三三九話 四勇猛攻!!
「オマエはここでぶっ殺す!!」
真の姿になったというウルを前にしてバッツとの新たな力を発動したイクトは黒炎を纏いながら叫ぶが、それを阻むようにシオンが止めようとする。
「待てイクト!!
オレとガイで足止めしてタイミングよくオマエとソラがトドメさすって算段だろうが!!」
「そんなのはさっきまでのアイツに対しての話だろ!!
今のアイツに対してそんな悠長な事やってられるか!!」
「んだと!!
そもそもこの作戦立てたのはオマエの精霊だろうが!!」
「バッツのせいにするってのか!!」
「落ち着け!!」
意見の対立によって揉めるイクトとシオンを制するようにガイはただ一言強く言い、その一言を聞いたイクトとシオンは言葉を発することを止めてしまう。
二人が静かになるとガイはため息をつき、どこか呆れながら二人に告げた。
「今争うべきはオマエらの意見じゃない。
目の前にいる敵だけだ。
シオンの言う通り当初の予定と変わるけどイクトの言い分も正しい。
戦いが進む中で状況は刻一刻と変化している。
作戦通りいかないのは当然だ」
「それは分かってる。
だが……」
「戦闘種族がゴタゴタ言ってんじゃねぇぞ」
何か異論があるであろうシオンの言葉を遮るようにソラがやってくると彼に向けて告げた。
「敵を倒すことに変わりない。
要はやり方変えてやるだけだ」
「……」
「そもそもバッツの作戦も成功するかは怪しかったからとくに問題ないはずだ。
こうなったからには力で倒す、それだけだ」
「なぁ、ソラ。
ゴタゴタって使い方おかしくないか」
うるさい、もソラはイクトを睨みながら言うと続いてウルを見た。
「とにかくヤツを倒すにはもう手段を選ぶ余裕も作戦を立て直す余裕もない。
ここで勝つには迷うことなくヤツを殺そうとする意志が必要だ」
「……覚悟決めろってか?」
「まだ決めてなかったのか?」
ソラの言葉にイクトはため息をつくと大鎌を強く握り、そして強い眼差しでウルを見ながらソラの言葉に対して一言返した。
「覚悟なんてとっくに決めてるさ!!」
「そうか、それならいい。
オマエもそれでいいよな、シオン」
イクトのやる気を確かめたソラは続けてイクトを止めようとしていたシオンに問う。
問われたシオンはため息をつくと雷を纏い直してウルを見ながら構え、構える中でソラに向けて一言返した。
「仕方ないな……流れに任せてやるしかない」
「戦闘種族なら戦闘種族らしく力で潰す方が楽しいだろ?」
「……「月閃一族」を何だと思ってるんだ?」
「戦闘種族としか思ってねぇよ」
「……そうか」
「そういうわけだガイ。
やるぞ」
ああ、とガイが答えるとそれに合わせるように四人は身に纏った力とともに構えながらウルを見る。
禍々しい力を纏うウルはガイたちを見下ろすように天へと浮上し、浮上するとともにガイたちに向けて殺意を向ける。
そして……
「始めるぞ」
ウルが指を鳴らすと天が大きく歪み、そしてウルの姿も大きく歪み始める。
天が大きく歪むとともにスクリーンに映し出されたかのようにいくつもの街並みが浮かび、そして大きく歪んだウルの姿はまるで分裂でもしたかのように数人に増えていく。
同じ姿をしたウルはそれぞれが全身に力を纏っており、力を纏うウルはガイたちを襲おうと動き出す。
「作戦はもうない!!
とにかく目の前の敵を……ぶっ倒せ!!」
動き出した敵を前にしてガイはソラたちに指示を出すと走り出し、ソラたち三人もガイに続くように走り出す。
走り出すとともにソラはイグニスを武装として纏った「炎魔神装」の翼を広げながら飛翔し、飛翔するとともに武装の砲門に炎を集中させると歪みとともに現れた無数のウルを狙い撃つようにビーム状の炎を放つ。
放たれたビーム状の炎が迫る中で本体と思われるウルは空間を歪ませて姿を晦まし、無数に現れたウルのうちの数人はソラの攻撃を止めようと動く。
が、止めようとしてもそれはソラの「炎魔」の紅い炎。
その紅い炎が簡単に止められるはずもなく、止めようとした数人は炎に飲まれてしまうと全身が焼かれ、そして勢いよく爆散してしまう。
爆散した数人の姿を確かめたソラは自身の一撃が有効だと判断した上で更なる攻撃を放つが、突然空間が歪むと放った攻撃が一瞬で消されてしまう。
「ちっ!!」
「どいてろ!!」
攻撃を消されて舌打ちするソラに向けて一言告げるとシオンは「雷帝王」の雷のアーマーを纏いながら自身の周囲に身の丈の三倍はある大きさの雷の槍を数本出現させて敵に向けて撃ち放つ。
撃ち放たれた巨大な雷の槍は雷鳴轟かせながら乱回転して分身とも言える数人のウルを穿ち、敵を貫くと激しく轟きながら炸裂して周囲に雷を拡散するように放出する。
放出された雷はまるで敵を捕える網を展開するかのように広がっていくが、この攻撃も強い空間の歪みが生じるとその歪みの中に取り込まれるように消えてしまう。
「これでもダメか!?」
「……無駄なことを」
攻撃を防がれたシオンもソラと同じように舌打ちするが、ほんなシオンに向けて呆れた様子を見せながらウルは彼の背後に現れると魔力の槍でシオンを貫こうとする。
……しかし、シオンはそれを察知してたのか全身を雷に変えるとウルの攻撃を避け、シオンが攻撃を避けたのを見計らってソラは両脚のアーマーと一体化している硬質ブレードに炎を纏わせると蹴りを放つ感覚でウルを切り裂こうと襲いかかる。
が、ウルはソラの攻撃を魔力の槍で防ぐと左手に魔力を纏わせ、その魔力をビーム状に放ってソラの纏う武装の一部を破壊してみせる。
「くっ……!!」
「ソラ!!」
攻撃を受けるソラを助けようとシオンはウルの頭上に現れると蹴りを放ち、さらにイクトはそのシオンを援護するように影の拳を無数に作り出すと黒炎を纏わせながら敵の体に拳撃を叩き込んで殴り飛ばしてみせる。
黒炎を纏った影の拳に殴られたウルは勢いよく殴り飛ばされる中で黒炎によって徐々に体を焼かれそうになっていたが右手に魔力を纏わせると身を焼こうとする黒炎を音も立てずに消し去り、そして翼を大きく羽ばたかせると姿を消そうとする。
だが、それをこの男は許さなかった。
「はぁっ!!」
蒼い炎を纏いながら霊刀「折神」と「飛天」を構えて目にも止まらぬ速さでウルに接近したガイは連閃放ち斬撃を喰らわせようとし、放たれた攻撃はウルの翼を数枚破壊する。
翼が破壊されたことで姿を消そうとしたウルのその行動が阻止され、ガイは二本の刀に能力「修羅」の蒼い炎を纏わせると敵の体を抉るように斬りかかり、刀の刃はウルの肉を削ぐように命中して彼に致命傷を負わせる。
「がっ……!!」
「今だ!!
やれ!!」
怯んだウルを見てガイは合図を出すと即座にその場から離れるように素早く移動し、ガイが離れるとソラとシオンは炎と雷を放てる限りの渾身の力でウルに向けて撃ち放つ。
「「くらいやがれ!!」」
放たれた紅い炎と雷はウルに迫っていく中で一つに交わると雷炎となってより大きな力を引き起こし、大地を焼き焦がしながら敵に襲いかかる。
雷炎はより大きな力を引き起こそうとするように力を増していき、力を増す雷炎は次第に竜巻を起こしながらウルに迫っていく。
「「雷炎奥義!!
絶火雷葬撃!!」」
竜巻を起こしながら迫る雷炎はさらに大きくなり、そしてウルに襲いかかると炸裂して爆炎と雷撃で敵を葬ろうとする。
しかし……
「想定内だ」
ウルは両手に力纏わせると襲い来る爆炎と雷撃に向けて手をかざし、彼が手をかざすとソラとシオンが力を合わせて放った攻撃はまるで時でも止められたかのようにウルの前で制止してしまう。
「何!?」
「哀れな人間よ……己の力で滅びろ!!」
ウルが叫ぶと彼の前で制止してしまった爆炎と雷撃が攻撃を放ったソラとシオンの方に向けて動き出し、二人の放った攻撃が二人に襲いかかろうとする。
「なっ……」
「マジか……」
させない、とイクトは結晶の翼を羽ばたかせると一瞬でソラとシオンの前に移動し、結晶の翼を輝かせながら両手から巨大な黒炎の球をいくつも放つと迫り来る爆炎と雷撃を破壊し、二つの攻撃を破壊した黒炎の球はそこからさらに大きくなるとウルに向けて飛んでいく。
ウルに向けて飛んでいく黒炎の球は止まることなく敵に向かっていくが、ウルはその黒炎を制するかのように指を鳴らすと大きく空間を歪めて黒炎の球を全てどこかへと消してしまう。
「……っ!!」
「どうやら力の差を理解していないようだな。
そんなに死にたいなら……」
ウルは歪めた空間を戻すと自身の前の空間を歪め、歪めた空間から先程消したイクトの放った黒炎の球を出現させて彼らに向けて放とうとする。
「己の力で身を焼きながら死ね!!」
「オマエがな」
黒炎の球を放とうとするウルに向けて接近するように天を駆け走りながらガイは接近すると目にも止まらぬ速さの一閃を放つ。
「夜叉殺し……!!」
渾身の一閃とともに放たれる斬撃はウルが放とうとした黒炎の球を全て同時に両断し、さらにガイは一閃を放った勢いを活かすようにその場で回転するともう一撃放とうとする。
「……鬼天!!」
勢いを活かすようにして回転して勢いをさらに増した状態からガイが再び一閃を放つと両断された黒炎の球がさらに斬られ、ガイの二撃目を受けた黒炎の珠は力を維持出来なくなったのか暴発し、暴発した勢いで炎を燃え盛らせるとウルを飲み込んでいく。
「ぐぁぁあ!!」
「くっ……!!」
黒炎の球を二度斬ったガイは黒炎の暴発により生じた衝撃によって吹き飛ばされてしまうが、雷を纏ったシオンが彼のもとへと駆けつけると助け、彼はガイとともに着地した。
「ナイスだ、ガイ」
「オマエとソラの攻撃を返した時にでも止めるべきだったな」
「過ぎたことは気にするな。
それよりヤツは……」
まだだな、とガイはため息混じりに言うとウルを飲み込んでいく黒炎に目を向ける。
黒炎は激しく燃える中でウルを襲い、ウルの全てを飲み込むと焼き払おうとしているが、黒炎が燃え盛る中でウルはその炎の中を突き進むかのようにウルは全身に火傷を負いながら炎を突っ切るとドス黒い魔力をガイたちに向けてビーム状にして撃ち放つが、ガイは両手に持つ二本の霊刀に蒼い炎を纏わせるとその攻撃を斬り払う。
敵の攻撃を防いだガイはそこから続けてウルに向けて斬撃を放つが、ウルは簡単に避けてしまう。
「この程度……」
「いいや、見えてたよ」
ガイに何か言おうとしたウルの言葉を遮るようにガイが呟くと紅い炎の弾丸がソラの武装から撃ち放たれ、放たれた炎弾はガイの斬撃を避けたウルに接近すると炸裂して無数に拡散されていく。
拡散された炎弾は小さくなりながらも一つ一つが強く燃えており、その全てがウルの体を貫き燃やしていく。
「オマエが避けるのはお見通しだ、バーカ」
ソラが呟くとウルを焼く炎がさらに激しさを増し、ウルは何とかして炎を逃れるも全身は大きく負傷していた。
「ば、バカな……!?
このオレが……!?」
「教えてやるよ、ウル。
オマエの唯一の敗因は……オレたちを敵に回したことだ!!」




