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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
覇王進動編
4/672

四話 再会

「くそ!!」


 次々とヒロムへと猛攻を仕掛けるシオンだが、ヒロムはそれらをすべて顔色一つ変えずに容易く避けていく。


「避けやがって!!」


 シオンは怒りに任せて周囲に雷を落とすが、ヒロムはそれすらも避けてしまう。


 シオンの背後に接近したヒロムはそのままシオンを殴り、シオンは少しのけぞってしまう。

シオンは先程まで一人でソラとイクトを圧倒していた。

なのに今は能力のないヒロムにただの格闘術でボロボロになるまで追い込まれていた。


「くそ、何なんだよ」

(オレのスピードが落ちたわけじゃない。

おそらくは……)


「一体何をした!!」


 シオンは槍でヒロムを突こうとするが、ヒロムはシオンが槍で突く前にシオンの動きを読んだのか、槍を蹴り飛ばした。


「な……」


「どした?

ソラとイクトと互角以上に戦ったんだろ?」


 ヒロムは軽くジャンプした後、一気にシオンに接近してシオンを殴り飛ばす。


「ぐあ!!」


(生身でこの力なのか!?

これで能力がない!?)


「……だからと言って!!」


 シオンは受け身をとるなり槍を手に取り、槍に雷を纏わせ、攻撃を放つ。

しかし、ヒロムはそれを避けてシオンを殴る。


「く……」

(この反応速度、攻撃力……!!

ここまで強いやつとは……)


「滾らせてくれる!!」


 シオンが天高くに雷を放つと、その雷がいくつにも分裂し、天よりヒロムへと降り注ぐが、ヒロムはそれをすべて避けてしまう。


「落雷だぞ!?」


 シオンが驚く中でヒロムは一気に接近し、シオンに蹴りを食らわせる。


「一体……何が起きている……!?」


 シオンは今何が起きているかをひたすらに考えたが、理解しようにもそれ以上に苛立ってしまう。


「こいつのどこが!!」


「?」


「考えたら苛立つな!!

ふざけやがって!!」


 シオンの周囲に無数の雷の球体が現れ、その雷の球体から次々に雷が放たれていく。


「雷電乱雷撃!!」


「まずい!!」


「いくら大将でも……」


 イクトが心配する中、次々に迫る雷をヒロムはすべて回避していく。

それもそのすべてをギリギリではなく、まるでどこにどう攻撃が来るかわかっているかのように避けていく。


「この……」


「ここまでだな」


 すると突然、ヒロムが立ち止まった。

その行動に何かあると見込んだシオンは思わず構えてしまった。

が、ヒロムの次の行動にシオンはただ言葉を失うしかなかった。


「何をしてる……!?」


ヒロムはポケットから栄養ゼリーを取り出した。

それも市販されている、「素早く栄養チャージ」を売りにしているものだ。


「何のつもりだ……!?」


「休憩」


 ヒロムは蓋を開けるなりそれを堂々と吸い始めた。


「テ、テメー!!」


「そういうわけだ」


 シオンの怒りが最高潮に達すると同時に、ヒロムの前にオレンジ色の髪の少女が現れる。

少女は片手に銃を持ち、シオンを睨むように見ていた。


「頼むぞアルカ」


「マスターの邪魔はさせない」


 まったく、と炎とともに銀髪の少女が現れる。

手に銃と剣が一つとなった銃剣を持ったその少女は呆れながらアルカを注意した。


「あなたは考えなしに……」


「考えはある、テミス。

邪魔するものを始末する」


「それは考えといわないのよ」


「二人とも、しっかり頼むぞ」


「おまかせを、マスターは少し休んでいてください。

ここは私とアルカで対処します」


なめやがって、とシオンは全身に雷を纏わせ、さらにそれを巨大化させる。


「精霊使いだってことは今思い出した……

だが……気に入らねえ!!」


 シオンはアルカとテミスに向けて雷を放つが、テミスは手に持っていた銃剣に炎を纏わせるなりその雷を防ぐ。

その横からアルカが次々に銃口から雷を放つ。


「!!」


シオンはアルカの雷を何とか回避するが、アルカは迷うことなくシオンのもとへと向かってくる。


「マスターの邪魔は許さない。

たとえ、同じ能力の所有者であろうと!!」


アルカは一切の躊躇いなくシオンの懐に入るとシオンを殴る。


「……?」


アルカの攻撃を受けたシオンを見て、テミスは何かに気づいた。


ヒロムもそのテミスの反応に気づいた。


「どした?」


「妙です。

アルカの体術はマスターに劣りますが、それを受ける彼の反応が……」


 ヒロムはテミスに言われてシオンを観察した。

シオンに次々に攻撃を繰り出すアルカに対して、シオンは防戦一方となっている。

隙を見て雷を放ったり槍で攻撃するが、先ほどまでのような攻撃はなく、どことなく考えのない一か八かのような攻撃だった。


「……何かわかったのか?」


「はい。

おそらく……ですが」


 テミスはヒロムの耳元で告げる。

テミスの言葉を聞いたヒロムはどこか納得いかない顔をしている。


「……そんな理由?」


「はい。

そうでないと説明がつきません」


 するとテミスが炎を銃剣に纏わせ、周囲に炎の刃を展開した。


「とにかく、判断はマスターにお任せします」


テミスはヒロムに頼むとシオンに向けて炎の刃を放つ。


「そっちもか……!!」


 シオンは雷を前面に大きく展開し、炎の刃を防ぐ。

が、その背後からアルカがシオンに雷を食らわせる。


「ぐ……!!」


「油断大敵よ」


「ええ」


するとテミスが雷の消失とともに炎を纏った銃剣でシオンを攻撃する。


シオンはその攻撃を避けられずに直撃を受けてしまう。


「ぐぁっ!!」

 

「どうしました?

この程度の攻撃、避けてくださいよ」


「この……」


 シオンは距離をとろうとテミスとアルカから離れるように後ろに下がるが、直撃を受けたことで負ったダメージのせいで膝から座り込んでしまう。


「くそ……」


 その光景にさすがにガイも、先ほど戦っていたソラとイクトは不自然に思っていた。


「あれはさっきと同じ相手か、ソラ?」


「ああ……だが……」


「急に動きが悪くなった……よな」


 驚く三人、そんな中、テミスの考えを聞かされていたヒロムはただため息をついた。


説明しましょうか、とテミスがガイたちに尋ねてくる。

ガイたちは何をいうわけでもなくただ頷いた。


「あの方は戦闘においてはソラとイクトとの戦闘で消耗したせいもあってマスターに一歩及ばない状態でした。

が、アルカが現れてから様子が一変しました。

彼の攻撃はマスターに対してはマスターの機動力にあわせて攻撃方法を選んでいた。

なのにアルカに対しては直線的で単調な攻撃でした」


「つまり……?」


 テミスの説明から何が言いたいのか考えるソラの横からイクトがテミスに対して発言をした。


「精霊が苦手?」


「違います」


「長い髪」


「……違います」


 イクトの発言に少しずつ呆れるテミスだが、その横からガイが何かに気づいたらしく、答えた。


「女だろうな」


「「!!」」


「その通りです。

戦闘慣れしている彼が精霊が苦手である理由はないと思います。

精霊使いはマスター以外にもたくさんいますから。

となると、アルカと私のほかの共通点は「女」です」


「馬鹿馬鹿しい……」


ヒロムはため息をつくと座り込んだ。


「さっきまで戦ってた相手がそんな理由で動き悪化してるとか……」


「……ざけるな」


するとシオンがアルカとテミスを指さしながら言った。


「女はどいつもこいつも……肌を出しすぎだ!!

そこのオレンジはスカートが短すぎる!!

それにそっちの銀髪は……痴女だろ!!」


「はい?」


「なんだその耳つけたらバニーガールみたいな服にマントとかいう謎めいた服!!」


「失礼な!!」


「あなたの方が肌の露出は多い」


「私は痴女じゃありませんしバニーガールではありません!!」


 シオンに服装を弄られ、さらにアルカにまで指摘されたテミスはなぜかアルカともめ始めた。


「論点ズレてる……」


 ため息をつくガイの隣でソラとイクトはシオンをからかうように話し始めた。


「じゃあ、十一体総召喚したらこいつ失神だな」


「はは、だな」


ちょっと待て、とシオンは傷口を抑えながらヒロムに尋ねた。


 シオンの顔からは先程まであった苛立ちはなくなり、疑問を抱いているという顔だった。


「この二体だけじゃないのか?」


「ああ?

今は別のとこに二体いるけどあと七体呼べる」


「じゃあ、精神干渉汚染は……?」


「えっ……?」


 精神干渉汚染、その言葉を聞いたイクトは何か思い当たる節があるのか顔に一瞬それが現れた。

ガイとソラは知らないらしく、互いに顔を見合わせてそれを確認した。

が、ヒロムは知っている云々ではなく興味自体なさそうだった。


「んだそれ?」


「いつから精霊を……」


「何の話か知らねえけど……

ガキの頃からずっと十一人だよ。

何が言いたいんだよ?」


 シオンの問いにヒロムは少し面倒くさそうにしていた。


「だから……」


「ああ、あんま言っても無駄だぞ?

大将、興味ないことには無頓着だから」


 シオンの話を終わらせるかのようにイクトは話に割って入り、そしてヒロムについて語り始めたが、シオンはそれで満足できるはずもなく、イクトに説明を求めた。


「おい……そういう話じゃ……」


「まあ、今は何の変化もないんだ。

それでいいだろ?」


 シオンが説明を求めようとする中、半ば強制的にイクトが強引に話を終わらせたが、ガイとソラもそれでよかったと思っている。

これ以上ヒロムが面倒だと思っていろいろと話が進まないのも困る。


 精神干渉汚染、シオンの言うそれが何なのかははっきりとはわからないが、ガイとソラはそれが精霊によりヒロムに何らかの悪影響を与えるということだけはわかった。


 ヒロムはガイたちが出会ってからは今までにそれらしい異常がなかった。

いや、それらしいことはあるにはある。


 八神、あの家がヒロムを「無能」と呼び、ヒロムにした仕打ちの方がどれだけヒロムの精神を狂わせたか。

そのせいでヒロムは楽しいと思うことも笑うことも悲しいと思うことも泣くこともなくなった。

ヒロムはあくびをするとシオンに対してある疑問ぶつけた。


「なんでオレを狙った?

強い奴なら他にもいるだろ?」


確かに、とガイはヒロムの疑問に納得していた。

シオンが強い相手を求めているのは事実だ。

このの戦闘はヒロムが勝利しているが、そもそもヒロムをピンポイントで狙って戦うことが無謀すぎる。

ヒロムは「無能」と呼ばれ、その名のせいで今や弱いと思われている。

そのため本当の実力を知らないものが多い。

なのにヒロムを狙った。もしそうだとすれば、何らかの意図があるのは確かだ。


「それは……」


「どうせ八神にでも頼まれたんだろ?

オレを倒すように」


 ヒロムはもう自分の中で事の真相に達していたらしく、シオンにそれを突きつけた。

いや、そもそもヒロム自身が自分を狙う相手をよく理解している。


「どうなんだ?」


「そうだよ」


「待てよ。

その八神はこいつをギルドに依頼してまで捕まえようと……」


「少し前に八神が接触してきた。

ちょうど強者探しをしていたんだが、向こうからある取引を持ち掛けてきた」


「取引?」


「「覇王」を倒せ。

生死は問わず、方法は何でもいいから消せって」


「「!!」」


 ガイとソラはシオンの口から出た取引の内容に驚いたが、ヒロムは何も反応を示さない。


「……驚かないのか?」


「別に、取引なら報酬は?」


「前払いで百万、成功報酬は一千万。

さらに八神の傘下に加入させると」


「へえ、大将に一千百万の大金ね」


「オレだって疑った。

自分たちで無能と呼んでいる相手に対して出す金額とは到底思えない。

なのにそこまでして始末させるなんざ怪しすぎる」


 シオンの説明、いくつか疑ってしまう点はあるが、それでも信用しても問題はないと思えた。

シオンからもっと話を聞きたい、そう思ったガイはさらに質問した。


「……引き受けたのか?」


「まさか。

大金と傘下加入ごときで受けるか」


「あらら」


「オレは上を目指す。

その過程で倒す相手に仕える気はない」


「なるほど……」


それに、とシオンが続けて言う。


「怪しいというならば相手がそうだ。

わざわざ八神の当主自らが取引なんて……」


当主。シオンの口からその言葉が出た瞬間、ヒロムはガイとソラを押しのけ、シオンの胸ぐらを掴み、シオンに問い詰める。


「どこにいる!!

教えろ!!」


突然のことでシオンも驚きを隠せなかった。


「答えろ!!」


「ああ!?

知るか!!」


 シオンはヒロムの腕を振り払うと傷口を押さえながら座り込んだ。


「……取引を断ったオレは奴が連れていた雑魚をつぶして逃げたから追われてんだよ」


(((喧嘩売ったのかよ)))


 シオンの言葉を聞いたヒロムは舌打ちをする。

ヒロムからは尋常でないほどの怒りを感じ取れた。


「……どうする?

こいつをギルドに渡すのか?」


「おい!!」


 ガイは確認するようにヒロムに尋ねるが、異論があるらしくシオンは苛立ち交じりにガイを止めようとしたが、ガイはシオンが思っていもいないことを口にした。


「落ち着け。

オレは反対だ。

ギルドに渡したところで別のやつが狙うかもしれない……」


「だな。

だが今のこいつを野放しにしてもな……」


「どうするさ?」


「ああ。

そいつは見逃す。

後のことは後で考える」


 困るな、とヒロムたちのもとに一人の少年がやってくる。


「一応取引は成立してないにしても始末するぐらいのことはしてもらわないと。

でなきゃギルドまで動かした意味がない」



 黒髪、黒い瞳、そして優しさに満ちたその顔立ち。

その少年を見たヒロム、ガイ、ソラの表情が険しくなり、徐々に怒りに満ちていく。


「オマエ……!!」


「八神……トウマ!!」


「やあ、無能。

久しぶりじゃないか」


 ヒロムは目の前にいる八神トウマに対して怒りと苛立ちを剥き出しにしていた。

ガイとソラも冷静であろうとするが、怒りが隠しきれず、武器を持つ手に力が入ってしまう。


「キミたちは……まだこいつといたのか?」


「テメー!!

どの面で!!」


 トウマの言葉と態度が気にいらないガイとソラは武器を構えようとするが、それでもトウマは動じることなく、続けて話す。


「前に会ったときに言っただろ?

オレとくれば苦労しないと。

なのに断った理由がそいつだ。

何の価値がある?」


「うわ……腹立つな!!」


 初対面であろうイクトも徐々に怒りが込みあがり、鎌を持つ手に自然と力が入ってしまう。

が、それでもトウマは構えようとしない。


「事実だ。

優秀なキミたちなら八神に貢献できる。

なのにそんな「無能」の駒に成り下がるとは……!!」


「貴様といたら自分自身を見失う!!

それに……ヒロムは無能なんかじゃない!!」


 ガイは「折神」を抜刀するなり、構えた。

が、トウマは一切動じず、ヒロムを睨んでいた。

もはや先ほどまであった優しさは消えていた。


「状況は理解してるのか?

そっちは全員が消耗している。

しかもそんな負傷者がいる」


「てめ……まさかこうなることを……!!」


「いや、予想外だったよ。

だから……せめて最後ぐらい役立てよ」


 シオンの言葉に少しだが驚いたような表情を見せたトウマだが、すぐさまヒロムへ冷たい視線を送る。


「……全部狙い通りってか?」


「予想外だと言っただろ?

オマエのせいだ。

まさかあそこまで動けるとはな?

人体改造でもしたか?」


「どこまでヒロムを……」


「折神」を持つ手に力が入るガイに対してトウマは一つ質問した。


「価値がないゴミをゴミとして評価して何がおかしい?

道に落ちる小石を数えて歩くのか?」


「この……」


ところで、とトウマはシオンに尋ねた。


「いつ殺すんだい?」


「おい、この状態でまだ言うのか?」


 トウマの発言に反論しようとしたイクトだが、無視され、トウマはそのままシオンに問う。


「キミのやった件は不問にする。

ギルドにもキミを捜索させないように手を打つよ?

もっとも、返答次第じゃオレが殺す」


「そうか、よ……」


 シオンはどうにかして立ち上がると槍を構えようとしたが、傷の痛みのせいでふらついてしまう。


「くそ……」


 待て、とヒロムはシオンの体を支えるとシオンに告げる。


「何とか動けるか?

オレが逃がしてやる」


 ヒロムの言葉、それを聞いたシオンは呆れた顔でヒロムに言い返した。


「馬鹿か。

オレは動けるような……」


「ガイとソラとイクトを連れていけ。

ここはオレが何とかする」


「な……」


 ヒロムの口から出た言葉。

それはシオンも予期していなかった。

見逃すとは先ほど言っていたが、こんな状況下でそれを言うとは思っていなかった。


「……おまえはどうする気だ?」


「何とかする。

ここで死ぬ気はない」


それは困る、とガイがヒロムとシオンの話に入ってくる。


「オレもあいつを斬りたいんだ。

でなきゃお前の存在を否定されたままになる」


「逃げれると思っているのか?


 するとトウマの背中から光の翼が二枚現れる。

その翼にヒロムたちは言葉を失った。


「なんだ……?」


 ヒロムたちの様子を見兼ねたトウマはため息をつくと、その翼について語り始めた。


「「天霊」……。

魔を滅し、光の浄化を司る力。

そして最も神に近い「天使」と同列の力……

それがオレの力だ」


「そうか、よ……

その力で事実上「十家」三位の実力者になったのか?」


 シオンの言葉に頷くなりトウマは翼を大きく広げ、そしてヒロムたちを睨んだ。


「そうだ。

そして、この力でつぶす」



 言ってろ、とヒロムは前に出ると構えた。

そしてアルカとテミスも構えた。


「おい……!!」


ガイはヒロムを止めようとしたが、ヒロムは逆にガイたちを自分から遠ざけようとした。


「オマエらだけでも逃げろ」


「ふざけんな!!

オマエがいてのオレらだ!!」


「大将がいなきゃ面白みがねえんだよ!!」


「んなこと言ってる場合か!!」


「まったくだ……」


 ヒロムたちのどうなるかもわからない議論を聞いて呆れるトウマは動こうとした。

が、トウマも、ヒロムたちも予想できないことが起きた。


「でも、それがキミの繋ぎ合わせてきた絆だ」


突然、一切の音もなくヒロムの前に茶髪の男が現れる。

ヒロムはその男を見て驚いていた。


「親父……!?」


「もう大丈夫だ」


姫神飾音(かざね)、この男はヒロムの父親だ。

が、父親というには外見があまりにも若かった。

そして、何よりも飾音は元・八神の人間。

トウマとは因縁があった。


「……お久しぶりです」


「やあ、トウマ」


 トウマと飾音、互いが互いを強く睨んでいた。

そんな状況下で「マスター」、とフレイとユリアがこちらにやってくる。

ヒロムは二人を見て、驚くと同時に焦り始めた。


「なんで来たんだよ……」


 そう、ヒロムが見たのはフレイとユリアの後ろからついてくるものだ。

それは守りたいがためにここから遠ざけたはずのもの。


「ヒロムくん!!」


 フレイとユリアの後方から遅れてやってくるユリナの姿。

それを確認したヒロムは思わずフレイに対して大声で怒鳴ってしまう。


「なんでここに来た!!

あいつを守れって言っただろ!!」


「罰なら何でも受けます!!

ですが!!

ですが……彼女は真実を知りたいと私に訴えました!!」


「そんなことで納得するわけないだろ!!

大体、知らなくていいこともあるだろうが!!」


待って、とユリナはやってくるなりフレイをかばうようにヒロムの前に立つ。

そのユリナの顔は少しだが怯えていた。


「……も、もう嫌なの。

私……耐えられないの……」


「だからって……」


「ずっと苦しんでるヒロムくんの隣で何も知らないでいっしょにいるのはもう嫌なの!!」


「……!!」


ユリナの瞳から涙があふれ出て来て、頬を伝って流れ落ちる。

彼女の心の奥底からの思いなのだろう。

そう思うとヒロムもこれ以上何も言えなかった。


「……もう嫌なの……」


よかったじゃないか、とトウマは拍手を始めた。

まるでヒロムを馬鹿にするように、いや、もはや馬鹿にしているようにしか思えなかった。


「まさかそんな風に悲しんでくれる人がいるなんてね。

心優しい女性がまだいたんだね。

心温まる展開だよ。

相手が無能でなきゃもっと見ていたいけどね」


「オマエ……いい加減にしろよ」


 トウマの言葉を聞いたガイは怒りを剥き出しにしながら構え、そしてそれに続くようにソラも銃口をトウマに向ける。


「ん?」


「何が嫌だったのか知らねえけどな、こいつだって必死に生きてんだよ。

それを……おまえが否定するなんておかしいだろ!!」



「その通りだ。

それに……これ以上、オレの大切な家族に手を出すな!!」


 飾音の言葉。

それを聞いたトウマは一瞬黙るが、すぐに口を開いた。


「その家族ってさ……オレは含まれるの?」


 トウマの一言にユリナとトウマをよく知らないイクトとシオンは何を言っているのかわからなかった。

が、それがどういう意味か理解するのに時間がかからなかった。


「実の息子のオレを家族に含んでないとか言わないよな?」


「実の息子……!?」


 実の息子、それを知らなかったイクトはひどく動揺していた。

そう、それがどういう意味かを理解したからだ。


「それも出来損ないの方を守って、オレを捨てると?」


「おまえがそれを選んだんだろうが!!」


「黙ってれば都合のいいことを!!」


 事情を知るであろうガイとソラはトウマに対して叫ぶが、トウマは一切反応しない。

が、ここまでの話を聞いた一人の少女は、理解が追い付かず、困惑していた。


「どういう……こと?」


「知らないんだ?

じゃあ、教えてあげる」


「……!!

聞くな、ユリナ!!」


 ヒロムはユリナに向けて叫んだが、それは時すでに遅く、トウマがそれよりも先に真実を告げた。


「そこの無能はオレの兄なんだよ」


「……え?」


 トウマの口から告げられた内容にユリナは言葉を失い、イクトとシオンも驚きを隠せなかった。


「兄弟……?」


「半年違いの弟だよ。

春にそいつが生まれて半年後にオレが生まれただけ」


「……昔は双子のように仲よく遊んでいた。

なのにトウマは……ヒロムを見捨てた」


 飾音が補足するように説明するが、その飾音の拳は震えていた。


「見捨てるも何もないよ。

そいつに価値がないからだ」


「価値って……神にでもなったつもりか!!」


 ガイの言葉に対してトウマは何の迷いもなく強気に答えた。


「選ばれたんだよ。

才能があるとして、オレは八神に選ばれたんだ!!」


「待って……」


 ユリナは自分の中で何かに気づいたらしく、恐る恐るそれを口にした。


「じゃあヒロムくんは……元々は八神の人間で……

その家族の人から……」


 ユリナは思わず膝から崩れ落ちてしまう。

ユリナにとっては衝撃的なことだったのだろう。

純粋に物事を捉え、純粋に考えるユリナだからこそそれは大きかったのだろう。

八神の血を持ち、それでありながら家そのものから「無能」の烙印を押され、さらには自分を理解してくれるであろう弟が命を狙っている。

ユリナはあまりに衝撃的だったその事実を受け入れることができず、混乱していた。


 するとイクトがユリナをトウマから守るように立った。


「……イクト……?」


「あのさ……姫さんは純粋なのよ。

てめえの都合で傷つけんなよ」


「オレとそいつを一緒にするな。

「八神」を「十家」最強に導くのはオレだ。

なのに……その無能を守ろうとはどういうことだ?」


「才能だけで人を判断するな!!

オマエに何がわかる!!」


「イクト……」


普段はお調子者のイクトの言葉にヒロムが驚いていると、イクトは突然自分の思いを語り始めた。


「正直、初めて知ったよ。

というか会ったときから何かしら背負ってるのは知ってた。

でもな……こんなクソみたいな理不尽なこと、許されてたまるか!!」


「たった一人の……」


 イクトの怒りの後ろから恐る恐るユリナがトウマに向けて言葉を発する。


「?」


「たった一人の……大切な兄弟じゃないんですか!!」


 ユリナは怯えながらも必死に声を絞り出し、トウマに訴えかけた。

が、それが届くはずもなかった。


「黙れよ!!」


 トウマはユリナを怒鳴りつけると、そのまま睨みつける。

トウマの顔には一切のやさしさはなく、ただ怒りがあり、冷酷そのものだった。


「あんたはゴキブリを愛せるか?

無理だろ?拒絶するだろ。

同じだよ。

オレにとってそいつは……目障りなんだよ!!」


 黙れ、とガイとソラがトウマに襲いかかるが、トウマに近づく前に二人は吹き飛ばされてしまう。


「ぐあ!!」


「ガイ!!

ソラ!!」


「そいつはオレにとっての害でしかない!!

忌むべき男!!

先に生まれただけで出来損ないだった男と同じ血が流れている!!

オレの中に!!

それで兄弟と言われることがどれだけの屈辱か!!」


「い……や……」


 トウマの言葉にユリナは思わず耳を塞ぎ、これ以上は聞きたくないとうずくまる。


「おい……」


 ユリナの今の姿を見たヒロムは完全に怒り、そしてただトウマを殺意に満ちた目で見ていた。

が、その一方でトウマはユリナの姿を見て理解に苦しんでいた。


「訳が分からない。

知りたいと言ったのは自分なのに聞いた途端に怯えるか。

こいつにどういう情が移ったかは知らないけど……理解に苦しむよ」


 うるさい、とフレイは大剣を手にするとトウマに斬りかかるが、トウマは光の翼を羽ばたかせて飛翔した。



「何の用だ、精霊?」


「……誰のせいでこうなったと思っている!!

あの日からマスターは笑顔を!!涙を!!何もかもを失った!!

夢も!!希望も!!あの日から!!」


「知るかよ。

オレを失望させた……そいつが悪い」


トウマはヒロムを睨むと言い放つ。


「やる気が失せた。

そこの彼女に感謝しとけ」


「降りて来いよ!!

オレは苛立ってんだ!!

オマエのせいで!!

今すぐ戦え!!」


 やめろ、とガイとソラが慌ててヒロムを止める。

が、ヒロムはガイとソラを振り払ってでも行こうとする。


「どけ!!

もう限界だ!!これ以上は無理だ!!

ここで殺す!!」


「落ち着け!!」


「気持ちはわかる!!

でも今はやめろ!!」


「ざけんな!!

今ここで……」


「「ユリナのことを考えろよ!!」」


 ガイとソラの言葉にヒロムは我に返り、ふとユリナを見た。

ユリナは涙を流し、泣いている。

それもユリナ自身のことでなく、ヒロムのことで泣いている。


「オレだって同じだ……

でも、もうユリナが……」


「頼む……

今だけは……耐えてくれ」


 ガイとソラ、二人の言葉が妙にヒロムの心に刺さる。


「くそ……」


「トウマ!!」


 その場から飛び去ろうとするトウマを飾音は引き止めようと叫ぶが、トウマはただ飾音を見下すような目で見ながら告げる。


「……次はないよ。

あんたも敵だ」


「……そっちがそのつもりならこちらもそのつもりでいく!!

次は……」


「本当に次がないのはどちらかはあんたがよくわかってるだろうに」


「!!」


 じゃあな、とトウマはどこかへと飛んでいく。

 

「くそ……」


「おい……」


するとシオンがヒロムの肩を掴む。


「……女がうるさい。

どうにか、しろ」


「!!」


 シオンに言われ、ヒロムは慌ててユリナに歩み寄る。

ユリナの体はひどく震えていた。

知らなくていいこともある。


確かにそうだ。

だが、ユリナにとってはどうあっても苦しかったのだろう。


知らないままでも、知ってしまっても。


「ユリナ……」

 

ヒロムはユリナに何をどうしてやればいいのかわからなかった。

どんなに強くなっても、どんなに精霊が呼べても。

こうして何もできないのでは何も意味がない。


「……これじゃ……オレは役立たずだな……」



***



 しばらくしてユリナが落ち着いてから一度ヒロムの家に全員で来た。

が、家というよりは屋敷だ。

門はあるし庭はあるし、その庭には小さいとはいえ噴水がある。

 負傷したシオンはイクトに担がれ、ヒロムは泣き止んだとはいえ落ち込んだままのユリナの手を握っていた。


「いやあ、大将の屋敷は広いねえ」


「元々オレと妻も住んでたんだけどね……

事情があって妻と二人でここを離れて別居中なんだ」


「じゃあ、今はここでオマエ一人か?」


シオンが疑問を抱いているとヒロムはただ一言答えた。


「いや……精霊がいる」


「そうか……」


 ヒロムはユリナの様子を気にしながら話を進めた。


「……おい、親父。

何しに来た?」


「紅月くんの件でね。

カルラから連絡が来てギルドと八神の関係を……」


 ふざけるな、とヒロムは飾音を睨む。

そのヒロムは拳を強く握り、下手をすれば今にも殴りかかりそうになっていた。


「何してるか知らねえが、こうなる前にどうにかしようと動いてんだろうが!!

それがおまえが母さんと一緒にここから出ていった理由だろ!!

なのに……」


「必死に調べていた。

でも、それよりも先にトウマが動いたんだ。

すまない、オレのせいだ」


「……何が元・八神だ。

だったらどうにかしろよ!!」


 ヒロムが飾音に殴りかかろうとしたが、それをユリナが止めた。


「!!」


「もう……やめて……」


 ユリナの声は震えていた。

ヒロムもそれを聞いて、飾音に対しての怒りを抑えた。


「……ごめん……」


 自分の不甲斐なさ、結局どうにかできると思っていた自分の無力さを何よりも痛感させられたヒロムは、それ以上の言葉が思い浮かばなかった。



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