四〇五話 焔醒烈火
ソラは改めてバローネを倒すことを宣告し、それを聞いたバローネは弓を持つ手に力を入れながら構えるとソラに言い返した。
「……私はキミを殺せないと思ったか?
キミを生かせとの指示は受けていない」
「戯言はよせ。
用意してきた策を安易に発動して後手に回されたんだ。
大人しく殺されろ」
「それはどうかな?」
するとバローネはどこからか一枚のカードキーを取り出し、そしてバックルを少し開けるとカードキーをそこにかざした。
「キミこそ勘違いしている。
私の限界が近いと思ってるようだが……これは私がそう設定しただけだ」
「……?」
「もはやキミを相手にして枷は必要ない」
『LOCKOUT。
SPEC・FULLDRIVE。
LIMIT・OVER』
バローネがカードキーをかざしたバックルが光を発し、光を発するとバローネの鎧自体も光を帯びていき、そしてバローネの全身からこれまでにない程に強い力が溢れ出ていく。
「これは……」
「アップグレードとは違う。
これは純粋な私の力を解放した状態だ」
「……万が一の奥の手は用意してたのか」
「ここで使いたくはなかったがな。
使えば私の限界を知られてしまうからな!!」
バローネは強く言葉を発すると走り出し、そして一瞬でソラの背後に移動する。
「っ!!」
(速い!!)
ソラは炎を纏わせた蹴りでバローネに攻撃を仕掛けるが、バローネに蹴りが命中する瞬間、バローネは音も立てずに消え、そしてソラの死角に現れると彼を蹴り飛ばした。
「!!」
「ヒートオーバーとやらで底上げしてる程度では私は止められんよ」
「そうかよ」
ソラは急いで体勢を立て直すと炎を右手に集め、集めた炎で赤い拳銃「ヒートマグナム」を出現させて装備して炎弾を連続で撃ち放つ。
が、バローネはソラの放った炎弾の全てを簡単に回避すると弓を構えて魔力の矢を放ち、放たれた矢はソラに襲いかかる……が、ソラはヒートマグナムから炎を放って相殺して防いでみせた。
「私の攻撃を防ぐ余裕はまだあるようだな」
「当たり前だ」
(……時間の問題だな。
ヒートオーバーの最大出力強化時間はそう長くない。
「炎魔」の力で構築されたも同然のイグニスの力を炎越しに借りる技だからイグニスは無限に続けられてもオレは長く持たない。
となれば……)
「こちらも奥の手を使うしかないようだな」
「奥の手?
なるほど……キミもまだ用意してたようだな」
「ああ……ナッツ!!」
「キュッ!!」
ソラが叫ぶとどこからともなく一匹のリスが走ってきて彼の肩に乗ろうと体を登っていき、そしてリスはソラの肩の上に到達するとソラに頬ずりした。
このリス……ただのリスではない。
彼、相馬ソラの精霊であるナッツだ。
リスの精霊・ナッツを見るなりバローネはため息をついてソラに話し始めた。
「リズ一匹が奥の手?
笑わせないでくれるか?
私はキミと生死をかけた戦いをしてるのだぞ?
それなのに……私は動物を愛でる気もなければいたぶる気もない」
「安心しろ。
オレとオマエの戦いであることは変わらない。
ただ……オレの戦い方を変えるだけだ」
「戦い方?」
「……ナッツ、トランスクロス」
「キュッ!!」
ソラが呟くとナッツは炎を身に纏いながら高く跳び、ナッツは跳ぶと全身を炎と一体化させ、そして炎はソラの首と両腕にまとわりつく。
そしてまとわりついた炎は姿を変え、真紅のマフラーと真紅のガントレットへと変化する。
「……トランスアップ。
クリムゾン・スター」
「リスが武装になっただと……!?」
「驚くのはまだはやい。
本当に驚くべきはここからだ」
「戯言を……!!」
バローネは魔力を纏うと音も立てずに消え、一瞬でソラの背後に移動すると至近距離から矢を放とうとする。
しかし……
ソラは背後に洗われたバローネの姿を見ることなく裏拳を放ってバローネの矢の発射を阻止し、さらに連続で腹に拳を叩き込んでいく。
「!?」
「はっ!!」
ソラはバローネに拳を叩き込むと続けて蹴りを放ち、そして炎を拳に纏わせると目にも止まらぬスピードの連続でのパンチを放ってバローネを追い詰めていく。
「なっ……はや……」
「ダララララララ!!」
ソラは何度も何度も炎を纏わせた拳でバローネを殴り、そして強く拳を握ると天に向けて殴り上げ、さらに蹴り飛ばして打ち上げると地面を強く蹴って打ち上げられたバローネより高い位置へと出現する。
「オラァ!!」
ソラは空を強く蹴るとバローネに接近して殴り、回転して勢いをつけると強い一撃をバローネに食らわせて地面に叩きつける。
「がはっ……!!」
地面に叩きつけられたバローネはその衝撃によって激痛が全身に走り、それによってバローネの動きが一瞬止まる。
動きが止まるとソラは首に巻いたマフラーを長く伸ばしてバローネの体に巻きつけ、炎を纏わせると勢いよく持ち上げ、そして勢いをつけると再び地面に叩きつける。
「……!!」
「ドラァ!!」
地面に叩きつけられて衝撃に襲われるバローネを再び持ち上げるとソラは両腕に巨大な炎を纏わせ、バローネに自分のもとへ引き寄せると拳を叩きつけて殴り飛ばす。
殴られたバローネは巻きついたソラのマフラーから解放されるが、攻撃を受けた衝撃で吹き飛ばされる。
が、なんとかして耐えたバローネは受け身を取ると魔力を全身に纏い、弓に魔力を纏わせて刃を形成するとソラは向けて斬撃を放つ。
放たれた斬撃はソラに向かって飛んでいくが、ソラはマフラーを自分の前に広げると斬撃を防ぎ、右手に炎を纏わせるとバローネに向けて炎を放つ。
放たれた炎は無数に散らばると矢となってバローネは降り注がれるが、バローネは魔力を纏いながら加速して全てを避けるとソラに接近し、至近距離から斬撃を放とうとするが、ソラは炎を右手に集めると剣を形成してバローネの攻撃を止めた。
「予想外で驚いた。
キミにそんな力が残っていたなんてね」
「先に奥の手を見せたのは判断ミスだったな。
今のオマエとオレとの力の差は無いに等しい」
「ならばキミに私は倒せない。
均衡したというのならアップグレードの残っている私に分がある」
「それは……どうかな?」
「何?」
「ニャー」
ソラの言葉にバローネが不思議に思っていると、ソラの首に巻くマフラーの下から何やら鳴き声がする。
鳴き声がするとマフラーの下からゆっくりと子猫が頭を出し、可愛らしい鳴き声をソラに聞かせ、ソラはバローネを蹴り飛ばすと子猫を抱き上げる。
「ニャー」
「よし、キャロ。
怖いかもしれないけどやるぞ」
「ニャー」
「ナー」
子猫……の精霊・キャロが返事をするように鳴くと続けてまた鳴き声がし、ソラの首もとから黒い子猫が出てきてキャロの隣に並ぼうとソラの手の上に飛び移る。
「ナー」
「……ごめんごめん。
オマエもいたな、シャロ」
「ナー」
「ニャー」
黒い子猫……の精霊・シャロが鳴くとキャロはシャロと戯れるように顔を舐め、シャロも嬉しそうにキャロの顔を舐める。
二匹の子猫が戯れようとする姿にソラはため息をつくと仕切り直すように伝えた。
「キャロ、シャロ。
トランスクロスだ」
「「ニャー!!」」
ソラが伝えるとキャロとシャロは可愛らしくも大きな声で鳴きながら炎となり、白と黒の二丁の拳銃へと変化する。
キャロとシャロが変化した二丁の拳銃をソラは装備し、右手に白い拳銃、左手に黒い拳銃を構えたソラはバローネに向けて宣言するように言った。
「さて……先に奥の手を全て出し切ったが、オマエはもうアップグレードをすることはない。
このままここでたおす」
「……早く奥の手を出し切ってくれて助かる。
おかげで無駄なアップグレードをしなくて済んだ」
「どうかな?
アップグレードしとけばよかったと後悔すると思うぜ」
「ふっ、それはどう……」
何か言おうとしていたバローネ。
そのバローネの言葉を遮るようにバローネの眼前に無数の炎弾が現れ、現れた炎弾が次々にバローネを襲っていく。
「!?」
「こういうことだ」
炎弾の直撃を受けたバローネは大きく仰け反り、ソラはバローネに向けて拳銃を構えると引き金を引く。
ソラが引き金を引くと無数の炎弾がどこからともなく現れ、現れた炎弾全てがバローネを襲っていく。
さらにソラが引き金を引くと二丁の拳銃からビーム状の炎が次々に放たれ、放たれた炎はバローネが手に持つ弓を破壊しながら彼を追い詰めるように直撃していく。
「バカな……これは……」
「これは忠告だ」
ソラの猛攻に驚くバローネに一言告げるとソラは狙いを定めて炎弾を放ち、放たれた炎弾はバローネのバックルに命中、炎弾が命中したバックルは破損したのか煙を上げる。
「しまった……!!」
『システムエラー。
リミッターを制限、機能の一部を停止します』
バックルから音声が流れるとバローネの全身から発されていた力が消え、力の消失を感じたソラはバローネに接近すると腹に蹴りを食らわせる。
「がはっ……」
「言ったはずだ。
もうアップグレードをすることはないってな」
「まさか、これを狙って……」
「そこにデバイスシステムが搭載されてると分かれば狙うさ。
的もデカかったから狙いやすかった」
それに、とソラは至近距離で拳銃を構えると周囲に無数の炎弾を展開し、全ての狙いをバローネ一人に絞ると引き金に指をかける。
「オマエのおかげでオマエらの力の根源の弱点がわかった。
さよならだ」
「この……」
「フルアトミック・バースト・ドライヴ!!」
ソラが引き金を引くと無数の炎弾が一斉にバローネを襲い、炎弾に襲われたバローネは全身を炎に焼かれながら吹き飛んでしまう。
吹き飛んだバローネは倒れてしまい、バローネが倒れるとイグニスと戦っているはずのヒューリーが駆けつけ、バローネを抱え上げるとソラを睨みながら告げた。
「相馬ソラ……次会う時はオマエを殺す」
「……」
「逃がすか!!」
バローネを抱え上げたヒューリーが逃げると考えたイグニスはヒューリーに向けて炎を放つが、イグニスが炎を放つと同時にヒューリーは白い光を発しながらバローネとともに消えてしまう。
標的を失った炎は何も無いところを燃やし、逃げられたことに腹を立てるイグニスは舌打ちをするとソラに謝罪した。
「すまん、ソラ。
仕留め損ねた」
「気にするなよ。
倒せなかったがヤツらのアップグレードの対策と対能力用のシステムの存在を知れた。
敵を撃退したって考えれば勝利に変わりない」
「……そうか」
「何よりも……まずは負傷者の手当だ」




