三六三話 エボリューション
「「……エボリューション」」
ヒロムとフレイが同時に言葉を発するとヒロムの右手のブレスレットから七つの光が放たれ、放たれた光がヒロムとフレイを包み込む。
光に包まれる中でフレイが大剣を天に向けてると二人の周りに大剣、光剣、杖、ガントレット、槍、小太刀、剣の七つの武器が現れるとフレイの大剣と一つになり、一つになると大剣からも強い光が放たれる。
大剣から放たれた強い光がヒロムの全身に纏われるとヒロムは白銀の装束に包まれていき、両手両足にアーマーを装着する。
そしてフレイが光となるとヒロムと重なり、ヒロムの纏う白銀の装束の上にフレイを彷彿とさせるような装飾がいくつも装備されていく。
「きれい……」
完全に新たな姿となったヒロム、その姿を見たユリナはその美しい姿に見とれていた。
ユリナだけではない。
ヒロムの新たな姿、新たな姿の放つ力はガイやソラたちの視線を集め、鬼桜葉王もヒロムの姿を面白そうに見ていた。
「ついに覚醒したなァ。
本来の力をよォ」
「あれが……新しい「クロス・リンク」……なのか?」
違うな、と葉王は今のヒロムの姿を「クロス・リンク」と捉えたシオンの言葉を訂正するように語る。
「あれはオマエらの知る「クロス・リンク」なんかじゃねェ。
アイツが今纏ってるのは四体の精霊のみが有することを許された霊装の力を最大限に引き出したものだァ。
「クロス・リンク」なんかとは比べものにならねぇ力を秘め、そして無限の可能性を導く大いなる力だァ」
「大いなる力……」
ちょっと待て、とガイはシオンの言葉を訂正した上で語る葉王に対してある疑問をぶつけた。
「どうしてオマエかそんなことを知っている?
パラドクスの石版のことといいヒロムの精霊のことといい……何でオマエはそこまでヒロムも知らなかったことを知っている?」
「雨月ガイ、その質問には答えた方がいいかァ?」
「答えた方がいいかじゃない……答えてもらう」
「そうかよォ……面倒だなァ」
葉王はため息をつくなり頭を掻きながら面倒そうにつぶやき、どこか嫌そうにガイの顔を見ようとする。
葉王に視線を向けられたガイは自分のした質問に対する答えを述べろと言わんばかりに真剣な眼差しを向けている。
「ちぃ……面倒だなァ。
仕方ねェ……いや、どうせなら引っ掻き回すか」
「おい、何を……」
「安心しろォ、雨月ガイ。
オマエが心配しなくてもいいこともあるんだよォ」
「何を言っている?
オレはオマエが何故……」
「何故だろうなァ?
知りたきゃオレを殺せるようになれェ」
「オマエ……!!」
「でなきゃオマエが「鍵」ち選ばれた理由がなくなるからなァ」
「……何?」
「鍵」。
葉王は今そう言った。
「八神」との一戦の後にヒロムにパラドクスの石版について話していた時も最後にヒロムの事をそう言った。
「どういう意味だ……?」
葉王の言葉に戸惑うガイ。
そんなガイの様子を見るなり葉王は彼に向けて一言告げた。
「他人より自分の心配でもしてろォ。
アイツの方は……もう解決したんだからなァ」
葉王の言葉で戸惑うガイをよそに葉王は話題を変えるかのようにヒロムの方に視線を向ける。
そしてその上でガイにある事実だけを伝えた。
「オレが何故知ってるのかなんてどうでもいいことだァ。
だがオマエが気にすべきはそこじゃねェ。
まずオマエが気にすべきは……目の前の敵を倒すことだァ」
「……っ!!」
「……分かったら今のは忘れろォ。
まずはオマエらの王……覇王である姫神ヒロムの心配をしろォ」
「……分かった」
葉王に言われて渋々納得するとガイはヒロムの姿を目で捉える。
そしてヒロムは新たな姿となったとともにゼアルを見ると彼に向けて告げた。
「ゼアル……先に言っておくぞ。
もうオマエはオレには勝てない」
「少しオレを追い込んで、姿が新しくなったくらいでもう勝ち誇るか?
哀れなヤツだ……オマエは。
理想を追いすぎて現実と夢すら分からなくなったか!!」
ゼアルは叫ぶとビーム状の魔力を放とうと右手をヒロムに向けて魔力を蓄積する。
が、ヒロムは音も立てずにゼアルへと一瞬で接近すると魔力を蓄積させているゼアルの右手を掴み、そして蓄積された魔力を握り潰すとゼアルの顔面を殴った。
「!?」
「言っただろ……もうオマエはオレには勝てないってな!!」
ヒロムの右手が光るとその手に小太刀が装備され、装備した小太刀で連閃を放つとゼアルの肉を徐々に抉っていく。
「何……!?」
「はぁっ!!」
ヒロムはさらに左手に剣を装備すると右手の小太刀とともに斬撃を放ち、放たれた斬撃をゼアルは止めようとする。
が、放たれた斬撃はゼアルに迫ると無数に分裂し、分裂した斬撃は先程小太刀で抉られたゼアルの体を貫いていく。
「何ぃ……!?」
「はぁぁ!!」
ヒロムは小太刀と剣を天に向けて投げると大剣を装備し、大剣でゼアルに斬りかかろうとする。
「そんなもの……」
そんなもの、そう言ってゼアルは右手に魔力を纏わせてヒロムの大剣を防ごうとするが、ヒロムが天に向けて投げた小太刀と剣が意思を持つかのように動くとゼアルの行動を邪魔するように襲いかかる。
「武器が勝手に!?」
ゼアルは大剣を防ごうとした魔力を纏わせた右手で自由に動きながら迫り来る小太刀と剣を弾き防いだが、ヒロムが放とうとすると大剣の攻撃を防ぐには間に合いそうになかった。
「しま……」
「だりゃぁっ!!」
ヒロムが勢いよく大剣を振り下ろすと巨大な斬撃が放たれ、放たれた斬撃に襲われたゼアルは身を大きく抉られながら斬撃が発生したとともに生じた衝撃に吹き飛ばされてしまう。
「ば、バカな……」
「まだ終わらねぇ!!」
ヒロムが大剣を地面に刺して叫ぶと彼の両手のアーマーがガントレットに変化し、ガントレットを装備した拳を構えたヒロムは吹き飛ぶゼアルに追いつくと目にも止まらぬ速度で拳撃を何度も食らわせる。
「だりゃあ!!」
敵の攻撃を防ぐことも避けることも出来ないゼアルはヒロムの拳撃を全て体で受け、拳撃を受けた体に衝撃が走るとゼアルは全身から血を吹き出させる。
「がはっ……!!」
「どうした……こんなもんかよ!!」
ヒロムはさらに槍を出現させると眩い輝きを纏いながら走り出し、走り出すと一気に加速してゼアルの周囲を縦横無尽に駆けながら槍による連撃を敵に叩い込んでいく。
「ぐっ……ぐ……ぐぁっ!!」
「はぁあああ!!」
ヒロムは攻撃を放つ度に加速し、加速する中で攻撃する回数を増させるとゼアルを一方的に追い詰めていく。
「あ、ありえ……ない……!?
オレが……」
「オマエの力はこの程度だ。
身の程を知れ……ゼアル!!」
ヒロムは槍を敵に向けて矢のように撃ち放つと光剣を装備し、ゼアルはヒロムが放った槍を避けるとドス黒い魔力をビーム状にして撃ち放つ、
「くたばれぇぇ!!」
「……ムリだ」
ヒロムは光剣を強く握ると一閃を放ち、放たれた一閃はゼアルの放ったドス黒い魔力を両断すると消滅させる。
「そん……」
「口で言って分からないのなら体で分からすしかねぇよな?」
ヒロムが光剣を天に向けて投げると小太刀、剣、大剣、槍が宙を舞い、そしてヒロムが杖を手に取ると光剣が先陣切るようにゼアルに襲いかかり、そして小太刀など他の武器もゼアルに向かって襲いかかる。
ゼアルはドス黒い魔力を纏うと加速しながら迫り来る武器を避けてヒロムに接近しようとするが、ゼアルがヒロムに接近するよりも先にヒロムはゼアルに向けて魔力の弾丸を無数に放ち、放たれた魔力の弾丸がゼアルの動きを止めるように敵に命中していく。
「!!」
攻撃を受けて動きが止まり仰け反るゼアルに向けてヒロムは続けて魔力の弾丸を放つと杖を地面に刺し、魔力の弾丸はゼアルに迫ると炸裂して無数の鎖となるとゼアルの体を縛りあげ拘束する。
「こ、この……」
「仕上げだ」
地面に刺した杖が光を放つと先程ゼアルに襲いかかろうと意思を持つように動いていた武器が光を纏いながらゼアルの方を向きながら構え、そしてゼアルに向けて無数の光弾を撃ち放つ。
撃ち放たれた光弾は流星の如く敵に迫っていき、鎖に拘束されて動けぬゼアルは避けることも許されずに光弾に身を襲われ、そして全身をさらに負傷していく。
「がぁぁぁぁぁあ!!」
「昔何かの本で読んだな……。
痛みとはどんな教えよりも優れた教訓になるとか……。
事実かどうかオレにはよく分からんからオマエが証明してくれ」
ヒロムは自身の前にフレイが普段愛用しているものと同じ大剣を出現させるとそれを掴み、ヒロムが大剣を掴むと切っ先から柄まで全てが白銀一色に変化する。
白銀の大剣を構えるとヒロムは全身に光を強く纏い、そして大剣にも光を纏わせる。
白銀の大剣が光を纏うとゼアルに光弾を放っていた小太刀などの武器がヒロムのもとへ集まり、集まった七つの武器は光になると白銀の大剣と一体化するように刀身の中へと入っていく。
光となった七つの武器が取り込まれた白銀の大剣がさらなる輝きを纏うとヒロムは手に持つ武器を強く握り、そして振り上げるとともに走り出した。
「受けろよ……オレたちの力、全てを込めた一撃を!!
エボリューション・ブレイド!!」
ヒロムはゼアルに接近すると振り上げた白銀の大剣を振り下ろし、振り下ろされた大剣から白銀の輝きとともに巨大な斬撃が放たれ、放たれた斬撃はゼアルを両断しようと襲いかかる。
「ああああああ!!」
斬撃に襲われ、その力に飲まれたゼアルの叫び声とともに強い衝撃が走ると戦塵が巻き上がり、巻き上がった戦塵によって斬撃に襲われたゼアルの姿が確認出来ぬようになってしまう。
が、ゼアルを襲った斬撃の力の余波によって生じた衝撃は周囲を走ると地面を少し破壊し、その衝撃を目の当たりにしたヒロムは構えるのをやめるとゼアルが現れるのを纏うとする。
「……」
『マスター、これは……』
状況確認しようとするフレイがヒロムの頭の中で彼に話しかけるが、ヒロムにため息をつくと左手に光を纏わせてガイ、ソラ、イクト、シオンに向けてその光を放つ。
放たれた光はガイたち四人を包み込み、光で包み込むとゼアルとの戦いで負傷した彼らの体の傷を治癒していく。
「これは……」
「傷が……」
「万が一の保険だから礼はいらねぇよ」
傷が消えることに驚くガイたちに向けて冷たく言うとヒロムはゼアルがいるであろう戦塵巻き上がる方を見る。
するとヒロムのその視線に答えるかのように戦塵が烈風によって吹き飛ばされ、戦塵が消えるとそこに全身ボロボロになっているゼアルが現れる。
現れたゼアルは全身から血を流しており、血を流す中でヒロムのことを強く睨んでいた。
「……ゴキブリよりしぶといな」
「んなところで負けるわけにはいかない……!!
オレは新世界を……」
「まだそんなこと言ってんのか?
力の差はハッキリしたろ?」
「まだだ……!!」
ヒロムの言葉を否定するように言うとゼアルは全身からドス黒い魔力を放出させる。
そしてそれを巨大化させる中でゼアルは叫んだ。
「オレにはまだ……竜装術が残っている!!
全てを統べる竜装術が!!」




