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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
能力邂逅編
36/672

三六話 セラ


セラの言葉。


それに困惑するヒロム。

当然といえば当然かもしれない。


初対面のはずの彼女は、十一人全員を認識しているヒロムの精霊だと言うのだ。


仮に彼女の言葉が事実ならば、ヒロムの使役する精霊は全部で十二人ということになる。


ありえない、ヒロムはそう思っていた。

なぜならこの精神世界には今回来たのが初めてではないし、この聖堂にも何度か立ち寄っている。


ここを根城にしていたというなら、その気配を感じてもおかしくないはずだ。


今までそれはなかった。

だからといって敵とは思えなかった。

この精神世界に外部からの侵入など不可能、この地に足を踏み入れることが出来るのはヒロム自身とその精霊だけだ。


だとすれば、彼女は本当にヒロムの精霊なのだろうか?



「……おかしなことを言うんだな」


率直な意見、ヒロムはそれをセラに告げる。


「今まで感じられないでいたオマエがオレの精霊って言うなら、なんで今このタイミングなんだ?」


「そうですね、本来は出てくることは無かったかもしれません。

そういう意味ではこのタイミングしかなかったんです」


言ってる意味がわからない。

そう思ったヒロムだが、それについて問う前にセラが詳しく説明した。


「マスターの身に起きた異変、それが深刻な問題になりつつあるからこそ、私はこうして姿を見せました」


今自分の身に起きている異変、それはつまり「ハザード」のことだろう。


となれば、彼女は「ハザード」の進行する理由を知っているのか?



ヒロムはそう思うとすぐさまセラに尋ねた。


「オマエはオレの「ハザード」の原因を知ってるのか?」


「はい、私はすべて知っています」


「だったら……」


待ってください、と突然シズカが話に入ってくるなりセラに質問した。


「なぜマスターの有する精霊だというなら同じ精霊である私たちがそのことを知らないのです?

どうして……」


「話せば長くなりますが、お聞きになりますか?」


セラの言葉にヒロムもシズカも迷うことなく頷く。

と、どこからか慌ててこちらへ走ってくる足音が聞こえてくる。


聞いただけでわかるほど慌てて走っているその足音。

数は一人。



一体誰なのか、その正体はすぐにわかった。



「マスター、どうかされましたか!!」


慌てて聖堂へとやってきたのはフレイだった。

どうしてここになどという疑問はないが、何か感じ取ってここに来たのだろう。


「いや、オレはそこの精霊に連れてこられたんだよ」


ヒロムはじぶんがなぜこの精神世界にいるのか、その理由をフレイに説明した。


そのフレイはセラを見ると、驚いた表情を見せる。


「セラ……?」


シズカですらセラについて知らない反応を見せたのに、フレイのそれはまるで以前から知っており、そしてセラがここにいるはずがないとわかっているものだ。


ヒロムは思わず、フレイに対してどういう事なのかを説明するように求めた。


「おい、なんで知ってんだよ?

オレも知らないのになんで……」


「それは……」


「それにオレと同じようにシズカも知らないってのになんでフレイは知ってるんだ?」


「……」


言い方が悪かったのだろうか?

いや、だからといってこうでもして言わないと答えてもらって納得出来そうにない。



フレイはなぜが答えにくいのか沈黙し、それどころか目線をヒロムから逸らした。


普段ならありえないその行動にヒロムは思わずカッとなってしまい、フレイに詰め寄ると胸ぐらを掴もうとした。


が、そのヒロムの手をセラは止め、セラはただフレイを責めるなと言わんばかりに首を横に振った。


ならば、こっちに納得いく説明をしてもらうしかない。

ヒロムはため息をつくとセラに説明するように伝えた。



「……代わりに説明してくれ」


「何が知りたいですか?」


セラの問いかけ、それはつまり説明することに関しては承諾したと取れる。


何が知りたいかと言われれば数え始めればキリがない。

気になることは多いし、ただ一方的に問い詰めるのも申し訳ない。


だから、まずはヒロム自身が気になったことから訊く事にした。


「なんでフレイはオマエを……セラのことを知っていたんだ?」


まずはこれだ。

フレイが沈黙してしまうほどの理由、これまで苦楽を共にしたからこそ気になるのだ。


ヒロムのその質問にセラは悩むことも迷うこともなく答えた。


「彼女はマスターの認識されている十一人の中で唯一私のことを……私たちのことを認識しています」


「私たち?」


セラの言葉の中におかしな点があった。

私たち?

つまり、まだ他にもいるというのか?


「なぜ彼女だけが認識していたかというのは彼女が私たちマスターの精霊の中で特別だからです」


「どう特別なんだ?」


「彼女は私たちの中でもっともマスターとの波長が近く、マスターとの相性が極めて良いと判断されたからです」


判断された、というのはセラと未だ認識出来ていない精霊たちがなのだろう。


が、今言われるとフレイとはたしかに相性がいい。

普段からフレイを頼り、戦う時もかならずフレイと連携する。


それに「ハザード」対策の技を開発するときもフレイに協力してもらっている。



相性はともかく、無意識のうちにフレイを頼っていたんだなとヒロムは認識した。


「……で、だからってなんでフレイだけが知ってるんだ?」


「知っているのは私たちの存在だけです。

彼女もなぜ私たちがマスターの前に姿を現せなかったのかを詳しくは知らないのです」


そうか、とヒロムはセラの説明に納得した。


先程のフレイの沈黙、あれは言いたくないからそうなったのではなかった。

むしろなぜセラのことを知っているかを説明出来ないからこその沈黙だったのだ。


「悪いな、知らないのに責めて……」


「あ、いえ……!!

マスターの役に立てなかった私も悪いですから!!」


ヒロムの謝罪を聞くなり、一切悪くないはずのフレイは申し訳なさそうにヒロムに頭を下げてまで謝る。


そこまでしなくていい、と思いながらもヒロムはセラの話に戻った。




「で、セラと他の精霊はなんで現実世界に現れないんだ?」


「本当は姿を見せ、フレイたちと同じようにマスターの温もりを感じたかったんです。

ですが、私たちはそれが出来ない状態になってしまったんです」


「出来ない状態?」


「……マスターが「ハザード」に発症されたからです」


「!!」


意外な言葉にヒロムは驚いた。

いや、当然だ。


トウマや「八神」が原因だと思っていた「ハザード」の発症は鬼月真助により違うと判断された。

だから別の可能性を考えていたが、セラのこれまでの説明からわかるのは、フレイたちを認識する以前にセラと未だ姿を見せれない精霊とが「ハザード」に発症したがために姿を見せれなくなったと言うのだ。



だが、なぜ?


フレイたちを認識したのは物心ついた頃だ。

そんなときに「ハザード」に発症するものなのか?


「「ハザード」ってのは精神干渉汚染の一つだ。

なのにフレイたちを認識し始めた物心ついた頃よりも前にセラが姿を現せなくなるほどのことになるのか?」


「……正確には私たちが原因だったんです」


「?」


急にセラは申し訳なさそうな顔をすると、少し間を置き、考えをまとめると説明を再開した。


「私たち精霊はマスターがこの世に生まれた時から存在しています。

つまり、自分の意思で動けないマスターにとっては私たちの存在はストレスだったのでしょう」


違う、とヒロムは思わず力強く否定する。

思わずというよりは無意識だ。


ここでセラの言葉を否定しないと、彼女たちに申し訳ないと思ったのだろう。


セラもヒロムのただその一言を聞くと嬉しいのか微笑み、そして続けるように話し始めた。


「……ありがとうございます。

ですが、物心のついていない頃のマスターにとっては私たちはそういう対象だったと思います」


「……!!」


「だからこそ、マスターの負担を減らそうと発症した「ハザード」をこれ以上進行させぬように私を中心にこの精神世界の奥底へと封じたんです」


「……じゃあ、今「ハザード」が出てきたのはその封が弱まったのか?」


ヒロムの言葉にセラは頷く。


実際、そういうことなんだ。

今までで姿を見せることすら出来なかった彼女がこうして現れたのは「ハザード」を抑えられなくなったか、封じた「ハザード」の危険性を告げるためのどちらかになる。


「少し前までは何の異変もありませんでした。

ですが……ある日から「ハザード」が封の中で進行し始めたんです」


セラの言うある日というのは何のことかはわからない。

そう思うヒロムだったが、セラも説明が必要だと思ったのだろう、すぐに補足した。


「ある日というのはギルドの男が現れた日です」


「ギルド……ガイに負けたヤツか」


記憶の片隅にある程度のため、名前も姿も思い出せない。


が、確かなのはそいつが「八神」の依頼でシオンを探しに来て、さらにその日にギルドが自分を監視しているとわかったことだ。


つまり……



「オレにとっての日常が崩れ始めた日か……」



思い返せばそうだ。

あのギルドの一件以降、確実にヒロムたちのこれまでの日常はおかしくなっている。


だが、妙だ。

だとすれば、矛盾がある。


「……だったら「ハザード」の進行の原因は「八神」じゃないのか?」


「マスター、違いますよ」


「え?」


「詳しくは言いません。

ですが、これだけは言っておきます。

……マスターは勘違いされています」


「勘違い?」


よく考えてみてください、とセラはヒロムの手を握るとともにヒロムに自身の言葉を伝える。


そのセラの目は真剣そのもので、先程まで以上にヒロムに対して強い思いを伝えようとしているのが感じ取れる。


「今のマスターには何がありますか?

マスターの見る景色はマスターだけのものですか?」


「……?」


セラの言葉、ヒロムは聞いてもいまいち何を言いたいかは理解できずにいた。


が、これまで「ハザード」を封じようとしてくれていた彼女が言うからには何かしら重要な意味があるというのは今のヒロムにもわかる。


つまり、これが真助の言う「周りを見ていない」ということなのかもしれない。


「……原因はよくわかんねぇけど、事情はわかった」


誤魔化すようにヒロムは言いながらセラの手を離させると、ため息をついた。


「……それで、あのときの力は?」


ヒロムは次の質問をした。


次の質問、それは真助との戦いでヒロムが見せたあの白熱の魔力だ。


あれが現れる前に頭に響いた声はセラで間違いなさそうだが、なぜあんなことになったかはわからない。


「あれは私が「ハザード」を抑えるためにマスターの身にまとわりついた「ハザード」の闇を抑え込む形で私の力を一時的にマスターに渡したのです」


「つまり、あれはセラの力……」


「ですが、抑え込んだがために「ハザード」の力は暴発し、その反動によりマスターは……」


謝るな、後悔して申し訳なさそうに謝ろうとするセラにヒロムは告げてそれを止めた。


なぜ止めたか、そんなのは決まっている。

謝られる理由がないし、何より感謝しているからだ。


「あのとき、あの力がなければオレは「狂鬼」に殺されていた。

それを救ったのは紛れもないセラ、オマエの力だ」


「マスター……」


それに、とヒロムは頭の後ろを掻きながら、少し照れながらもセラに続けて自分の言葉を伝える。


「オレが存在すら認識していないのにオレの精霊としてこれまで頑張ってくれてたんだ。

むしろ感謝だけじゃダメな気がするよ」


「ま、マスターは気にされなくて大丈夫です!!

私が自ら選んだのですから」


「……それでもオレの未熟さが迷惑をかけているのは事実だ」


ヒロムが自分の不甲斐なさを嘆くように呟くのを聞くなり、セラはヒロムに対して何か言おうとしたが、それをやめてフレイに対して話し始めた。


「フレイ、今時間は大丈夫?」


「え、ええ……」


セラの存在を知っているだけでセラという精霊については詳しく知らないフレイはどこかよそよそしい感じで返事を返した。


というよりは、セラの存在に対して少し警戒しているように見える。


「何もしないから大丈夫よ。

私は確認したいだけだから」


「確認ですか?」


「ええ。

あなたが今のマスターをどう思うかです」


突然の質問、それに対してフレイは何を言っているんだと言いたげな顔をしていた。


セラの質問、それを聞いたヒロムはフレイがどう答えるか何となく予想出来たからその顔をする理由も納得できた。


が、どうやらセラが質問したのはそういうことではなかったようで、セラは訂正するようにフレイに尋ねた。


「あなたは今のマスターのそばで今までのように力になれますか?」


セラの言葉、それが何を意味するかはヒロムにはわからなかったが、フレイはそれを訊かれてから急に先程と同じように沈黙した。


その沈黙は決して長いわけではなく、すぐに消えたが、直後にフレイの口から出た言葉はヒロムを驚かせた。



「正直言うなら……今のマスターのそばでは私は何の役にも立てません」


「な……」



フレイのセラへの返事。


ヒロムは突然のことで驚くとともに、何か言おうとしても言葉が出ず、反応に遅れてしまった。


どういうことなのだろうか。


気にはなったが、それをフレイに問い詰めていいものかとヒロムは思い止まるとともに、フレイがそう言わざるを得ない状況にしたのではと考えた。


そしてそんなヒロムを見兼ねてか、セラはヒロムとフレイにある提案を持ちかける。


「お互いに思うところがあるのなら……

お二人で一度戦ってみてはどうです?」


「何?」


「どういうこと?」


「マスターはなぜこうなっているかをわからないようですし、フレイも今はマスターに何か不満があると見えました」


だからです、と笑顔で言うセラだが、それがどうすればヒロムとフレイで戦うことになるのだろうか?


「戦って何になる?」


「それはわかりませんが、お互いに言いにくいことをぶつけるつもりで試してみてはどうです?」


セラはどうしても戦わせたいらしい。

いや、そうしなければ伝えたいことが伝わらないのだろう。


ヒロムとフレイは互いに相手を見ると頷き、そして同時に口を開いた。


「「わかった」」




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