三四三話 万能の裏側
「ソウル・ブレイヴ……!!」
赤い光を纏い、そして赤い稲妻を全身に駆けさせるヒロムは「ソウル・ブレイヴ」と呟くと瞳を赤く光らせる。
「ソウル・ブレイヴ」、それが何を示すかは分からないがザックスとアイゼンは全身に魔力を纏うとヒロムに向けて告げた。
「名前と見てくれ変えてもお見通しなんだよ。
アンタのそれは「ソウル・ハック」、魂を精霊へと昇華させて力を増すってやつだ」
「そしてその「ソウル・ハック」に続くように「ソウル・ハック・コネクト」、そして「クロス・リンク」を使うのがオマエのスタイルだ」
「残念だけどアンタのやり口はこっちに全部筒抜けなんだよ。
今更変えたところで……」
何言ってやがる、とヒロムは首を鳴らすと刀身の赤い剣を右手に出現させて装備し、剣を構えるとヒロムは余裕を見せるザックスとアイゼンに忠告するように話した。
「いつまでも古い知識に囚われてるようじゃ進めないぞ。
今のオレはオマエらの知るオレの力を遥かに上回ってるんだからな」
「はぁ?
強がりならやめて……」
ザックスが言おうとした言葉が最後まで言い終える前にヒロムは音も立てずにザックスとアイゼンの背後に現れ、ヒロムの出現を察知して振り返ろうとした二人は目に見えぬ斬撃に襲われて負傷してしまう。
「な……!?」
「バカな……!?」
「油断してたら斬られるぞ?」
斬撃を受けたことに戸惑うザックスとアイゼンに向けてヒロムは言うと剣を振って斬撃を放ち、放たれた攻撃に対してザックスは炎にも似た何かを放つことで防いでみせるが、ヒロムは剣の刀身に赤い魔力を纏わせると炎のようにしてザックスに向けて放つ。
放たれた赤い魔力は炎のように燃え盛るとザックスを飲み込み、魔力に飲まれたザックスは炎に焼かれるように全身負傷していく。
「ぐぁぁ!!」
「ザックス!!
オマエ!!」
アイゼンは黒い魔力にも似た力を纏うとヒロム襲いかかるが、ヒロムは剣先で円を描くと魔方陣のような魔力の盾を生み出し、生み出した魔力の盾でアイゼンの攻撃を防いでしまう。
「な……」
「そういやオマエら……、何か変わった力を使うよな。
どんな能力なんだ?」
「オマエに教えるはず……」
「まぁ、どうでもいいけどな」
ヒロムが剣を振ると赤い魔力が烈風となってアイゼンを吹き飛ばし、アイゼンを吹き飛ばすとヒロムは剣先で空に何かを描くと無数の魔力の矢を出現させる。
出現させた魔力の矢は赤い光を帯びており、ヒロムは狙いをアイゼンに定めると魔力の矢を一斉に放った。
放たれた矢は加速しながらアイゼンに迫っていき、アイゼンは何とかして避けようとするも回避が間に合わず、赤い魔力の矢を全身に受けてしまう。
「がっ……」
矢に射抜かれた体からは血が流れ、攻撃を受けたアイゼンはダメージを受けたせいか吐血してしまう。
「この……」
何とかして体を射抜く矢を引き抜こうとするアイゼン。
そんなアイゼンに接近するとヒロムは剣を振り上げ、アイゼンの肉を削ごうと振り下ろす。
「どうせ再生するなら一回斬られろ」
「くっ……」
ヒロムが振り下ろした剣がアイゼンの肉を削ごうと迫る中、赤い魔力を振り払ったザックスが魔力を弾丸にして放ってヒロムの手から剣を弾き飛ばしてしまう。
剣が弾き飛ばされたことによりヒロムの攻撃は不発に終わり、アイゼンはそのチャンスを逃すことなく体を射抜く矢を破壊し、魔力を強く纏うとヒロムに攻撃を仕掛けるが、ヒロムは両手を大きく動かすと魔力の盾を生み出し、アイゼンの攻撃を防ぐと攻撃を反射させてアイゼンを勢いよく吹き飛ばす。
アイゼンを吹き飛ばすとヒロムは魔力の盾を円盤状に組み直し、円盤状にした魔力を高速回転させるとザックスに向けて投げる。
投げられた高速回転する魔力の円盤をザックスは避けるが、ザックスが避けた魔力の円盤は近くにある電柱に触れると真っ二つに両断してしまう。
「なんて切れ味だよ……!!」
「外したか……。
この手の造形は難しいな」
ヒロムは一人ブツブツ呟きながら赤い魔力を両手に集めると形を与えるとザックスに向けて放つ。
放たれた魔力は形を変えながらザックスに向かっていき、鎖へと形を変えた赤い魔力はザックスを拘束しようと巻きついていく。
……が、ザックスは炎にも似た何かを纏うと力を入れて巻きつく鎖を引きちぎり、反撃と言わんばかりにヒロムに向けて炎にも似た何かを放ち続ける。
「オラオラオラァ!!」
「うるさいヤツだな、たく!!」
ヒロムは両手に魔力を纏わせると迫り来る攻撃を防ぎ、敵の攻撃を防ぐ中でヒロムはザックスに接近するように動き、そしてその中で精霊・フレイの武器である大剣を出現させると装備してザックスに向けて赤い魔力を纏った斬撃を放つ。
ヒロムの放った斬撃をザックスは炎にも似た何かを用いて防ぐと負傷した体の傷を再生させ、今度はヒロムを挑発するように語る。
「アンタはさっき再生能力は弱点だらけの力って言ってたよな?
その割にはアンタはオレたちを倒せてないし、結果的にはどっからどう見ても再生能力に弱点はないと思うんだが……どうなんだ?」
「何がだ?」
「さっきのはアンタの虚勢なんだろ?
恥ずかしいよな、ホント。
女を前にしてカッコつけたかったのか?
ダッセェな!!」
「……そうか、なら実証してやろうか?」
「あ?
今更何を……」
ヒロムが何をしようと今更だと思っているザックス。
だがそのザックスに一瞬で接近するとヒロムは大剣でザックスの肉を抉り、赤い魔力を大剣に纏わせると巨大な斬撃を放ってザックスを吹き飛ばしてしまう。
「ぐぁ!!」
「そんなに言うならやってやるよ。
オマエらが後悔する顔を拝ませろ」
ヒロムは赤い光を強くさせるとアイゼンの方に何度も斬撃を放ち、傷を再生させるアイゼンを斬撃が襲いかかっていく。
「ぐぁぁ!!」
「アイゼン!!」
アイゼンが斬撃に襲われる中、ザックスは何とかして立ち上がると傷を再生させて全身に魔力を纏おうとするが、ヒロムは大剣をザックスに向けて勢いよく投げ飛ばす。
「!!」
投げ飛ばされた大剣を見てザックスは慌てて避けるが、避けた先にはヒロムが刀を構えて立っており、彼の構える刀はザックスの腹を貫く。
「が……!!」
「こんなもんか?」
ヒロムは左手に精霊・テミスの武器である銃剣を装備すると勢いよく刀を引き抜いて至近距離からザックスに魔力の弾丸を掃射し、弾丸を受けたザックスは負傷するも
傷を再生させて反撃しようとする。
が、そんなザックスの行動を邪魔するようにヒロムはザックスの右肩に刀を突き刺し、さらに銃剣で脚を斬ると今度は精霊・ディアナの武器である槍を構えるとザックスの体に目にも止まらぬ速度の連続突きを食らわせる。
「がぁぁあ!!」
ヒロムの攻撃を受けて負傷するもまた再生させるザックス。
だがヒロムもそこで終わらない。
何度も何度もザックスに致命傷を負わせるような攻撃を放ち続け、ザックスはその攻撃を受ける度に傷を再生させていく。
ザックスだけではない。
アイゼンもヒロムの猛攻を受ける度に負傷し、その度に傷を再生させている。
「な、何が起きてるの……?」
ヒロムの戦う姿を見るユリナは何が起きてるのか分からず、ユリアに思わず質問をしてしまう。
「ヒロムくんが言ってた「ソウル・ブレイク」と「ソウル・ブレイヴ」って何なんですか?
あの力は一体……」
「あれはマスターが私たち精霊と深く繋がっている証。
そして「ソウル・ブレイク」はラミア、「ソウル・ブレイヴ」はある精霊が持つ天の字名がもたらす恩恵です」
「天の字名……?」
「何なのそれ?」
ユリアの説明に首を傾げるユリナ。
そのユリナに代わるようにアキナがユリアに質問するとユリアは簡潔にまとめて彼女たちにも分かるように説明した。
「天の字名というのは私たち精霊の中でも選ばれた四人だけが与えられている証。
その力は私たち精霊を統べるマスターの力になり、そして私たち精霊を精霊が総べる証となります」
「……よく分かんないけど、さっきヒロムが言ってたソウル何とかってのはその力なのね?」
「はい。
「ソウル・ブレイク」はマスターの中の魔力を暴発させながら戦いに対する本能と感覚を研ぎ澄ませ、攻撃性を増させながら破壊に特化させる力……マスターが「ハザード」に発症したと思っていたのはこの力が原因です。
そして「ソウル・ブレイヴ」は……細かいことを省略すると魔力使用権の獲得です。
本来魔力操作と造形を行えないマスターが私たちの補助なしで自在に操り、魔力を自在に吸収・放出する力です」
「魔力を自在にって……地味じゃない?
ガイたちは普通に出来ることでしょ?
それを何でヒロムはその力を……」
「本来マスターは精霊を使役するだけの身でした。
つまり魔力を纏うための素質も魔力を扱う素質も剥奪されていました。
長い間その期間が続いたせいでマスターはそれを会得出来ず、「ソウル・ブレイヴ」に頼るしかないということです」
「そ、そうなのね……」
ユリアの説明に何となくでアキナやユリナたちが理解していると、ヒロムはザックスとアイゼンに強力な一撃を放って二人を吹き飛ばしてしまう。
「「ぐぉぁあ!!」」
吹き飛ばされた二人は受け身も取れずに倒れるが、何とかして立ち上がると再び傷を再生させようとする。
が、ヒロムはそんな二人に向けて忠告した。
「再生するのはやめた方がいいぞ?
オマエらがオレに勝ちたいのならな」
「さっさと終わらせたいからって生意気言うなよ?
アンタはもはやオレたちには勝てない!!」
「ここまで再生を繰り返せばオレたちの力は増している!!」
「つまりアンタは……」
ザックスが何か言おうとしたその時、突然二人は口から血を吐き出し、さらに全身の傷は再生することなく血を流していく。
「な、何……?」
「なぜ再生……しない!?」
「オマエらが限界に達したからさ」
再生しないことにザックスとアイゼンが驚いているとヒロムは両手にショットガンを構えて弾丸を放ち、放たれた弾丸を受けた二人は大きく飛ばされてしまう。
飛ばされた先で倒れる二人に向けてヒロムは彼らの身に起きていることについて語りだした。
「オマエらは再生能力を甘く見すぎだ。
自己修復してダメージを力に還元する、聞こえはいいがその力は無限に増えるのか?」
「何……?」
「外傷は治っても体力や魔力は消耗される。
そして何より増え続ける力は器であるオマエらのキャパシティを超えれば肉体に負荷をかけるだけの足枷になる」
「まさか……!?」
「そのまさかだよ。
オマエらは再生能力が持つ傷しか治せない点と力量を超え続ける力のリスクに気づかなかった。
だからもう再生しなくなったんだよ」
「そんな……」
さて、とヒロムはショットガンを投げ捨てると首を鳴らし、そして足下に魔方陣を出現させると彼らに告げた。
「哀れなオマエらにもせっかくだから見せてやるよ。
オレの力をな」




