三二八話 真名解放
「……真名解放」
何かを呟くとヒロムは全身に光と魔力を纏い始める。
その姿を見たフレイとラミア、ティアーユは彼が何をしようとしているのか理解したらしく魔力を纏うと三人は走り出した。
「マスター、時間を稼ぎます」
「その間にやっちゃって」
「頼みます、マスター!!」
「……任せろ」
三人が走り出すとともに斬角と機械天使・ネメシスに攻撃しようとする中、ヒロムは身に纏う光と魔力を強くすると呪文を唱えるように言葉を発し始める。
「……力を身に纏いし忠義の騎士よ。
血潮に汚れても止まることなく戦う勇敢な姿は見るものを圧倒する!!
一撃滅掃、大地を穿ち我が覇道を斬り拓け!!」
ヒロムが叫ぶと突然彼の周囲の大地が隆起し、そして隆起した大地は何かによって粉砕されていく。
粉砕されて粉々になった欠片はヒロムの周囲を舞い、ヒロムは瞳を赤く光らせるとともに叫んだ。
「来い、ロゼリア!!」
ヒロムが叫ぶと彼の周囲を舞う欠片が一ヶ所に集まって大きな繭のようになるとともに中から紫色の鎧に身を包んだ騎士の少女が兜を被ってヒロムの前に現れる。
その騎士の少女に向けて右手をかざすとヒロムはさらに叫んだ。
「真名解放!!
「絶騎」ロザリー!!」
ヒロムが叫ぶと彼の纏う光と魔力の一部が騎士の少女の方に向かって行き、騎士の少女のもとに近づくと光と魔力は彼女の身の丈はある大きさの斧に変化する。
騎士の少女がその斧を手に取ると身に纏う鎧が光とともに形を変えていき、変化する前より身軽になった鎧を纏うと騎士の少女は兜を脱ぎ捨てる。
兜が脱ぎ捨てられて騎士の少女の素顔が晒される。
紫色が少し混じった長い銀髪を一つにまとめるように括っている。
そんな彼女は斧を構えるなりヒロムに向けて挨拶をした。
「マスター、この度の現界。
心から感謝させていただきます」
「長いことロゼリアって呼んでたせいでロザリーの名が馴染みないとかないよな?」
「……マスターと繋がりを得たのならロザリーの方が安心しますから心配ありませんよ」
「それならいい。
早速だが……任せていいか?」
お任せ下さい、とロザリーは斧を構えながら返事をすると続けてヒロムに質問をした。
「マスターはどうされるのです?」
「オマエにはあの機械天使をズタボロに引き裂いて欲しいんだが……せっかくだから斬角のあの憎悪と憤怒の心もズタボロにしたいから、アイツを呼ぶ」
「なるほど、彼女ですか……。
荒れそうですね」
「そうならないようにするのがオレの役目だ」
「そうでしたね。
……頼みますよ」
ロザリーは斧を強く握ると走り出し、そして一気に加速すると音も立てずに機械天使・ネメシスの背後に移動する。
「また新しい精霊を……!!
ネメシス、叩き潰せ!!」
「無理ですね」
ネメシスはロザリーの方に振り向くなりメイスを勢いよく振り下ろすが、ロザリーは片手で斧を振って敵の攻撃を容易く弾いてみせる。
「何!?
ネメシスのパワーを……」
「この程度の力で強いと思わない事ね」
ロザリーは斧を振り上げるなり魔力を纏わせて勢いよく振り下ろすと巨大な斬撃を放ち、放たれた斬撃はネメシスのメイスを砕いて破壊する。
メイスが破壊されたことによってネメシスの動きが一瞬止まり、止まったこの隙を逃さぬようにフレイとラミアが一撃を叩き込み、そしてティアーユはライフルで光弾を放ってネメシスに膝をつかせる。
「貴様らァ!!」
ネメシスを倒そうとするロザリーやフレイたちに苛立ち叫ぶ斬角。
そんな斬角を視界に捉えながらヒロムは再び何かを唱えるように言葉を発し始める。
「広大無限の戦場駆け抜けるは千靭の烈風!!
荒れ狂いし爪は大地を抉り、天地をかき乱す!!
獣王無神、本能のままに暴れろ!!
やれ、アマゾネス!!」
ヒロムが言葉を発すると無数の竜巻が天より出現し、竜巻は重なり合うように一つになると巨大化していく。
そして巨大化した竜巻の中より少女が現れる。
巨大な鈎爪のついた手甲を腕につけて腰布を一枚腰に巻き、胸もとをサラシにも似た布を巻いた獅子を模したような頭飾りをつけて素顔を隠す少女。
その少女が出現するとヒロムは瞳を紫色に輝かせながら彼女に向けて右手をかざして叫んだ。
「真名解放!!
「獣天」ゾルデ!!」
ヒロムに叫ぶと彼女の手甲が形を変え始め、腕にフィットするような形状と細く鋭い爪のガントレットとなり、足のブーツも爪を有したものへと変化する。
そして獅子の頭飾りは真っ二つに割れると両肩のアーマーに代用されるように肩に装備される。
地面に着くのではないかという長さの白髪と藍色の瞳の少女は変化した装備を見るとどこか嬉しそうに笑った。
「素敵ね。
これが私の力なのね」
「不満か?」
「いいえ……むしろ、光栄よ。
これでマスターのために全力で戦えるんだから」
「全力、ね。
まぁ……派手に暴れてくれて構わねぇから、好きにやってくれ」
「了解。
じゃあ……派手にやるわよ!!」
ゾルデは全身に魔力を纏うとその上からさらに風を纏い、そして周囲に烈風を吹き荒れさせると斬角を狙い定めて動き出す。
風が戦場を吹き抜けるかのように目にも止まらぬ速さで斬角に接近したゾルデは敵に向けて蹴りを放つが、斬角は魔剣を盾にして防いでしまう。
「聞こえてたぞ。
全力で戦えるとか言ってたみたいだが、この程度の蹴りが本気なのか?」
「あら、盗み聞き?
そんなんじゃ見なきゃいけないものを見落とすわよ?」
「何を……」
ゾルデの蹴りを魔剣で防いだ斬角は彼女の言葉が何を意味するのか問おうとするが、問おうとするよりもさきに異変が生じる。
蹴りを防いだ斬角の体に強い衝撃が走り、何かが炸裂したかのように吹き飛ばされてしまう。
「!?」
「言ったでしょ?
見落とすわよって」
「くっ……」
「加勢させてもらうわよ」
吹き飛ばされた斬角が何とかして受け身を取って構え直そうとした背後に先程までネメシスを攻撃していたロザリーが現れて斧を振り下ろす。
「コイツ……っ!!」
背後のロザリーの存在に気づいた斬角は慌てて振り向いて魔剣で斬撃を放つことでロザリーの斧の一撃を防ごうとするが、何か目に見えぬ強い力が斬角を背後から襲って斧を防ごうとする彼の動きが鈍ってしまう。
「なっ……」
何かに邪魔されて動きが鈍くなった斬角はそれでも魔剣でロザリーの斧を防ごうとするが、ロザリーの放った一撃は魔剣「ラース・ギア」の刀身を斬り砕き、そして斬角の肉を少し抉ってみせた。
「がはっ……!!」
ロザリーの一撃で肉を少し抉られた斬角は吐血し、崩れ落ちるかのように膝をついてしまうが、刀身の砕かれた魔剣を支えにしてでも立とうとする。
そんな彼を見ながらロザリーはなぜそこまでするのかを質問した。
「どうして貴公はそこまでしてマスターを狙うのです?」
「……オマエたちには分からないだろうな。
オレの抱くものが……」
そうだな、とヒロムは斬角の言葉に被せるように言うと斬角に近づくように歩み寄ると彼に告げた。
「以前のオマエは迷いなんてなかった。
けど今のオマエは迷いしかない」
「迷い?
何を言っている……?」
血を吐きながらも立ち上がり、砕かれた魔剣を構えると斬角はヒロムを睨んだ。
「オレはオマエを殺すために力を手にした。
この魔剣もネメシスも全てはオマエを殺すためだ!!」
「ならシンクに情報を流したのは何故だ!!
殺したい男に加担するシンクに情報を流したのは何故だ!!」
「……」
「答えろ!!
オレを否定したいオマエがなんでそんな真似をした!!」
黙れ、と斬角は赤い雷を纏いながら叫ぶと続けてヒロムに向けて言った。
「この世界は力が全てだと理解したはずだ!!
「八神」がオマエを見捨てなくてもオマエは何も出来ないまま世界に見放されていた!!
そんなオマエが偉そうに語るな!!」
「語るな……か。
そこまで言うなら言葉で語るのはやめてやる」
その代わり、とヒロムは光を身に纏うなり彼に向けて告げる。
「こうなったらオレは容赦しない……!!」
「容赦?
それはこちらもだ!!」
「そうか、なら安心だ。
……「ソウル・ドライヴ」!!」
斬角が赤い雷を強くする中でヒロムは光を青く輝かせると青い稲妻を体に駆けさせ、そしてヒロムの体から青く光る粒子が無数に放出される。
青い光を纏うヒロムは斬角を見つめたままロザリーとゾルデに指示を出した。
「オレはコイツを倒すからあのイカれた天使を壊してくれ」
「「了解」」
「さて……終わらせてやるよ、斬角!!」
いくぞ、とヒロムが一言言うとロザリーとゾルデは機械天使・ネメシスのもとへと走り出す。
フレイとラミア、ティアーユが応戦するネメシスはロザリーとゾルデの接近に気づくと雄叫びを上げながら動こうとする。
が、ロザリーはネメシスが動こうとするよりも早く敵の足に接近して斧を勢いよく振るとネメシスの両足を切断する。
足を切断されたネメシスは痛みを感じるかのような声を上げながらも翼を広げて天に飛翔しようとするが、ゾルデが両手をかざすとともに無数の衝撃波が放たれてネメシスの翼を破壊し、そしてネメシスの体を次々に破壊していく。
「まだよ!!」
ゾルデはガントレットの爪とブーツの爪に魔力を纏わせるとネメシスの周囲を駆けながら斬撃を放ち、ネメシスの装甲を次々に破壊していく。
「でも……これで終わりよ!!」
ゾルデの猛攻でかなり破壊されたネメシスに向けてロザリーは魔力を纏わせた斧で一撃を放ち、放たれた一撃はネメシスを両断して破壊する。
二人の紅牙で破壊されたネメシスは爆発四散しながら消滅し、それを見た斬角は舌打ちをしながらヒロムに向けて赤い雷を放つ。
が、ヒロムはそれを避けようともせずに右手で払い除けるように防ぐと静かに動き出す。
動き出したヒロムを迎え撃とうと砕かれた魔剣を構える斬角。
そんな斬角に構えようともせずにヒロムはゆっくりと歩きながら少しずつ距離を縮めていた。
少しずつ近づくヒロムを倒そうと斬角は何度も赤い雷を放つが、ヒロムはその全てを簡単に防いでしまう。
払い除けるかのように片手で防がれ、握り潰すように片手で防がれる。
自分の放つ攻撃を防がれる斬角は苛立ちながらも攻撃を続けるが、彼が攻撃を続ける中でヒロムは瞳を白く光らせる。
「斬角……もう終わりだ」
「少し強いからって調子に……」
終わりだ、とヒロムは斬角に向けて告げると一瞬で斬角の前に移動し、ヒロムが移動すると同時に斬角は身に纏う赤い雷を消され、そして無数の衝撃に襲われる。
「な、に……?」
何か起きた、それは斬角にも理解出来る。
その何かが斬角には理解出来なかった。
ほんの一瞬、その言ったの出来事に思考と理解が追いつかない。
「何を……した……?」
衝撃に襲われて負傷した斬角は膝から崩れ落ちて倒れようとする。
倒れそうになる中でヒロムに何をしたか問おうとする斬角。
そんな斬角が倒れそうになるのをヒロムは助けると肩を貸してゆっくりと座らせる。
「……何のつもりだ?」
突然のヒロムの行為に驚く斬角は彼に問うが、ヒロムは答えることなく斬角から離れると腰を下ろした。
「言ったはずだ。
終わらせるってな」
「終わらせると言いながらなぜオレに肩を貸した?
この矛盾をどう説明……」
「もういいだろ、リクト」
ヒロムはため息をつくと斬角に向けてある事を話し始めた。
「オマエが何とかしようとしてくれてることは伝わってる。
これ以上オレやアイツを思って戦うのはやめろ」
「黙れ……!!
オレは……」
「オマエが自分を偽って生きることをホタルさんが喜ぶのか!!」
「……っ!!」
ヒロムの強い言葉に斬角は言葉を返せずに黙ってしまい、そんな斬角に向けてヒロムはため息をつくと一つ提案した。
「リクト……少し話をしないか?」




