三五八話 反撃の覇王
「どっちが強いか決めようぜ……ゼアル」
万全の状態でないヒロムはどこかフラつきながらもゼアルに向けて歩みを進め、そんなヒロムを見たゼアルはどこか呆れながら彼に向けて現実を分からせようとするかのように話し始めた。
「今のオマエに何が出来る?
復元の副作用で内側はボロボロ、オマエの仲間のせいで力の差は先程と比べ物にならぬまでに広がっている。
それなのに戦おうと言うのか?」
「うるせぇ野郎だな。
ちょっとそいつら圧倒したくらいでもう勝ったつもりかよ」
「ヒロムくん!!」
ゼアルに向けてヒロムが言い返すと入れ違うようにユリナがヒロムの名を叫ぶ。
名を呼ばれたヒロムはゼアルに警戒しながらも岩城ギンジに守られるユリナの方を向くと彼女に向けて一言伝えた。
「大丈夫だよ。
安心してそこで待っててくれ」
「でもヒロムくんの体はボロボロなんだよ!!
これ以上は……見てられないよ!!」
「……誰かがここでアイツを倒さなきゃ被害が大きくなる。
今一応まともに動けるのはオレだけだ。
だから……止めないでくれ」
「でも……」
大丈夫だよ、とヒロムは少しフラつきそうになりながらもユリナに言うとジャージのポケットから何かを取り出し、続けてユリナと……ユリナとともにいるエレナやユキナたちに向けて伝えた。
「かならず約束は守る。
前にくれたコレを手に持ってるかぎりは約束を破るつもりはないよ」
「それ……」
ユリナはヒロムが取り出したものを見て少し驚いた顔をしていた。
ヒロムが取り出したもの、それはかつて姫神愛華のパーティーでバッツの襲撃があった直後のユリナたちとの買い物の際に彼がユリナやリサたちから受け取ったお守りにも似たキーホルダーだった。
お守りの代わりになればとユリナたちがヒロムに手渡したものをヒロムは今も大事に持っていたのだ。
「ヒロムくん……!!」
今も持っていてくれている、それを知ったユリナは涙目になりながらも溢れそうになっている思いが飛び出ぬように抑えていた。
そんなユリナに向けてヒロムは優しく微笑むと彼女に向けて優しく伝えた。
「……コイツを倒したらまたみんなでどこかに行こう。
嫌なこと全部忘れて、みんなで新しい思い出をつくろうな」
「うん……うん!!」
だから、とヒロムは取り出したキーホルダーをポケットに入れるとゼアルの方を向き、そして全身に赤い光を纏う。
「オマエらを悲しませるようなことは絶対にさせない!!
必ずオレがここで終わらせる!!」
ヒロムは身に纏った赤い光をさらに強くさせてゼアルを睨むと構えるが、それを見たゼアルはため息をつくなり全身に魔力を纏う。
「どうやらオマエは他人に無駄な希望を抱かせて絶望に落としたいらしいな……。
見ていて反吐が出るほどに気味が悪い。
オマエにそれほどの力はないのに何故そうやって希望を抱かせる?」
 
「……何かに対して過敏になるのも、誰かを心配して止めたくなるのも……全部アイツらが不安を感じているからだ。
だからオレはアイツらのためにもオレ自身が希望になる。
アイツらの不安が消えるのならオレはオレにできるあらゆることをやり遂げてみせる!!
オマエを倒すのも……アイツらの笑顔を見るためだ!!」
「胸クソ悪いセリフをよくそこまで並べられるものだな!!
オマエが今口にしたセリフ、その全てはオマエが忌み嫌う正義の味方そのものだ!!
かつては嫌っていたその存在に成り下がってまで何かを成し遂げたいのか!!」
「……ああ、大嫌いだよ!!
正義の味方なんてもんはな!!
だからオレは身勝手な覇王としてオマエを倒す。
それをアイツらが正義の味方と評すならオレはアイツらの期待に応えるだけだ!!」
「オマエ……!!」
「クロス・リンク……!!
「天導」ステラ!!「法戒」ミラーナ!!」
ヒロムが叫ぶと精霊・ステラとミラーナは赤い光へと変化するとヒロムの周囲に広がる魔法陣となり、周囲に広がった無数の魔法陣はヒロムを軸にするように縦一列に並びながら輝きを放つ。
「原初の力、理を統べる戒律の力!!
今ここにある全てを解き放て!!」
魔法陣が輝きを放つと一列に並んだそれは一斉にヒロムに向けて動き出し、ヒロムと魔法陣が重なるとヒロムは光を纏いながら装いを新たにしていく。
光を纏うヒロムは赤い装束を身に纏うと黒いフードのついたローブを羽織り、さらに魔力の帯が両手両足に巻き付くと薄地のグローブと重厚感のあるブーツに姿を変え、そしてヒロムはフードを被った上から首に赤いマフラーを巻くと刀身の赤い剣を右手に持つと瞳を赤く光らせながら構えた。
「クロス・リンク完了、「天戒導王」!!」
赤い剣を構えたヒロムは全身に赤い光を纏いながらゼアルを見つめ、ヒロムの新たな姿を見たゼアルはその変化を前にすると気を引き締めるかのように構えた。
「その姿……どうやらこれまでの言葉を上辺だけで終わらせるつもりはないようだな」
「当然だ……。
オマエをここで倒す、そのための「クロス・リンク」だ!!」
「その「クロス・リンク」とやらでオレを倒せると思うか?
オマエの仲間の失態が招いたオレを強化するという悲惨な結末を前にしてもまだ同じ考えを抱けるか?」
少し違うな、とヒロムは赤い剣を強く握るとゼアルの言葉を訂正するように告げた。
「ガイたちは自分たちの持っている力で可能なかぎり尽力してくれた。
その上でオマエを止められなかったのなら、それはアイツらのせいじゃない。
オレが不甲斐ないせいでアイツらに無理をさせたからこそ起きたことだからこそオレがその責任を取る!!」
「ヒロム……」
「オマエ……」
ヒロムの言葉を聞いたガイ、ソラは何とかして立ち上がろうとし、イクトとシオンも同じように立ち上がろうとする。
が、四人ともゼアルの攻撃で受けたダメージでなかなか立てずにいた。
そんな彼らに向けてヒロムは優しく告げた。
「今は休んでてくれ。
時が来たら……その時はオマエらの力を借りるよ」
「ダメだ……一人じゃ……」
「大丈夫だって。
今のオレには……見守ってくれる仲間と力を貸してくれる家族がいる!!」
ヒロムはガイに向けて言うと地面を強く蹴って走り出し、ゼアルは走り出したヒロムに向けて右手をかざすと真助の能力「狂」の黒い雷を放出していく。
放たれた黒い雷はヒロムに向けて迫っていくが、ヒロムは左手の掌に片手一つ分のサイズの魔法陣を浮かび上がらせて黒い雷に向けてかざして巨大な魔法陣を目の前に出現させると迫り来る敵の攻撃を全て防いでみせる。
「ほう……!!」
「まさか今ので倒せるとでも?」
「安心しろ……今のは最後の手加減だ!!」
ゼアルが叫ぶとヒロムの上空に冷気が集まり、集まった冷気は無数の氷柱となってヒロムに襲いかかっていき、さらにヒロムの周囲に紅と蒼の炎が現れて氷柱が迫っているヒロムを飲み込もうと襲いかかる。
しかし……
ヒロムは魔法陣を浮かび上がらせている左手を何かを描くように動かすと自身の頭上と炎が迫る周囲を守るように無数の魔法陣を出現させ、出現させた魔法陣で氷柱を全て防ぐと今度は二色の炎を魔法陣の中へと吸い込んでいく。
「オマエ……オレと同じように力を!!」
「少し違うな。
これは……オマエのそれとは違う!!」
ヒロムが左手で大きく円を描くとゼアルの前に魔法陣が一つ現れ、現れた魔法陣から先程吸収された二色の炎が勢いよく放たれる。
「何だと!?」
突然のことに驚きの隠せないゼアルは反応と咄嗟の防御が間に合わずに二色の炎に右腕を焼かれ、さらにヒロムが左手で円を描くとゼアルの足下に小さな魔法陣がいくつも現れる。
現れた小さな魔法陣は光を発すると魔力の帯と鎖を放ち、放った二種がゼアルの体を縛り動けぬように拘束してしまう。
「バカな……これは……!!」
二種の力に拘束されるゼアルは必死にもがいて抜け出そうとするも拘束する二つの力はゼアルの振りほどこうとする力を凌ぐほどの力で縛っており、ヒロムは左手を動かすと先程攻撃を防ぐために出現させた魔法陣を自身の前に横一列に並ばせるとゼアルに向けて赤い魔力をビーム状にして撃ち放つ。
「くらいやがれ!!」
ヒロムが撃ち放った魔力は炎に襲われて負傷しながら魔力の鎖と帯に拘束されるゼアルに襲いかかり、そして襲いかかるとそのままゼアルの体を焼き払うかのように肉体にダメージを与えていく。
「ぐおおおおお!!」
「思い知れ……!!
オマエが見下してきたオレの仲間の思いとオレの強い意志が生み出すこの力を!!」
ヒロムが右手に持つ赤い剣を天に向けてかざすと刀身に爆炎が纏われ、纏われた爆炎は急激に力を増す中で刃の形に変化して刀身を大きくさせ、ヒロムは炎によって刃を強化された剣でゼアルに向けて一閃を放つ。
「はぁああ!!」
ヒロムが巨大な刃を得た剣で一閃を放つとそれはゼアルに命中し、敵を拘束する鎖や帯ごと敵を斬るとそのまま敵をふきとばしてしまう。
「まだ終わらねぇ!!」
吹き飛ばされるゼアルに向けてヒロムは構え直すと剣先をゼアルに向け、まるで矢を射るように剣先から無数の魔力と炎の矢を放っていく。
放たれた矢は加速しながらゼアルに向かっていくとゼアルの体を射抜き、体を射抜かれたゼアルは激痛に襲われながらも何とかして立とうとする。
「クソ……ったれが……!!」
「まだ終わらねぇ!!
これでも受けろ!!」
ヒロムは一瞬でゼアルに接近すると何度も何度もゼアルを斬り、そして左手に魔力を集めると敵に向けて強力な一撃を叩き込んで勢いよく吹き飛ばし、吹き飛ばされたゼアルは吹き飛んだ先で倒れてしまう。
が、ゼアルが倒れてもヒロムは攻撃を止めようとしない。
「まだだ……まだ終わらせねぇ!!」
ヒロムは剣を強く握ると倒れるゼアルに向けて追撃を加えようと斬撃を放つ体勢に入るのだが、そんな中ゼアルは負傷した体を難なく起き上がらせると指を鳴らして構えるヒロムを烈風で襲わせると体勢を崩させる。
「何!?」
「……そうか、これがオマエの最高の力か。
なるほどな、最後まで隠していただけのことはある」
ヒロムの攻撃を受けて負傷しているはずだというのにどこか余裕のある表情を浮かべるゼアル。
そのゼアルの表情を見るなり体勢を崩されたヒロムは立て直すとすぐに構えるが、構えた時に目にした光景に驚きを隠せなかった。
「オマエ……」
「ああ、これは気にしなくていい」
ヒロムが驚く中でゼアルは何も無かったかのように音も立てずに負傷した体を何も無かったかのようにきれいな状態へと再生させ、その上でヒロムを見ると彼に向けて一言伝えた。
「……今のオマエじゃオレには勝てない。
それがハッキリとわかったよ」




