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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
能力邂逅編
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三七話 もどかしさ


セラの提案によりヒロムとフレイは一戦交えることとなった。


聖堂では戦えない、セラは二人を城の外に誘導し、そこで始めさせようとしていた。



「……」


セラに言われるがままに承諾したため、ヒロムはどこかやる気がなさそうだったが、フレイの方は得物である大剣を構えていた。


(この一戦に何の意味があるかは知らないが、これでオレが見落としているものが見つかるのならやるしかない!!)


ヒロムは気持ちを整理し少しばかりやる気を出そうと両手で自分の頬を叩き、構えた。


そんなヒロムに対してフレイは少しばかり心配をしていた。



(マスター……私は気づいてほしいんです。

マスターにとって何が原因となっているのかを。

そのためになら……私は主であるあなたを斬ります!!)


フレイは心の中で決意し、そして覚悟を決めると大剣の握る手に力を入れる。



二人は構え、そして互いに相手の動きに対して警戒していた。


「……」


「……」



開始の合図は城にある鐘の音が鳴り響く瞬間。


両者ともにその音色が聞こえるのを待ち、そして遅れを取らぬように神経を集中させている。


二人の動かぬこの時間、それは沈黙そのものだ。




だが、それもすぐに終わりを迎える。


どこからともなく響き渡る鐘の音。

それを聞いた二人はほぼ同時に走り出し、そしてヒロムは拳を、フレイは大剣を相手へと放つ。


「はああ!!」

「やああ!!」



***


ヒロムとフレイの戦いが始まり、セラとともに話を聞いていたシズカは離れた場所からその様子を見ていた。


「……」


セラとシズカの間には先程までのヒロムとフレイのときのように沈黙が出来ているが、気まずいという感じではなかった。


いや、むしろシズカは警戒しているからこそ静かにセラを観察しているのだ。


その証拠に、シズカは右手に苦無を持ち、セラの行動を気配を察知する形で監視している。


「……」

(マスターもフレイも彼女の話を信用しているようですが、私は違います。

妙な行動を起こせばここで……)


「シズカ!!」


警戒し、いざとなれば行動を起こそうと考えていたシズカのもとへマリア、ユリア、テミスが駆けつける。


三人ともフレイと同じように現実世界の方にいたはずだが、おそらく同じような理由で来たのだろう。


マリアとテミスはセラを見ると構えるが、ユリアは戦っているヒロムとフレイが気になっている様子だった。


「シズカ、その女は誰?」


「マリア、落ち着いて。

彼女はマスターの精霊、セラよ」


「何を言っているの?

マスターの精霊は十一人、その中にそんな女は……」


「落ち着いてテミス。

彼女は……マスターの「ハザード」を止めるために姿を見せれなかった精霊らしいわ」


シズカは警戒しているマリアとテミスに説明するが、それでも二人は納得しようとしない。


いや、それはシズカと同じなのだ。

が、そんなことよりもユリアは目の前の光景について説明を求めた。


「どうしてマスターはフレイと戦っているの!?

なぜなの!?」


「それは……」


「私が提案しました」


ユリアの疑問を解決するかのようにセラは答え、そしてユリアたちに説明を始めた。


「初めまして、になるわね。

私は「天霊」のセラよ。

今あの二人は自分のために戦っているわ」


何を言ってるのよ、とマリアはセラに敵対心を剥き出しにするが、それでもセラは説明を続けた。


「マスターはなぜ「ハザード」が進行したかを知るため、フレイはマスターにどうして欲しいかをわかってもらうために戦っている」


「そんな理由で……」


「二人は納得した上でやってるのよ」


シズカの一言、それによりマリアたちはセラの言葉が真実だと認識した。


が、それでもセラへの警戒は解けない。

シズカはマリアたちに現状について一つ補足した。


「……マスターは彼女のことを信用しています」


「どうして?」


「……彼女の力が「狂鬼」との戦闘で見せたあの魔力だからです」


シズカの言葉を聞いたマリアたちは驚いた。

当然だ。あの一戦を三人は間近で見たからだ。



あの謎の力、あの強力な力に有する精霊がいたとは思えなかったのだ。


だからこそ驚いているのだ。

それはシズカも同じだ。


彼女もこの精神世界の中から見ていたのだからそれが何かは把握出来たのだ。


「となれば、マスターの命が救われたのは彼女の力ですが、ただ彼女には謎が多い」


謎が多い、それが何かについては続けるようにシズカが説明を交えて話した。


「フレイは彼女の存在だけは認識していたというのです。十一人にいる中でフレイだけが。

そしてフレイはマスターと波長の近い、相性がもっとも合う特別な存在だとも言ったのよ」


「フレイが知ってたの?」


存在だけよ、とシズカはマリアに念押ししたが、横からユリアがセラに尋ねた。


「少しいいですか?」


「……何でしょうか、ユリア」


「「ハザード」を止めるために姿を見せなかったと聞きましたが、なぜ今こうして現れたのですか?」



「それはマスターのためであり、私たちがマスターのために……」


「ではなぜ今こうして現れたのです?

「ハザード」が現れ始めた時ではなく、完全に進行しているこのタイミングなのです?」



「……それは現状を知らせるためです」


本当にですか、とユリアはセラに問いかける。

まるでセラを疑っているような言葉だが、ユリアの言葉はセラの言葉に対してのものではなかった。


「あなたは本当にそれだけのためにここへ呼んだのですか?」


「それは……」


ユリアが何を言いたいのか理解したセラは言葉を詰まらせる。

マリアとテミスはユリアがセラを疑っていると思っているらしく、セラの動向を窺っているが、ユリアはセラの言葉を聞き出そうとさらに言葉を発する。


「本当はマスターに真実を告げた上で何かを決断させたかったんではないのですか?

これまでのことは知りませんが、「ハザード」を止めようと私たちに知られず努力していたであろうあなたがこうして現れて、あんなことをさせるのには理由があるのではないのですか?」



「……」


「お願いします、答えてください。

私たちは同じ精霊……「仲間」ではないのですか?」


ユリアがセラに訴えかけるかのように発した言葉にマリアとテミスは少し恥ずかしそうな顔をしているが、セラはそれを聞いて小さなため息をつくとユリアに返答するかのように語り始めた。


「それはマスターの……」



***



ヒロムとフレイ、この戦いはこれまでの戦いとは違う。


「オラァ!!」


ヒロムがフレイに殴りかかり、その拳でダメージを与えようとしてもフレイはそれを大剣を盾にして防ぎ、フレイも反撃しようと攻撃するが、ヒロムは容易く回避してしまう。


「この!!」


「させません!!」


ヒロムは回転して蹴りを放とうとするが、フレイはそれを見切ったかのように大剣を地面に突き刺すとヒロムの蹴りを防ぎ、カウンターの一撃と言わんばかりの拳の一撃を放つ。


「……遅い」


ヒロムはフレイの攻撃を何の焦りもなく避けるとともに攻撃をしようとせずに一度離れるように後方に跳ぶ。


ヒロムはフレイとの距離を保つと構え、フレイもそれを見ると地面に突き刺した大剣を抜くなり構え直した。


「……」

「……」


互いに相手の動きに警戒し、動こうとしない。


(……やりにくい。

手の内知られすぎてるのも厄介だ

それに……)


(戦いにくいですね……。

マスターとこうして真剣に戦うとなると自分の実力のなさを痛感させられる)


互いにこの戦いに対して苦戦している様子を見せつつ、そして互いに相手の強さに警戒していた。


その理由は簡単だった。


フレイが戦いにくい理由は単にヒロムが優れた身体能力を持つからというのもあるが、ヒロムの持つ流動術にもある。


ヒロムが完成させたその技をフレイは知っているし、それを意識して戦おうとしているが、それでもヒロムはそのチカラでこちらの動きを先読みして攻撃と防御を行っている。


決定打がなければ倒せない鬼月真助とは違い、ヒロムの場合は決定打があっても相手に攻撃が先読みされない攻撃でないと倒せない。


それがフレイを苦しめる。


が、一方でヒロムが苦しむ理由は単純なものだった。


フレイがヒロムの精霊としてこれまでを共に過ごしたからこそヒロムの戦い方を理解しているというのもあるが、それ以上の理由がヒロムにはあった。


(戦いにくい……ただオレが何を理解すべきかの戦いだが、だとしても……)


「……フレイ、一つ訊かせろ」


「何です?」



互いに相手の動きを警戒する中、ヒロムはフレイに問いかける。


フレイもその問いかけに答えようと構えを緩める。


「……正直に言う。

オレには何が足りない?」


「はい?」


「正直オレは強くなってオマエたちに迷惑をかけぬようにこれまで頑張ってきた。

だがオマエは今のオレじゃダメだと言いたげだった。

何が……」


「……すいませんマスター。

今回ばかりはご自身で考えていただきます!!」


フレイは大剣を強く握り、そして構えを引き締めると一気に動き出し、ヒロムに斬りかかる。


ヒロムはそれを避けて反撃に転じようと殴ろうとしたが、フレイを殴ろうとした手前でヒロムは躊躇したのか拳を止めてしまう。


「くっ……」


「……どうして止めるのですか!!」


攻撃を中断したヒロムに対してフレイは容赦のない蹴りを放つとともに勢いよく蹴り飛ばし、そして大剣に魔力を纏わせる。


ヒロムは何とか受け身を取ると構え直したが、そんなヒロムに対してフレイは自分の気持ちをぶつけるようにさけんだ。


「私は真剣に戦ってます!!

なのにどうしてですか!!」


「?」


「どうして私の気持ちをわかってくれないんです!!

こうしてマスターのことを思っているのに、どうしてですか!!」


フレイの叫び、それはヒロムが初めて聞くフレイ本人の不満であった。


これまで「マスター」と呼んで自分のそばにいてくれたフレイの不満。

今までに聞いたこともなく、それが当たり前たと思っていたヒロムは驚くしかなかった。


「な、何を……」


「セラの質問に対する答えの意味をわかってもらうためにこの戦いを引き受けました。

ですが……今のマスターには伝わらない!!」


フレイは走り出すとともに大剣を振り上げ、ヒロムに接近すると勢いよく振り下ろした。


フレイの言葉が何を意味するのか考えようとしていたヒロムは一瞬反応できなかったがために回避が遅くなり、フレイの攻撃が体を掠め、そして大剣が地面に叩きつけられた衝撃により生じた剣圧により吹き飛ばされてしまう。


「ぐあ!!」

ヒロムは受け身を取れずに城壁に叩きつけられ、そしめ前に倒れてしまう。


「……今の私はそんなに頼りないですか?」


ヒロムのもとへとゆっくりと歩く中、フレイはヒロムに問いかける。


「なぜわかってくれないんですか?」


「……何……?」


「ユリナの言葉を何度も聞かれて、私はマスターがわかってくれていたと思いました。

ですが……マスターの理解されたのは彼女の気持ちではないんですね」


「何を……」


フレイの顔を見たヒロムは驚くとともに動揺していた。


フレイはどこか悲しそうに、そして瞳には薄らだが涙には涙が浮かんでいた。


ヒロムはフレイが何を言おうとしているのか、これまでのことを思い出そうとした。


そしてフレイの言うユリナの言葉を思い出そうとした時、ユリナが悲しそうに言ったあの言葉を思い出した。


『 ヒロムくんのために何かできることがあるかもしれないなら、手伝えるよ?』


『私は…ヒロムくんにとって、邪魔なの? 』



あの悲しそうな表情が脳裏に蘇るとともに今のフレイの姿が重なる。


そこでヒロムはようやく理解した。



「……オマエもなのか」


「今マスターが思ったことが何かは聞きません。

ですからわたしはただ信じるだけです」


フレイはヒロムのもとへと歩み寄ると大剣をゆっくりと下ろし、ヒロムを見つめる。

その視線に気づいたヒロムは起き上がるとともに頭の中で考えをまとめ、フレイを見ながら言葉を絞り出した。


「……オマエもユリナと同じだったんだな」


「マスターの身を心配していることですか?」


「ああ……」


当たり前です、とフレイは大剣を手放すとヒロムを抱きしめた。

フレイはその目に浮かべていた涙を流していた。



「あなたの無事が私たちの願いなんです。

あなたが傷つくのは耐えれないんです」


「オレは……」


「あの日からマスターは涙を流しません」


フレイの言うあの日、それはヒロムが幼き日に飾音たちの会話を聞いて自信が「無能」として「八神」に見捨てられたときだ。


あの時、どうしようもないヒロムを見てフレイは涙を流しながらもヒロムを慰めようと抱きしめたのだ。



だが、ヒロムは涙すら流れなかった。

それどころか涙を流さなくなるようになり、笑うこともなくなり、ただ怒りの感情が強くなるだけだった。


「……マスターの気持ちは十分に感じてます。

ですが、それと同じくらいにマスターが無茶をしようとしているのも感じているんです」


「オレは……」


「マスターにとって私たちはかけがえのない「家族」のようなものかもしれません。

でも……私たちにとってもマスターはかけがえのない「家族」以上の存在なのです」


「傷つけたくなかったんだ……」


「わかってます。

マスターは優しい人ですから」


だから、とフレイはヒロムを抱きしめる力を少し強める。


「私たちの痛みまで背負おうとしてくれている。

それが……私たちにとっては嬉しいことであると同時に辛いことなのです」


「……ずっとそう思ってたのか?」


「はい……」



そうか、とヒロムは小さな声で呟くとどこか辛そうな顔をしながら拳に力を入れる。


怒りではない、何か。


それが原因で胸の奥が苦しく、どうにかなりそうだった。



いや、おそらくこれに似たものをずっとフレイたちと、そしてユリナは抱いていたのだろう。


そう思うと、これまでの自分の行動の何もかもが後悔しかなかった。


「……ゴメンな」



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