三二五話 阻む敵
ヒロムたちが愛華と話す建物から少し離れた場所で待つイクトたち。
「敵の気配はなし、か」
どこか退屈そうに呟くイクト。
そんなイクトとは違ってギンジはカズマと何か真面目な話をしていた。
「なんでバロンがあそこにいたと思う?」
「さぁな。
オレが知るわけないだろ」
「二人して何の話してんの?」
話に混ざろうとするかのようにイクトは二人に話しかけ、話しかけられたギンジは先程戦場と化していたヒロムの屋敷の敷地で見たものについて話した。
「オレとカズマはあそこに来る前にバロンってヤツと戦ってたんだ」
「そういえばそんな話をシンクから聞いたな。
たしかクローラーってのが仲間割れしたんだよな?」
「そうなんだけど……」
「バロンはクローラーってヤツに殺された。
オレとギンジの目の前でな」
「形はどうあれ敵が減ったんだろ?
今更……」
「その死んでるはずのバロンがあの時「覇王竜」の近くにいたとしたら?」
呑気な反応を見せるイクトにカズマは死んだはずのバロンがあの場にいたことを伝え、それを聞いたイクトは嘘だと言いたげな顔でカズマに反論しようとする。
「そんなわけないだろ?
二人が戦って目の前で殺されたヤツがいるなんて……」
「本当にそうか?」
カズマの言葉に反論しようとするイクトの言葉を途中で終わらせるように真助が横から話に割って入る。
「あの場にオレらが駆けつけた時、オレが倒したアギトやノアルが倒した毒野郎もいた。
イクト、オマエが倒した二人の炎の竜装術使いもいたんじゃないのか?」
「……」
真助に言われてヒロムと「覇王竜」が対峙するあの場に駆けつけた時のことをイクトは思い出そうとする。
あの戦場こ事細かな部分まで思い出そうとするイクトは思い出しながら思考を巡らせ、そして真助の質問に対する解答を見つけたイクトはどこか厄介事に巻き込まれたような面持ちで質問してきた彼に向けて答えた。
「たしかにいた……。
多分大将が倒したんだろうけど、オレが倒した二人は倒れてる状態であの場にいた」
「そうか。
夕弦、オマエは?」
「……私が倒したはずのクジャもいたわ」
「……となれば、あの場にはオレたちが倒したヤツらが全員いたってことだな」
全員の話をまとめるように締める真助だが、その真助の言葉を聞いたノアルはある可能性について全員の意見を聞こうと自分の考えを踏まえて話した。
「あそこにいたのは本物かどうかが怪しいと思う。
あのウルという男は人工生命と言われていた。
あそこにいるのがこちらの気を逸らすために予め用意されてたとすればどう思う?」
「人体実験を利用してるならありえるかもな。
けどそんなことしなくても全ての竜装術を統べる力を持つなら幻術でどうにでも出来るだろ?」
「幻術だとハッタリだって大将にバレると思うけど?
だとすれば……」
それだ、とカズマは真助が提示した別の可能性に対してイクトの言葉を聞いた途端に何かを思い出したかのような反応を見せる。
「バロンは他人の記憶を探る力を持っていた。
そしてその力で探った記憶をもとに記憶の中に存在する人物を複製した人形を生み出せる」
「じゃあ……」
「あの場にいたのはバロンの竜装術を使って「覇王竜」が生み出した人形、って可能性がある」
「でもカズマ、それだとおかしいだろ」
一つの可能性について答えが出そうになった時、そほ可能性についてギンジがある点を指摘した。
それはカズマと同じようにバロンの能力を見たからこそ指摘出来ることだ。
「オレとカズマがバロンの作った記憶から生まれた人形は倒すと必ず塵になって消えてたんだぞ?
もしあの場にいたのが記憶から生まれた人形だったとしたら、ヒロムが倒したヤツらは塵に変化して消えてなきゃおかしいだろ?」
「それは……」
「あの人形の消え方がオレとカズマを惑わす演出だったにしてもヒロムが倒した人形をわざわざ消さずに残すのはおかしいだろ?
「竜鬼会」の能力者なんてヒロムからしたらただ倒すだけの相手で躊躇したりしたりするはずもないのに」
「たしかに……な」
ギンジの言葉を受けて彼の意見についてカズマは反論の余地はないと思ったのか何も言えなかった。
すると真助は何故か不思議そうにギンジの顔をじっと見つめていた。
「……何かおかしかったか?」
「オマエがそんな頭使うようなこと言うとは思えないから偽物かどうか疑ってた」
じっと見つめてくる真助に真意を確かめるように質問するギンジだが、そのギンジの質問に対して真助は何の迷いもなく真顔で答えた。
その真助の答えを聞いたギンジは彼の言葉に怒り、声を荒らげて彼に言い返そうとした。
「人が真面目に話してるのに何ふざけたこと……」
「ああ、悪かった悪かった。
オマエは本物だ」
「まだ人が話してるだろ!?」
うるさい、とギンジが声を荒らげるのを建物から出てきてこちらにやって来たヒロムはただ一言言って黙らせ、ヒロムに続くようにガイたちもやってくる。
「何の話してたんだ?」
何事なのかと気になったガイはギンジに訊ね、訊ねられたギンジはガイとヒロムたちに向けてこれまでの話の流れを説明した。
「ヒロムのもとに駆けつけた時、オレとカズマが戦っててクローラーってヤツに殺されたバロンがいたんだ。
他にも真助や夕弦が倒した敵もいたから……」
「オレの倒した刀牙もいたな。
それがどうかしたのか?」
「バロンはオレとカズマの前で殺されてるし、他の竜装術の使い手も昨日の今日で何事も無かったかのように平然としてるのが不思議だと思わないか?」
「まぁ、死んだはずの人間が生きてるのは不思議な話だな。
何かしらの方法があるなら別だけど……」
「そこで話に出てたのがバロンの能力なんだ。
バロンの能力は他人の記憶を探ることで、バロンはそこからさらに記憶からそっくりな人形を作って戦わせたり出来るんだ」
「つまりあの場にいたのは人形だったと?」
「いや、それだとヒロムが倒してた四人の説明がつかなくてさ……。
オレとカズマがバロンと戦ってた時にアイツが出した人形は倒されたら塵になって消えたんだ。
でもヒロムが倒してた竜装術の使い手は倒されても消えることなく残っていたんだ」
「つまり……可能性としてバロンってヤツの能力が使われてるってことなのか?」
「まぁ、可能性としての話になる……かな」
どうでもいい、とヒロムはギンジの説明を無理やり終わらせると彼らに向けてある事を伝えた。
「敵が何をしてこようがこの際関係ない。
オレたちがやるべき事は「竜鬼会」と竜装術の使い手、それを束ねている「次元竜」ウルと「覇王竜」ゼアルをぶっ倒して全て終わらせることだ」
「ゼアル?」
「何だそれ?」
聞き慣れぬ言葉に聞き返してしまうイクトと真助。
ノアルや夕弦たちもゼアルについて不思議そうにしており、ヒロムは何も知らない彼らにその説明をした。
「ゼアルは「覇王竜」の名前だ。
ヤツは事故で負傷したのを姫神愛華に救われ、そしてオレの遺伝子情報を組み込まれた野郎だ」
「オマエの遺伝子情報……」
「それじゃあ……」
ヒロムの説明を聞いた真助とカズマは彼の言葉が意味する内容を理解し、そしてヒロムはさらに説明するように皆に言った。
「ヤツが言っていたことは事実だ。
ウルの中にはオレの遺伝子情報が組み込まれている。
そして「覇王竜」……ゼアルも事故で負傷して姫神愛華に救われた時に欠損部分を補うようにして組み込まれた。
だから……」
そうじゃない、とイクトはヒロムの話を途中で止めさせると彼らが気にしていることを改めてヒロムに伝えた。
「アイツらに大将の遺伝子情報が組み込まれてるってことは愛華さんは……」
「あの人とはもう縁を切る。
その方がオレも楽だ」
「楽って……」
「もう起きたことは嘆いても仕方ない。
親父がそうだったようにあの人もそうだった、ただそれだけだ」
「……」
冷静に何もないかのように語るヒロムに全員黙ってしまう。
彼は冷静に縁を切ったと口にしているが、親子の関係がそんな簡単には終わるとは思えないと誰もが思っていた。
だがヒロムにとって親子という関係はそこまで強いものではないのだろう。
あくまで血縁関係にある程度の認識……
その程度の認識だからこそ淡々と語ることが出来るのだろう。
不思議な空気に包まれる中、シンクはヒロムにこれからのことを訊ねた。
「これからどうするつもりなんだ?
愛華さんの件は解決したが、それでも「竜鬼会」の件はまだ終わってないはずだ」
「……倒すさ。
どこにいようと見つけて必ず倒す、ヤツらが何に手を出したのかを思い知らせてやるんだ」
「けど大将、敵の居場所は分からないよな?」
「それならシオンに頼ればいいだろ?
「晶眼」があるなら……」
敵の居場所について気にするイクトの言葉に反応さるようにギンジはシオンに相談しようとしたが、シオンはそれについての説明を返した。
「残念だが「晶眼」ではそんな未来は視えない。
この眼で視えるのはオレが関与している長くて数十秒程度の未来だ。
敵の居場所を知ることは不可能だ」
「無理なのか……」
「……なら気長に待つしかない」
シオンの答えを聞くと残念そうな顔をするギンジだが、その一方でヒロムはあくびをして呑気なことを呟く。
が、それを聞いたソラは彼を急かそうとする。
「ヤツらが次に行動を起こす前に何か仕掛けねぇと今度こそ後手に……」
「むしろ迎え撃つ方が楽だし、敵が何かするのを待つ方が得策だな」
何か考えでもあるのだろうか?
ヒロムはソラの言葉を最後まで聞かずに言うとどこかへ向かおうと歩き出す。
が、彼の言葉が何を意味するのか気になるガイはヒロムを止めるとどういう意味なのかを訊ねた。
「何か考えがあるなら教えてくれ。
分らないとオレたちは何も出来ないだろ?」
「……たしかにそうだな。
考えは何もない……けどヤツらは確実に何かしてくる」
「何でわかるんだ?」
「ヤツらはオレを殺すのではなく生け捕りにしようと企んでる。
何をするにしても必ずオレを狙わなきゃ目的が果たせないのなら……ヤツらが何かするのを待つ方が効率がいい」
不思議で仕方ないガイの再びの質問に対してヒロムは答えるが、その答えを聞いたガイは思わずため息をついてしまう。
敵の出現について語るヒロムのその言葉……裏を返すとそれは敵が現れるのを待つと言うのを色んな言葉を添えて言ってるだけだ。
「……結局手の打ちようがないんだな」
「それはどうかな?」
「何を……」
何を言っているとヒロムに言おうとしたガイだったが、そんなガイとソラたちに分かるようにヒロムはある方向に指を指す。
指さされた方向……海の方向の上空に何やら戦艦のようなものが飛んでいた。
「あれは……」
「第二波って感じだろうな。
あの戦艦が何かするなら……」
「あれを追えば何か見つかるってことか!!」
そういう事だな、とヒロムが言うとガイたちは上空を飛ぶ戦艦を次の目的にしようと考えた。
しかし……
「オマエらはあそこには行けない」
目的が定まろうとしていたヒロムたちの前にある男が現れる。
赤い雷を纏った男は黒衣に身を包んでおり、ヒロムを冷たい目で見ていた。
その男を知るガイたちは構えるがヒロムは違った。
「オマエがここに来るとは意外だな。
どういう風の吹き回しだ?」
「意味などない……。
オレはオマエを殺すだけだ」
「出来るのか……リクト?」
違うな、とヒロムの言葉に対して男は……斬角は一言呟くと剣を構えながらヒロムに告げる。
「オレの名は……斬角だ」




