三九九話 謎の霊装
「……クロス・リンク」
クロムが一言呟くと彼の周囲を無数の短剣が舞い飛び、無数の短剣がクロムを取り囲んで刃先の狙いを彼に定め、短剣が狙いを定めるとクロムの全身が黒い結晶に覆われていく。
そして……黒い結晶に覆われたクロムを貫こうと短剣が次々に突き刺さっていき、短剣が突き刺さると結晶は砕け散り、クロムは装いを新たにして姿を現す。
黒衣に身を包みガントレットを付けた両手、ひだりのガントレットは盾と一体となっている。
首にマフラーを巻き、そのマフラーには先程クロムを覆っていた黒い結晶を砕いた短剣が無数に刺さっており、右手には剣を装備していた。
「……クロス・リンク、完了」
クロムは不敵な笑みを浮かべながら武器を構えるが、その姿を見たガントレットとシオンはヒロムに対して説明を求めるように問い始める。
「ヒロム、アイツは何なんだ?
心の闇って言うけど……なんでヒロムと同じ「クロス・リンク」を使えるんだよ?」
「ガイの言う通りだ。
これに関してはしっかり説明……」
「ありえない……」
「は?」
「ヒロム?」
「あの「クロス・リンク」は……どの精霊を使ってるんだよ!!」
「お、おい……」
ヒロムの言葉に困惑するガイとシオン。
だが、二人以上に困惑しているヒロムはクロムに向けて叫ぶように問い詰める。
「クロム!!
その「クロス・リンク」は何なんだ!!」
「オマエが今言ったろ?
「クロス・リンク」ってな」
「ふざけるな!!
オレの中には三十二人の精霊全員がいる!!
その気配もオレの中にしっかりある!!
だがオマエのその「クロス・リンク」からは紛れもなく三十二人とは別の精霊の気配を感じ取れる!!
これについて説明しろ!!」
「説明?
その必要性がオレにはない」
「説明しやがれ!!
精霊はオレの……」
勘違いすんなよ、とクロムは殺気を纏いながら冷たく言い、そして鋭い眼光でヒロムを睨むと彼に向けて告げる。
「精霊はオマエのものじゃない……オレたちのものだ。
それをオマエが表の人格として多く取り仕切ってるだけのこと。
その中で宿る精霊の全部が全部オマエのだと思ったら大間違いだ」
「オレたち?
だったら答えろ!!
なんでオレの知らない精霊がいるんだ!!」
「……そうやって覚えてないから知らないだけだろ」
クロムはため息混じりに呟くとヒロムに背を向けてヘヴンとヴァロンの方へと向かっていく。
「ヒロム、オマエはそこで見てろ。
あとはオレが……終わらせてやる」
「待てよクロム!!
オマエは……」
「味方だ。
少なくともオレはゼロとは違って今は味方だ」
ヒロムに向けて自分のことを伝えたクロムは手に持つ剣を強く握り、次にヘヴンに向けて話し始めた。
「さて、通りすがりの戦士。
オマエはここで終わらせる。
その方が今後も楽だろうし、何よりオレが余計な思考を働かせなくて済むからな」
「オマエの都合でオレが倒されると思うか?
残念だがアップグレードしたオレには……」
「オマエこそそんな力が都合よく機能すると思ってるのか?
アップグレードしてるのはその鎧であってオマエではない。
それを理解させてやるよ」
クロムは地面を強く蹴ると走り出し、クロムが走り出すとヘヴンも魔力の剣を構えて走り出す。
走り出した両者、接近すると互いに攻撃を放つ……と思われたが、ヘヴンが魔力の剣を振り上げて勢いよく一閃を放とうとするのに対して何故かクロムは右へと跳んでしまう。
「……?」
クロムが横に避けたことでヘヴンの攻撃は空を斬るが、ヘヴンはわざわざ攻撃出来るチャンスを捨ててまで横へ跳んだクロムの行動が不思議で仕方なかった。
が、ヘヴンがその行動を不思議に思っていると天から無数の魔力の刃が降り注ぎ、刃が次々にヘヴンに襲いかかっていく。
「何!?」
「戦士なら敵にばかり気を取られてんじゃねぇよ」
「コイツ……!!」
(これを狙っていたから横に跳んだのか!!
オレに確実に攻撃を決めるために……)
「油断もするな」
クロムは左手のガントレットと一体化した盾に魔力を纏わせるとビームを撃ち放ち、放たれたビームがヘヴンを吹き飛ばす。
「がはっ!!」
「アップグレードを施してもオマエの思考は変わらない。
オレを倒すには足りない」
「はぁぁぁぁ!!」
ヘヴンが吹き飛ばされる中でヴァロンは魔力を纏いながらクロムに接近していき、クロムの顔を殴ろうとヴァロンは拳撃を放つが、クロムは放たれたヴァロンの一撃を盾で防ぐと押し返し、盾のついたガントレットを付けた左の拳で敵を殴った。
「!?」
「軌道が大きすぎる。
そんだけ大きければ攻撃を当てようとしてる場所がバレバレで簡単に防げる」
ヴァロンの攻撃について余裕を見せるように指摘するとクロムはヴァロンを蹴り飛ばす。
クロムがヴァロンを蹴り飛ばすと先程吹き飛ばされたはずのヘヴンが両手に魔力の剣を構えてクロムの背後に一瞬で移動し、クロムが気づく前に斬撃を放とうとした。
……しかし、
「バレバレだ」
クロムが指を鳴らすと彼のマフラーに刺さった無数の短剣がマフラーから外れると意思を持つようにヘヴンに襲いかかり、短剣に襲われたヘヴンは攻撃を中断させられ、さらに短剣によって鎧の装甲が削れていく。
「くっ……!!」
(コイツ……隙がない!!)
「背後を取ったつもりか?
その程度……容易に予測できる」
クロムのマフラーが長く伸びるとヘヴンに巻きつき、マフラーがヘヴンを拘束するとクロムは体を回転させてマフラー振り回し、拘束されたヘヴンは巻きついたマフラーによって強引に地面に叩きつけられるように振り回される。
「ぐおおおお!!」
「まずは一人だ」
ヘヴンを天に投げるとマフラーを元の長さに戻し、クロムは右手の剣に魔力を纏わせると刀身を強化して斬撃を放つ。
「……レクイエム・ディスオベイ!!」
クロムの放った斬撃は妖しい光を放つと飛散して無数の魔力の刃へと変化し、変化した魔力の刃は次々にヘヴンの体を穿つように襲いかかり、そしてヘヴンの鎧を引き裂こうとダメージを与える。
「ぐぁぁぁあ!!」
ダメージを受け続けるヘヴンのその鎧の数ヶ所には亀裂が生じ、難を逃れたヘヴンは意識を失うことなく倒れるが、全身に受けたダメージは彼を限界まで追い込んだのかヘヴンは起き上がれなかった。
「くっ……」
「まだ生きてたか?
殺すつもりで攻撃したのに……しぶといな」
まだ意識のあるヘヴンを見ながらクロムは右手の剣を強く握り、剣を握るとクロムはトドメを刺すべく斬撃を放とうとする……が、そのクロムの邪魔をするようにヴァロンはクロムに魔力を撃ち放って攻撃を中断させ、ヴァロンはヘヴンは前に立つとクロムに向けて言った。
「ヘヴンを追い詰めるとは大した野郎だな」
「あん?
ずいぶん上から目線な物言いだな。
そんなに余裕なのか?」
「余裕さ。
オレの力の前ではその力は無意味だ」
ヴァロンはクロムに向けて言うと深く被っていたフードを脱ぎ、フードに隠していた素顔を晒す。
青色に金色のメッシュの入った髪に赤い瞳の整った顔立ちの生年……素顔を晒したヴァロンは首を鳴らすとクロムを睨む。
「覚悟出来てるよな……精霊!!」
ヴァロンは全身にドス黒い魔力を纏うと走り出し、そして一瞬でクロムに接近すると彼の顔面を殴る。
「!!」
「ボサっとしてると殺すぞ!!」
ゴラァ、とヴァロンはクロムを蹴り飛ばすが、蹴り飛ばされたクロムは難なく受け身を取ると剣を構えて斬撃を放つが、放たれた斬撃はヴァロンに迫る中で突然自壊して消えてしまう。
「!?」
「無駄だ。
オレの能力「輪廻」はあらゆる運命を拒絶し、その全てを喪失させる!!
今のは……」
「斬撃がオマエに当たる運命を操作した、だろ?」
ヴァロンの話の途中でクロムは無数の短剣を撃ち放ち、放った短剣でヴァロンを貫こうとするが、ヴァロンが手をかざすとクロムの放った短剣同士が突然ぶつかり合って壊れてしまう。
「……なるほど。
厄介だな」
「あらゆるものには運命がある。
オレはその運命をあやつり、その全てを……」
「この姿のままではオマエを相手にするのは分が悪い。
……クロス・リンク」
クロムが再び「クロス・リンク」の名を呟くと彼の纏っていた力が消え、元の姿に戻ったクロムは天に向けて高く飛ぶと全身をどこからか現れた黒い魔力で覆い隠し、そして天より無数の流星が黒い魔力に覆い隠されるクロムに直撃していく。
そして……
無数の流星が直撃すると黒い魔力は大きく膨らみ、繭のようになった黒い魔力が破られるとそこからさらに装いを変えたクロムが現れる。
肌に馴染むような黒衣を纏ったクロムはマントを翻し、ガントレットをブーツをつけており、右手には刺突に特化した槍が持たれていた。
全身の各所にはスラスターが付いており、クロムは槍を構えるとスラスターに魔力を纏わせる。
「飛ばす……!!」
「……っ!?」
クロムが呟くと魔力を纏ったスラスターが勢いよく炎を噴き、それと同時にクロムは走り出すと常軌を逸したレベルで加速を始めていく。
加速すると視認できぬ速度となってヴァロンを吹き飛ばすクロム。
吹き飛ばされた事実に気づかなかったヴァロンは驚きを隠せず、クロムは槍を構えながらヴァロンに拳撃を次々に食らわせていく。
「こ、この……!!」
拳撃を受けるヴァロンは魔力を放出してクロムを吹き飛ばそうとするが、クロムはマントで体を覆うと魔力をマントで受け、受けた魔力を収束させるとヴァロンの体に叩き込むように打ち返す。
「!?」
「残念だがオマエの運命操作とやらはもうオレには通じない。
せいぜい……懺悔の用意でもしてろ」
クロムはヴァロンを蹴り飛ばすとマントを広げながら飛翔し、飛翔すると全身をマントで覆って巨大な槍のようになるとヴァロンに向けて降下していく。
「ゲイボルグ・トランジェント!!」
加速しながら降下していくクロムはマントで覆った体を回転させ、回転を加えたことで槍のようになったマントは鋭さを増し、そしてその状態を維持したままクロムはヴァロンに激突し、鋭さを増したマントは直で受けたヴァロンは身を切り抉られたようなダメージを受けてしまう。
「がぁぁぁあ!!」
攻撃を受けたヴァロンは勢いよく吹き飛び、そして吹き飛んだ先で倒れてしまう。
「……呆気ないな」
クロムは着地するとマントを元に戻し、そして槍を構えるとヘヴンに近づいていく。
「さて、通りすがりの偽りの正義よ。
オマエを倒せば……その裏に繋がるものが見えるのか?」
「……」
クロムが話しかけても答えないヘヴン。
答えようとしないヘヴンに舌打ちをするとクロムは槍を強く握りながら敵を穿とうとする。
しかし……
「ソウル・ブレイク……!!」
紫色の輝きと稲妻を纏ったヒロムのクロムを邪魔するように彼に接近すると蹴り飛ばし、蹴り飛ばされたクロムは受け身を取って立て直すとため息をつく。
「……何のつもりだ?」
「ユリナたちの前で誰も殺させない」
「殺させない?
甘いな、ヒロム。
コイツらは敵だ」
「そうかよ。
けど……殺すのは後回しだ」
ヒロムとクロム、両者が譲れぬ意志を持って睨み合う。
そんな中……
突然点に光が集まり、その光の中から白銀の鎧を纏った剣士が現れる。
剣士の出現に対して視線をそちらに向けるヒロムとクロム。
そんな二人に向けて剣士は話していく。
「争うことはない。
キミたちは選ばれた革命の戦士だ」




