三六二話 覇王と霊王
白銀、紫、青、赤の四色の稲妻を全身に駆けさせながら数多の色の輝きを放つ光を纏うヒロム。
そのヒロムの纏う光を見たユリナたちは彼のその光の美しさに目を奪われていた。
「キレイ……」
「とても素敵です……」
「あれは……」
姫野ユリナと愛神エレナが魅了され、他の皆も声に出さずともその輝きに魅入っているとガイはあの光が何なのかを気にしていた。
そしてガイは真相を確かめようと楽しそうに見ている葉王に問うように話しかける。
「あれは何だ?」
「あァ?」
「ヒロムは今何をしようとしている。
アイツは今……」
心配すんな、と葉王は真相を知ろうとするガイに向けて一言告げるように言うと今ヒロムの身に何が起きてるのかをかなりざっくりした説明で伝えた。
「今姫神ヒロムは本来の意味で力を取り戻そうとしている。
運命を統べるだけの力をな」
「運命を統べる……」
「そして今、これまで誰も想像したことのない規模での進化をあの光がもたらそうとしている。
人と精霊、二つの存在となりつつある姫神ヒロムを高次元の存在へとなァ」
「高次元……。
人ではなくなるのか?」
「いいやァ。
人は人さ。
ただァ、今までとは桁違いな力を持った人間になるけどなァ」
ガイに向けて嬉しそうに語る葉王。
そんな葉王に対してソラはある事を確かめるように質問をした。
「ヒロムがその高次元の存在とやらに到達した時、オマエが求めているオマエを殺せるだけの力を持った存在になるのか?」
「どうかなァ。
オレの計算では殺し合いが出来るようにはなる算段だが、そうなるかどうかは姫神ヒロムの心次第だからなァ」
「……ならなかったらどうするつもりだ?」
「安心しろォ。
姫神ヒロムは今ここでならなかったとしてもいずれはオレを殺すために強くなる運命の中にある」
「オマエ……」
「それよりも……今はアイツを見てろォ」
ガイとソラからの質問を全て終わらせるかのように葉王はヒロムを見るように伝え、ガイとソラは少し不満があるような顔で彼に従うと輝きを放つ光を纏うヒロムに目を向ける。
二人が視線を向けるとタイミングよくヒロムが何かを始めようとしていた。
「いくぞ……」
ヒロムは輝きを放つ光を小さくさせると右手に纏わせ、その右手を前にかざすと足下に幾つも重なった魔法陣を出現させる。
そして……
「束ねるは思い!!纏うは意志!!
ここに集うは我が意思に応えし幾多の意思!!」
ヒロムが叫ぶと幾つにも重なった魔法陣が輝きを放ち、その輝きに合わせるかのようにヒロムは続けて言葉を発していく。
「燃えよ「烈火」テミス!!唸れ「絶拳」マリア!!
授けろ「万導」ユリア!!忍べ「閃忍」シズカ!!
鳴れ「雷迅」アルカ!!凍てつけ「麗凍」メイア!!
駆けよ「迅刀」!!掲げろ「戦姫」アリア!!
惑わせ「幻杖」イシス!!抱け「零槍」アイリス!!」
ヒロムが叫ぶとテミスたち十人の精霊が現れ、彼女たちが現れると足下の魔法陣が強い輝きを放つ。
「……羽ばたけ「天霊」セラ!!流れろ「星槍」ディアナ!!
吼えろ「龍撃」ランファン!!焼き尽くせ「獄炎」フラン!!
参れ「迅翔」クロナ!!斬り開け「修羅」セツナ!!
裁け「聖槌」ロゼ!!舞え「天翼」リリア!!
貫け「剣姫」マキア!!荒れろ「嵐舞」メイリン!!
狩り取れ「魔天」ベルナ!!導け「導姫」セレナ!!」
ヒロムのもとへさらにセラたち十二人の精霊が現れ、ヒロムはさらに言葉を発する。
「穿て「絶騎」ロザリー!!抉れ「獣天」ゾルデ!!
遊べ「導命」バネッサ!!踊れ「舞夜」シェリー!!
調べよ「法戒」ミラーナ!!弾けろ「弾撃」アウラ!!」
さらに六人。
先に現れていたフレイ、ラミア、ティアーユ、ステラを合わせて三十二人の精霊が今ヒロムのもとへ集結するように現れた。
全精霊が出現したその光景は圧巻で、そしてヒロムは彼女たちを呼び出すと輝きを放つ光を纏う右手を天に向けて構える。
「今ここに覇王に全てを託してくれる精霊が揃った!!
そして今……オレは全てを一心に背負い、その全てを持ってして人と精霊の運命を導く!!」
「「「全てをマスターの心へ!!」」」
テミスたち二十八人の精霊が声を揃えて叫ぶと二十八の色の光となってヒロムの周囲を舞い、彼女たちが光となってヒロムの周囲を舞うとフレイは大剣、ラミアは刀、ティアーユはライフル、ステラは剣を天に向けて構える。
が、彼女たちが武器を天に構えるとそれを見ていたゼアルはドス黒い魔力を纏うとヒロムたちの邪魔をしようと攻撃を放とうとする。
しかし……
「そうはさせねぇなァ」
ゼアルが攻撃を放とうとすると葉王が指を鳴らして放たれようとしていた攻撃を消し、そしてゼアルの全身が何やら強い力によって弾き飛ばされる。
「ぐぁっ!!」
「せっかくの覇王の覚醒の晴れ舞台だァ。
その目に焼きつけろォ」
「キサマ……!!
何故オレの邪魔をする!!
強いヤツが目的ならオレを生かせばいいだけだろ!!」
「分かってねぇなァ、オマエ。
オマエじゃオレを殺すのは不可能だしオレを楽しませることも出来ない。
オマエは他人が強くなるための踏み台にもなれない道に転がる砂利と同じなんだよォ」
「ふざけるな!!
オレは精霊を統べる力と竜を統べる力を宿した存在!!
そんなヤツより優れている!!」
「言葉選べよォ。
オマエは選ばれてねェし優れてねェ。
オマエのそれはなァ、他人から奪ってそこにあるだけの模造品だァ。
そしてオマエ自身は何にも選ばれない落ちこぼれなんだよォ」
「黙……」
黙ってろ、と葉王はゼアルが叫ぼうとすると彼に一瞬で接近して顔面を殴り、殴られたゼアルは言葉を発することなく殴り飛ばされる。
ゼアルを殴ると葉王は先程まで立っていた場所に音も立てずに移動し、そしてヒロムやフレイたちに視線を向けると続けるように告げた。
「さぁ、障害は排除したァ。
オレにもっと見せてくれ!!」
「……なら見とけ」
ヒロムは天に向けて構える右手に纏わせる光を強くさせ、そして光が強くなるとフレイ、ラミア、ティアーユ、ステラは順番に何か呪文にも似たものを唱え始める。
「我が名は「天剣」フレイ!!
運命を統べる導き手の剣となりて立ち塞がるものを切り払い、運命を切り開く力となる!!」
「我が名は「天妖」ラミア!!
運命を統べる導き手の刃となりて惑わすものを断ち切り、心の在処に魂を結ぶ力となる!!」
「我が名は「天紡」ティアーユ!!
運命を統べる導き手の弾丸となりて幾星霜を超える流星の如く思いを紡ぎ、思いを標す力となる!!」
「我が名は「天導」フレイ!!
運命を統べる導き手の意思となりて万物を超える力を授けし精霊の王を導き、魂を正しく導く力となる!!」
武器を天に構える四人の精霊が全身に光を纏い、そして武器から眩い輝きが放たれるとヒロムの右手に纏われる光が呼応するように大きくなっていく。
「「「「今、我らの力は王のもとへ!!」」」」
「我に仕えし生命の力……この身に宿して全てを全うする!!」
四人の精霊とヒロムが叫ぶと光は巨大な光となり、さらに幾つも重なった魔法陣が強い輝きを放つと彼らを包み込む。
そしてヒロムの体は輝きに包まれる中で徐々に宙に浮遊し、彼の周囲を舞う二十八の色の光が彼の体と一つになっていく。
光と一つになっていくヒロムの右手首に白銀、紫、青、赤の四色の稲妻が集まっていき、集まった稲妻は光と一つになると形を得ていく。
四色の稲妻と同じ色を持つ四つの石が組み込まれたような黒いブレスレットとなってヒロムの右手首に装着され、ブレスレットが装着されると全ての光と輝きがそこに吸収されていく。
光がブレスレットの中へ吸収されるとヒロムの瞳は白銀に光り、そしてヒロムの全身は白銀の輝きを纏う。
これまで幾度となく白銀の輝きを纏っていたことはある。
だが今彼が身に纏っているそれはこれまでのものとは違った、
どこかあたたかく、そしてどこか力強く守ろうとしているかのような強い意志を感じられる。
「アレが……」
「ヒロム……なんだよな?」
ヒロムの纏う光が発する力を目の当たりにしてガイとソラは本当にヒロムなのか疑ってしまう。
いや、疑いたくもなる。
それほどまでに今の彼が纏う力はこれまでに感じることのなかったものなのだ。
そんな中ヒロムはゆっくりと地上に足をつけるとゼアルに視線を向け、そしてゼアルの背後へと一瞬で移動する。
「!!」
「ゼアル……これで終わらせよう」
「ふざけるな!!」
ゼアルはドス黒い魔力を拳に纏わせると背後のヒロムの方を見るように振り返り、そして振り返りざまにヒロムを殴ろうとする。
が、ヒロムはゼアルの拳を素手で止めると敵が纏っていた力を消してしまう。
「何!?」
「オマエを倒して終わらせる。
こんな無駄な戦いは……オレが終わらせる」
「ふざけるな……!!
オレはオマエを倒して新世界をつくり全てを支配する王となる!!
誰にもその邪魔はさせない。
姫神ヒロム……キサマはここでオレが倒す!!」
「……だからこそオレはオマエを倒す。
怒り、憎しみ、渇望、願望……オマエのあらゆるものを燃やして……オレを……オレたちを滾らせろ!!」
ヒロムは叫ぶとゼアルを殴り、さらに高速で連撃を放つとゼアルを吹き飛ばそうとする。
「くっ……!!」
吹き飛ばされそうになるも耐えたゼアルは構え直そうとするが、ゼアルが構え直すよりも先にヒロムが攻撃を放ち、放たれた攻撃がゼアルの顔面を直撃する。
「!!」
顔面で攻撃を受けたゼアルの動きが鈍るとその隙を逃さぬようにヒロムはさらなる連撃をゼアルを身体に叩き込み、そして掌底突きをゼアルの体に打ち込むと敵の体内に衝撃を走らせ、ゼアルは口から血を吐き出してしまう。
ゼアルが血を吐き出そうが止まらない。
ヒロムは全身に纏う光を強くさせるとゼアルを天に向けて蹴り上げ、ゼアルが蹴り上げられるとフレイとラミア、ステラが手に持つ刀剣に魔力を纏わせると斬撃を放ち、ティアーユはライフルより光弾を撃ち放つ。
ヒロムに蹴り上げられて無防備となったゼアルに四人の精霊の攻撃が命中し、攻撃が直撃したゼアルは負傷しながら吹き飛ばされるも何とかして受身を取ると立て直そうとする。
「くっ……ふざけたことを……!!
少し力が増したくらいで……!!」
「たしかに今のままじゃ少しかもな。
けど……オレたちの進化した力はここからだ」
ヒロムが言うと右手首に付けられたブレスレットが白銀に光り、そしてブレスレットの光に反応するようにヒロムとフレイの瞳が光を灯す。
「「……エボリューション」」




