三二七話 根底にある形
ヒロムのもとに現れた精霊の少女・ティアーユは先ほど光の粒子が吹き飛ばした機械天使・ネメシスと斬角を見るなりヒロムの隣で魔力を体に纏わせ、ガイたちに向けて先に進むように言った。
「ここは私とマスターがお引き受けします。
皆さんは敵を追ってください」
「だけど……」
「マスターの加勢をしようとするそのお気持ちはありがたいです。
ですが今はマスターの指示に従ってあちらを追ってもらった方がありがたいです」
「……」
加勢したい思いが抑えられないイクトに向けてティアーユは伝え、それを聞いたイクトは黙ってしまう。
彼だけではない。
ソラたちも彼女の言葉に何も言えずにいた。
そんな中、ガイだけは違った。
「……キミがいればヒロムは勝てるんだな?」
ティアーユに確認するように訊ねるガイ。
彼の言葉にティアーユは頷くと続けてガイに向けて伝えた。
「私はマスターのお力になるためにここにいます。
ここにいるかぎり私がマスターの身に万が一のことが起こらぬように尽力します」
「……そうか」
「ガイ?」
いくぞ、とガイはイクトやシオンたちに向けて言うと「竜鬼会」の戦艦を追いかけようと動き出す。
が、イクトは納得出来なかった。
「待てよガイ!!
これが敵の罠の可能性だってあるんだぞ!!
なのに置いていくのか!?」
「彼女を信じる」
「だけど……」
「いい加減にしろ!!」
ガイに向けて必死に話すイクトに向けてソラが一喝するように叫ぶと彼を黙らせ、黙ったイクトに向けてソラは自分の抱く思いを伝えた。
「オレだってオマエと同じようにここに残りたいと思ってる!!
けどヒロムが言ってたように今は多くの命を救わなきゃならない!!
ヒロムがアイツを倒すのならオレたちはあれを止めなきゃならないんだ!!」
「……!!」
「オレやオマエだけじゃない……。
シオンも真助もカズマも……ましてヒロムのためにこれまで時間を費やしてきた夕弦やシンクだって同じだ。
オレたち皆目の前のやるべき事のために気持ちを抑えてんだ」
「……」
「オマエの気持ちはわかるが、今ここでやるべきはヒロムの頼みを聞くことだ。
頼むから分かってくれ……!!」
ソラの言葉を聞いたイクトはどこか悔しそうに拳を強く握ると今の思いをどうにかして抑え込むと深く深呼吸するとヒロムに向けて伝えた。
「大将……後でちゃんと合流だからな?」
「ああ、任せろ」
「……よし、いくぞ!!」
イクトの言葉にヒロムは頷くと返事を返し、二人の会話が終わるとガイは全員に指示を出して戦艦を追いかけるように皆と走り出した。
「……そっちは任せるぞ」
走り出した彼らの背中を見ながらヒロムは呟くとティアーユとともに敵の方を見据え、さらに自身のそばに精霊・フレイとラミアを呼び出した。
長い金髪の少女の精霊・フレイは大剣を構えており、長い紫色の髪の少女の精霊・ラミアは腰に大きな鞘に収められた刀を帯刀していた。
「マスター、お体の方は?」
現れるなりフレイはヒロムの体について訊ね、訊ねられたヒロムは首を鳴らすと彼女に向けて体について伝えた。
「問題ない。
「ソウル・ブレイク」を発動した後も何の異常もないから大丈夫だ」
「そうですか。
何も無いのでしたら安心です」
「いいえフレイ。
今のマスターは精神世界に入る前とは違うわ」
用心すべきよ、と安心するフレイの横からラミアが忠告するが、それを聞いていたヒロムはラミアに向けて優しく伝えた。
「大丈夫だよラミア。
その事はフレイもよく分かってくれてるし、オレ自身も理解してる。
何かあればすぐに伝えるからそこまで気を張らないでくれ」
「……マスターがそう言うのならいいわ。
でも、隠し事はやめてよ?」
「分かってるよ。
もうこの体は……」
何か言おうとしたヒロムの言葉を遮るように彼の横を赤い雷が通り過ぎ、彼の後ろの地面を抉るように炸裂する。
ヒロムにもフレイたちにも怪我はなく、おそらく最初から外すつもりで撃たれたのだろう。
その赤い雷が飛んできた方に視線を向けると斬角が魔剣を構え、そして吹き飛ばされたはずの機械天使・ネメシスが立ち上がるなりメイスを構えながら雄叫びをあげていた。
「……話は後回しでいいか?」
「その方が良さそうですね」
「だよな……。
斬角、待たせたか?」
「待ってはいない……が、見たくないものを見せつけられてイライラはしてる」
「見たくないもの?
それはフレイたちのことか?それともフレイたちみたいな可愛らしい美人に囲まれて話してた光景か?」
どっちもだ、と斬角は怒りを表すように赤い雷を激しく放出させながら魔剣を振り、ヒロムに向けて斬撃を放つがフレイはそれを阻止するように大剣で斬撃を放って相殺させた。
「ちっ……精霊が!!」
「アナタが命を狙うのを見過ごすとでも?」
「うぜぇえんだよ、精霊如きが!!
ネメシス、叩き潰せ!!」
斬角がフレイたちに対して苛立ちながらネメシスに命令すると、ネメシスは雄叫びをあげながら走り出す。
敵が走り出すとフレイとラミアが互いにアイコンタクトで何をするかを確認すると走り出し、二人は全身に魔力を纏うとネメシスを止めようと攻撃する。
「はぁっ!!」
「やぁっ!!」
フレイは大剣を振って斬撃を、ラミアは闇を放出するなり矢に変えて撃ち放つが、ネメシスは二人の攻撃をメイスを用いて防ぐと雄叫びをあげながら殴りかかる。
が、二人はそれを避けるとまた攻撃を放ち、ネメシスも放たれた攻撃をまた防いでみせた。
「この機械天使……強い!!」
「見た目だけの虚仮威しかと思ったけど……フレイと私の攻撃を簡単に止めるなんてやるわね」
当然だ、と斬角は赤い雷を纏いながら走り出すとヒロムに向けて無数の赤い雷を纏った斬撃を放つ。
「このネメシスはトウマ様の機械天使をベースにこの前のオマエたちとの戦闘データを反映してオレ用にチューンナップされた最新型。
オマエたちを殺すには申し分ない実力を持ってるんだ!!」
斬角はフレイとラミアに接近すると魔剣で斬ろうと襲いかかり、攻撃される二人は彼の攻撃を避けると反撃しようとした。
が、斬角の攻撃を避けたフレイとラミアを狙うかのようにネメシスが二人に向けてメイスを投げ飛ばす。
「なっ……」
「この……!!」
投げられたメイスは勢いよく回転しながら二人に襲いかかり、フレイとラミアは魔力を強く纏うと迫り来るメイスを加速しながら避ける。
が、二人が避けるとメイスは突然塵となって消え、そしてネメシスの手元に新たなメイスが二本現れる。
現れた二本のメイスを手にしたネメシスは再び殴りかかろうとするが、ティアーユは自身の武器であるライフルを構えると光弾を次々に連射してネメシスの体に命中させて敵の攻撃を阻止した。
「させませんよ」
光弾を受けたネメシスは一瞬仰け反ったがすぐに体勢を立て直すとメイスを構えながら飛翔し、ティアーユに向けて空から赤い雷を放ち始める。
「避けれるのなら避けてみろ」
ティアーユは避けるだろうと斬角は考えるが、近くにいるヒロムの身を案じた彼女はライフルを二つに分割させると可変させて光の刃を持つ双剣に変えて赤い雷を斬撃で防いだ。
「武器が可変した!?」
「多種に渡って力添えするために尽力する。
そのためならあらゆる武器も使えなくては意味がありませんから」
ネメシスの赤い雷を防がれたことに驚く斬角に向けてティアーユは告げると双剣を可変させて今度は二丁の拳銃に変化させてライフルの時の数倍の速さで光弾を放ち始める。
放たれた光弾は次々にネメシスの体に命中して炸裂し、炸裂した光弾によって翼が破壊され、それによって飛行能力が途絶えたネメシスは地上に落下してしまう。
落下したネメシスが地面に衝突したことで戦塵と衝撃が生じてしまい、生じた衝撃が斬角の動きを一瞬止めてしまう。
「くっ……!!」
動きが一瞬止まった斬角、その斬角の身に出来た隙を逃さぬようにフレイとラミアは接近するなり彼を仕留めようと攻撃を放とうとする……が、斬角は先ほどよりも強く赤い雷を放出すると二人の方へ強く放ち、赤い雷は二人を弾き飛ばしてしまう。
弾き飛ばされてしまったフレイとラミアは受け身を取って即座に構え直すと走り出して斬角を倒そうと攻撃するが、斬角は魔剣と赤い雷を纏わせた拳で二人の攻撃を止めてみせる。
「……強い!!」
「当然だ。
オレは今までオマエらの主を殺そうと強さを求めた。
そしてネメシスを得た今、ネメシスの力を恩恵として得ているオレはこれまでにはない力を得ている」
「だとしてもこの力……短期間でどうやって?」
教えてやるよ、と斬角はラミアの疑問に答えようとするかのように言うと彼女の疑問について解説し始めた。
「オレはオマエらを倒したくて仕方なかった。
だがいざ蓋を開ければオレは苦戦し、そして不甲斐なく敗北している……!!
そんな自分の不甲斐なさに苛立ち……そして今の自分を否定して進むために怒りで身を支配し、この能力でさらなる力にたどり着こうとした!!
その結果オレはこの力を得た!!
オマエらを倒せるだけの力が!!」
斬角は二人の攻撃を弾くと右足に赤い雷を集中させて回転蹴りを放って蹴り飛ばそうとするが、フレイもラミアも魔力を身に纏いながら防御してダメージを最小限にまで抑えてみせた。
「ちっ……。
しぶといヤツらだな……!!」
斬角は舌打ちしながら魔剣を振るが、フレイとラミアは避けたために空を斬って終わる。
フレイとラミアは斬角の攻撃を避けると軽く後ろに飛んでヒロムのもとへ近づくと構え直して斬角の動きに対応しようとしていた。
ティアーユも武器をライフルに戻すと構えており、三人ともいつでも迎撃出来る状態だ。
だがヒロムは……
拳を構えてはいるもののどこか隙があるように見えた。
それを斬角はすぐに見抜いた。
「……オマエ、やる気あるのか?」
「何が?」
「そこにいるヤツらはやる気があるように見えるがオマエは違う。
やる気は多少あるようだが……オマエのその構え方はどこかやる気を感じない」
「やる気満々だけど……不満が?」
「不満しかないな。
オマエのそういう態度が気に食わない……!!」
「……ホタル」
「あ?」
「……オマエがどう思ってるかは別としてオレはオマエの姉のホタルさんの出来なかったことを実現しようと思ったことが何度かあった。
同じ精霊を宿したものとしてな」
「オマエ……!!
なぜ姉さんの名前をここで出すんだ!!」
「今のオマエに分からせるためだ。
オマエは……何のためにオレを狙う?」
戦いの最中にありながらヒロムは何のために自分を狙うのかを斬角に問い尋ねる。
ヒロムが質問すると質問された斬角はその内容に耐え難いまでの怒りの感情を抱き、それを表すかのように膨大な量の赤い雷を体から放出しながら叫んだ。
「オマエがオレに何を分からせるつもりかは知らないが、姉さんの名前を出してまでオレを馬鹿にしようとしてる事はよくわかった!!
だからここでオマエを殺す!!」
「……結局そうなるか」
怒り狂う斬角を目の当たりにしたヒロムはどこか残念そうにため息をつくと何かを呟き始めた。
「……真名解放」
 




