三五五話 天獄集結!!
姫神ヒロムが「覇王竜」ゼアルと戦っている頃……
ヒロムに別れを告げられた彼の母・姫神愛華はヒロムに別れを告げられた別荘の前でヒロムが戦っているであろう方の空を静かに見ていた。
「……」
『この先アンタと関わることはない。
もう、アンタとの縁はここで終わる』
「……因果応報、なのですかね」
親子の縁を切るようにヒロムが告げた別れの言葉を思い出すと愛華はどこか悲しそうな顔をしていた。
彼女にとってヒロムは愛する息子だ。
愛するが故に息子のために起こした行動が原因でこのような結末になったとはいえ、ヒロムに別れを告げられたのは彼女にとってつらいことだ。
だがこれに関しては彼女自身も自分が悪いと理解しているし、理解しているからこそ後悔している。
彼は前に進もうと必死にもがいていた。
その手助けをしようとしていたはずの自分の軽率な行動で進もうとする彼の道を阻むようなことをしてしまったのだ。
「仕方の無いことですね……」
「ホントにそう思ってんのかぁ?」
愛華が一人呟くと何者かが彼女のもとへやって来るように歩いてくる。
茶髪で毛先だけは色素が抜けたように灰色になり、紫色をベースとした陰陽師をも思わせるような衣装を身に着た紅い眼の青年。
黒い手袋をした右手を呑気に愛華に向けて振りながら歩いていた。
愛華はその青年のことを知っていた。
「鬼桜葉王……」
「久し振りだな、姫神愛華。
いつぶりだぁ?」
「……ヒロムの「八神」との戦いにアナタが加勢された時ですから数日前ですよ」
「そうだったかぁ?
まぁいいや……オレとしては時間なんて関係ねぇからなぁ」
「……何の用です?」
歩み寄ってきた鬼桜葉王に対して少し冷たく問う愛華だが、愛華のその冷たい態度を前にしても葉王は気の抜けたような話し方をやめない。
「アンタの様子を見に来てやったんだよォ。
アンタが犯した過ちでアンタの道筋がどうなったのかをなぁ」
「私を笑いに来たのですね……」
「笑うとでも思ったかぁ?
安心しろ……オレとしてはアンタに感謝してるからなぁ」
鬼桜葉王はマスクで口元を隠されていても分かるような笑みを浮かべると話し始めた。
「アンタの協力無しでは姫神ヒロムを計画の要には出来なかった。
アンタの協力はオレたちにとっても「一条」にとっても価値のあるものだ」
「約束は守ってもらいます」
「分かってるさ。
利用する代わりにアンタの言う通りにアイツは守ってやるよ」
それに、と葉王は指を鳴らすと右手に光を集め、光が右手に集まる中で葉王は愛華に伝えた。
「今のままじゃアイツを守ったとしても無駄に終わる。
預言者の「覇王の名を継承せし者、時と心を紡ぐ二十四の魂宿して世界に抗う」という言葉は大きく道を外れ始めた。
その軌道を戻す必要がある」
「どうやってです?
預言者のその言葉の通りにヒロムさんは二十四の精霊を身に宿し、そしてその力を手にしました。
そこから先の変化は……」
「問題はそこじゃない。
道を外れてるのはその予言の中にある覇王の名を継承せし者が厄介なあの男の方に変化しているってことだ」
「ゼアルは精霊を宿してません。
時と心を紡ぐことも魂を宿すことも……」
「覇王竜ならそれが出来るし、魂なら別の見方をすれば簡単に宿せる。
現にヤツは十四人の竜装術の使い手を生み出している」
葉王の言葉、それを聞いた愛華は彼が何を言おうとしているのかを理解し、そしてそれが本当なのかを問う。
「本当なのですか?
本当に……」
「仮にヤツが事を急ぐとすれば「覇王竜」の力を使っていくらでも何とか出来る。
何より厄介なのは何も知らずにあの場にゼアルの力が完成するピースが集いつつあることだ」
「では止めなければ……」
「どうやって?
アンタは治癒以外役に立たねぇのにどうやって助ける?」
「アナタの計画のために手を貸しました。
ですから……」
「残念だがそれだとオレは姫神ヒロムしか守らねぇ。
他のヤツらは見殺しだァ」
「そんな……」
葉王に力を貸すように求めるも愛華の頼みは簡単に断られ、頼みを断られた愛華はやり場のない不安に焦りを抱きつつあった。
が、そんな彼女の様子を見るなり葉王はため息をつくと右手に集めた光にかたちを与えながらある提案をした。
「手を貸す代わりに条件がある」
「条件?」
「アンタはウルとゼアルに姫神ヒロムの遺伝子情報を組み込むためにアイツから遺伝子情報を拝借してるはずだ。
その遺伝子情報をオレに寄越せ」
「何のためにです?
申し訳ないですがヒロムさんの遺伝子情報を簡単には……」
「姫神ヒロムに限界を超えさせる」
「な……!?」
葉王の申し出た言葉に愛華は驚きを隠せなかった。
そして驚きを隠せぬ愛華に目的を語るように葉王は遺伝子情報の使用について話す。
「元々ヤツの力を解き放つためにパラドクスの石版を使用したが、まだヤツには可能性が残っている。
その可能性を引き出すためにもう一度石版の力を使う」
葉王が目的を語ると形を与えられた光は石版へと変化していく。
パラドクスの石版、かつてヒロムが「八神」との一戦で使用とした石版だ。
葉王はこれを手に取ると愛華に見せながらこれからやろうとすることについて詳しく話した。
「アンタもこの石版の出自は知っているはずだ。
姫神飾音は知らないが、裏でオレと繋がっていたアンタならコイツについて知ってるよな?」
「……ええ」
「なら話は早い。
オレはこの石版の中にある全ての力を解き放ち、ほの力で姫神ヒロムに限界を超えさせる。
オレの計画のため、アンタにとっては息子を守るためにだ」
「成功する確証は?」
愚問だな、と葉王が左手の指を鳴らすと石版に亀裂が入り、全面に亀裂が入ると表面が剥がれ落ち、中から黒い石版が姿を見せる。
十字架と王冠、そして王冠を貫く二本の剣の絵が彫刻された黒い石版を愛華に見せながら葉王は彼女に決断させるために更なることを伝える。
「遺伝子情報を使うのは成功率を引き上げるためだ。
万が一にも失敗すればアンタに頼まれてもオレはアンタの息子を助けられねぇからな」
「……」
「さて、どうする?
これはアンタにとっては失敗出来ない決断の時であり、オレとアンタの間の協力関係が終わる瞬間でもある。
息子に負い目を感じるのなら力を貸せ、無理なら息子の死をその目で見てろ」
「私は……」
「悩む必要はない。
即答しろ。
オマエに与える時間はない」
「……」
選べ、と葉王が愛華に決断を迫る中、黒い石版は怪しい光を発する。
その光を見た愛華はどこか迷いが捨てられぬ様子の中で頭を抱え、そして苦悩した挙句葉王に向けて自身の決断を伝えた。
「私は……」
愛華の決断は葉王に伝えられた。
葉王は……
***
ゼアルと戦うヒロムを助けるように現れた相馬ソラと雨月ガイ。
二人の登場が意外だったのかヒロムは少し驚いた顔をしていた。
「オマエら……」
「……何とか無事のようだなヒロム」
「どっからどう見ても無事じゃねぇだろ、ガイ。
コイツ無理してんだろ?」
「命が無事って意味だよ。
ヒロム、体の方は?」
問題ない、とヒロムは自身の容体を気にしてくれたガイに伝えると光の刃を持つ双剣を構えようとするが、構えようとした彼の体は突然フラつき、そして彼は立っていられなくなったのか膝から座り込んでしまう。
「くそ……」
「……大丈夫じゃなさそうだな」
「ったく……無理しやがって。
あとはオレとガイに任せて休んでろ」
ダメだ、とヒロムは自分に休めと告げるソラに反論すると彼に向けて話した。
「アイツはここで倒す。
オレがアイツを……どっちが真の覇王かハッキリさせてやらねぇと……」
「くだらねぇ」
ヒロムの言葉を聞くなりソラはヒロムの体を蹴り、蹴られたヒロムは蹴り飛ばされてユリナたちのもとへと飛ばされてしまう。
蹴り飛ばされたヒロムは纏っていた「クロス・リンク」が解除されてしまう。
「ソラ、オマエ……」
自分を蹴り飛ばしたソラに文句を言おうとヒロムは叫ぼうとするが、彼のそれを阻むようにソラとガイのいる方からシンク、真助、ノアルが飛ばされてきて彼のそばで倒れる。
「オマエら……」
「そいつらと一緒に休んでろ」
ソラはヒロムに一言告げると右手に炎を集め、集めた炎を紅い拳銃「ヒートマグナム」に変化させて手に取り、ガイも霊刀「折神」を抜刀するとヒロムに向けて一言言った。
「少しは頼ってくれ。
そのためにオレたちがいる」
「ガイ……」
泣けるね、とゼアルはソラやガイの言葉を聞いて何かを感じたのか二人に向けて拍手を送る。
が、その拍手を受けるソラとガイは敵であるゼアルを強く睨んだ。
いや、そもそも二人はゼアルの拍手に何の意味もないと理解しているのだ。
挑発、ただそれだけのために送られているのだと理解しているからこそ何も意味が無いと判断できるのだ。
反応の薄い二人を前にしてゼアルは面白くないのかため息をつくと二人に向けてある提案をした。
「キミたちに一つ提案があるんだが、どうかな?」
「提案?」
「内容にもよるけど、話だけは聞こう」
「感謝するよ雨月ガイ。
キミのような優しい少年は好きだ。
提案というのはそこに倒れる彼らが拒んだものなのだが……どうかな?
キミたちはこちら側に来ないか?」
ソラとガイを前にしても余裕があるのかシンクたちを仲間にしようとしたように二人にまで同じようにして声をかけ始める。
が、ゼアルの言葉を聞いたソラとガイは全身に魔力を纏うなり敵に向けて一撃を放ち、放たれた一撃はゼアルの横を通り過ぎると彼の背後で炸裂して背後で大きな爆発を起こしていく。
「……これが答えか?」
「無駄なこと聞いてんじゃねぇぞ、おい?
誰がオマエみたいなクズの仲間になると思う?」
「残念だがアンタはここで倒す。
オレやソラ……ここにいる皆が仕えるべき覇王はアンタじゃない……ヒロムこそが真の覇王だ!!」
「なるほど……。
だがたかが二人で何が……」
「誰がいつそいつらだけだと言った?」
ゼアルの言葉を遮るようにどこからか声が響くと全身に雷を纏った紅月シオンがゼアルの目の前に現れ、現れるなりシオンはゼアルの顔面を殴って敵を殴りとばす。
「!?」
「アンタみたいなヤバイやつをこの二人だけに任せるわけないだろ?」
殴り飛ばされたゼアルが受け身を取ろうとするとシオンの影の中から黒川イクトが現れ、彼の瞳が金色に輝くと受け身を取ろうとするゼアルの影から無数の影の拳が現れて敵を連続で殴打していく。
「!!」
影の拳に殴られたゼアルは受け身を取るのに失敗して倒れてしまい、そんなゼアルを見下ろすようにシオンとイクトは並ぶと魔力を纏い、ガイとソラは二人のもとに歩み寄ると横に並び、四人は敵であるゼアルを視界に捉える。
「覚悟しろよゼアル……。
オマエはここでオレたちが終わらせる!!」




