四〇一話 スローネ
「相手になろう……このスローネが」
「スローネ、ここは我々に……」
「休んでおきたまえヘヴン。
今回の件は私からカイザーに報告する。
キミたちは次に備えて休むんだ」
「しかし……」
「任せておけ。
キミたちは下がっていろ」
ヒロムとクロムが戦う意思を見せるのに応えるように剣士は自身を守るように立つヘヴンとヴァロンを退かせると彼は……スローネは前に出るとヒロムとクロムに向けて話し始めた。
「さて……望み通り相手になろう。
二人同時でも構わない、かかってこい」
「上等だこの野郎が」
「そこまで言うならやってやる!!」
スローネの言葉にヒロムとクロムはやる気を見せるが、二人の反応を見たスローネは彼らにある事を伝えた。
「言い忘れたが……私のこの鎧にはまだデバイスシステムは組み込まれていない。
私の力が戦闘中に増加することは無いから……安心したまえ」
「余裕ってことか?
ナメやがって……」
「ヒロム、何故クロス・リンクを発動しない?」
スローネの言葉にイラつくヒロムだが、そのヒロムに対してクロムは素朴な疑問をした。
そう、ヒロムはここに至るまで「クロス・リンク」を発動していない。
精霊の武器を使い、力の増幅を行う「ソウル・ブレイク」を使ったくらいだ。
これまでなら敵を前にして迷わずに使っていたのに、今になって使おうとしない。
それがクロムには気になって仕方なかった。
「アップグレードを恐れてるのか?
「クロス・リンク」の力を学習されることに恐怖を感じてるのか?」
「うるさい。
黙って集中しろ」
「黙ってろってか?
オレとオマエは心が繋がってる。
それが意味すること……分かってるよな?」
「……黙れ。
今は敵を倒す!!」
ヒロムは精霊・フレイの武器である大剣を構えると走り出し、クロムはヒロムの態度に舌打ちすると刺突に特化した槍を構えてスラスターに火を噴かせながら加速していく。
加速したクロムはヒロムよりも先にスローネに接近すると敵を貫こうと突きを放つ……が、スローネはクロムの攻撃を片手であっさり止めてしまう。
「!!」
「加減しなくていい。
本気で来い」
スローネが軽く力を入れるとクロムは槍ごと吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたクロムは何とかして受け身を取ると槍の切っ先をスローネに向け、槍を展開すると魔力をビームにして撃ち放つ。
「ニュートリオン・ブラスト!!」
クロムに放ったビームは力を増しながらスローネに向かっていくが、スローネは指を鳴らすと背中にマントを纏い、纏ったマントを前面に大きく広げるとクロムの放ったビームを防いでしまう。
「何!?」
「対魔力攻撃無力化のマントだ。
素晴らしいと思うだろ?」
「関係ないけどな!!」
スローネが自慢げに話しているとヒロムが接近して大剣を振り下ろすが、スローネはマントを元に戻すと左腕に巻きつけ、マントを巻きつけた左腕でヒロムの大剣を止めてしまう。
「くっ……!!」
「たしかに魔力を使わぬ物理攻撃は弱点のように思えるが……このようにして扱うことでこのマントは物理攻撃すら防げるのだよ」
「この……!!」
「ところで……いつまでこうしてるつもりだ?
キミのその力では通じないのだが……無駄とわかりながらも続ける気かい?
「クロス・リンク」を使いたまえ。
いや……使えないのか?」
「黙れ!!」
ヒロムはスローネを黙らせようと強く叫ぶと大剣を勢いよく振り下ろすが、スローネはそれを右手で掴み止め、力を入れると大剣を粉々に粉砕してしまう。
「……!?」
「現実を理解すべきだ」
スローネが右手をヒロムに向けてかざすとヒロムは目に見えぬ何かによって吹き飛ばされてしまう。
「ヒロムくん!!」
屋敷の方からこちらを見守っているユリナが心配そうに叫ぶが、ヒロムはすぐに立ち上がると精霊・ロザリーの武器である斧を装備して走り出してスローネに攻撃しようとする。
が……ヒロムのその行動を見たスローネはため息をつくと右手に魔力を纏わせ、そして纏わせた魔力を強くさせるとヒロムに向けて冷たく告げた。
「今の迷いしかないキミには私は倒せんよ。
いまのキミではな」
スローネは右手に纏わせた魔力を解き放ち、解き放たれた魔力は無数に分裂しながらヒロムに襲いかかる。
「ぐぁぁあ!!」
ヒロムだけではない。
ヒロムの戦いを見守りいつでも加勢できるように待機していたガイとシオンを巻き込むように襲いかかり、さらにクロムまでをも巻き込んでいく。
「ぐぁぁあ!!」
「うぁぁぁ!!」
スローネの攻撃を受けたヒロム、ガイ、シオンは負傷して倒れ、クロムも負傷するとともに全身に纏っていた力が解除されて元の姿に戻ってしまう。
「くっ……コイツ……」
「これが私の力の片鱗。
キミたちが今のままでは敵わぬ私の実力だ」
スローネはマントを巻つけていた左腕に魔力を纏わせると天に向けてかざし、スローネが左腕を天にかざすと天より無数の雷撃がヒロムたちに襲いかかる。
「「「あぁぁあ!!」」」
「ヒロムくん!!」
敵に追い詰められていくヒロムの名を叫ぶユリナ。
そのユリナの叫びは通じていないのかヒロムたちはボロボロになって倒れ、そしてヒロムの全身に纏わせていた白銀の稲妻が消えてしまう。
「……よもやこれまでか。
キミは「竜鬼会」を壊滅させた実力者だと思っていたが、実際は違ったらしいな」
「……」
「守りたいものも守れず、無様に倒れる……その程度では革命の戦士には程遠い」
スローネはヒロムに向けて告げると右手に魔力を纏わせ、魔力を纏わせた右手をユリナたちのいる屋敷に向けてかざす。
「やはりキミには絶望が似合っている」
スローネは魔力を解き放ち、解き放たれた魔力は右手から球となって放たれて屋敷を破壊しようと向かっていく。
「……ざっけんな!!」
ヒロムは拳を強く握ると立ち上がり、白銀の稲妻を再び纏うと加速して屋敷を守るように魔力の球の前に移動し、スローネの攻撃をその身で受け止めて屋敷の破壊を阻止してみせた。
「がっ……!!」
「ヒロムくん!!」
魔力の球はヒロムに直撃すると爆発し、その爆発に巻き込まれたヒロムは勢いよく吹き飛ばされ、地面に何度も叩きつけられるとそのまま倒れる。
……が、ヒロムは倒れても意識があるのか何とかして立とうとし、立ち上がるとフラつく体の傷を「復元」の力で消し去るとスローネを睨んだ。
「はぁ……はぁ……」
「なるほど、復元に頼って防御を選んだか。
だがその力がもたらす副作用を考えれば不必要な発動ではないか?
力無いもののために己が傷ついて何になる?」
「うるせぇ……。
どうせオマエらには……一生かけてもわからねぇ事だ」
「何……?」
「オレはどんなに傷ついても「復元」の力があれば勝手に治るし、副作用の痛みだって気合で耐えればいいだけだ。
けど……アイツらが怯えて感じてる痛みは底知れねぇし、それに比べたらこんなもん大した事じゃねぇ!!」
ヒロムは拳を強く纏いながら叫ぶとスローネに向けて殺気を放ち、殺気を放ちながら己の意思を語り始めた。
「力があっても何も出来なきゃ意味が無い!!
守りたいと願って力を得ても何も出来なければ意味は無い!!
だからオレはそんな風にはなりたくねぇ……!!
オマエらに何をされてもオレは屈しない!!
アイツらが信じてくれているかぎり……オレはどんなに忌み嫌われても前を進む!!」
「前に進んでもキミにはこんな世界相応しくない。
この世界はまたキミを利用し、そして用が済めばキミは捨てられる」
「捨てられて結構だ……!!
オレは……オレを必要としてくれてるユリナたちやガイたちのために魂を燃やして戦う!!
世界なんて関係ない……オマエらが正義だって言うならオレはその正義を壊す悪になってでも大切なものを守ってやる!!」
「……っ!!
なるほど……どうやらキミは迷いを抱くどころか目的すら見失ってるらしいな。
キミが「クロス・リンク」を使わなかったのは使わなかったのではない、使えなかったからだ」
スローネの推測にも似た言葉にガイとシオンは驚きを隠せなかった。
ヒロムが「クロス・リンク」を発動しなかった理由、それは単に敵のアップグレードを警戒してたからだと思っていたからだ。
それが事実か確かめようとガイとシオンはヒロムの方を見つめ、ヒロムはスローネの言葉に対してその真意を語っていく。
「たしかにオレは迷って悩んださ。
何のために戦って、何のために存在するのか……その答えを探そうとしてた。
けどもう違う……!!
あの戦いでオレがどうなろうと関係ない!!
今オレが戦って誰かを守れるなら……万人に嫌われて一を救えるなら、オレはもう迷わない!!」
ヒロムが強い意志を示すと彼の体は強い力を発し、その力に呼応するように精霊・フレイとディアナがヒロムのそばに現れる。
そして……
「……クロス・リンク!!
「天剣」フレイ!!「星槍」ディアナ!!」
ヒロムが叫ぶとフレイとディアナは光に変化し、光に変化するとヒロムを包み込んでいく。
そして……
「光とともにオレを導け!!」
彼の言葉に呼応するように光は一筋の柱となり、光の柱となったそれの中からヒロムは装いを新たにして現れる。
白のコートとそれに連結するように存在する青い腰布を身に纏い、そしてその下には青い衣装と白のズボン、さらにガントレットとロングブーツを装着したヒロム。
その姿を目の当たりにしたスローネは敵であるはずのヒロムを称え始めた。
「どうやら迷いを一つ克服したようだね。
おまでとう、素晴らしいかぎりだ」
「……それも計算のうちか?」
「その通り。
あえて的はずれなこと……つまりは「クロス・リンク」が発動出来ないという偽の情報でキミを激昴させて発動するように仕向けたのさ」
「……なら後悔させてやる。
オマエはその考えが甘かったってことをな!!」
ヒロムは光を纏うと走り出し、そしてスローネに接近すると拳撃を放つが、スローネはそれをマントを用いて防いでしまう。
「……少しは力が増したか。
だが、その程度では……」
どうかな、とクロムは起き上がると先程ヘヴンを倒した黒い装束を纏い、そして右手に剣を構えるとスローネに向けて斬撃を放つ。
放たれた斬撃はスローネに命中、さらにヒロムの拳撃も続けて命中し、それによってスローネは大きく仰け反ってしまう。
「……!!」
「クロム……」
「……仕方ねぇから加勢してやる。
説明はその後だ」
「……分かってる!!」




