三五三話 絶体絶命の致命傷
「これが力の差……覚悟だけでは越えられぬ壁だ」
ゼアルの力を前にしてシンク、真助、ノアルは追い詰められながらも構えるが、対するゼアルは余裕を崩さぬまま立っていた。
魔力の翼を広げながらゆっくりと地上に舞い降り、翼を消すと三人に向けて話し始めた。
「誰かのために、誰かのために、誰かのためにて……。
キミたちが揃いも揃って口にするこの言葉に何の意味がある?」
「意味だと……?」
「言葉に何の力がある?
何も出来ない、何の影響も与えない言葉に何の意味がある?
そんな言葉のせいでキミたちは無駄に傷つくことになっていると何故気づかない?」
「オマエ、さっきから何を……」
「そろそろ理解すべきだ。
キミたちが真に仕えるべきはこのオレだと。
そこにいる姫神ヒロムのような心構えと覚悟だけでは何も変わらない。
力があるのならば現実を受けいれてオレに従え」
ふざけるな、とシンクは全身に冷気を纏うとゼアルよ言葉を否定するように強く言った。
「オレたちはオレたちの意思で戦っている!!
オマエみたいなヤツに指図されて生きるくらいなら死んだ方がマシだ!!」
「誰も指図はしていない。
オレはキミたちに現実を理解させようとしているだけだ」
「理解してるさ。
だからこそ……オレやシンク、それにノアルや夕弦たちはオマエとは違う道を選んで進んでいる!!」
「オマエのような身勝手なヤツに言われなくてもオレたちはどうあるべきか理解している!!」
「……それは勘違いと言うんだよ。
愚かな行為だ……間違っている」
「間違っていても構わねぇ……!!
オレたちは……そうやって前に進むんだ!!」
シンクが強く言うと彼の纏う冷気が氷塊に変化し、そして氷塊の中よりシンクは姿を変えて現れる。
先程まで纏っていた竜装術・氷牙竜の姿はなく、両肩、胴には竜の頭を模したような氷の鎧が纏われ、鎧の下には氷を思わせるような冷気を帯びたコートを羽織り、両手両足は氷により作られたアーマーを装備し、背中にはマフラーのように長く伸びた冷気の帯を有した姿。
「竜鬼会」に加担した執行人・クローラーを倒した力……
「竜装術……進化解放!!
氷帝竜!!」
新たな姿となったシンクは冷気を纏うとその冷気によって生まれた白い炎を両手に纏わせ、真助も妖刀「狂血」に黒い雷を纏わせると構え、ノアルも全身に闇を纏うと拳を構えた。
そして……
「いくぞ!!」
「「おう!!」」
シンクの言葉に反応するように真助とノアルは強く返事をすると走り出し、そしてシンクは冷気を纏うと飛翔する。
ゼアルに向けて走り出した真助とノアルは敵に迫る中で身に纏う力を大きくさせ、全身を「魔人」の力で変化させたノアルは力を大きくさせながら両腕を鋭い刃を持つ剣へと変化させる。
「はぁぁあ!!」
「だぁぁあ!!」
真助とノアルはほぼ同時に斬撃を放って敵を斬ろうとするが、放たれた斬撃はゼアルに触れることなく彼の前で止められ消されてしまう。
……が、真助はそこで止まらなかった。
「止められるなら止められなくなるまで放つだけだ!!」
真助は身に纏う力をさらに強くさせると常人が目で追えぬほどの速度で何度も何度もゼアルに斬りかかり、真助の放つ全ての攻撃が止められても彼は止めることなく放ち続ける。
「何故無駄だと理解しない?
そんなことをしても無意味だ」
「無駄だとしても止まれねぇ!!
オマエが未来を壊すと言うのなら……ここで止めるだけだ!!」
「ならばまずはキミから壊すとしよう」
真助の放つ斬撃が目に見えぬ何かに止められたその瞬間にゼアルが指を鳴らすと真助の全身が無数の斬撃に襲われ、彼は血を吐きながらよろけてしまう。
「ぐっ……!!」
「真助様!!」
真助が負傷して心配になる羽咲チカが彼の名を叫ぶ中、真助は倒れまいと耐え凌ぐと全身に受けた傷を妖刀「狂血」の力で瞬間で再生させると妖刀に力を集中させてゼアルに向けて一撃を放つ。
「はぁっ!!」
「!!」
真助の放つ一撃はゼアルの前で止まらず、ゼアルは真助の攻撃を魔力を纏わせた左手で慌てて止めた。
「……どうした?
さっきまで防御しなかったのに……何でだ?」
「キミの狙いはこれだったのか……!!」
「オマエが何もせずにオレらの攻撃を防げるわけねぇからな……!!
何かしらの能力を使ってるのなら……オレの能力で断ち切ればいいだけの話だ!!」
「この……!!」
「はぁっ!!」
ノアルは真助によって追い詰められたゼアルに接近すると剣に変化させた両腕で攻撃を放ち、放たれた攻撃をゼアルは何とかして右手で止めてみせる。
「くっ……!!」
「これで両手は塞がった!!」
「やれ、シンク!!」
「任せろ!!」
真助とノアルが叫ぶとシンクは冷気を纏いながらゼアルに接近するように天を舞い、そしてゼアルとの距離を詰める中でシンクは両肩の竜の頭を模した鎧が光るとともに竜の頭はゼアルの方を向き、大きく開けた口から冷気と魔力を混ぜたビームを撃ち放つ。
ゼアルは何とかして防ごうと考えるが、真助とノアルの攻撃を両手で防ぐ現状はその余裕がなかった。
「ノアル!!」
「分かっている!!」
真助とノアルは身に纏う力をさらに大きくさせると攻撃を止めるゼアルにさらなる一撃を放とうとし、ほれを防ぐのに専念させられるゼアルの無防備な体にシンクの放った冷気と魔力のビームが直撃する。
「ぐぉおぉお!!」
冷気と魔力のビームを受けたゼアルの体は徐々に凍りつき、さらに真助とノアルの攻撃を防ぐ両手は次第にボロボロに負傷していた。
「いつまでも余裕見せてるとどうなるか教えてやるよ!!」
「そして思い知れ……人の思いが辿り着かせる力を!!」
「オマエ如きがヒロムと同じ覇王の名を名乗るな!!」
「「「覚悟を決めろ!!」」」
真助、ノアル、シンクがゼアルに向けて叫ぶと共に力を大きくさせ、強大な力となった三人の攻撃を受けるゼアルの体はボロボロになりつつあった。
「ぐおおおお!!」
「「はぁぁあ!!」」
「このまま……」
「……なるほど、それがキミたちの限界を超えた力か」
ゼアルの全身がヒビ割れ、そしてガラスのように砕け散って消えてしまう。
「「!?」」
突然消えたゼアルに驚きを隠せない三人。
その三人の放った攻撃は標的を失ったことで空を切るように何も無い地面を破壊して終わり、三人は驚きを隠せぬまま消えたゼアルを探そうとする。
「ヤツはどこに消えた!!」
「攻撃は効いてたのか?」
「バカ言うなよノアル!!
あの消え方……あれは効いてなんかいない!!
あれはオレたちの攻撃をあえて受けて余裕を見せつけていただけだ!!」
その通りだ、とゼアルの声が響くと空間が歪み、その空間の歪みから無傷のゼアルがゆっくりと姿を現す。
「なっ……!!」
「あれは……」
「ウルの「次元竜」の力……!!」
「正確にはウルの力をより強力にしたものだ。
ウルの力とは格が違う」
「どういう意味だ?」
「ふっ……理解などしなくていい。
ただキミたちは理解したところで何も変えれずに終わる!!」
ゼアルが声高々に宣告するとともに三人に向けて左手をかざす。
が、ゼアルが三人に向けて左手をかざしたところで何かが起きるわけでもなく、三人は何も起きぬ中を好機だと感じて攻めようと動き出す。
……のだが、三人が動き出すとゼアルは不定な笑みを浮かべて彼らを冷たく見つめる。
「言ったはずだ。
何も変えれずに終わると!!」
ゼアルが三人に冷たく告げると力を纏っていたシンクと真助のその力が消え、「魔人」の力によって変化していたノアルの全身の変化が消えると三人に衝撃波のようなものが襲いかかり、さらに三人は勢いよく血を吐きながら爆撃のようなものに襲われ、さらに白い炎のようなものと黒い雷のようなものが三人にトドメをさすかのように襲っていく。
「「「あああああ!!」」」
纏っていた力が消え、変化していたはずの肉体が元に戻ったことで無防備となった三人はゼアルが放ったとされる攻撃に為す術もなく全身を負傷させられ、そして三人は全身血だらけになりながら倒れてしまう。
倒れる中で真助の妖刀「狂血」は本来の姿である小太刀の霊刀「號嵐」へと戻ってしまい、三人は意識が薄れる中で倒れながら見上げるようにゼアルを睨む。
「オマエ……何をした……!!」
「何をしたか問う時点で愚かだ。
キミたちはどうやっても理解出来ない。
今のオレはそういう高みの中に存在している」
「くっ……」
さて、とゼアルが両手を何かを描くように動かすと彼の頭上に巨大な紫色の魔力の球体が現れる。
現れた球体は乱回転しており、乱回転する中で徐々に力を増すと次第に巨大化し始める。
「キミたちが自分の愚かさに気づいて悔い改めるのならば新世界への立ち入りを許そうかと思ったが、キミたちはこのままでは存在する意味が無い」
「まずい……」
このままではやられる。
そう直感で感じたノアルは何とかして立ち上がって真助やシンクを守ろうと考えるが、ゼアルの攻撃で負傷した傷が「魔人」の力によって再生されず、そのせいか体に力が入らず立ち上がることが出来なかった。
「そんな……」
「哀れだな、東雲ノアル。
「魔人」の力に見放された今のキミにはもはや存在意義はない!!
せめて新世界の礎となることを光栄に思いながら仲間と共に消えろ!!」
ゼアルが叫ぶと彼の頭上に現れた紫色の乱回転する球体が放たれ、放たれた球体はノアルたちを消し去ろうと迫っていく。
「くそ……ここまでなのか……!!」
「そんなこと……させるか!!」
すると白銀の稲妻がノアルたちの横を通り過ぎるとゼアルの放った魔力の球体を貫き、貫くと内側から炸裂して破壊してしまう。
「「!!」」
「……なるほど。
もう回復したのか」
球体が破壊されても動じないゼアル。
そのゼアルが白銀の稲妻が放たれた方向に目を向けると、視線の方から復元の反動を受けて動けなかったはずのヒロムがゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。
が、ヒロムの足取りはどこか重く、そして彼の体はどこか万全でないように思えた。
「ヒロ……ム……」
「……悪い、シンク。
無茶させたな」
「違う……!!
オレたちは……」
「分かってるさ。
けど……ここからはオレが引き受ける」
どうやってだ、とゼアルは魔力の翼を広げながらヒロムに問う。
「キミ一人では何も出来ないのにどうやってオレを倒す気だ?
キミの仲間が本気になってもオレには何一つ通じなかった。
なのにキミは挑むのか?」
「悪いが……オレの中に諦めるってワードはねぇんだよ!!」
ヒロムはゼアルに言い返すと全身に赤い光を纏い、そして全身から赤い稲妻を放出すると天に魔法陣を浮かび上がらせる。
「……いくぞゼアル。
ここからはオレの……オレたちの番だ!!」
「戯れ言だな。
今のキミに残された手段はない!!
ここに至るまでにキミの手の内は全て暴かれている!!
それなのに……」
「……万物超越、天聖光輝!!」
ヒロムが何かを唱えると天の魔法陣から光が放たれる。
「天望の夢は時とともに流れ、月満ちし時光は全てを照らす。
全てを導くものは命すら導き、この世界の本質と全ての理を受け入れ淘汰する!!」
「まさか……!!」
ヒロムが何かを唱える中で彼がやろうとしていることに気づいたゼアルだが、時すでに遅かった。
ヒロムは天に向けて手をかざし、彼が手をかざすと魔法陣から赤い光と赤い炎が解き放たれる。
「最後の鍵は今解き放たれた!!
輝け……「天導」ステラ!!」




