三五七話 無敵の覇王竜
「キミたちがこの場に揃うことをずっと待っていた!!
これでオレはキミたちを……オマエたちを始末するだけの力を手に入れられる!!」
天を覆う魔力がシンクたちの体から突如として浮かび出た光の球を飲み込んで大きな一つの塊となるとゼアルに吸収され、その塊を吸収したゼアルは声高々に叫んでいた。
「もう誰もオレを止められない!!
今のオレは誰にも負けはしない!!」
大量の魔力がゼアルの中に吸収されたことによって天を覆う魔力が消え、空を覆っていたものは一切なくなる。
だがそれと引き換えにゼアルは内側から強い力を溢れ出させ、その力は竜のような姿になりながらゼアルの背後で雄叫びを上げる。
「な……何だよアレ……!!」
現れた竜にソラたちは驚きを隠せず、その反応を見たゼアルは突然笑い出した。
「ハハハハハハ!!
オマエらのその顔が見たかった!!
あと少しで勝ちを手にできると考えた人間が予期せぬ事態に戸惑って驚き何も出来なくなるその姿をオレは見たかった!!」
「アイツ……」
「口調が変わってるな……」
高らかに笑いながら言葉を発するゼアル。
そのゼアルの言葉の変化に気づいたガイとイクトは敵が単に力を手に入れただけでないことを感じていた。
言葉の変化。
先ほどまでゼアルはガイやソラたちを「キミたち」と呼んでいた。
だが今は違う。
今は「オマエら」と呼び、そして彼らを見下すかのように笑っている。
そのゼアルの笑い声を聞いたソラは舌打ちするなり武装している砲門の照準を敵に定めると何の躊躇いもなく炎弾を放っていく。
いや、躊躇う理由などない。
むしろ目の前の敵を早急に倒さなければならない現状では最善の手である。
が、そのソラの放った炎弾はゼアルには届かなかった。
ゼアルに対して炎弾は接近していたのだが、ゼアルが左手をかざすと炎弾は突如として敵がかざした手の中へと吸収されてしまったのだ。
「何!?」
「……ふむ、これがオマエの力か。
炎の魔人の……通称「炎魔」と呼ぶこの力、実に素晴らしいな」
「キサマっ!!」
シオンは両手に雷を集めると巨大な剣へと造形し、それを用いて敵に斬撃を放つが、放たれた斬撃をゼアルは素手で掴むとソラの炎弾の時のように吸収していく。
「バカな……!?」
「ソラとシオンの力を吸収した……!?」
「素晴らしいな、紅月シオン。
「雷」という平凡な力でありながらここまで力を高めることが出来るとは驚きだな」
「キサマ、オレのことを……」
「何より素晴らしいのは「炎魔」の力と「雷」の力を難なく吸収してしまうこの「影」の魔力吸収だ。
いや、「影死神」の力だったか?」
「オマエ、何でオレの「影死神」のことを……」
「そういうことか」
ゼアルの口からイクトの能力「影」が派生して発動する「影死神」の名が出たことで当人であるイクトは戸惑いを隠せなかったが、ゼアルのここまでの言葉を聞いたガイは何かを察したのか舌打ちすると霊刀に蒼い炎を纏わせながら構え直す。
構え直すガイが何かに気づいた。
それに気づいたシオンは彼に説明するように言った。
「ガイ、ヤツは何をしたんだ?」
「簡単なことだ、とても……とても簡単なことだ。
バッツがやったのと同じ、ヤツはオレたちの力を吸収したんだ」
「「何!?」」
ガイの簡単な説明を聞いたシオンとそれを聞いていたソラは驚きの声を出し、そしてイクトは今のゼアルのその力について話し始めた。
「さっきオレたちの力をしたのは……オレたちの力を手に入れるためだったのか」
「いや、多分ヤツの狙いはその先にある」
「その先?」
「空を覆っていた魔力に呼応してシンクや夕弦たちの中から何かが出た。
その何かがあの魔力に取り込まれた後にそれをヤツが吸収した……そしてヤツはそれを狙っていたかのような口振りだった。
つまり……」
「アイツはこうなることを待ち望んでたのか!?」
「そうなるな……」
待てよ、とシオンはガイとイクトの話に割って入るように意見を述べた。
「ヤツが力を求めるのなら何故オレたちなんだ?
自分で言うのもなんだがヒロムの精霊の方が明らかに優れてる。
それなのに何故ヒロムではなくオレたちなんだ?」
「それは……」
「教えてやろうか?」
シオンの言葉に言葉を詰まらせるガイ。
するとそんなガイを見かねたゼアルが余裕の笑みを浮かべながら彼らに向けて語り始める。
「オレが何故ヤツではなくオマエらの力を吸収したのか……気になるよな?」
「コイツ……」
「別にオマエらの力が奪いやすいからじゃない。
そしてヤツの力が奪えないからでもない。
何故だと思う?」
「鬱陶しいな……!!
さっさと答えやがれ!!」
「オマエらのその力はまだ発展を続けるだけの可能性があるからだ。
オマエらはオレの仕向けた刺客を前にする度に強い力を引き出し、そして大きな成長を遂げている。
言うならば可能性に満ち溢れている」
「その言い方……さもヒロムに可能性がないような言い方だな」
「否定はしない。
ヤツに力はなく、力があるのは精霊の方だ。
力ある者が可能性を秘めるからこそ限界のない成長が遂げられる。
ヤツのは成長ではない……ただ他者の力を間借りしてそう見せているだけだ」
「オマエと何が違う?」
ゼアルの言葉を聞いたガイは彼の言葉に不満があるらしく、彼に対して反論する。
「ヒロムがフレイたちの力を借りて強く見せてるだけだというのならオマエはどうなんだ?
他人を利用して駒のように扱い、挙句の果てには他人の力を奪って強くなろうとしてるオマエと何が違う?
フレイたちの力を借りるヒロムなんかより他人の力を奪って強くなろうとするオマエにヒロムの事を否定する権利はないはずだ!!」
「借りているだけだ、あの男は。
力をその身に宿すオレとはそこが違う」
『偉そうに言うなよ』
ガイの言葉に対してゼアルが言い返すと、イクトが身に纏うアーマーからバッツの声がし、そしてそのままバッツの声はゼアルに向けて告げた。
『オマエは自らの力だけで敵を倒せないと分かって愚かな手段を選んだ。
オマエは強くなどない、オマエは自分の力で挑むことを諦めた負け犬だ』
「……精霊如きが偉そうなこと言うな。
主人に仕えるだけで何も分からないオマエに何が分かる?」
『分かるさ……痛いほどな。
そうやって他人の力を奪って強くなった気でいて負けを味わう苦しみも嫌ってくらいに分かってんだよ』
「バッツ……」
ゼアルの言葉に対してバッツが返した言葉、それは姫神愛華のパーティー会場でヒロムやガイ、ソラの力を吸収して強くなりながらも倒されたからこそ言える言葉だった。
彼の言葉を聞いたガイは彼の言葉の中にある重みを感じながら霊刀を強く握るとゼアルを睨んだ。
そしてガイに続くようにソラ、イクト、シオンも構えた。
敵を前にして構える四人、その四人の姿を見たゼアルはため息をつくとすこし呆れながら彼らに向けて言った。
「今のオマエらじゃ勝ち目がないと分からないのか?
無駄な努力、無駄な足掻き……今のオマエらは見るに堪えないほどに醜いぞ」
「勝手に言ってろ……オレたちは決めたんだ。
何があっても……ヒロムの力になるってな!!
だからこそオレたちはオマエをここで倒す!!」
ガイが強く言葉を発するとそれを合図にして四人は走り出し、四人が動き出すとゼアルはまたため息をついてしまう。
「呆れたよ、オマエらには……。
どうあってもその心が揺るがないのなら……オマエらの存在ごと全て終わらせてやる!!」
ゼアルは全身にドス黒い魔力が纏うと右手に「修羅」の蒼い炎、左手に「炎魔」の紅い炎を纏わせてガイたちに向けて両手をかざし、かざした両手から二色の炎が解き放たれて四人に襲いかかる。
「そんなもの!!」
ソラは全砲門に炎を蓄積させると二色の炎に向けて爆炎を放って止めようとするが、ソラの放った爆炎を押し返すように二色の炎が激しく燃え盛る。
「この……!!」
「はぁぁあ!!」
何とかして止めようと爆炎を放ち続けるソラを援護するようにガイは蒼い炎を纏った斬撃を放ち、放たれた斬撃と蒼い炎が爆炎に加勢することでゼアルの放った二色の炎が押し返され、そして跡形もなく消えてしまう。
「助かったぞガイ」
「これくらい気にす……」
「まだ終わらないぞ?」
ゼアルは全身に雷を纏うとソラとガイの背後に移動し、彼らが気づくよりも先にガイを殴り飛ばし、ソラに対しては右手に真助の能力「狂」の黒い雷を纏わせて彼が纏う炎魔の武装を破壊していく。
「ぐぁっ!!」
「この……!!」
脆いな、とゼアルが右脚に魔力を纏わせて地面を強く蹴るとソラとガイは烈風と風の刃に襲われ、負傷しながら吹き飛ばされていく。
「「ぐぁぁあ!!」」
「キサマ!!」
シオンは「雷帝王」を発動して雷と魔力の鎧を纏う身体に強力な雷を纏わせると目にも止まらぬ速度でゼアルに接近して殴りかかるが、視認出来ぬほどの速度で動いたはずのシオンのこぶしをゼアルは一切見ることなく握り掴んで止めたのだ。
「何!?」
「その程度か?
オマエの速度の限界はその程度か?」
「この……ナメんな!!」
シオンは自身の拳を掴むゼアルの手を強引に振り払うとさらに強い雷を全身に纏わせて連撃を放とうとするが、シオンが連撃を放つよりも先にゼアルはシオンに蹴りを食らわせ、食らわせた蹴りを伝うようにして炎を炸裂させるとシオンを吹き飛ばす。
「ぐぁぁぁあ!!」
「この野郎!!」
イクトは大鎌を構えながら自身の覚醒した力「死獄」の力を大鎌に纏わせて斬撃を放つが、イクトが放った斬撃をはゼアルの前に現れた氷の壁に防がれてしまい、地面が突然隆起すると形を変えて岩の拳となり、変化したそれはイクトを殴り飛ばす。
「がっ……!!」
「この程度か、オマエらの力は?
オマエらの力はこの程度のことで終わるのか?」
ガイ、ソラ、イクト、シオン……ゼアルの攻撃を前にして四人は負傷して倒れてしまい、そんな四人を見ながらゼアルは自身の頭上にドス黒い魔力の球をつくっていく。
「うっ……」
「くそ……」
「オマエらに対してこれ以上何かを期待するのは時間の無駄だ。
せめてもの慈悲……この一撃で終わらせてやる!!」
ゼアルが叫ぶと魔力の球が膨張し、膨張した球は炸裂して周囲に爆撃を放とうとする。
「さぁ、己の無力さを思い知……」
膨張する魔力の球が炸裂しようとしたその時、魔力で出来た魔法陣が四つ現れると炸裂しようとする球を包囲し、魔法陣が光ると炸裂しようとした球を密閉するような結界へと変化して球が炸裂するとともに生じる爆撃を防いでいく。
「何!?」
「……させるかよ」
トドメをさせようとした攻撃を防がれたゼアルが驚く中で先程ソラに蹴り飛ばされたはずのヒロムがゼアルのもとへ向かうように歩き、その隣を精霊・ステラとミラーナが添い歩く。
「オマエ……!!」
「オレを忘れてんじゃねぇぞゼアル。
オレとオマエ……どっちが強いか決めようぜ」




