三五九話 底知れぬ覇王
ヒロムの猛攻を受けて負傷したはずの体を何も無かったかのように音も立てずに再生させたゼアルの言葉。
それを聞いたヒロムは耳を疑い、思わず彼に対して聞き返してしまう。
「聞き間違えたか?
オマエ、今何て……」
「オマエじゃオレには勝てない。
それがオマエの最高の力なら勝負は見えた」
「言ってろ……!!
バカみたいに強がって負け惜しみしないように覚悟決めろ!!」
ヒロムはステラとミラーナとの「クロス・リンク」による力「天戒導王」を纏ったまま走り出すと赤い剣でゼアルに斬りかかるが、ゼアルは魔力の剣を装備するとヒロムの一撃を防いでみせる。
が、ヒロムは止まらない。
左手に浮かび上がらせている魔法陣から光を発させるとそれを刃にしてゼアルの魔力の剣を切り裂き、右手の剣と左手の光の刃で連撃を放とうとする。
「しつこいヤツだな」
ヒロムの攻撃を前にしても余裕を見せるゼアルはヒロムの連撃を避けると自身の影から無数の影の拳を生み出し、それをヒロムに向けて放つ。
「……っ!!
イクトの能力か!!」
ゼアルの放った影の拳、それはイクトの「影」の能力で頻繁に使用される攻撃だ。
ヒロムは光の刃を消すと左手の魔法陣を大きくさせると盾のようにして影の拳を防ぐ。
ヒロムが影の拳を防ぐとゼアルはそれを予知していたかのようにヒロムの背後に岩の巨人を出現させ、出現した岩の巨人は両手を強く握るとヒロムに向けてそれを叩きつける。
「ギンジの岩の造形もか……!!」
ヒロムは手に持つ赤い剣に魔力を纏わせると岩の巨人の両腕を破壊し、さらに巨大な斬撃を放つことでヒロムは岩の巨人を破壊してみせる。
「コイツ……」
「どうした?もう疲れたか?
オレはまだ余裕があるぞ!!」
ヒロムを挑発するように言うとゼアルは走り出し、ヒロムは舌打ちすると迫り来るゼアルを赤い剣で返り討ちにしようとする。
「鬱陶しいな!!」
ヒロムが接近してくるゼアルに斬撃を放とうとした時、ゼアルの右手が突然黒く染まり、黒く染まったゼアルの右手は爪を鋭くさせるとヒロムの剣撃を止める。
「オマエ……」
ゼアルの右手の変化、それに覚えのあるヒロムは驚きを隠せなかった。
それはゼアルの右手が変化したからではない。
その変化の理由と原理を知っているから、そしてその原理となる力をゼアルが吸収出来ないと思ってたからだ。
「オマエ……どうして……!!」
「何だ?
何をそんなに驚く?」
「……どうしてオマエがノアルの「魔人」の力を使えるんだよ!!」
決まっている、とゼアルはヒロムの剣を弾くと彼を蹴り飛ばし、左手を右手と同じように変化させるとヒロムに向けて語り始めた。
「オマエも知ってるだろ?
オマエを殺すために「八神」が行った人体実験、それを応用して生まれたのが「竜鬼会」の竜装術に欠かせない「ネガ・ハザード」の竜だ。
そしてオレはアイツらの竜装術の力を完全に支配するためにオマエの遺伝子情報と同じように「ネガ・ハザード」の因子を組み込むことで竜を統べる力を完璧なものにした」
「それだけでどうやって……」
「理解してんだろ?
オレの中には今東雲ノアルの「魔人」と「ネガ・ハザード」の因子の中の「魔人」の証だけでなく相馬ソラの「炎魔」の力がある。
これらがオレの体に適合することで完全な「魔人」の力となっている!!
そう、オレのこの体は「魔人」すらも支配するものとなった!!」
ふざけるな、と蹴り飛ばされたヒロムは即座に受け身を取るとゼアルに向かって走り、接近すると斬撃を放とうとするが、ゼアルは「魔人」の力で変化した両手で剣を止めるとヒロムの武器を破壊してしまう。
「っ……!!」
「これがオマエがオレに勝てない理由の一つ。
オマエではオレの持つ力は越えられない!!」
「だとしても……!!」
ヒロムは全身に赤い光を纏うとともに周囲に赤い炎を出現させ、出現させた炎をゼアルに向けて解き放つ。
解き放たれた炎はゼアルに迫る中で大きくなっていき、ゼアルは炎を前にしても動じることなく「魔人」の力で変化させた両手で止めようとする。
「はぁぁあ!!」
「無駄な足掻きだ!!
オマエの力ではオレは倒せない!!」
「だったら止めてみろ!!
原初の炎……その力をその身でな!!」
「そんなこと……」
ゼアルはヒロムが放った炎を止めようと両手で炎に触れようとするが、炎に触れるその瞬間にゼアルの変化していた両手の変化が突然解けてしまい、そして炎が無防備になったゼアルの両手を焼こうとする。
「何!?」
両手が炎に焼かれる瞬間、ゼアルは慌てて後ろに飛び、後ろに飛ぶ中で炎に向けてソラの紅い炎とガイの蒼い炎を放つが、ヒロムの放った炎は二色の炎と衝突すると二色の炎を超えるほどの大きさにまで燃え盛るとそのまま炎を取り込み、そしてゼアルを焼き殺そうとする。
「バカな……!!」
何故だ、とゼアルは氷柱や「狂」の黒い雷を放って止めようとするが、ヒロムの放った赤い炎はそれらの攻撃をものともせずに焼き払いながら力を増してゼアルに迫っていた。
ゼアルは迫り来る炎を前にして魔力の翼を広げて炎の軌道から逃れようと飛翔するが、ヒロムは全身に赤い魔力を纏って加速すると飛翔しようとするゼアルの背後に移動して敵を殴り飛ばす。
「……!!」
「無駄だ、ゼアル。
オマエが何をしてもこの炎は止められない」
「ふざけるな……どんな力だろうとオレの前では……!!」
「ステラが持つ原初の炎……「天導」の能力のこの炎は敵意や悪意、憎悪や殺意のみを焼き払い、オレが護りたいと願ったものを護り癒す力を持つ」
「な……」
ゼアルを殴り飛ばしたヒロムは右手の拳を強く握ると赤い炎を纏わせ、殴り飛ばされたゼアルは先程ヒロムが放った赤い炎に飲まれようとしていた。
「バカな……そんな力が……」
「覚悟しろ……ゼアル。
これはオマエが利用してきた人々の……怒りだ!!」
ヒロムは走り出すと一瞬で炎に飲まれようとしているゼアルに接近して炎を纏わせた右の拳で顔面を殴り、拳の炎を炸裂させるとゼアルを炎の中へと吹き飛ばしてみせる。
「がぁぁあ!!」
吹き飛ばされたゼアルは完全に炎の中に飲まれていき、身を焼かれる痛みに悶えるような叫び声を上げていた。
「……さよならだ。
憎悪と支配欲に満ちたその身がその炎に見逃されることはない」
ゼアルに終わりを告げるように呟くとヒロムは炎に背を向けてフラつきながらも歩こうとする。
……が、ヒロムが背を向けると炎の中から無数の魔力の弾丸がヒロムを背後から襲い、彼を負傷させる。
「がっ……」
「ヒロム!!」
負傷したヒロムが膝をつくとガイは彼を心配して叫ぶが、その叫びをかき消すかのように赤い炎の中からゼアルが何事も無かったかのように歩いてくる。
その姿を見たヒロムは負傷した体を「復元」の力で再生させると立ち上がり、先程破壊された赤い剣をつくりなおすと手に取って構えた。
「オマエ……どうして……」
なぜ無事なのか、ヒロムはそこが気になっていた。
ゼアルを飲み込んだ炎は先程ヒロムが説明したように敵意や悪意、憎悪や殺意を焼き払うものなのだろう。
この戦場においてそれらを全て統べるかのような存在であるゼアルが炎に飲まれたのなら全身を焼かれてもおかしくはない。
だと言うのにゼアルは炎に焼かれることも無く無傷な状態で姿を現したのだ。
「何故だ……!!
何故オマエは……」
「言ったはずだ。
オマエの力ではオレは倒せないってな」
「どういう意味だ……!!」
「オマエは気づいていないのか?
オレはオマエの遺伝子情報を持ち、そしてヤツらの力を得た過程で「魔人」の力を支配する素質を生み出した。
その中でヤツらの力をなんの意味も無く吸収したと思うか?」
「……何を……」
何を言ってるのか分からないヒロムは言葉を失い、構えるその姿に隙が生まれるとゼアルはヒロムの体に衝撃波を叩き込む。
「!!」
「力には人の意思の断片が混在することがある。
十人もの力を吸収すればその意思の断片もある程度集まるからな」
「まさか……」
「アイツ……」
そのまさかさ、とゼアルが何をしたのか気づいたであろうガイとソラに向けて一言言うとゼアルはこの場にいる全員に告げるように叫んだ。
「オレが力を吸収した事でオマエたちの何かを守ろうとする善意の心がこの身に宿った!!
コイツの言う悪意やらだけを焼く炎の中で全ての悪意を閉ざして善意だけの存在となることで護り癒された!!
オマエらはオレに力を吸収された時にオレに新たな力を与えてくれた!!
そして姫神ヒロムの力は疲弊しつつあったオレの体を潤してくれた!!」
「そんな……」
「残念だがオマエのその精霊が現れた時点でその炎の効力については未来視して全て認識してたんだよ。
後はどのタイミングでオマエの勝利の確信を打ち砕くかを考えていた。
オマエの全てを根底から覆すためにな!!」
ゼアルはヒロムに向けて叫ぶとヒロムは赤と黒の雷に襲われ、さらに冷気が生じると吹雪となり、それらに襲われたヒロムは全身に傷を負ってしまう。
「くっ……」
「どうした?
この程度か!!」
「ふざけ……」
ふざけるな、そう言って立ち上がろうとしたヒロムだが、立ち上がろうとすると全身に激痛が走り、立ち上がろうにも立ち上がれなかった。
「まさか……」
「復元の副作用だな。
オレの見た未来視の結末ではオマエは限界に達して何も出来ぬまま始末される。
良かったな……その未来が現実になる!!」
「させるか!!」
何とかして立ち上がったガイはボロボロの体に魔力を纏わせると二本の霊刀でゼアルを斬ろうとするが、ゼアルが指を鳴らすと霊刀はガイの手から弾き飛ばされ、そしてガイの全身は何やら刃のようなもので次々に貫かれてしまう。
「がっ……!!」
「ガイ!!」
「テメェぇ!!」
ゼアルによって重傷を負ったガイが倒れるとゼアルに対しての怒りを抑えられなくなったソラ、イクト、シオンは立ち上がるとゼアルに攻撃しようとするが、ゼアルが指を鳴らすと三人が身に纏っていた力が消え、そして三人はガイと同じように刃のようなもので次々に体を貫かれて倒れてしまう。
「くそ……」
「この……」
倒れていくソラたちは悔しそうにゼアルを見ているが、ゼアルは彼らに見向きもせずにヒロムを見ていた。
「さて……もう誰もオレを止められない。
そしてこの状況で何も出来ぬままオマエが殺されるのを見れば希望など無意味だと理解するだろう」
「……」
抗おうとして立ち上がろうとするヒロムだが、全身に走る激痛が邪魔をして立てず、そんなヒロムにトドメをさせるかのようにゼアルは右手に魔力を纏わせると攻撃しようとしていた。
「さよならだ……!!」
「……」
「ダメーーーー!!」
ゼアルが攻撃を放つのを動けぬヒロムは何も出来ぬまま攻撃を見ており、何とかして止めたいという思いが止まらないユリナは叫ぶ。
すると……
ゼアルの放った攻撃が突然塵となって消え、そしてゼアルの全身に何かが激突すると彼は吹き飛ばされる。
「何!?」
「え……?」
「おいオマエェ、何してんだ?」




