四○○話 革命の戦士
「キミたちは革命の戦士だ」
突然現れた剣士はヒロムとクロムに向けて言い、それを聞いたヒロムとクロムは敵と思われる剣士を睨む。
彼らだけではない。
剣士の存在を危険視したガイは二本の霊刀を構え、シオンも精霊・ライバとともに雷を纏うと剣士を倒そうと戦闘態勢に入る。
が、そんな彼らの姿を目の当たりにした剣士は何故か
彼らに向けて拍手を送る。
「素晴らしい。
革命の戦士である「覇王」とその眷属の闇、そして覚醒した二人の能力者……これは絶景だ」
「革命の戦士?」
「何言ってやがる?」
「「潰すぞ」」
剣士の言葉にヒロムとクロムは不快さを露わにしつつ敵意をむき出しにするが、そんな中ガイは剣士に向けて質問した。
「オマエらは何者だ?
なぜヒロムを狙う?」
「ふむ……そうか、その辺の事をやはり知りたいか。
何者かと言われればこう答えよう……通りすがりの正義だ」
「またそれか」
「聞いててイライラするな」
ガイの質問を受けて自分たちが何者かについて答えた剣士の言葉にヒロムとシオンがイラつく中、ガイはそれについて言及するかのように質問していく。
「何故、通りすがりの正義と名乗るんだ?」
「何故だろうな。
我々にとってはそこに理由などない。
キミたちからすれば我々は悪かもしれないが、我々は自分たちの行動こそ正しいと信じている」
「……アンタにとってその正義ってのは何だ?」
「ほう、いい質問だ。
正義の価値観は人それぞれ、それを知ろうとすることは素晴らしいことだ」
「……能書きはいい。
答えろ」
さすがのガイも剣士の態度にイラだってきたのかすこし言い方が冷たくなるが、ガイに言葉が冷たくなろうとも剣士の態度は変わらない。
「我々の正義は他人からすれば理解し難いことだろう。
だかそれは我々の正義を聞いたものの中にある正義の価値観とかけ離れているからであり、我々の正義自体は逸脱してない」
「正義、正義……正義って言葉ばっかりで吐き気がする」
「キミは正義というものが嫌いだったね、姫神ヒロム。
自己の見解の押し付け、キミの言う通り正義とはそういものだ」
「その通りすがりの正義とやらも押し付けってことか?」
「そうとも捉えられるが……少し違うな。
我々の掲げる正義は世界を大きく動かす力を持った正義だ」
「世界を?」
剣士の言葉、その言葉の真意が分からないヒロムは不思議そうな顔をし、さらにガイたちも理解できないことに頭を悩ませる。
そんな彼らに向けて分かりやすく剣士は自身やヘヴンたちの正義について明かし始めた。
「この世界を能力者だけのものにする。
能力者が能力者として誇りを抱ける世界にし、能力を持たずに流れに左右されるだけの人間を世界から切除する。
そうすることで能力者の尊厳は守られる」
「なっ……」
「まさか……」
「そう、この世界をリセットする。
能力者のみが存在する世界、能力者が堂々と生きていける世界にする……それこそが我々が果たすべき正義だ」
剣士が口にした敵の目的、それを聞いたガイとシオンは驚きを隠せず、驚く彼らに更なる事実を告げる。
あまりにも身勝手な正義、それを前に驚きを隠せないガイとシオンは同時に怒りに近い感情を抱く。
……が、そんな中ヒロムは剣士の言葉に対してある疑問を抱いていた。
「能力者だけの世界を目指すのなら何でオレを狙った?
オレは能力者じゃない、だがヘヴンはオレを狙って現れた。
何故だ?」
「それはキミの行いが我々の正義を実行させるための確信を持たせてくれた」
「確信だと?」
「キミは「竜鬼会」という魔の手から大切なものを守り、そして街を救った。
精霊と心通わせたことで成し得た力を纏いながら次々に敵を倒し、人々を救おうとした。
だが……結果はどうだ?」
「人間が非日常な面に直面すればああなる。
それだけだ」
「違うな。
何もしなかったものが頭数揃えてキミを迫害している。
キミの今の居場所はこの狭い屋敷の中だけ、外に出ればキミは冷たい目で見られて終わる」
「そうか……オマエがやったんだな?
リナやレイナの家に脅迫にも似た手紙を送ったのは」
「その通り。
私が指示を出して彼女たちの家に仕込んだ」
「……何のためにだ?」
剣士に向けて問うヒロム。
そのヒロムの目は冷たく、そして瞳の奥からは強い殺意を感じ取れる。
その殺意を感じているはずの剣士は彼に対して言葉を選ぶこともなく何のためにやったかを口にする。
「彼女たちはキミの心を惑わせている。
だから理解させる必要がある……キミには不要な存在だとね」
「……あ?」
「それに彼女たちはあれを見てここに集まった。
おかげでキミに関与する能力を持たない人間を一掃出来る。
嬉しいかぎ……」
剣士の言葉を聞いたヒロムは怒りを隠せなくなり、精霊・フレイの武装である大剣を装備するなり一瞬で剣士に接近して斬撃を放つが、剣士はヒロムの一撃を片手で止めると彼に向けて話し始めた。
「何故怒るんだ?
彼女たちがいるからキミは惑わされる」
「惑わされる?
ふざけんな!!アイツらはオレを……」
「力無い者のために戦った結果が今の状況だ。
どれだけキミが努力しても結局結果は変わらない」
「黙れ!!」
ヒロムは剣士を殴ろうとするも剣士はヒロムの拳を簡単に止め、剣士はヒロムを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたヒロムはすぐさま受け身を取って構え直して走り出そうとするが、そうしようとした矢先、ヒロムの行く手を阻むようにヘヴンが剣士を守るように現れる。
「オマエ……!!」
クロムとの戦いで前身負傷し、その身に纏っていた鎧も壊れかけていたはずのヘヴン。
だがそのダメージがあった形跡はどこにもなく、ヘヴンの全身は現れた時と変わらぬ状態だった。
「……何?」
ヘヴンの出現によって走り出そうとしていたヒロムは足を止め、ヘヴンの姿を見たクロムは何が起きてるのかをヘヴンに問う。
「おい、オマエ。
一体何をした?」
「オマエが知ることじゃない」
クロムがヘヴンに問うているとヘヴンと同じようにクロムに倒されたはずのヴァロンがヘヴン同様に無傷に近い状態で現れ、現れたヴァロンは何が起きてるのかをクロムに対して親切に語っていく。
「オレとヘヴンがオマエの攻撃を受けて倒れた後、オレたちの持つデバイスシステムは修復機能を働かせようとする。
その修復機能にオレの「輪廻」を発動させ、修復機能の回復力が奇跡的に高くなる運命に導いた」
「オマエの能力は他人の運命の支配じゃ……」
「だから運命を支配した。
オレとヘヴンの体の修復の運命とデバイスシステムの機能の運命をな。
もしかして他人の運命を悪化させるだけだと思ったのか?」
「……最初からこうなることを計算してたのか?」
少し違うな、と剣士はクロムの言葉に対して言うと彼の言葉を訂正するように続けて話していく。
「ヘヴンとヴァロン、アスラナは姫神ヒロムのもとに向かい、そしてあわよくば紅月シオンを仲間に引き込むように指示を受けていた。
が……クロム、キミの出現で彼らの任務は狂った」
「オレの出現が予想外だった。
だからオマエが現れたのか?」
「その通り。
キミというイレギュラーな存在をこの目で確かめ、最適な対応策を見出すためには直接その姿を目にする必要がある」
「なるほど……。
けど、運命操作で傷を治すのは織り込み済みだったんだろ?」
「その通り。
万が一の場合に備えてそういう機能を設けておいたのさ」
「設けておいた……その言い方、デバイスシステムとやらの設計にオマエが関与してるってことだよな?」
剣士の言葉からデバイスシステムとの関係性を探ろうとするクロムだが、クロムの質問に対して剣士は拍手を返す。
そして拍手を返した剣士はクロムの質問であるデバイスシステムについて語っていく。
「デバイスシステムはとても画期的なシステムだ。
能力を持たぬ者がこのシステムを手に取るだけで能力者のように力を使役できる。
私はこのシステムの利便性を利用し、能力者が高みに到達できるように調整した」
「それがアップグレード……」
「そう、アップグレードだ。
画期的なシステムの拡張だと思わないか?
戦う度にスペックが引き上げられ、戦うことで学習していく……誰もが強さを手に取れる」
「……どうでもいい。
それよりも重要なのはオマエらがどうやってデバイスシステムのデータを手に入れたかだ。
……誰から受け取った?」
剣士の話の内容自体に興味を示さないヒロムはそれよりも重要なことをハッキリさせようと彼らが持つデバイスシステムの出処を答えさせようとする。
そのヒロムの問いに剣士は間を開けることも無く淡々と話していく。
「我々の手にかかればデバイスシステムの設計データなんて簡単に手に入る。
キミたちの想像を超える力を持つのが我々だ」
「……「四条」のネットに侵入してデータを盗んだってことか」
「言い方が悪いな、雨月ガイ。
管理のなってないデータバンクから拝借しただけだ」
「ガイの言ってることと大差ねぇな。
要は目的のために利用したいから盗ったんだろ?」
ガイに言葉を訂正するように言った剣士の言葉に対してシオンは彼らがデバイスシステムのデータを盗んだことを強調するように言い直すが、それを聞いた剣士はため息をついてしまう。
「やれやれ……分かってないね」
「あ?」
「シオンの言ってることが間違ってるって言うのか?」
「ああ、大いに間違っている。
キミたちはそもそもの流れを間違っている」
「そもそもの……」
「流れ?」
「そう、何故我々が奪ったことになってるかだ。
キミたちの言い分ではデバイスシステムが「四条」のものだと考えているようだが、彼らがデバイスシステムの開発者だと世間的に公表してるのか?」
「……っ!!」
「何を……!?」
「さも当然のようにデバイスシステムは「四条」のもののように言うが……世間に公表されていないシステムを我々が先にこうして使っている、それでも我々だ奪ったと言えるのか?」
「そんなのはどうでもいい!!」
剣士の言葉を一蹴するかのようにヒロムは叫ぶと全身に白銀の稲妻を纏い、そしてヒロムは拳を強く握ると剣士を睨みながら叫んだ。
「オマエらはここで潰す!!
ふざけたその理想ごと叩き潰して終わらせてやる!!」
「ヒロム……」
まったくだ、とクロムは身に纏っていた「クロス・リンク」の武装の槍を構え直すとヒロムに続くように剣士に向けて告げた。
「オマエらが何者かはこの際どうでもいい。
ヒロムの行く手を阻むのなら……力でねじ伏せるまでだ!!」
「……なるほど。キミたちは愚かな道を選ぶか。
なら相手になろう……このスローネがな」




