ニャー!!」
「ナー!!」
飛天が笑顔で名を呼ぶと嬉しそうにキャロとシャロは飛天に駆け寄り、そして甘えようと体を飛天にすり、飛天は二匹を優しく撫でた。
「えへへ〜」
「ニャー」
撫でる飛天は二匹の子猫を前にして嬉しそうに微笑み、撫でられるキャロとシャロも可愛らしい声で鳴く……のだが、シャロは飛天の服の袖を甘噛みしていた。
「シャロちゃんどうかしたの?」
「シャロは噛みグセがあるんだ。
何か見つけると甘噛みするけど……大目に見てやってくれ」
「うん!!」
袖を甘噛みするシャロを不思議そうに見る飛天。
ソラは飛天にシャロについて話し、それを聞いたシャロは元気よく返事をするとシャロを優しく見守っていた。
「……平和だな」
飛天とキャロとシャロ、可愛らしい一人と二匹の精霊を前にしてノアルはソラに言った。
「こういう光景は不思議と心が落ち着くな」
「……不安の種でもあるけどな」
「?」
「飛天もキャロもシャロも見た目通りの子ども。
キャロとシャロに関しては見た目も中身も生後数週間程度だし、飛天も思考は幼児レベル。
激しい戦いになった時、巻き込んで怪我して辛い思いをさせてしまうんじゃないかって不安になる」
「この光景は簡単に壊れるのか?」
「簡単に壊れる。
そしてオレたちが油断したら簡単に壊せ……」
ソラがノアルに話をしていると突然リビングに美神ユキナと朱神アキナがやってきて携帯を取り出し、携帯を構えるとキャロとシャロを愛でる飛天を撮影し始めた。
「ヤバいわよアキナ。
これは尊すぎるわ」
「もうキュン死しそう。
ていうかこれだけを永遠と見てられる」
何度も何度もフラッシュを光らせ、シャッター音を鳴らしながら撮影するユキナとアキナ。
が、撮影されているシャロは突然怯え、そして逃げるように飛天の後ろに隠れてしまう。
「隠れなくて大丈夫だよ?」
「大丈夫、私もユキナも何も……」
「残念だが二人とも……シャロはフラッシュの発光が苦手なんだよ」
飛天の後ろに隠れるシャロを安心させようとユキナとアキナは声をかけるが、ソラが事情を説明すると二人は申し訳なさそうに携帯を片づけた。
「ごめんね、シャロちゃん。
私とアキナも悪気はなかったの」
「だから怖がらないで出てきて、ね?」
「……ナー」
ユキナとアキナが優しく謝るとシャロは恐る恐る飛天の後ろから顔を出し、顔を出したシャロはゆっくりと出てくるとヨチヨチ歩きながらユキナのもとに近づいていく。
「よしよし」
近づいてきたシャロを優しく撫でるユキナ。
そんなユキナにノアルは突然質問をした。
「いいのか二人とも。
ヒロムのところに行かなくても?」
「オマエ、バ……」
ノアルが質問するとソラは慌ててとめようと止めようとするが、時すでに遅し……。
ノアルの質問に反応したアキナが突然人が変わったかのように不満を語り始めた。
「そうよ!!ねぇ、聞いてくれる?
ヒロムったら私たちのこと無視して後から来た女の子にばっかり優しくしてるのよ!!」
「……最悪だ」
(ヒロムに惚れてるこの二人がヒロムそっちのけで写真撮りに来るって時点で何かあるって証拠なのに……。
分かりきったことを聞こうとするなよノアル……)
「ねぇ、ソラ聞いてるの!!」
「……オレに当たるな」
「当たってないわよ。
愚痴ってるのよ」
「……一緒じゃねぇか」
「後から来た……って愛咲リナたちか?」
「そうなの!!
なんか最近ヒロムがライブハウスに入り浸ってた原因のグループの子たちでグループの名前がえっと……」
「Kiss heartでしょ?」
「そう、それよ!!」
愛咲リナたちのバンドグループの名前を横から親切にユキナはアキナに教えるが、アキナはそのユキナに対して疑問を感じていた。
「というかユキナ、何でそんなに落ち着いてるのよ?」
「何がよ?」
「落ち着きすぎじゃない?
ヒロムが他の女とイチャついてるかもしれないのに!!」
「言い方悪いな……」
「ソラは黙ってて」
「あ?」
「イチャついてるかもっていう心配はないわよ」
「……え?」
八つ当たりに近い言葉をソラに向けるアキナに対してユキナは一言答え、ユキナの言葉にアキナが驚くと彼女はアキナに向けて言った。
「ヒロムが入り浸ってたのはあの子たちの歌が聞きたかっただけでしょ?
それをとやかく言うのは違うと思うわ」
「あ、あれ?
ユキナは何ともないの?」
別に、とユキナはシャロを愛でながらアキナに向けて言うと微笑みながら彼女に言った。
「今イチャついてるとしてもこれまでヒロムと過ごしてきた時間は私の方が長いし、何ならヒロムとの距離は私の方が近いから負けてる気は無いのよ」
「そ、そう……」
「かっこいいな、なんか……」
(ユキナってたまにヒロム以外のことは怠惰になってダメ人間っぽいとこあるけど、ヒロムのことになると人一倍強いな……)
「なるほど。
今相手にされてなくても気にしないということか」
「そういうことよ、ノアル。
アキナのことはほっといてアナタも撫でてあげれば?」
「そうか。
そうさせてもらおう」
「えっ、私のこと無視って酷くない!?」
アキナを適当にあしらうようにユキナは言うとノアルを誘い、ノアルはユキナの隣に座ると彼女と一緒にシャロを撫でる。
その一方、冷たくあしらわれたアキナは喚き、ソラはその光景にため息をついてしまう……




