四〇七話 独立の風
吹き抜ける一迅の風と共に現れた少女。
その少女の出現はソラたちだけでなく、彼らの前に現れた獅童をも驚かせる。
だが、誰よりも驚いていたのはイクトだった。
「どうして……」
「どうして……?
私は私の果たすべきことを果たしに来ただけよ」
イクトの言葉に一言返すと少女はゆっくりと歩き始める。
黒衣に身を包み、首には長いマフラーを巻き、そして自身の武器である鋭い爪を有したガントレットを両手ち装備した紫色の長い髪の少女……白崎夕弦は静かに歩を進めていく。
歩を進める夕弦に対してソラは赤い拳銃・ヒートマグナムを構えるが、ソラが武器を構えるとイクトは彼を止めるかのように前に立つとソラに向けて言った。
「待ってくれソラ!!
今はまず獅童さんを……」
「今まで音信不通だったヤツがこのタイミングで現れたんだ。
獅童を始末するついでにアイツも始末する」
「話せば何かわかるかもしれないだろ!!」
「音信不通で久しぶりに会って舞い上がってんのか?
あの戦いの後オレたちの前に現れなかったのはアイツが仕えるべき相手を決めて従ってたからだ!!
オマエの知ってる夕弦とは限らない……目を覚ませ!!」
「覚ましてるさ!!
だからこそオレは夕弦と話し合うべきだって言ってるんだ!!
考えがあったからこそ姿を見せなかった、そう思わないのか!!」
「思わねぇよ!!」
イクトとソラ、二人の意見が異なる方向に進むと互いに睨み合う。
睨み合う二人を見兼ねた真助はため息をつくと小太刀の霊刀「號嵐」を抜刀すると夕弦に向けて質問をした。
「いくつか質問させろ」
「質問?」
「オマエには答える義務がある。
なぜあの戦いの後、オレたちの前から姿を消した?」
「……母は私に言った。
迷っているのなら迷い続ければいい。
今慌てて答えを用意してもそれは私が真に出したい答えとは違う、と」
「母?」
「スバルか?」
夕弦の言う母が分からなかった真助が不思議そうな反応をする中でソラは彼女の母親・天宮スバルの名を出し、スバルの名を聞くと夕弦は頷き、続けて話した。
「母も私と同じように迷ったからこそ自由に色んなところを歩かれた。
母と私は同じ……悩み悩んで流れに任せて上辺だけの答えを出そうとしていた。
私は悩むことの出来るこの世界に立つ一人の人間だと言われた」
「……」
「なるほど、スバルの言葉を聞いた結果あんなことをきたんだな」
話を聞いていた獅童は夕弦の話に割って入るように「月翔団」についての話を始めた。
「夕弦、オマエが行方を晦ました直後にスバルも同じように何も言わずに消えた。
そして数日前、オマエは団長の前に現れるとこう言ったらしいな。
「仕えるべき相手を見定めるため、除隊する」ってな」
「除隊だと?」
「それじゃ夕弦は……」
「そう、私はもう「月翔団」の人間じゃない」
「……だから「天獄」という組織に属するコイツらの味方をするのか?
オレは今、団長の指示で坊っちゃんを探している。
オマエには……」
「勘違いしないで」
夕弦はガントレットに魔力を纏わせると烈風を発生させ、発生させた烈風を纏いながら獅童に向けて告げた。
「私がここに来たのは答えを出したからよ。
相手が誰であろうと関係ない」
「答え?
自分の父親を敵に回すような答えか?
それとも何かまともな答えなのか?」
「何がまともかは関係ないわ」
「大いにある。
オマエの失態は団長の……白崎蓮夜の名に泥を塗ることになる。
悪いが団長の汚名だけは仕える身としては阻止せねばならない」
「そう……なら好きにしなさい。
私は私が仕えるべきもののために道を進む!!」
烈風を纏った夕弦は構えるなり走り出し、走り出した夕弦は獅童とともに現れた能力者の男たちに襲いかかろうとする。
「総員、迎え撃……」
「させるか」
迫り来る夕弦を前に獅童に連れてきた能力者たちに指示を出そうとするが、ソラは夕弦に向けようとしていたヒートマグナムを獅童の連れてきた能力者たちに向けると炎弾を放ち、放たれた炎弾が数人吹き飛ばしてしまう。
「何!?」
「……イクト、謝罪なら後でしてやる。
今は夕弦を援護するぞ」
「おう!!」
ソラがイクトに伝えると彼は元気に返事をして走り出し、続くようにソラは真助とノアルとともに走り出す。
「……向かってくる者全員倒せ!!
団長の邪魔をしようとする相手はたとえ坊っちゃんの仲間だとしても容赦するな!!」
「「「はっ!!」」」
ソラたちの行動に感情を露わにした獅童が指示を出すと能力者たちは武器を構えて動き出し、動き出した能力者たちを見て真助はソラに確認をした。
「ソラ、本気で斬っていいよな?」
「今後のこともある。
相手の出方を……」
「加減しなくていいわ!!
とにかく今は敵を倒して!!」
真助の質問にソラが答えようとすると代わりに夕弦が答え、その夕弦はガントレットの爪に烈風を纏わせると斬撃を放って敵を薙ぎ倒していた。
夕弦が敵を薙ぎ払う様子を見た真助は不敵な笑みを浮かべると小太刀で斬撃を放って敵を攻撃し、ノアルも自身の力である「魔人」の力で両腕を黒く染めて爪を鋭くさせると敵を次々に倒していく。
そんな中、ソラとイクトは敵を倒しながら進むと夕弦に近づき、彼女の話を聞こうと敵を攻撃しながら話しかけた。
「夕弦、戦闘中に悪いが何があったか話せ。
オマエの恋人が納得するようにな」
「あら、ソラ。
いつからそんなふざけたことを言うようになったの?」
「……久しぶりに会ったから和ませようとしただけだ」
夕弦がからかうように言うとソラはため息混じりに言葉を返して炎弾を撃ち放って敵を倒し、夕弦は敵を攻撃しながらソラとイクトにこれまでについての話をした。
「あの時の戦いで負傷した私は母に言われ、シンクの言葉を受けて悩んだ。
悩んでも悩んでも答えは出ない、すぐに答えを出さなくてもいいと母は言ったけど私には焦りしかなかった」
「けど、そんなオマエは答えを見つけた」
「ええ、私はソラやガイ、イクトやみんなのことを改めて考え直した。
仲間がどう考え、どう思って動いているのかを考えるうちにわかったのよ。
私は……アナタたちのように自分に素直になれてないって!!」
夕弦はソラたちに話す中で敵を攻撃蹴り飛ばすと続けて話した。
「……だから私は傷が治ったらすぐに行動することにした。
まずは自分の強さを見つめ直そうと考えてロビンに頼んで西に案内してもらったわ」
「えっ……西ってまさか……」
「そのまさかよイクト。
西に行って「関西最凶の賞金稼ぎ」の指導を受けたのよ」
「関西最凶の賞金稼ぎ?
何の話だイクト?」
「……ガイといい夕弦といい、オレの時と待遇違いすぎるだろ」
「おい、何の話だ?」
「ああ、もう!!
気にしなくていい!!
とりあえず無事だったからよし!!」
「わけがわからん……」
「かなり過酷な相手だったわ。
アナタやガイが彼に色々やってくれてたおかげで何とかスムーズに話は進んだけど」
「……で、その関西最凶の賞金稼ぎのところで鍛え直されたオマエは今こうして恋人であるイクトを助けに来たのか?」
「残念だけど……そう単純な話じゃないのよ」
夕弦のこれまでの話が語られる中、気づけば獅童の連れてきた能力者たちは全員倒されていた。
残るは獅童一人。
ノアルと真助が構え、イクトとソラも構える中、夕弦は構えるのではなく獅童に対してある質問をした。
「獅童、本気で団長……父の指示に従うの?
坊っちゃんと未だに呼ぶアナタがあんな指示で動くなんてどうかしてるわよ」
「……?」
(あんな指示?
蓮夜は獅童に何を……)
「夕弦、大人には大人の意地とプライドがある。
今回の件は団長の決意があるし、何より「月翔団」という組織の名誉のためでもある」
「名誉?
今更動き出して名誉も何も無いはずよ」
「……夕弦、考え直せ。
オマエのその行動は団長に受けたこれまでの恩を仇で返す行為だ。
戻ってこい、戻ってきて強襲部隊を指揮しろ」
断るわ、と夕弦は獅童を冷たく睨むとガントレットの爪を光らせ、構える中でソラたちに先程自分が口にした「あんな指示」について語り始めた。
「……ソラ、イクト。
それに真助とノアルも……驚かずに聞いて。
「月翔団」の団長……白崎蓮夜はヒロム様を危険視してるわ。
そして……ヒロム様を「姫神」の当主に仕立てて監視下に置こうとしてるわ。
そしてアナタたちが狙われたのは……ヒロム様を従わせるためよ」
「何だって!?」
「……本当なのか?」
夕弦の口から語られた蓮夜の指示と目的について聞いたイクトは驚きを隠せず、真助は夕弦の話を聞くと小太刀を強く握りながら獅童を睨み、真実か否かを確かめようとする。
真助だけでは無い、ソラも冷たい視線で獅童を睨んでいた。
その視線を受けながらも獅童は真助の質問に対して全てを語っていく。
「事実だ。
団長は今の坊っちゃんの行動と世間の目を考慮して保護しようとしてる。
オマエたちを襲ったのも坊っちゃんを素直に従わせるためだ」
「倒せって指示出して武装させてたけど、それはオレたちを殺すつもりだったからだろ?」
「言葉を間違えるな、鬼月真助。
オマエたちが素直に従おうとしないから実力行使に至っただけだ」
「……話があるなら一人で来るべきだったな。
こうなった以上はこっちも殺す気でやる」
「ここまでやっておいて今から忠告か?
残念だが……」
獅童が真助に何か言おうと話している最中、突然銃声が響く。
銃声が響くと獅童の右肩を炎弾が掠め、炎弾を放ったであろうソラは獅童に赤い拳銃・ヒートマグナムを向けて引き金に指をかけたまま告げた。
「次はその口に新しく穴を開けてやる。
それが嫌なら……失せろ」
「……」
「ソラ、何を……」
「夕弦の話を深読みするならコイツとは別で動いてるヤツがいるはずだ。
そいつらが仮にヒロムのもとに向かってるとしたら?」
「大将が連れてかれるって言うのか!?」
「可能性はあるわ。
ソラ、どうするつもりなの?」
「……アリサの負傷者の治療が終わればひとまず「七瀬」は安全、となればコイツを失せさせてヒロムのもとに向かう」
「素直に引き下がるような相手なのか?」
「その時は真助……アイツを殺せ」
「……仰せのままに」
さて、とソラは冷たい視線を向けると睨みながら獅童に対して確認するように言葉を発していく。
「オレたちはオマエらの企みを知った。
その目的が保護だろうと監視だろうと関係ねぇ。
オマエらがヒロムを狙うからやることは一つ……脅威の排除、それだけだ」
「……」
「ここで死ぬか、蓮夜に伝言伝えて死ぬか……どっちがいい?」
殺意をむき出しにして問い詰めていくソラ。
そのソラの言葉によってこの場の空気は重くなり、そして獅童の顔も徐々に強ばっていく……




