三三四話 次元の違い
「空間を支配することが意味する絶対的な力……その身に味わえることを光栄に思いながら消えろ!!」
ウルは魔力の翼を羽ばたかせると空高くに飛び、高く飛ぶと自身の背後の空間を歪ませ、歪ませた空間から無数の剣を出現させるとイクトに向けて撃ち放つ。
撃ち放たれた剣は矢の如く勢いを増しながらイクトに迫っていくが、イクトは黒炎のマントを広げながら体を回転させ、黒炎のマントを刃のように鋭くさせながら迫ってくる剣を一斉に焼き消してみせる。
そこで終わらない。
回転を止めるとイクトはその回転の力を利用して黒炎の形を変えるとウルに向けて無数の矢を放ち、さらに両手を前にかざして黒炎の玉を放つ。
ウルは宙を舞いながら黒炎の矢を避け、迫り来る黒炎の玉は空間を歪めながら消滅させようとする。
「オマエに見せてやろう。
空間を支配することの絶対て……」
ウルが何かを話している時、歪めようとしていた空間が黒炎に包まれると歪みが消えてしまい、黒炎の玉は何事も無かったかのようにウルに向けて動き出す。
「何……!?」
空間の歪みを突破した黒炎の玉に少し驚いた様子を見せるウルは何とかしてイクトの攻撃を避けると魔力の槍を出現させると装備し、手にした槍を天にかざして空を歪めていく。
「……少し驚かされた。
それだけだ」
「?」
「……時鳴神!!」
ウルが槍を回転させると歪んだ空に雷が集まっていき、集まった雷は落雷となってイクトに襲いかかろうとする。
落雷、人が反応出来るような速度ではない。
その速度の雷がイクトを襲おうとしていた。
……が、しかし
「甘い」
イクトは全身を黒炎に包むと大地を黒炎で包みながら黒炎を纏う巨大な骸骨を出現させ、出現させた骸骨を盾にして落雷を防いでしまう。
「何……!?」
「その程度なら拍子抜けだぞ」
イクトが指を鳴らすと黒炎を纏う骸骨が悲鳴にも似た叫び声を上げながらウルに襲いかかろうと腕を伸ばし、そして伸ばした腕がウルに接近すると骸骨は敵を握り潰そうとする。
だがウルは黙っていない。
「……甘いのはオマエもだ」
ウルの魔力の翼が光を放ち始め、骸骨が放たれた光に触れると触れた所から次第に歪んでいき、次第に空間ごと歪んで消されてしまう。
「時神楽……オマエ如きに使うとは思わなかったが、この力があるかぎりはそう容易く倒されるオレではない」
「へぇ……少しは楽しめそうじゃん」
「楽しむ?
何を……」
「さぁ、ショータイムだ」
イクトが右手の指を鳴らすと突然天が黒炎に包まれ、そして天より無数の黒い腕が現れてウルを捕らえようとする。
「これは……」
ウルは空間を歪ませると歪ませた空間から無数の剣を出現させ、出現させた剣を迫り来る腕に向けて撃ち放ちながら相殺する中で天を包む黒炎を分析しようとする。
が、歪んだ空間から放たれた剣に相殺されたはずの黒い腕は破壊されると無数に増殖しながらウルに向かっていくと敵の行動を邪魔しようとする。
「なるほど……。
面白い」
迫り来る無数の黒い腕にどこか楽しそうに不敵な笑みを浮かべると手にしていた魔力の槍を捨てると魔力の翼を羽ばたかせながら自分から接近していく。
「は!?」
ウルの行動を目にしたイクトは思わず驚きの声を出してしまうが、実際のところウルの行動は不可解だ。
これまでイクトの攻撃を避けるか空間の歪みから放った剣で防ぐなりしていたウルが天を包む黒炎から現れた無数の黒い腕に向けて自分から捕らわれようとするかのように向かっているのだ。
何かある、イクトはウルが何かしら企んでいる可能性を感じながらも今は敵を倒そうと考え、黒い腕にウルを捕らえさせる。
そして……
無数の黒い腕が次々にウルの体を掴み、黒い腕に掴まれたウルの体は掴まれた所から順に黒炎に包まれていく。
「ほぅ……」
「コイツ……!?」
体が黒い腕に拘束されながら黒炎に包まれる中でも笑みを崩さぬウル。
そのウルの表情にある種の恐怖を感じるイクトは瞳を光らせるとウルの全身を一気に黒炎で焼こうとする。
「オマエが何を企んでるかは知らないけど……このまま失せろ!!」
「……ならば望み通り失せてやる」
「何?」
「オマエたちがそれで満足するならな……」
全身が黒炎に飲まれるとともにウルは黒炎に焼かれながら消えていき、ウルが消えるとイクトは天を包む黒炎を消す。
……が、イクトはどこか警戒している様子だった。
彼だけではない。
イクトとウルの攻防を見ていたガイたちも何かに警戒している様子だった。
「呆気なさすぎる……」
今の状況の中で感じたものを言葉にするソラ。
それを聞いたイクトも首を縦に振って頷くと黒炎を両手に纏わせたまま構える。
まだ何かある、そう思うからこそイクトは構えた。
そしてそのイクトの予感を的中させるかのように空間が歪むと中からウルが姿を現す。
「さて、続けようか……」
「無傷だと!?」
「アイツ、あの一瞬でイクトの攻撃を避けたのか!?」
「……それは違うな」
現れたウルの姿に驚く真助とギンジの言葉を訂正するようにイクトは言うが、彼がわざわざ二人の言葉を訂正しようとしたのが気になった夕弦は彼に質問をした。
「イクト、どういうことなの?」
「オレの黒炎はヤツを倒した。
その手応えもしっかりあったし、確実に焼き殺したのを感じてた」
「でも敵はあそこにいるわ。
空間を歪ませて移動したか幻術でアナタを……」
「この「死獄」の力を使う間はあらゆる幻術はオレには通じないし、空間の歪みもオレの意思一つで黒炎で消せる。
だからさっき黒炎が焼き殺したのは本物で間違いない」
「だとしたら今現れたのが……」
「あれも本物だ」
イクトの返答に夕弦は次に何を言うべきか分からなくなって言葉を詰まらせ、そんな彼女を見兼ねたシンクがイクトに向けて要点だけを述べるように伝えた。
「必要なことだけ話せ。
オマエが黒炎で殺したのも今あそこにいるのも本物なのか?」
「……本物だよ。
さっき殺したのも今目の前にいるのも……どっちも本物のウルだ」
イクトの言葉を聞いたガイたちは疑問でしか無かった。
彼は先程自分の黒炎で殺したウルも本物であり、空間の歪みから現れたウルも本物だと言うのだ。
何故なのか?
もし両者が本物だと言うならイクトは仕留め損なっていることになるが、彼は確実に仕留めたと断言している。
矛盾、と言うべきなのだろうか。
彼の言葉には辻褄が合わない点がある。
本物を殺したのに本物が目の前にいる。
これほど不可解なことは無いのに……
ガイたちが不思議に思っているとイクトはウルに対してある質問をした。
「ソラやガイが倒した竜装術の使い手やカズマとギンジの目の前で殺された竜装術の使い手は本物だったんだよな?」
「……?」
「イクト、何を……」
「本物のオマエが二人いるかのようなこの現状、そして彼らが倒した竜装術の使い手も同じような状況に置かれている。
偶然なわけないよな?」
「……ふっ、それについて気づくとは驚いたな」
イクトの問いに対してウルは拍手を混じえながら言うと、イクトの問いに答えるように分かるように語り始めた。
「たしかにオマエが言ったように先程死んだオレは本物で今ここにいるオレも本物だ。
そしてオマエたちが殺したナズナや刀牙も本物、後から現れたのも本物だ。
つまりオマエたちは同じ人間を数度殺してることになる」
「同じ人間を……」
「ではなぜそんなことが可能だと思う?
ドッペルゲンガーだと思うか?」
「いいや、そんなわけないだろ。
ドッペルゲンガーだとしたら今いるオマエと倒されたオマエが記憶を共有してる説明がつかない。
それにドッペルゲンガーは「自己像幻視」と呼ばれる現象だから手応えとかそんなものはないはずだ」
「ほぅ……博識なんだな「死神」。
ならあえて質問させてもらうがオレが何をしたのか想像は出来たのか?」
「……」
ウルの問いに対してイクトは答えなかった。
いや違う、答えられなかった。
ここに至るまであらゆる面で考えを働かせたイクトだが、ウルが何をしたのか検討もつかないし、何かしたにしても立証出来るほどの根拠もない。
何かをした、その程度の曖昧な結論しか出せていない今はイクトは何も答えられなかった。
イクトだけではない、ガイたちもだ。
この場にいた誰もが分からないのだ。
そんな中、全てを知るウルが自身の行動について語り始めようとする。
「何も知らずに死ぬのは辛いだろうから教えてやろう。
この世界で唯一と言っていいほどのオレの力をな」
ウルは空間を歪めるとそこから剣を取り出し、ウルの行動を見たイクトは敵が何か仕掛けると咄嗟に判断して即座に黒炎を放ち、放たれた黒炎は敵を飲み込もうとする。
……が、それよりも先にウルは剣を逆手に構えると自らの腹に突き刺してみせる。
「な……!?」
「何!?」
ガイたちが驚く中でウルは黒炎に飲まれていき、黒炎に飲まれて焼かれるウルをガイたちはただ恐怖を感じながら見ていたが、ソラはイクトに対して敵を仕留めたかを確認しようとした。
「ヤツは倒せたか?」
「手応えはあった……。
けど……」
「手応えなんて無意味だ」
仕留めたと思う中で嫌な予感を感じるイクトの予感を的中させるかのように黒炎に焼かれるウルの近くの空間が歪み、そこからウルが足音を立てながら歩いてくる。
「……!?」
ウルの出現にイクトは黒炎の方に目を向けるが、視線を向けた先の黒炎の中では腹に剣を突き刺したウルが焼かれながら消滅しようとしていた。
「どういうことだ……!?」
手応えはあったはずだ。
黒炎に焼かれる以前に腹に自分で剣を突き刺した時点で致命傷を負っていた。
なのに……空間の歪みから現れたウルには一切のダメージはなかった。
「仕留め損なってんじゃねぇぞ!!」
イクトに対してキツく当たるようにソラは言うとウルに向けて身に纏う炎魔の武装である砲門からビーム状の炎を撃ち放ち、放たれた炎はウルの体を貫くと無数の風穴を開けていく。
「確実に仕留めるならこれくらい……」
何の話だ、と風穴を開けられたウルの背後からウルが現れるとソラに撃ち抜かれたウルを蹴り倒しながら彼らを見つめていた。
「何……!?」
自身の攻撃で仕留めたと確信していたソラ。
しかしそのソラの思惑を外れるように現れたウルに彼らはさらに混乱させられる。
「どういうことだ……!?
何で生きてやがる!?」
「オレはこうして生きてる、それだけだ。
それよりどうだ?同じ人間を三回も殺す感想は?」
「同じ人間を……?」
「三回も……?」
ソラの疑問に答えるように言葉を発するウルの口から出た言葉にガイとシオンは耳を疑った。
同じ人間を三回も?
何を……
何を言っているんだと疑っているとウルはどこか楽しそうに明かし始めた。
「オレは「次元竜」の竜装術の使い手。
そしてオレの能力はあらゆる次元に存在する自分に干渉して記憶を共有し、次元の狭間を隔てて別次元に移動する力だ!!」
ウルが明かした自身の能力、それを聞いたガイたちはただ言葉を奪われてしまう。
「次元を……」
「移動するだと……!?」
「オマエたちが殺したのは元々こちらの次元にいたオレと別次元から来た二人の別のオレだ。
オレが干渉している次元はあと数千とある!!
オマエたちがオレに勝つなど不可能だ!!」




